痛いリンパ節はむしろ安心?―触診で見分ける「炎症」と「癌の転移」
第116回医師国家試験 E問題 第3問
国試問題にチャレンジ
径2cmのリンパ節で癌の転移よりも炎症性の腫大を疑うのはどれか。
- a.硬い。
- b.圧痛を伴う。
- c.可動性が乏しい。
- d.鎖骨上窩にある。
- e.辺縁が不整である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
リンパ節腫脹の鑑別では、大きさに加えて硬さ、圧痛、可動性、辺縁の性状を触診で評価することが基本です。炎症性の腫大は急速な腫大による被膜の伸展で圧痛を伴い、軟らかく可動性良好で辺縁平滑であるのに対し、癌の転移は無痛性で石様硬、周囲への浸潤による可動性不良や辺縁不整、癒合傾向を示します。悪性リンパ腫は弾性硬で無痛性、鎖骨上窩の腫脹は悪性の頻度が高く、左鎖骨上窩への腹部癌の転移はVirchow転移と呼ばれます。径2cm以上、40歳以上、数週間以上の持続・増大は悪性を念頭に置き、画像評価や生検へ進む判断が求められます。触診所見の意味を病態から理解しておくことは、外来でのリンパ節診察を的確に行う土台になります。
解答・解説
正解はbです
リンパ節腫脹(腫大)の原因は、大きく反応性・炎症性(感染症や自己免疫疾患など)と腫瘍性(癌のリンパ節転移、悪性リンパ腫、白血病など)に分けられる。両者の鑑別では、触診で得られる所見(大きさ、硬さ、圧痛の有無、可動性、表面・辺縁の性状)と、腫大の部位、患者の年齢、経過が手がかりとなる。 一般に径1cmを超えるリンパ節は病的腫大を考え、径2cm以上では腫瘍性病変の可能性が高まるとされる。本問は径2cmと、悪性も十分に考えるべき大きさのリンパ節であり、そのなかで炎症性を示唆する所見を選ぶ。 考え方の基本は次のとおりである。炎症性腫大では、リンパ節内で急速に免疫反応が起こり、被膜が急に引き伸ばされるため痛み(自発痛・圧痛)を伴いやすい。硬さは軟〜弾性軟で、周囲組織と癒着しないため可動性は良好である。これに対し癌の転移では、腫瘍細胞の増殖と間質の線維化により石のように硬く(石様硬)、被膜を越えて周囲組織に浸潤・癒着するため可動性が乏しくなり、複数のリンパ節が癒合して辺縁が不整になる。また、腫瘍の増大は緩徐なため通常は痛みを伴わない。したがって、選択肢のうち炎症性を示唆するのは圧痛である。
選択肢考察
- ×a. 硬い。
癌のリンパ節転移では、腫瘍細胞の増殖とそれに伴う線維化(間質反応)のために、石のように硬いリンパ節として触れることが多い。悪性リンパ腫では弾性硬(ゴムのような硬さ)を示すことが多い。一方、炎症性腫大のリンパ節は軟らかい〜弾性軟であることが多い。硬いリンパ節は腫瘍性を疑う所見である。
- ○b. 圧痛を伴う。
炎症性腫大では、感染などに対する免疫反応によってリンパ節が短期間に腫大し、被膜が急激に伸展されるため、自発痛や圧痛を伴うことが多い。周囲の皮膚に発赤や熱感を伴うこともある。これに対し、癌の転移ではリンパ節がゆっくりと大きくなるため、通常は痛みを伴わない(無痛性)。圧痛は炎症性の腫大を疑う所見である。ただし、癌の転移でも急速増大や内部壊死によって痛みを生じることがあるため、他の所見と合わせて総合的に判断する。
- ×c. 可動性が乏しい。
癌が転移したリンパ節では、腫瘍がリンパ節の被膜を越えて周囲組織へ浸潤し、皮膚や深部の組織と癒着するため可動性が乏しくなる(固定される)。炎症性腫大のリンパ節は周囲との癒着がなく、可動性が良好であることが多い。可動性が乏しいことは癌の転移を疑う所見である。
- ×d. 鎖骨上窩にある。
鎖骨上窩のリンパ節腫脹は、悪性疾患の頻度が高い部位として知られる。右鎖骨上窩には縦隔・肺・食道からのリンパ流が、左鎖骨上窩には胸管を介して腹部・骨盤内からのリンパ流が集まる。そのため、肺癌、食道癌、乳癌、胃癌などの転移や悪性リンパ腫の可能性を考える必要がある。特に胃癌などの腹部の癌が左鎖骨上窩リンパ節に転移したものはVirchow転移と呼ばれる。一方、頸部の顎下リンパ節や鼠径リンパ節の腫脹は良性(反応性)であることが多い。部位だけで確定はできないが、鎖骨上窩の腫脹はむしろ悪性を疑う方向の所見である。
- ×e. 辺縁が不整である。
癌の転移では、腫瘍が被膜外へ浸潤したり、隣接する複数のリンパ節が癒合(一塊となる)したりするため、辺縁が不整・凹凸になりやすい。画像検査でも、転移リンパ節は辺縁不整で内部が不均一となり、壊死や石灰化を伴うことがある。炎症性の腫大では、リンパ節は楕円形で辺縁が平滑であることが多い。辺縁不整は癌の転移を疑う所見である。
リンパ節腫脹の性状による鑑別の目安
・炎症性(反応性):軟〜弾性軟、圧痛・自発痛あり、可動性良好、辺縁平滑、急性の経過 ・癌の転移:石様硬、圧痛なし、可動性不良(周囲と癒着)、辺縁不整、複数が癒合して一塊になることがある ・悪性リンパ腫:弾性硬(ゴム様)、圧痛なし、可動性は保たれることが多い、複数のリンパ節が腫大することが多い
悪性を疑う要素
・大きさ:径1cmを超えれば病的と考え、径2cm以上では腫瘍性の可能性が高くなる。 ・年齢:小児や若年者のリンパ節腫脹は反応性であることが多いが、40歳以上では悪性疾患の割合が高くなる。高齢者では悪性疾患を念頭に置いて評価する。 ・経過:数週間以上にわたって持続・増大する場合は悪性を疑う。 ・部位:鎖骨上窩リンパ節腫脹は悪性の頻度が高い。 ・全身症状:発熱、体重減少、盗汗(寝汗)などのB症状は悪性リンパ腫を疑う手がかりとなる。
Virchow転移
胃癌などの腹部臓器の癌が、胸管を経て左鎖骨上窩リンパ節に転移したものをいう。胸管は左静脈角(左内頸静脈と左鎖骨下静脈の合流部)に注ぐため、腹部からのリンパ流は左側に集まる。
精査
悪性が疑われる場合は、超音波検査やCTで性状・分布を評価し、診断確定にはリンパ節生検(穿刺吸引細胞診や摘出生検)を行う。悪性リンパ腫が疑われる場合は、病理組織型の診断のため摘出生検が推奨される。
POINT
・炎症性腫大:圧痛・自発痛あり、軟らかい、可動性良好、辺縁平滑。 ・癌の転移:無痛性、石様硬、可動性不良、辺縁不整、癒合傾向。 ・悪性リンパ腫は弾性硬で無痛性。 ・鎖骨上窩のリンパ節腫脹は悪性を疑う(左鎖骨上窩ではVirchow転移)。 ・径2cm以上、40歳以上、持続・増大する腫脹では悪性を念頭に置く。
