StudyMed医師国家試験

「押し出す力」と「閉じる力」―排便のメカニズムを筋と反射で読み解く

第106回医師国家試験 E問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第106回 E問題 第33問

排便時の生理で誤っているのはどれか。

  1. a.大腸の蠕動運動が生じる。
  2. b.直腸内圧が上昇する。
  3. c.内肛門括約筋が収縮する。
  4. d.恥骨直腸筋が弛緩する。
  5. e.肛門管と直腸とが直線化する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は排便の生理を問う、誤りを選ぶ問題だ。排便は大腸、直腸、肛門の筋と神経反射が協調して起こる一連の流れなんだ。考えるコツは一つだけ。排便時には便を「押し出す力」は強まり、肛門を「閉じている力」は弱まる。この原則で一つずつ確かめていこう。
医学生医学生
生理学の講義で排便反射は習ったはずなんですが、順番があいまいです。まず大腸が動くところからでしょうか。
ドクタードクター
そう、出発点は大腸の運動だ。食事で胃が伸展すると胃結腸反射が起こり、結腸に総蠕動、つまり内容物を一気に遠くへ運ぶ強い蠕動が生じる。これで便が直腸へ送り込まれる。だから大腸の蠕動運動が生じるという記述は正しい。
医学生医学生
朝ごはんの後にトイレに行きたくなるのは、その胃結腸反射ですね。
ドクタードクター
その通り。次に便が直腸に入ると直腸壁が伸展されて、直腸内圧が上がる。この伸展刺激が骨盤神経を通って仙髄S2〜S4の排便中枢に伝わり、さらに大脳に届いて便意として自覚される。いきみによる腹圧や直腸自体の収縮でも内圧はさらに高まる。直腸内圧が上昇するという記述も正しいね。
医学生医学生
ここまでは押し出す側ですね。問題は閉じる側で、内肛門括約筋は肛門を締める筋なので、排便のときは踏ん張って収縮するイメージがありました。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だ。内肛門括約筋は直腸の内輪筋層が肛門管の周りで厚くなった平滑筋で、自分の意思では動かせない不随意筋。安静時には持続的に収縮していて、肛門の安静時の締まりの大部分を担っている。ところが直腸が便で伸展されると、反射的に弛緩するんだ。これを直腸肛門抑制反射という。
医学生医学生
じゃあ排便時は収縮ではなく弛緩するので、内肛門括約筋が収縮するという記述が誤り、つまりこれが答えですね。
ドクタードクター
正解。肛門を閉じる力が弱まるという原則に照らせば、収縮はおかしいとわかるね。では残りの恥骨直腸筋はどうだろう。
医学生医学生
解剖実習で骨盤底を見たとき、肛門挙筋の一部だと習いました。名前からは何をしているのかイメージしにくいです。
ドクタードクター
恥骨直腸筋は陰部神経に支配される随意筋、つまり横紋筋だ。直腸と肛門管の境目の後ろ側をU字型のつり革のように恥骨の方へ引っ張り、そこを折り曲げている。この折れ曲がりが肛門直腸角で、安静時はおよそ90°前後。便を漏らさずに保つ、いわゆる禁制に重要な仕組みなんだ。
医学生医学生
排便時にはその筋が緩むので、恥骨直腸筋が弛緩するのは正しい。そして角度が開くから、肛門管と直腸が直線化するのも正しいということですね。
ドクタードクター
よくつながったね。恥骨直腸筋の弛緩に加えて、いきみで骨盤底が下がることで角度が大きく開き、直腸と肛門管がほぼ一直線になって便が通りやすくなる。しゃがむ姿勢をとると、この角度はさらに開きやすいんだ。
医学生医学生
整理すると、内肛門括約筋は不随意に反射で緩み、外肛門括約筋と恥骨直腸筋は意識的に緩める、という役割分担ですか。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。外肛門括約筋も陰部神経支配の随意筋で、便意を我慢するときに意識して締める筋だ。自律神経では、骨盤神経の副交感神経が直腸の収縮と内肛門括約筋の弛緩に、下腹神経の交感神経が内肛門括約筋の収縮、つまり便を保つ方向に働く。
医学生医学生
小児外科の講義で、ヒルシュスプルング病の診断に直腸肛門内圧検査を使うと聞いた気がします。それもこの反射と関係ありますか。
ドクタードクター
大いに関係がある。直腸肛門抑制反射は壁内神経叢を介して起こるから、神経節細胞がないヒルシュスプルング病ではこの反射が起こらない。直腸をバルーンで伸展しても内肛門括約筋が緩まないことが、診断の手がかりになるんだ。
医学生医学生
恥骨直腸筋のほうにも関連する病気はありますか。
ドクタードクター
いきんだときに恥骨直腸筋が逆に収縮してしまう骨盤底筋協調障害、奇異性収縮と呼ばれる状態がある。肛門直腸角が開かないので便を出せず、便排出障害型の便秘の原因になる。排便造影で角度が開かないことを確認でき、治療にはバイオフィードバック療法が行われる。また仙髄の排便中枢や神経経路が脊髄損傷などで障害されると、便失禁や排便困難が起こる。生理を押さえておくと、こうした病態もすっきり理解できるよ。

まとめ

排便は、胃結腸反射による結腸の総蠕動で便が直腸へ送られ、直腸の伸展と内圧上昇が骨盤神経を介して仙髄の排便中枢と大脳に伝わることで始まります。排便時には便を押し出す力(大腸蠕動、直腸内圧、腹圧)が強まり、肛門を閉じる力が弱まるため、不随意の平滑筋である内肛門括約筋は直腸肛門抑制反射により弛緩し、収縮するという記述は誤りです。随意筋である外肛門括約筋と恥骨直腸筋(陰部神経支配)が意識的に弛緩すると、安静時およそ90°前後の肛門直腸角が開き、直腸と肛門管が直線化して便が排出されます。直腸肛門抑制反射の消失はヒルシュスプルング病、いきみ時の恥骨直腸筋の奇異性収縮は便排出障害型便秘の原因となります。排便の生理を筋と反射の役割分担で理解しておくことは、便秘や便失禁、小児外科疾患の病態理解の土台になります。

解答・解説

正解はcです

排便の生理に関する問題で、「誤っているもの」を選ぶ形式である。排便は、①便を直腸へ送る大腸の運動、②直腸の伸展が引き起こす反射、③肛門を開く筋の弛緩と腹圧による押し出し、という一連の協調運動で成り立つ。便を「押し出す力」は強まり、肛門を「閉じている力」は弱まる、という原則で考えると整理しやすい。

排便の流れ

1. 食事で胃が伸展すると胃結腸反射が起こり、結腸に総蠕動(mass movement:結腸内容を一気に遠くへ運ぶ強い蠕動)が生じて、便が直腸に送り込まれる。 2. 直腸に便が入ると直腸壁が伸展し、直腸内圧が上昇する。この刺激は骨盤神経を通って仙髄(S2〜S4)の排便中枢に伝わり、さらに大脳に伝わって便意として自覚される。 3. 直腸の伸展を受けて、内肛門括約筋が反射的に弛緩する(直腸肛門抑制反射)。 4. 排便してよい状況であれば、陰部神経が支配する外肛門括約筋と、肛門挙筋の一部である恥骨直腸筋を意識的に弛緩させる。これにより肛門直腸角が開き、直腸と肛門管がほぼ一直線になる。 5. 息をこらえて腹圧をかけ(いきみ)、直腸の収縮も加わって便が排出される。 したがって、排便時に内肛門括約筋が「収縮する」という記述は誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  大腸の蠕動運動が生じる。

    正しい記述である。食後の胃結腸反射や、便による下行結腸・S状結腸の伸展をきっかけに、結腸に強い蠕動(総蠕動)が起こり、便やガスが直腸へ運ばれる。これが排便の出発点になる。排便の最中にも、下部結腸から直腸にかけての収縮が便を肛門の方向へ押し出すのを助けている。

  2. ×b.  直腸内圧が上昇する。

    正しい記述である。便やガスが直腸に流れ込むと直腸壁が伸展され、直腸内圧が上昇する。この内圧上昇(伸展刺激)が骨盤神経を介して仙髄の排便中枢に伝わり、便意と排便反射を起こす引き金になる。さらに、いきみによる腹圧上昇と直腸自体の収縮によって内圧はより高まり、便を押し出す力となる。

  3. ○c.  内肛門括約筋が収縮する。

    誤っている記述であり、これが正解である。内肛門括約筋は直腸の内輪筋層が肛門管の周りで厚くなった平滑筋で、自分の意思では動かせない不随意筋である。安静時には持続的に収縮しており、肛門の静止圧(安静時の締まり)の大部分を担っている。直腸が便で伸展されると、この筋は反射的に弛緩する。これを直腸肛門抑制反射という。排便時には弛緩して肛門管を開くので、「収縮する」は誤りである。なお、直腸肛門抑制反射は壁内神経叢を介して起こるため、神経節細胞がないヒルシュスプルング病(Hirschsprung病)では起こらない。この性質は同病の診断(直腸肛門内圧検査)に利用される。

  4. ×d.  恥骨直腸筋が弛緩する。

    正しい記述である。恥骨直腸筋は肛門挙筋の一部で、陰部神経などの体性神経に支配される随意筋(横紋筋)である。直腸と肛門管の境目の後ろ側をU字型のつり革のように前方(恥骨)へ引っ張り、直腸肛門移行部を折り曲げている。これが肛門直腸角をつくり、便を保つ(禁制)うえで重要な働きをしている。排便時にはこの筋が弛緩して前方への牽引が解け、肛門直腸角が開く。いきんだときに逆に恥骨直腸筋が収縮してしまう状態は骨盤底筋協調障害(奇異性収縮)と呼ばれ、便排出障害型の便秘の原因となる。

  5. ×e.  肛門管と直腸とが直線化する。

    正しい記述である。安静時の肛門直腸角(直腸の軸と肛門管の軸がなす角度)は、恥骨直腸筋の牽引によっておよそ90°前後に保たれている。排便時には恥骨直腸筋の弛緩と、いきみによる骨盤底の下降によってこの角度が大きく開き、直腸と肛門管がほぼ一直線になる。これにより便が通りやすくなる。しゃがむ姿勢(股関節を深く曲げる姿勢)をとると、この角度はさらに開きやすくなる。

肛門の括約機構

・内肛門括約筋:平滑筋・不随意筋。自律神経支配(交感神経は収縮、副交感神経は弛緩の方向に働く)。安静時の肛門圧の大部分(おおむね7割前後)を担う。直腸が伸展すると反射的に弛緩する(直腸肛門抑制反射)。 ・外肛門括約筋:横紋筋・随意筋。陰部神経(S2〜S4)支配。便意を感じても排便を我慢するときに意識的に収縮させる(随意収縮圧)。 ・恥骨直腸筋:肛門挙筋の一部で横紋筋。直腸肛門移行部を前方へ引き、肛門直腸角をつくる。禁制の維持に重要。

排便に関わる神経

・骨盤神経(副交感神経、S2〜S4):直腸の伸展を伝える求心路と、直腸の収縮・内肛門括約筋の弛緩を起こす遠心路を含む。 ・下腹神経(交感神経、腰髄由来):直腸の運動を抑え、内肛門括約筋を収縮させて便を保つ方向に働く。 ・陰部神経(体性神経):外肛門括約筋と骨盤底筋を支配する。 ・排便中枢は仙髄にあり、大脳からの抑制・促進を受ける。脊髄損傷などでこの経路が障害されると、便失禁や排便困難が生じる。

関連する臨床事項

・ヒルシュスプルング病:直腸肛門抑制反射がみられないことが診断の手がかりになる。 ・骨盤底筋協調障害(奇異性恥骨直腸筋収縮):いきむと恥骨直腸筋が収縮してしまい、便を出せない。排便造影で肛門直腸角が開かないことを確認できる。バイオフィードバック療法が行われる。

POINT

・排便時は「押し出す力」(大腸蠕動・直腸内圧上昇・腹圧)が強まり、「閉じる力」(内・外肛門括約筋、恥骨直腸筋)が弛む ・内肛門括約筋は不随意筋で、直腸の伸展により反射的に弛緩する(直腸肛門抑制反射) ・外肛門括約筋と恥骨直腸筋は随意筋(陰部神経支配) ・恥骨直腸筋が弛緩すると肛門直腸角(安静時およそ90°)が開き、直腸と肛門管が直線化する ・直腸肛門抑制反射が起こらない → ヒルシュスプルング病を疑う

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。