母方のおじといとこが語る―家系図から見抜くX連鎖劣性遺伝
第106回医師国家試験 E問題 第44問
国試問題にチャレンジ
2歳の男児。遺伝性疾患を疑われている。両親は健康で,近親婚ではない。母方叔父と母方叔母の長男とに同様の症状を認める。母方の祖父母に症状を認めない。 最も考えられる遺伝形式はどれか。
- a.常染色体優性遺伝
- b.常染色体劣性遺伝
- c.X連鎖優性遺伝
- d.X連鎖劣性遺伝
- e.Y連鎖遺伝
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
家族歴から遺伝形式を推定するときは、まず罹患者の親が罹患しているか(垂直伝播の有無)で優性か劣性かを考え、次に罹患者の性別の偏りと、どちらの家系に集まっているかで常染色体性かX連鎖性かを判断します。健康な両親から男児が発症し、母方のおじや母の姉妹の息子にも罹患者がいる家系は、保因者女性を介して男性のみが発症するX連鎖劣性遺伝の典型です。X連鎖優性なら母や祖母も発症するはずであり、Y連鎖なら父も罹患するはず、常染色体劣性なら男女同等に発症し近親婚で頻度が上がる点で区別できます。Duchenne型筋ジストロフィーや血友病などX連鎖劣性疾患は代表例とともに整理しておくと、問診での家族歴聴取や遺伝カウンセリングに直結します。家系図を読み解く力は、遺伝性疾患の診断と家族へのリスク説明の基礎となる重要なスキルです。
解答・解説
正解はdです
家系情報の整理
本問は家系図を頭の中で描いて遺伝形式を推定する問題である。登場人物を整理すると次のようになる。 ・発端者(本人):2歳男児、罹患 ・両親:いずれも健康、近親婚ではない ・母方祖父母:いずれも症状なし ・母方叔父(母の兄弟):罹患 ・母方叔母の長男(本人のいとこ、男性):罹患(叔母本人は罹患の記載なし) つまり、罹患者は3人とも男性であり、全員が「母方」の血縁でつながっている。一方、罹患者の親の世代(両親・祖父母・叔母)には症状のある人がいない。
推論の手順
(1) 優性か劣性か:優性遺伝であれば、原則として罹患者の親のどちらかも罹患している(垂直伝播)。本家系では罹患者の親がいずれも健康であり、世代を飛び越して発症している(隔世遺伝様)ので、劣性遺伝が考えやすい。 (2) 常染色体性かX連鎖性か:罹患者がすべて男性で、しかも母・母方祖母・母方叔母という女性を介して伝わっている。これは「女性は保因者として無症状、その息子の1/2が発症」というX連鎖劣性遺伝の典型像である。 (3) 保因者の推定:X連鎖劣性遺伝とすると、母方祖母が保因者であり、そのX染色体を受け継いだ母と叔母がともに保因者、叔父は罹患者となる。母と叔母はそれぞれの息子(本人といとこ)に変異Xを伝えた、と矛盾なく説明できる。
常染色体劣性遺伝との比較
常染色体劣性遺伝でも親は健康であり、この家系を完全には否定できない。しかし常染色体劣性遺伝で発症するには両親がともに保因者である必要があり、本人・叔父・いとこの3家族それぞれで両親が保因者である必要がある。近親婚ではない(配偶者は血縁のない他人である)ことを考えると、同じまれな変異をもつ配偶者が偶然3度も組み合わさる可能性は低い。さらに性別にかかわらず発症するはずの常染色体性にもかかわらず、罹患者が男性に偏っている点も説明しにくい。したがって、最も考えられるのはX連鎖劣性遺伝である。
選択肢考察
- ×a. 常染色体優性遺伝
常染色体優性遺伝では、ヘテロ接合体で発症するため罹患者の親の一方が罹患しているのが原則であり、世代ごとに罹患者が現れる(垂直伝播)。本例では両親も母方祖父母も健康で、叔父やいとこの親にも症状がない。新生突然変異や浸透率の低い疾患であれば例外はあり得るが、3人の罹患者すべてにそれを仮定するのは無理があり、最も考えられる形式とはいえない。
- ×b. 常染色体劣性遺伝
健康な両親から罹患児が生まれる点は常染色体劣性遺伝とも矛盾しない。しかし発症には父母双方から変異アレルを受け継ぐ必要があり、本家系では本人・叔父・いとこの各核家族で「両親がともに保因者」でなければならない。近親婚ではないため、外から嫁いだり婿入りした血縁のない配偶者が同じ変異を偶然もつ確率は低い。また男女同じ割合で発症するはずであるのに罹患者が男性のみである点も合わない。可能性は否定しきれないが、X連鎖劣性遺伝の方がはるかに自然に説明できる。
- ×c. X連鎖優性遺伝
X連鎖優性遺伝では、変異をもつX染色体が1本あれば女性でも発症する。罹患男性の変異XはX染色体を渡した母親に由来するので、本人の母・いとこの母(叔母)・叔父の母(祖母)はいずれも発症しているはずである。本例ではこれらの女性が健康であり、合致しない。なお、罹患男性の娘は全員罹患し息子は罹患しない、という特徴もある(例:ビタミンD抵抗性くる病〔X連鎖性低リン血症〕、Rett症候群など)。
- ○d. X連鎖劣性遺伝
X連鎖劣性遺伝では、X染色体を1本しかもたない男性(ヘミ接合体)は変異Xを受け継ぐと発症し、女性はもう1本の正常Xがあるため多くは無症状の保因者となる。本家系は、保因者の母方祖母から母と叔母に変異Xが伝わり、祖母の息子(叔父)と、母と叔母の息子(本人といとこ)が発症した、と無理なく説明できる。罹患者が男性のみ、女性を介して伝わる、罹患者の父母は健康、という特徴がすべてそろっており、最も考えられる遺伝形式である。
- ×e. Y連鎖遺伝
Y連鎖遺伝ではY染色体が父から息子へ伝わるため、罹患男性の父親も必ず罹患し、父系に沿って伝わる。本例では本人の父が健康であり、また罹患者は母方の家系に集まっていて、Y染色体を共有する父系ではない。さらにY染色体上の遺伝子は性決定・精子形成関連などごく少数で、Y連鎖の遺伝性疾患は極めてまれであるため考えにくい。
単一遺伝子疾患の遺伝形式と家系図の特徴
・常染色体優性(AD):男女同等に発症、各世代に罹患者(垂直伝播)、罹患者の子の1/2が罹患。父から息子への伝達もあり得る。例:Marfan症候群、神経線維腫症1型、Huntington病、家族性大腸腺腫症。 ・常染色体劣性(AR):男女同等に発症、両親は通常健康な保因者、同胞に水平に罹患者が集まる。保因者同士の子の1/4が罹患。近親婚で頻度が上昇する。例:フェニルケトン尿症、嚢胞性線維症、Wilson病、脊髄性筋萎縮症。 ・X連鎖劣性(XR):罹患者はほぼ男性、保因者女性の息子の1/2が罹患・娘の1/2が保因者。罹患男性の娘は全員保因者、息子には伝わらない(父から息子への伝達はない)。母方のおじ・いとこに罹患者がいる家系が典型。例:Duchenne型・Becker型筋ジストロフィー、血友病A・B、G6PD欠損症、副腎白質ジストロフィー、Fabry病、Lesch-Nyhan症候群。 ・X連鎖優性(XD):女性にも発症し女性罹患者が男性の約2倍、罹患男性の娘は全員罹患・息子は罹患しない。例:X連鎖性低リン血症性くる病、Alport症候群(大部分)。 ・Y連鎖:父から息子へのみ伝わる。臨床的な疾患はきわめてまれ。
X連鎖劣性疾患で女性が発症する場合
女性保因者でもX染色体の不活化(lyonization)が偏ると軽症の症状が出ることがある。また、Turner症候群(45,X)の女性や、罹患男性と保因者女性の子では女性も発症し得る。
遺伝カウンセリングの観点
本例の母親と母方叔母は保因者と推定され(罹患男性を2人の姉妹がそれぞれ出産しているため、確定的保因者に近い)、次子が男児なら1/2の確率で罹患、女児なら1/2の確率で保因者となる。
POINT
・親が健康で世代を飛び越える → 劣性遺伝を考える。 ・罹患者が男性のみで、母方のおじ・いとこ(母の姉妹の息子)に罹患者 → X連鎖劣性遺伝の典型。 ・X連鎖劣性では父から息子へは伝わらない。罹患男性の娘は全員保因者。 ・X連鎖優性なら保因女性(母・祖母)も発症するはず。Y連鎖なら父も罹患するはず。 ・常染色体劣性では男女同等に発症し、近親婚で頻度が上がる。
