StudyMed医師国家試験

声がかすれたら胸まで探せ―嗄声と反回神経の長い旅路

第120回医師国家試験 C問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第31問

障害により嗄声を引き起こす神経はどれか。

  1. a.横隔神経
  2. b.顔面神経
  3. c.舌咽神経
  4. d.反回神経
  5. e.交感神経幹

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、どの神経が障害されると嗄声、つまり声がかれたりかすれたりするかを問う問題だ。考えるコツは2つ。声帯を動かしている神経はどれかということと、「声の質の異常」と「発音の異常」を区別することだよ。まず、声はどうやって出ると思う?
医学生医学生
閉じた声帯の間を息が通って、声帯が振動することで出る、と生理学で習いました。
ドクタードクター
その通り。だから声帯がうまく閉じられないと、息が漏れたようなかすれ声になる。これを気息性嗄声という。では声帯を動かす喉頭の筋は、どの神経が支配しているかな。
医学生医学生
迷走神経の枝の反回神経ですね。解剖実習で、大動脈弓の下をくぐって上に戻っていく細い神経を探すのに苦労しました。
ドクタードクター
よく覚えているね。反回神経は輪状甲状筋以外の内喉頭筋をすべて支配して、声帯を開いたり閉じたりしている。輪状甲状筋だけは上喉頭神経の外枝の支配だ。反回神経が障害されると同じ側の声帯が動かなくなり、声門が閉じきらずに気息性嗄声が起こる。これが正解だよ。
医学生医学生
左右で走り方が違うんですよね。
ドクタードクター
そう。右は鎖骨下動脈の下、左は大動脈弓の下をくぐって折り返し、気管と食道の間の溝を上って甲状腺の裏を通り喉頭に入る。特に左は胸の中を長く走るので、肺癌の縦隔リンパ節転移、食道癌、胸部大動脈瘤などで巻き込まれやすいんだ。
医学生医学生
呼吸器内科を回ったとき、嗄声で耳鼻科を受診した人のCTで左肺門部の肺癌が見つかった症例がありました。
ドクタードクター
まさに典型例だね。嗄声というと喉の病気と思いがちだけど、原因が胸の中に隠れていることがある。ほかの選択肢も見ていこう。顔面神経麻痺でも話しにくくなるけど、どう違うかな。
医学生医学生
口が閉じにくくなって、言葉が不明瞭になるイメージです。それも嗄声に入りますか。
ドクタードクター
そこが区別のポイント。顔面神経は表情筋を動かす神経で、唇が閉じにくいとパ行やマ行が言いにくくなる。これは構音障害であって、声帯の動きは正常だから嗄声ではない。舌咽神経も同じで、咽頭の感覚や舌の後ろ1/3の味覚、咽頭反射の求心路を担うけれど、声帯は動かせるので嗄声の原因にはならないんだ。
医学生医学生
横隔神経が麻痺すると息の量が減るので、声も弱くなりそうですが。
ドクタードクター
声が小さくなることはあっても、声帯そのものは正常に閉じるから声質は保たれる。横隔神経はC3〜C5由来で、障害されると胸部X線で同側の横隔膜挙上がみられるのが特徴だよ。
医学生医学生
交感神経幹の障害はHorner症候群ですね。神経内科の講義で縮瞳、眼瞼下垂、発汗低下の3つを覚えました。
ドクタードクター
正解。交感神経は声帯の筋を支配していないので嗄声は起こらない。ただ、肺尖部のPancoast腫瘍ではHorner症候群と反回神経麻痺が一緒に起こることがあるから、両方そろったら肺尖部を疑う、とセットで覚えておこう。
医学生医学生
嗄声は喉頭を動かす神経の問題、構音障害は唇や舌の問題、と分けて考えればいいんですね。
ドクタードクター
その整理で大丈夫。臨床での注意点も押さえておこう。甲状腺の手術後に声がかすれたら、まず反回神経麻痺を考える。片側麻痺では嗄声に加えて、声門が閉じないためにむせや誤嚥が起こりやすい。一方、両側麻痺で声帯が正中付近に固定すると、声は比較的保たれるのに気道が狭くなり、吸気時の喘鳴や呼吸困難が出る。窒息の危険があって気管切開が必要になることもあるんだ。
医学生医学生
声が出ているから大丈夫、とは限らないんですね。診断は喉頭ファイバーでしょうか。
ドクタードクター
そう。喉頭内視鏡で声帯の動きと発声時の声門の閉じ方を確認し、原因検索として頸部から胸部のCTで甲状腺、縦隔、肺、大動脈を調べる。反回神経の長い走行を思い浮かべながら、首から胸まで探しにいくことが大切だよ。

まとめ

嗄声は声の質の異常であり、神経障害による代表的な原因は迷走神経の枝である反回神経の麻痺です。反回神経は輪状甲状筋以外の内喉頭筋を支配し、障害されると同側の声帯が動かず声門が閉じきらないため、気息性嗄声や誤嚥を生じます。左反回神経は大動脈弓の下をくぐって胸腔内を長く走るため、肺癌や食道癌、胸部大動脈瘤で障害されやすく、甲状腺手術後の嗄声も重要な原因です。顔面神経障害による構音障害、横隔神経麻痺による横隔膜挙上、交感神経幹障害によるHorner症候群とは症状が異なり、両側反回神経麻痺では呼吸困難に注意が必要です。嗄声を「喉の症状」にとどめず、神経の走行に沿って首から胸まで原因を探す視点は、肺癌などの見逃しを防ぐ臨床の基本になります。

解答・解説

正解はdです

本問は、嗄声(させい:声がかれる、かすれる状態)がどの神経の障害で起こるかを問う一般問題である。 声は、閉じた左右の声帯の間を吐く息が通り抜け、声帯が振動することで生まれる。声帯を動かす筋(喉頭の内側にある筋)は、ほとんどが迷走神経の枝である反回神経(下喉頭神経)に支配されている。声帯を緊張させる輪状甲状筋だけは、同じく迷走神経の枝である上喉頭神経の外枝が支配する。 反回神経が障害されると、同じ側の声帯が動かなくなり(声帯麻痺)、発声時に声門(左右の声帯の間のすき間)が閉じきらなくなる。そのため、息が漏れたようなかすれ声(気息性嗄声)となる。 考え方のポイントは、「声の質の異常=嗄声」と「発音の異常=構音障害」を区別することである。唇・舌・咽頭の動きが悪くなって言葉がはっきりしなくなるのは構音障害であり、嗄声とは別の症状である。喉頭(声帯)を支配する神経を選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  横隔神経

    誤り。横隔神経は主に第3〜5頸神経(C3〜C5)から出る神経で、横隔膜を動かす。障害されると同じ側の横隔膜が動かなくなり、胸部X線写真で横隔膜が高い位置にみえる(横隔膜挙上)。片側だけなら症状が軽いこともあるが、両側では呼吸困難が強くなる。息の量が減って声が小さくなることはあっても、声帯そのものは正常に動くため嗄声は起こらない。

  2. ×b.  顔面神経

    誤り。顔面神経は表情筋を動かす神経で、障害されると目を閉じにくい、口角が下がる、額にしわを寄せられないといった症状が出る。唇がうまく閉じないため、パ行・バ行・マ行などの唇を使う音が言いにくくなる構音障害を起こすことはあるが、声帯の動きには関わらないので嗄声は起こらない。そのほか、聴覚過敏(アブミ骨筋の麻痺による)、舌の前2/3の味覚障害、涙や唾液の分泌低下を伴うことがある。

  3. ×c.  舌咽神経

    誤り。舌咽神経は主に、咽頭の感覚、舌の後ろ1/3の味覚と感覚、咽頭反射(のどの奥を刺激すると起こる反射)の求心路(感覚を伝える側)を担う。運動神経としては茎突咽頭筋を支配するだけである。障害されると咽頭の感覚が鈍くなり、咽頭反射が弱まって飲み込みにくさの一因となるが、声帯は動かせるため嗄声の原因にはならない。なお、頸静脈孔(頭蓋底の穴)の病変では舌咽神経と迷走神経が一緒に障害されて嗄声を伴うことがあるが、その場合の嗄声は迷走神経の障害による。

  4. ○d.  反回神経

    正しい。反回神経は迷走神経の枝で、輪状甲状筋以外の喉頭の筋(内喉頭筋)をすべて支配し、声帯を開いたり閉じたりする。右は鎖骨下動脈、左は大動脈弓の下をくぐって折り返し、気管と食道の間の溝を上って喉頭に入る。特に左は胸の中を長く通るため、障害を受けやすい。障害されると同じ側の声帯が動かなくなり、声門が閉じきらずに気息性嗄声を起こす。声門が閉じないことで誤嚥やむせ(嚥下障害)を伴うこともある。原因には甲状腺の手術や甲状腺癌、食道癌、肺癌(特に左肺門部)、大動脈瘤、縦隔の腫瘍などがある。

  5. ×e.  交感神経幹

    誤り。頸部の交感神経幹が障害されると、同じ側にHorner症候群が起こる。症状は縮瞳(瞳が小さくなる)、眼瞼下垂(上まぶたが下がる、瞼板筋(Müller筋)の麻痺による)、顔面の発汗低下であり、目が奥に引っ込んだようにみえる眼球陥凹(見かけ上のもの)を伴うこともある。交感神経は声帯の筋を支配していないので嗄声は起こらない。肺尖部の肺癌(Pancoast腫瘍)では、Horner症候群と反回神経麻痺(嗄声)が一緒にみられることがある。

反回神経の走行と左右差

・右反回神経:右鎖骨下動脈の下をくぐって折り返し、上へ向かう。 ・左反回神経:大動脈弓の下(動脈管索の近く)をくぐって折り返し、上へ向かう。胸腔内を走る距離が長いため、胸部の病気で障害されやすい。 ・どちらも気管と食道の間の溝を上り、甲状腺の裏側を通って喉頭に入る。そのため甲状腺手術では損傷に注意が必要である。

反回神経麻痺の主な原因

・頸部:甲状腺の手術、甲状腺癌、頸部の手術・外傷 ・胸部:肺癌(特に左肺門部・縦隔のリンパ節転移)、食道癌、胸部大動脈瘤、縦隔腫瘍、心臓・大血管の手術 ・その他:気管挿管による圧迫、原因不明(特発性) ・迷走神経の中枢側の障害(延髄の病変、Wallenberg症候群、頸静脈孔の病変)でも声帯麻痺が起こる。

片側麻痺と両側麻痺

・片側麻痺:気息性嗄声、むせ・誤嚥、一息で話せる長さ(最長発声持続時間)が短くなる。 ・両側麻痺:声帯が正中付近で固定すると、声は比較的保たれるが、気道が狭くなって吸気時の喘鳴や呼吸困難が起こる。窒息の危険があり、気管切開が必要になることがある。

診断

喉頭内視鏡(喉頭ファイバースコープ)で、声帯の動きと発声時の声門の閉じ方を観察する。原因を探すため、頸部から胸部のCTなどで甲状腺・縦隔・肺・大動脈を調べる。

嗄声と構音障害の区別

・嗄声:声の質の異常(喉頭・声帯の問題)。反回神経麻痺、声帯ポリープ、喉頭癌などで起こる。 ・構音障害:音をつくる器官(唇・舌・軟口蓋など)の動きの異常で、言葉がはっきりしなくなる。顔面神経、舌下神経などの障害で起こる。

POINT

・嗄声を起こす神経障害の代表は反回神経麻痺(迷走神経の枝)である。 ・反回神経は輪状甲状筋以外の内喉頭筋を支配する。輪状甲状筋は上喉頭神経外枝の支配である。 ・左反回神経は大動脈弓の下をくぐるため長く、肺癌・食道癌・大動脈瘤などで障害されやすい。 ・甲状腺手術後の嗄声は反回神経麻痺を考える。 ・両側の反回神経麻痺では呼吸困難が起こり、気管切開が必要になることがある。 ・交感神経幹の障害はHorner症候群、顔面神経の障害は表情筋麻痺を起こす。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。