切るべきは「狭窄の下」―外科的気道確保が生きる急性喉頭蓋炎
第120回医師国家試験 E問題 第21問
国試問題にチャレンジ
外科的気道確保を考慮すべきなのはどれか。
- a.上咽頭癌
- b.声帯結節
- c.気管支喘息
- d.急性喉頭蓋炎
- e.一側性反回神経麻痺
対話形式の解説
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ドクターまとめ
外科的気道確保(輪状甲状靱帯切開・気管切開)は声門より下に空気の通り道をつくる手技であり、効果があるのは切開部より上の咽頭・喉頭レベルの狭窄で、かつ挿管が困難な場合です。急性喉頭蓋炎は声門上の急速な腫脹で数時間のうちに窒息しうる耳鼻咽喉科救急の代表で、挿管も難しいことが多いため外科的気道確保を常に念頭に置きます。気管支喘息は下気道の狭窄なので無効であり、上咽頭癌や声帯結節は通常気道閉塞を起こさず、反回神経麻痺は一側性なら嗄声・誤嚥、両側性なら呼吸困難をきたして気道確保が必要になります。thumb signや小児診察時の注意、CICVでの輪状甲状靱帯切開の位置づけも含めて、「狭窄部位と切開部位の上下関係」で整理しておくことが、救急現場での迅速な判断につながります。
解答・解説
正解はdです
外科的気道確保とは、皮膚を切開して頸部から直接気管内へ到達する気道確保法であり、輪状甲状靱帯切開(輪状甲状膜切開)と気管切開が代表である。これらは声門より下(声門下・気管)に空気の通り道をつくる方法なので、効果があるのは「それより上流」、すなわち中・下咽頭から喉頭(とくに声門・声門上)のレベルで気道が狭くなり、しかも経口・経鼻の気管挿管が難しい、または危険な場合である。 本問では、各疾患について(1)上気道の狭窄・閉塞を起こしうるか、(2)起こるとすれば狭窄部位は切開部より上か、の2点を考えると正解を選べる。急性喉頭蓋炎は喉頭蓋とその周囲(披裂喉頭蓋ひだ、披裂部)が急速に腫れ、数時間で窒息に至ることがある。腫れた喉頭蓋のため挿管も難しいことが多く、外科的気道確保をあらかじめ考えておくべき代表的な疾患である。
選択肢考察
- ×a. 上咽頭癌
上咽頭は鼻腔の後方、頭蓋底の直下にある部位である。腫瘍が大きくなると鼻閉、滲出性中耳炎(耳管咽頭口の閉塞による)、脳神経症状、頸部リンパ節転移などを起こすが、経口呼吸の経路(口腔→中咽頭→下咽頭→喉頭)は保たれるため、致命的な気道閉塞はまず起こらない。外科的気道確保の対象にはならない。
- ×b. 声帯結節
声帯結節は、声の酷使によって両側声帯の膜様部中央(前1/3と中1/3の境界付近)に対称性にできる小さな隆起である。歌手、教師、保育士、小児(学童期の男児)に多い。主症状は嗄声であり、病変が小さいため気道狭窄は起こさない。治療は音声安静・音声治療が中心で、改善しなければ喉頭微細手術を行う。
- ×c. 気管支喘息
気管支喘息の気流制限は、気管支レベル(下気道)の平滑筋収縮・粘膜浮腫・粘液栓によって起こる。気管切開や輪状甲状靱帯切開で作るのは気管上部への入り口であり、それより末梢の気管支の狭窄は解決しない。重症発作で換気が保てない場合は気管挿管と人工呼吸管理を行うのであって、外科的気道確保の適応ではない。
- ○d. 急性喉頭蓋炎
急性喉頭蓋炎は、主にインフルエンザ菌b型(Hib)や溶連菌などによる喉頭蓋およびその周囲の声門上部の急性炎症である。強い咽頭痛・嚥下痛、含み声、流涎、吸気性喘鳴、前傾姿勢(三脚位)が特徴で、咽頭所見が乏しいのに症状が強いことが手がかりとなる。腫れた喉頭蓋が声門を覆うと急速に窒息しうる。喉頭が腫れているため気管挿管が困難なことが多く、挿管ができない、または窒息が切迫している場合には、狭窄部より下にある輪状甲状靱帯や気管を切開して気道を確保する。したがって外科的気道確保を考慮すべき疾患である。
- ×e. 一側性反回神経麻痺
反回神経は声帯を動かす内喉頭筋を支配する。一側だけが麻痺すると麻痺側の声帯が正中位〜中間位で固定し、声門閉鎖不全による気息性嗄声や誤嚥が主症状となるが、反対側の声帯は外転できるので声門は開き、気道狭窄は起こらない。これに対し、両側性反回神経麻痺(甲状腺手術後など)では両側の声帯が正中近くで固定して声門が狭くなり、吸気性喘鳴・呼吸困難を起こすため、気管切開などの外科的気道確保を考慮する。一側性か両側性かの区別が重要である。
外科的気道確保の種類
・輪状甲状靱帯切開(輪状甲状膜切開):甲状軟骨と輪状軟骨の間の膜を切開・穿刺する。皮膚から浅く、大きな血管も少ないため短時間で行え、「挿管できない・換気できない(CICV:cannot intubate, cannot ventilate)」状況での緊急手技として用いる。輪状軟骨が未発達な小児(おおむね12歳未満)では外科的切開は勧められず、針による穿刺が選択される。 ・気管切開:通常は第2〜4気管輪付近で気管を切開しカニューレを入れる。時間がかかるため、緊急時よりも待機的・長期的な気道管理に向く。
外科的気道確保を考慮する主な病態
・急性喉頭蓋炎、喉頭浮腫(血管性浮腫、アナフィラキシーなど) ・深頸部膿瘍や扁桃周囲膿瘍の進展による咽頭・喉頭の狭窄 ・喉頭癌・下咽頭癌などの腫瘍による狭窄 ・両側性反回神経麻痺(声帯の正中位固定) ・顔面・頸部外傷、熱傷による上気道損傷 ・長期の人工呼吸管理(気管切開)
急性喉頭蓋炎の診療上の注意
・頸部側面X線写真で腫大した喉頭蓋が親指のように見える所見(thumb sign)が有名である。 ・小児では舌圧子による咽頭の観察や仰臥位にすることが急激な気道閉塞を誘発しうるため、患児を泣かせず楽な姿勢を保たせ、気道確保の準備を整えた環境で診察する。 ・成人では喉頭ファイバースコープで喉頭蓋の腫脹を確認する。 ・治療は気道確保を最優先とし、抗菌薬(第3世代セファロスポリンなど)、副腎皮質ステロイドを用いる。Hibワクチンの普及により小児例は減少し、相対的に成人例の割合が増えている。
POINT
・外科的気道確保(輪状甲状靱帯切開・気管切開)が効くのは、切開部より上の咽頭・喉頭レベルの狭窄である。 ・急性喉頭蓋炎は窒息しうる耳鼻咽喉科救急疾患の代表で、挿管困難時は外科的気道確保をためらわない。 ・反回神経麻痺は一側性なら嗄声・誤嚥、両側性なら呼吸困難(気道確保が必要)。 ・下気道(気管支)の狭窄である気管支喘息には外科的気道確保は無効である。
