腎臓は「吸って」触れる―呼吸性移動から読み解く泌尿器の身体診察
第106回医師国家試験 F問題 第2問
国試問題にチャレンジ
身体診察について誤っているのはどれか。
- a.腎臓の触診は膝屈曲位で行う。
- b.腎臓は呼気終末時に触知しやすい。
- c.前立腺の直腸指診は示指で行う。
- d.陰嚢内腫瘤を認めたら透光性を調べる。
- e.尿管結石を疑ったら背部の叩打痛を確認する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腎臓は横隔膜に接して呼吸性に移動し、吸気で下降するため、触診は仰臥位・膝屈曲位で腹壁の緊張をとったうえで双手診を用い、深吸気の終末時に下極を捉えます。前立腺の直腸指診は感覚の鋭い示指で行い、肥大症では弾性硬で平滑な腫大、癌では石様硬の結節が特徴です。陰嚢内腫瘤では透光性試験で液体貯留(陰嚢水腫・精液瘤)と充実性病変(精巣腫瘍など)を簡便に区別し、尿管結石や急性腎盂腎炎では腎被膜の伸展によりCVA叩打痛が陽性となります。体位や呼吸のタイミングを「なぜそうするのか」という解剖・生理から理解しておくと、手技の正誤問題に強くなるだけでなく、実際の診察で所見を確実に拾えるようになります。
解答・解説
正解はbです
本問は腎・泌尿器・男性生殖器の身体診察の基本手技を問う問題であり、「誤っているもの」を一つ選ぶ。 腎臓は後腹膜腔にあり、上端は横隔膜に接しているため、呼吸に伴って上下に動く。吸気時には横隔膜が収縮して下降し、腎臓も下方へ押し下げられる。そのため、腎臓の下極は深吸気の終わりに肋骨弓の下へ出てきて手に触れやすくなる。呼気時には腎臓は上方へ戻り、肋骨の陰に隠れて触れにくくなる。この「吸気で下がる」という原理が理解できていれば、呼気終末時に触知しやすいとする記述が誤りであると判断できる。 その他の選択肢は、腹壁の緊張をとる体位、直腸指診に用いる指、陰嚢内腫瘤の鑑別のための透光性試験、肋骨脊柱角(costovertebral angle:CVA)の叩打痛といった、日常診療で用いる正しい診察法である。診察の目的ごとに体位や手技が異なる点を整理しておくとよい。
選択肢考察
- ×a. 腎臓の触診は膝屈曲位で行う。
正しい記述である。腎臓の触診は仰臥位で膝を立てて(膝屈曲位で)行う。膝を曲げると腹直筋などの腹壁の緊張がゆるみ、深部にある後腹膜臓器を触れやすくなる。手技としては双手診を用い、一方の手を背部の肋骨脊柱角付近に当てて腎臓を前方へ持ち上げ、もう一方の手を前腹壁の肋骨弓下に置いて、患者に深呼吸をさせながら両手で挟むように触れる。
- ○b. 腎臓は呼気終末時に触知しやすい。
誤った記述であり、本問の正解である。腎臓は横隔膜の動きに連動して呼吸性に移動し、吸気時に下降する。したがって触知しやすいのは深吸気の終末時であり、呼気時には腎臓が上方へ戻るため触れにくくなる。診察の際は患者に深く息を吸わせ、下降してきた腎臓の下極を両手の間で捉える。なお、正常の腎臓は通常触れないことが多く、やせ型の人の右腎下極(右腎は肝臓に押されて左より低い位置にある)が触れる程度である。腎臓が容易に触知される場合は、腎腫瘍、多発性嚢胞腎、水腎症、遊走腎などを考える。
- ×c. 前立腺の直腸指診は示指で行う。
正しい記述である。直腸指診(digital rectal examination:DRE)は、手袋をして潤滑剤をつけた示指(人差し指)を肛門から挿入して行う。示指は最も感覚が鋭く、操作しやすいためである。体位は砕石位、膝胸位、側臥位(Sims位)などが用いられる。直腸前壁越しに前立腺の大きさ、硬さ、表面の性状、圧痛、中心溝の有無を評価する。前立腺肥大症では弾性硬で平滑に腫大し、前立腺癌では石様硬の結節を触れ、急性前立腺炎では著明な圧痛と熱感を認める(急性前立腺炎では強いマッサージは菌血症を誘発するおそれがあるため避ける)。
- ×d. 陰嚢内腫瘤を認めたら透光性を調べる。
正しい記述である。陰嚢内に腫大・腫瘤を触れたら、暗所でペンライトなどの光を陰嚢の後ろから当て、光が透過するかどうか(透光性)を調べる。陰嚢水腫や精液瘤のように内容が液体であれば透光性が陽性となり、精巣腫瘍、精巣上体炎、血腫、鼠径ヘルニア(腸管や大網の脱出)のような充実性・非液性の病変では透光性は陰性である。簡便に液体と充実性病変を区別できるため、陰嚢腫大の初期評価として有用であり、確定には超音波検査を行う。
- ×e. 尿管結石を疑ったら背部の叩打痛を確認する。
正しい記述である。尿管結石では結石による尿路閉塞で腎盂内圧が上昇し、腎被膜が伸展されるため、背部の肋骨脊柱角(第12肋骨と脊柱が作る角)を拳で叩くと患側に痛みが生じる(CVA叩打痛)。CVA叩打痛は、尿管結石に伴う水腎症のほか、急性腎盂腎炎などの腎臓の炎症でも陽性となる。通常は座位で、背部に一方の手掌を当て、その上をもう一方の拳で軽く叩いて評価する。
腎臓の位置と呼吸性移動
腎臓はおおむね第12胸椎〜第3腰椎の高さの後腹膜腔にあり、右腎は肝臓があるため左腎よりやや低い。横隔膜の動きに伴い、吸気で下降、呼気で上昇する。この性質は腎臓の触診のほか、腹部超音波検査で腎臓を肋骨の下に描出する際にも利用される(深吸気で息止めをさせる)。
泌尿器・男性生殖器の診察と体位
・腎臓の触診:仰臥位・膝屈曲位で双手診、深吸気時に触れる ・CVA叩打痛:座位(または腹臥位)で肋骨脊柱角を叩打 ・前立腺の直腸指診:砕石位、膝胸位、側臥位などで示指を用いる ・陰嚢の診察:立位・仰臥位で視診・触診、透光性試験を行う。精索静脈瘤は立位や腹圧負荷(Valsalva法)で目立ちやすい
直腸指診での前立腺所見
・正常:クルミ大、弾性軟、表面平滑、中心溝を触れる ・前立腺肥大症:弾性硬、表面平滑に腫大、中心溝の消失 ・前立腺癌:石様硬の結節、表面不整、左右非対称 ・急性前立腺炎:著明な圧痛、熱感、腫大
陰嚢腫大の鑑別と透光性
・透光性陽性:陰嚢水腫、精液瘤 ・透光性陰性:精巣腫瘍、精巣上体炎、精巣捻転、鼠径ヘルニア、血腫
CVA叩打痛が陽性となる代表的疾患
急性腎盂腎炎、尿管結石(水腎症)、腎周囲膿瘍など。
POINT
・腎臓は吸気時に下降するため、深吸気の終末時に触知しやすい(呼気終末ではない)。 ・腎臓の触診は仰臥位・膝屈曲位で腹壁の緊張をとり、双手診で行う。 ・前立腺の直腸指診は示指で行う。 ・陰嚢内腫瘤には透光性試験を行い、陽性なら陰嚢水腫などの液体貯留を考える。 ・尿管結石や急性腎盂腎炎ではCVA叩打痛が陽性となる。
