ふるえ、羽ばたき、ピクつき―不随意運動と疾患の「正しいペア」を見抜く
第106回医師国家試験 E問題 第34問
国試問題にチャレンジ
不随意運動と疾患の組合せで正しいのはどれか。
- a.振戦 ―― 甲状腺機能亢進症
- b.チック ―― 肝性脳症
- c.舞踏運動 ―― 有機水銀中毒
- d.ジストニア ―― ビタミンD欠乏症
- e.ミオクローヌス ―― 進行麻痺
対話形式の解説
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ドクターまとめ
不随意運動は振戦、舞踏運動、ジストニア、ミオクローヌス、チックなどに分けられ、それぞれ代表的な原因疾患と結びつけて理解することが重要です。甲状腺機能亢進症では甲状腺ホルモン過剰により交感神経のβ作用が強まり、手指の細かく速い姿勢時振戦が生じ、β遮断薬で軽快するため、振戦との組合せが正しいとなります。肝性脳症では羽ばたき振戦(本態は陰性ミオクローヌス)、有機水銀中毒ではハンター・ラッセル症候群、ビタミンD欠乏では低カルシウム血症によるテタニー、進行麻痺では人格変化・認知症とアーガイル・ロバートソン瞳孔が特徴で、いずれも提示された不随意運動とは一致しません。舞踏運動はハンチントン病や小舞踏病、ミオクローヌスはクロイツフェルト・ヤコブ病やSSPEが代表です。振戦を安静時・姿勢時・企図時に分けて原因を絞る考え方は、治療可能な疾患を見逃さない臨床判断の基本となります。
解答・解説
正解はaです
不随意運動(自分の意思とは関係なく出現する異常な運動)の種類と、それを起こす代表的な疾患の対応を問う問題である。不随意運動の多くは大脳基底核や小脳などの錐体外路系の障害で生じるが、代謝・内分泌疾患や薬物・中毒でも起こる。
不随意運動の種類と特徴
・振戦:一定のリズムで繰り返す、往復する細かいふるえ。安静時振戦(パーキンソン病)、姿勢時振戦(本態性振戦、甲状腺機能亢進症など)、企図振戦(小脳障害)に分けられる。 ・舞踏運動:不規則で速く、踊るような流れる動き。 ・ジストニア:筋が持続的に収縮し、ねじれるような異常な姿勢や動きになる。 ・ミオクローヌス:筋が突然、瞬間的にピクッと収縮する。 ・チック:まばたき、首振り、咳払いなど、同じ動作や発声を素早く繰り返す。一時的には意識して抑えられる。 各選択肢の疾患について「その疾患で特徴的にみられる運動症状は何か」を思い浮かべ、提示された不随意運動と一致するかを確認すればよい。甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモン過剰によって交感神経(βアドレナリン受容体)の作用が強まり、手指の細かく速い姿勢時振戦がみられる。これが正しい組合せである。
選択肢考察
- ○a. 振戦 ―― 甲状腺機能亢進症
正しい組合せである。甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)では、甲状腺ホルモンが過剰になってβアドレナリン受容体を介した交感神経の作用が強まる。その結果、生理的振戦が増強され、手指を前に伸ばしたときなどに細かく速い(周波数が高い)姿勢時振戦が目立つ。動悸、頻脈、発汗過多、体重減少とともに代表的な症候であり、β遮断薬で軽くなる。振戦を診たら、甲状腺機能亢進症は必ず鑑別に挙げるべき疾患である。
- ×b. チック ―― 肝性脳症
誤り。肝性脳症で特徴的な不随意運動は羽ばたき振戦(asterixis)である。両腕を前に伸ばして手関節を背屈させた姿勢を保たせると、筋の緊張が一瞬途切れて手が落ちかけ、それを戻そうとして鳥が羽ばたくような動きを繰り返す。名称は「振戦」だが、実際には筋の収縮が瞬間的に抜ける陰性ミオクローヌスである。尿毒症、CO2ナルコーシス(高二酸化炭素血症)などの代謝性脳症でもみられる。チックはトゥレット症候群など小児期に始まる神経発達症の症状であり、肝性脳症とは関係しない。
- ×c. 舞踏運動 ―― 有機水銀中毒
誤り。有機水銀(メチル水銀)中毒は水俣病の原因であり、ハンター・ラッセル症候群と呼ばれる症状がそろう。具体的には、手足の先ほど強い感覚障害、小脳性運動失調、求心性視野狭窄、聴力障害、構音障害である。振戦がみられることもあるが、舞踏運動は特徴的な症状ではない。舞踏運動を起こす代表的な疾患は、ハンチントン病、小舞踏病(シデナム舞踏病:溶連菌感染後のリウマチ熱に伴う)、高血糖に伴う舞踏運動、SLE・抗リン脂質抗体症候群、妊娠舞踏病などである。
- ×d. ジストニア ―― ビタミンD欠乏症
誤り。ビタミンD欠乏症では、腸管からのカルシウム吸収が減ることにより、小児ではくる病、成人では骨軟化症が起こる。低カルシウム血症が強いと神経・筋の興奮性が高まり、テタニー(助産師の手位などの手足の筋の強直性けいれん)、口の周りや手足のしびれ、トルソー徴候・クボステック徴候がみられる。テタニーは持続する筋けいれんで、ジストニアとは異なる。ジストニアの代表的な原因は、痙性斜頸・書痙などの局所性ジストニア、遺伝性ジストニア、抗精神病薬などによる急性ジストニア、ウィルソン病などである。
- ×e. ミオクローヌス ―― 進行麻痺
誤り。進行麻痺は梅毒の晩期(感染から十数年以上後)に起こる神経梅毒の一型で、梅毒トレポネーマが大脳実質に広く感染する髄膜脳炎である。主な症状は、人格変化、認知機能障害(認知症)、誇大妄想などの精神症状、アーガイル・ロバートソン瞳孔(対光反射は消えるが輻輳反射は保たれる)、構音障害、けいれん発作などであり、ミオクローヌスは特徴的な症状ではない。ミオクローヌスが目立つ疾患には、クロイツフェルト・ヤコブ病、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、進行性ミオクローヌスてんかん、低酸素脳症後(ランス・アダムス症候群)、尿毒症などの代謝性脳症がある。
主な不随意運動と代表的な疾患
・安静時振戦:パーキンソン病(4〜6Hz、丸薬を丸めるような動き) ・姿勢時振戦:本態性振戦、甲状腺機能亢進症、薬剤性(β刺激薬・リチウム・バルプロ酸など)、アルコール離脱 ・企図振戦:小脳障害(多発性硬化症、脊髄小脳変性症など) ・羽ばたき振戦:肝性脳症、尿毒症、CO2ナルコーシス ・舞踏運動:ハンチントン病、小舞踏病、高血糖、SLE・抗リン脂質抗体症候群、妊娠 ・バリズム:視床下核の障害(脳梗塞など)。障害側と反対側の上下肢を大きく投げ出すような動き ・アテトーゼ:脳性麻痺(特に核黄疸の後遺症)。ゆっくりくねるような動き ・ジストニア:痙性斜頸、書痙、眼瞼けいれん、薬剤性急性ジストニア、ウィルソン病 ・ミオクローヌス:クロイツフェルト・ヤコブ病、SSPE、進行性ミオクローヌスてんかん、低酸素脳症後 ・チック:トゥレット症候群 ・ジスキネジア:抗精神病薬による遅発性ジスキネジア、レボドパ長期服用によるジスキネジア
選択肢に出てきた疾患の特徴的症候
・有機水銀中毒(水俣病):ハンター・ラッセル症候群(感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、聴力障害、構音障害) ・ビタミンD欠乏:くる病・骨軟化症、低カルシウム血症によるテタニー ・進行麻痺:人格変化・認知症・誇大妄想、アーガイル・ロバートソン瞳孔
POINT
・甲状腺機能亢進症 → 手指の細かく速い姿勢時振戦(交感神経の作用増強、β遮断薬で軽快) ・肝性脳症 → 羽ばたき振戦(本態は陰性ミオクローヌス) ・有機水銀中毒 → ハンター・ラッセル症候群(感覚障害・運動失調・求心性視野狭窄・聴力障害・構音障害) ・ビタミンD欠乏 → くる病・骨軟化症、低カルシウム血症によるテタニー ・進行麻痺 → 人格変化・認知症、アーガイル・ロバートソン瞳孔 ・ミオクローヌス → クロイツフェルト・ヤコブ病、SSPE
