StudyMed医師国家試験

扁桃は腫れていないのに激痛―「見えない場所」に潜む急性喉頭蓋炎

第106回医師国家試験 E問題 第59問(連問)

国試問題にチャレンジ

第106回 E問題 第59問

連問の共通文

次の文を読み,58~60の問いに答えよ。 23歳の男性。のどの痛みを主訴に来院した。 現病歴:2日前からのどの痛みと発熱とを自覚していた。痛みが次第にひどくなったため23時に救急外来を受診した。痛みが強く唾液を飲み込むことができないため口から吐き出している。 既往歴:15歳時に虫垂炎の手術を受けた。 家族歴:特記すべきことはない。 現症:意識は清明。体温38.2℃。脈拍92/分,整。血圧124/80 mmHg。呼吸数20/分。眼瞼結膜に貧血を認めない。咽頭後壁粘膜はやや発赤しているが,口蓋扁桃の腫脹はみられない。頸部に圧痛を認め,軽度喘鳴を聴取する。心音に異常を認めない。

 診断として最も考えられるのはどれか。

  1. a.急性気管支炎
  2. b.急性喉頭蓋炎
  3. c.扁桃周囲膿瘍
  4. d.亜急性甲状腺炎
  5. e.伝染性単核球症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、急性の強い咽頭痛と発熱をきたした若年男性の診断を考える問題だ。のどが痛くなる病気はたくさんあるけれど、着目してほしいのは「痛みの強さ」と「口の中で見える所見」の釣り合い、そして喘鳴が意味するものだ。
医学生医学生
発熱と強い咽頭痛なので、扁桃周囲膿瘍が真っ先に浮かびました。唾液が飲み込めないほど痛いという話もよく聞きます。
ドクタードクター
扁桃周囲膿瘍を考えるのは良い発想だよ。高熱、激しい嚥下痛、含み声があり、ときに気道狭窄も起こすから、症状はかなり似ている。では、扁桃周囲膿瘍なら口の中はどう見えるはずかな。
医学生医学生
片側の軟口蓋が赤く膨らんで、口蓋垂が反対側に押されている……でしたっけ。開口障害もあったと思います。
ドクタードクター
その通り。扁桃周囲膿瘍は口を開けて見れば所見がはっきりしている病気なんだ。ところが今回は口蓋扁桃の腫脹がなく、咽頭後壁もやや赤い程度。唾液も飲めない激痛に対して、見える所見があまりにも乏しい。
医学生医学生
ということは、痛みの原因は口からは見えない場所にある、ということですね。
ドクタードクター
そう、それが最大の手がかり。口を開けても見えない、さらに奥の喉頭、特に喉頭蓋の炎症を考える。加えて頸部の圧痛と喘鳴は、喉頭レベルで気道が狭くなり始めていることを示唆する。これらをまとめると急性喉頭蓋炎が最も考えられる。
医学生医学生
耳鼻咽喉科の臨床実習で、喉頭ファイバーで真っ赤に腫れた喉頭蓋の写真を見せてもらったのを思い出しました。サクランボみたいに丸く腫れていました。
ドクタードクター
典型的な所見だね。確定には喉頭内視鏡で喉頭蓋の発赤・腫脹を確認する。ただし観察は気道確保の準備を整えたうえで慎重に行うことが大切だ。では他の選択肢も確認しよう。伝染性単核球症はどうかな。
医学生医学生
若い人に多くて、発熱と咽頭痛があるので一見合いそうです。でも扁桃が腫れていないのは合わない気がします。
ドクタードクター
鋭いね。EBウイルスの初感染で起こり、発熱・咽頭痛・頸部リンパ節腫脹が三主徴。口蓋扁桃が大きく腫れて白苔が付き、肝脾腫や異型リンパ球の増加も伴う。扁桃の高度腫大で気道狭窄を起こすこともあるけれど、その場合は口の中に明らかな扁桃所見があるはずだ。
医学生医学生
亜急性甲状腺炎も頸部の痛みと発熱があるので、少し迷いました。
ドクタードクター
確かに発熱と前頸部痛、甲状腺の圧痛があり、痛みが反対側へ移ることもある。でも中年女性に多く、動悸や発汗など一過性の甲状腺中毒症状を伴うのが特徴だ。嚥下時に痛むことはあっても、唾液が飲めないほどの嚥下痛や喘鳴のような気道症状は起こさない。
医学生医学生
急性気管支炎は喘鳴がある点だけは合いそうですけど……。
ドクタードクター
気管支炎の主症状は咳と痰で、喘鳴があるとしても下気道由来の呼気性が中心だ。激しい嚥下痛や頸部の圧痛は説明できない。上気道の狭窄なら吸気性、下気道なら呼気性、という区別も覚えておこう。
医学生医学生
痛みが強いのに口の中がきれいなら喉頭蓋を疑う、というのがこの問題の核心ですね。
ドクタードクター
その通り。そして急性喉頭蓋炎は、診断がついた瞬間から気道との勝負になる。治療は入院のうえ、気道確保の準備を整えつつ、第三世代セフェム系などの抗菌薬の静注、ステロイド、輸液、アドレナリン吸入などを行う。呼吸困難が進めば気管挿管、腫れが強く挿管が難しければ輪状甲状靱帯切開や気管切開が必要になる。
医学生医学生
起炎菌はインフルエンザ菌b型でしたよね。でも、ワクチンで減ったと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。かつては小児の病気というイメージが強かったけれど、Hibワクチンの普及で小児例は激減し、今は成人例が中心だ。成人ではレンサ球菌なども原因になる。「大人のひどいのどの痛み」でこそ思い出すべき疾患なんだ。
医学生医学生
救急外来で「ただの風邪」と帰さないように、口の中の所見と症状のギャップに必ず注目します。
ドクタードクター
それが一番大切な臨床感覚だ。前かがみで座り、流涎や含み声があれば、さらに危険度が高いと考えよう。

まとめ

急性の発熱と、唾液も飲み込めないほどの激しい嚥下痛があるのに、口蓋扁桃や咽頭後壁の所見が乏しい場合は、口から見えない喉頭の病変、特に急性喉頭蓋炎を最も疑います。喘鳴や流涎、含み声は声門上部の狭窄を示すサインで、進行すると数時間単位で窒息に至りうるため、気道確保の準備を整えたうえで喉頭内視鏡で確認し、抗菌薬やステロイドで治療します。扁桃周囲膿瘍は軟口蓋の膨隆や口蓋垂の偏位、伝染性単核球症は扁桃腫大と白苔・肝脾腫・異型リンパ球など、いずれも口腔内に明らかな所見がある点で区別できます。Hibワクチン普及後は成人例が中心となっており、「痛みの強さと見える所見のギャップ」に気づけるかどうかが、成人の咽頭痛診療で命を左右する重要な臨床判断になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・23歳男性。2日前からの咽頭痛と発熱が急速に悪化し、夜間に救急受診している。 ・唾液も飲み込めないほどの強い嚥下痛があり、口から吐き出している。 ・体温38.2℃。咽頭後壁はやや発赤しているのみで、口蓋扁桃の腫脹はない。 ・頸部に圧痛があり、軽度の喘鳴を聴取する。

診断へのプロセス

1)急性発症の咽頭痛+発熱:咽頭・喉頭の急性炎症を考える。 2)唾液も飲み込めないほどの嚥下痛:急性扁桃炎、扁桃周囲膿瘍、急性喉頭蓋炎など、強い炎症を伴う疾患が候補となる。 3)口蓋扁桃の腫脹がない:急性扁桃炎や扁桃周囲膿瘍は考えにくい。つまり、痛みの原因は口を開けても見えない部位にある可能性が高い。 4)喘鳴を伴う:気道(特に喉頭レベル)の狭窄を示唆する。 以上から、口腔から直接観察できない喉頭、特に喉頭蓋の急性炎症、すなわち急性喉頭蓋炎が最も考えられる。若年で急性発症かつ発熱を伴うことから、喉頭癌・下咽頭癌など腫瘍性の病変は否定的である。 「強い咽頭痛・嚥下痛があるのに口腔内の所見が乏しい」という乖離は、急性喉頭蓋炎を疑う最大の手がかりであり、見逃すと窒息につながるため必ず想起すべきである。

選択肢考察

  1. ×a.  急性気管支炎

    気管支粘膜の急性炎症で、主症状は咳嗽・喀痰と発熱である。多くはウイルス性の上気道炎に続いて起こる。咽頭痛で唾液を飲み込めないほどの嚥下痛は生じず、口腔内所見と症状の乖離や頸部の圧痛も説明できない。喘鳴を伴うことはあるが、下気道由来の呼気性の喘鳴が主体である。

  2. ○b.  急性喉頭蓋炎

    発熱、急速に悪化する激しい嚥下痛、唾液を飲み込めないこと(流涎)、喘鳴という組み合わせは急性喉頭蓋炎に典型的である。喉頭蓋は口を開けただけでは見えないため、口蓋扁桃や咽頭後壁には強い所見がなく、症状とのギャップが生じる。喉頭蓋の腫脹が進むと声門上部が閉塞して窒息に至るため、緊急性の高い疾患である。

  3. ×c.  扁桃周囲膿瘍

    急性扁桃炎が扁桃被膜の外に波及して扁桃周囲に膿瘍を作る疾患である。高熱、強い嚥下痛、開口障害、含み声を呈し、ときに気道狭窄をきたす点は急性喉頭蓋炎と共通する。しかし口腔内を診察すると、患側の軟口蓋の発赤・膨隆、口蓋垂の健側への偏位、扁桃の腫脹が明らかにみられるのが特徴である。本例では口蓋扁桃の腫脹を認めないため否定的である。

  4. ×d.  亜急性甲状腺炎

    ウイルス感染が関与すると考えられる甲状腺の炎症で、中年女性に多い。発熱、前頸部(甲状腺部)の痛みと硬い腫大、圧痛を示し、痛みが対側へ移動すること(クリーピング)がある。甲状腺破壊により一過性の甲状腺中毒症状(動悸・発汗など)を伴う。頸部痛や嚥下時の痛みを訴えることはあるが、唾液が飲み込めないほどの嚥下痛や喘鳴などの気道症状はきたさない。

  5. ×e.  伝染性単核球症

    主にEpstein-Barr(EB)ウイルスの初感染で起こり、思春期から若年成人に多い。発熱、咽頭痛、頸部リンパ節腫脹が三主徴で、口蓋扁桃の腫大と白苔の付着、肝脾腫、異型リンパ球の増加を伴う。本例では扁桃の腫脹がなく、典型像に合わない。なお扁桃の高度腫大により気道狭窄を起こすことはあるが、その場合は口腔内に明らかな扁桃所見がある。

急性の強い咽頭痛をきたす主な疾患の鑑別

・急性扁桃炎:扁桃の発赤・腫大、膿栓・白苔。口腔内の所見が明らか。 ・扁桃周囲膿瘍:片側の軟口蓋の膨隆、口蓋垂の偏位、開口障害、含み声。穿刺・切開排膿で治療する。 ・急性喉頭蓋炎:口腔内所見が乏しいのに激しい嚥下痛、流涎、含み声、吸気性喘鳴。喉頭内視鏡で喉頭蓋の発赤・腫脹を確認する。 ・咽後膿瘍:乳幼児に多い。咽頭後壁の膨隆、頸部の伸展困難。 ・伝染性単核球症:扁桃の腫大と白苔、後頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、異型リンパ球。アンピシリン投与で皮疹が出やすい。 ・深頸部膿瘍:頸部の腫脹・発赤、開口障害。縦隔炎へ進展しうる。

急性喉頭蓋炎の概要

・喉頭蓋を中心とした声門上部の急性炎症。起炎菌としてインフルエンザ菌b型(Hib)が代表的で、かつては小児に多かったが、Hibワクチンの普及後は成人例が中心となっている。成人ではレンサ球菌などもみられる。 ・治療:入院管理のうえ、気道確保の準備を整えつつ、抗菌薬(第三世代セフェム系など)の静注、ステロイド投与、輸液、ネブライザー(アドレナリン吸入など)を行う。呼吸困難が進行する場合は気管挿管、困難なら輪状甲状靱帯切開・気管切開を行う。

POINT

・口腔内所見に比べ不釣り合いに強い咽頭痛・嚥下痛→急性喉頭蓋炎を疑う。 ・急性喉頭蓋炎の症状:発熱、激しい嚥下痛、流涎、含み声、吸気性喘鳴、呼吸困難。 ・扁桃周囲膿瘍は口蓋扁桃周囲の腫脹・口蓋垂偏位など口腔内所見が明らかな点で区別する。 ・伝染性単核球症は扁桃の腫大と白苔、リンパ節腫脹、肝脾腫が手がかり。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。