解剖の位置関係5連発―「前後・内外・上下」を立体で押さえる
第106回医師国家試験 E問題 第16問
国試問題にチャレンジ
成人の解剖で正しいのはどれか。
- a.胸部食道は気管の腹側を走行する。
- b.大腿静脈は大腿動脈の内側に位置する。
- c.内鼠径輪は下腹壁動脈の内側に位置する。
- d.十二指腸球部は後腹膜に固定されている。
- e.第2仙椎下縁の高さから腹膜翻転部までを直腸S状部と呼ぶ。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
胸部では前から気管、食道、脊柱の順に並び、食道は気管の背側を走行します。大腿三角では内側から大腿静脈、大腿動脈、大腿神経(VAN)が並び、大腿静脈は動脈の内側にあるため、動脈拍動の内側を穿刺すれば静脈に到達できます。内鼠径輪は下腹壁動脈の外側にあって外鼠径ヘルニアの門となり、内鼠径ヘルニアは内側のHesselbach三角から脱出します。十二指腸球部は可動性のある腹膜内臓器で、後腹膜に固定されるのは下行部以降です。直腸は岬角〜第2仙椎下縁がRs、第2仙椎下縁〜腹膜反転部がRaであり、こうした位置関係の理解は穿刺手技やヘルニア・直腸癌手術を安全に行うための土台になります。
解答・解説
正解はbです
縦隔、鼠径部、上腹部、骨盤内という複数の領域について、臓器・血管の位置関係を立体的に理解しているかを問う一般問題である。いずれも手術や手技(中心静脈カテーテル挿入、ヘルニア手術、内視鏡、直腸癌手術など)に直結する知識である。 考え方のポイントは次のとおり。 ・縦隔: 前から順に、気管 → 食道 → 脊柱と並ぶ。 ・大腿三角(Scarpa三角): 内側から静脈(V)→ 動脈(A)→ 神経(N)の順に並ぶ(「VAN」と覚える)。 ・鼠径部: 下腹壁動静脈を境に、外側が内鼠径輪(深鼠径輪)、内側が鼠径三角(Hesselbach三角)である。 ・十二指腸: 球部は腹膜に包まれて可動性があり、後腹膜に固定されるのは下行部以降である。 ・直腸の臨床的区分: 岬角〜第2仙椎下縁が直腸S状部(Rs)、第2仙椎下縁〜腹膜反転部が上部直腸(Ra)、腹膜反転部〜恥骨直腸筋付着部上縁が下部直腸(Rb)である。 これらを確認すると、正しい記述は大腿静脈と大腿動脈の位置関係のみである。
選択肢考察
- ×a. 胸部食道は気管の腹側を走行する。
誤り。胸部食道は気管の背側(後方)、脊柱の前方を下行する。発生学的にも、前腸の腹側から呼吸器の原基(肺芽)が分かれて気管となるため、気管が前、食道が後ろに位置する。気管分岐部より下方では、食道は左心房の背側に接するため、左心房の拡大(僧帽弁狭窄症など)で食道が圧排されることがある。「気管(機関車)は食道(食堂車)より前」という覚え方がある。
- ○b. 大腿静脈は大腿動脈の内側に位置する。
正しい。鼠径靱帯・縫工筋・長内転筋で囲まれる大腿三角(Scarpa三角)では、内側から大腿静脈、大腿動脈、大腿神経の順に並ぶ。臨床では、鼠径靱帯のすぐ下で大腿動脈の拍動を触れ、その内側を穿刺すると大腿静脈に到達する。この関係は中心静脈カテーテル挿入や採血、カテーテル検査の穿刺部位を決める際の基本となる。さらに大腿静脈の内側には大腿輪があり、大腿ヘルニアの脱出路となる。
- ×c. 内鼠径輪は下腹壁動脈の内側に位置する。
誤り。内鼠径輪(深鼠径輪)は下腹壁動脈の外側に位置する。内鼠径輪は腹横筋膜にあいた鼠径管の腹腔側入口であり、ここから精索(女性では子宮円索)が鼠径管へ入る。内鼠径輪から鼠径管を通って脱出するのが外鼠径ヘルニア(間接鼠径ヘルニア)で、下腹壁動脈の外側から出る。一方、下腹壁動脈の内側にある鼠径三角(Hesselbach三角)の薄い腹壁を直接押し出すのが内鼠径ヘルニア(直接鼠径ヘルニア)である。「内鼠径輪」は外鼠径ヘルニアの門であり、名称の内・外が逆になる点で混乱しやすい。
- ×d. 十二指腸球部は後腹膜に固定されている。
誤り。十二指腸球部(上部、第1部の最初の数cm)は前後両面が腹膜に覆われた腹膜内臓器であり、胃と同様にある程度の可動性をもつ。上縁には肝十二指腸間膜が付着する。球部を過ぎると十二指腸は後腹膜に固定され、下行部(第2部)、水平部(第3部)、上行部(第4部)は後腹膜臓器となる。上行部の終わりはTreitz靱帯(十二指腸提筋)で吊られ、空腸へ移行する。
- ×e. 第2仙椎下縁の高さから腹膜翻転部までを直腸S状部と呼ぶ。
誤り。第2仙椎下縁から腹膜反転部までは上部直腸(Ra)である。直腸S状部(Rs)は岬角(仙骨上縁)の高さから第2仙椎下縁までの範囲を指す。解剖学ではS状結腸と直腸の境を第2仙椎下縁の高さとするが、臨床(大腸癌の取扱い)では岬角の高さを境とし、その直下の移行部をRsとして直腸に含めて扱う。
縦隔の位置関係
胸部で前から順に、胸骨 → 心臓・大血管 → 気管 → 食道 → 胸部大動脈(下行大動脈、食道の左後方)→ 脊柱と並ぶ。食道には3か所の生理的狭窄部(食道入口部、気管分岐部で大動脈弓・左主気管支と交差する部位、横隔膜の食道裂孔部)がある。
大腿三角と大腿ヘルニア
大腿三角の構造は外側から大腿神経、大腿動脈、大腿静脈、そして大腿管(内部に大腿輪)の順に並ぶ。大腿管を通って脱出する大腿ヘルニアは中高年の女性に多く、嵌頓しやすい。
鼠径管と鼠径ヘルニア
鼠径管は鼠径靱帯のすぐ上方を斜めに走る長さ約4cmの管で、腹腔側の入口が内鼠径輪(深鼠径輪)、皮下側の出口が外鼠径輪(浅鼠径輪)である。 ・外鼠径ヘルニア(間接型): 下腹壁動脈の外側、内鼠径輪から鼠径管を通る。小児や若年男性に多い。小児例は腹膜鞘状突起の開存が原因。 ・内鼠径ヘルニア(直接型): 下腹壁動脈の内側、鼠径三角(Hesselbach三角: 下腹壁動脈、腹直筋外側縁、鼠径靱帯で囲まれる)の腹壁脆弱部から脱出する。中高年男性に多い。
十二指腸の区分
上部(第1部、起始部が球部)、下行部(第2部、Vater乳頭がある)、水平部(第3部、上腸間膜動静脈の背側を横切る)、上行部(第4部)の4部に分けられる。球部は消化性潰瘍の好発部位である。
直腸の区分(臨床的区分)
・直腸S状部(Rs): 岬角の高さ〜第2仙椎下縁 ・上部直腸(Ra): 第2仙椎下縁〜腹膜反転部 ・下部直腸(Rb): 腹膜反転部〜恥骨直腸筋付着部上縁 ・肛門管(P): 恥骨直腸筋付着部上縁〜肛門縁 腹膜反転部はおおむね中Houston弁(Kohlrauschひだ)の高さに相当する。腹膜反転部より下の直腸は腹膜に覆われないため、下部直腸癌では側方リンパ節への転移や周囲臓器への浸潤が問題となる。
POINT
・胸部食道は気管の背側を走行する。 ・大腿三角では内側から静脈・動脈・神経(VAN)の順に並ぶ。大腿静脈は大腿動脈の内側。 ・内鼠径輪は下腹壁動脈の外側にあり、外鼠径ヘルニアの門となる。内鼠径ヘルニアは下腹壁動脈の内側(Hesselbach三角)から出る。 ・十二指腸球部は腹膜内臓器で可動性があり、下行部以降が後腹膜に固定される。 ・直腸S状部(Rs)は岬角〜第2仙椎下縁、上部直腸(Ra)は第2仙椎下縁〜腹膜反転部。
