StudyMed医師国家試験

甘草が招く「にせもの」のアルドステロン過剰―高血圧と低カリウム血症のからくり

第106回医師国家試験 D問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第106回 D問題 第9問

甘草を含む漢方薬服用中に高血圧症をきたした患者で,低下していると考えられる血清電解質はどれか。

  1. a.Na
  2. b.K
  3. c.Ca
  4. d.P
  5. e.Mg

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は漢方薬の副作用から電解質異常を推論する問題だ。キーワードは「甘草」と「高血圧」。この2つの組み合わせから思い浮かぶ病態はあるかな。
医学生医学生
薬理学の講義で、甘草は偽性アルドステロン症を起こすと習いました。
ドクタードクター
その通り。では、なぜ甘草でアルドステロン過剰のような状態になるのか、仕組みから見ていこう。実は鉱質コルチコイド受容体は、アルドステロンだけでなくコルチゾールにもよく結合する。しかもコルチゾールの血中濃度はアルドステロンよりはるかに高いんだ。
医学生医学生
それだと、普段からコルチゾールが受容体を刺激しっぱなしになってしまいませんか。
ドクタードクター
いい疑問だね。それを防いでいるのが、腎の集合管などにある11β-水酸化ステロイド脱水素酵素2型(11β-HSD2)だ。コルチゾールを受容体に結合しにくいコルチゾンに変えて、受容体を守っている。甘草の主成分グリチルリチンは体内でグリチルレチン酸となり、この酵素を阻害する。
医学生医学生
門番がいなくなって、コルチゾールが受容体を刺激し続けてしまうわけですね。
ドクタードクター
まさにそう。すると集合管で上皮型Naチャネル(ENaC)を介したNa再吸収が増え、体液量が増えて高血圧になる。同時に、Naが再吸収されると管腔側の電位が負に傾くので、K+とH+が尿中へ排泄されやすくなる。
医学生医学生
だから低カリウム血症と代謝性アルカローシスになるんですね。答えはKだと思います。ただ、Naをたくさん再吸収するなら高Na血症になりそうなのに、あまり聞かないのが不思議です。
ドクタードクター
Naと一緒に水も再吸収されるから、血清Naは正常上限から軽度高値程度にとどまることが多いんだ。体液量が増えると圧利尿などでNa貯留に歯止めがかかる、いわゆるエスケープ現象もある。少なくとも低Na血症にはならない。低Na血症は、利尿薬や副腎不全などによるNa喪失や、SIADHのような水の過剰で考える病態だね。
医学生医学生
Ca、P、Mgはどうでしょう。アルカローシスでテタニーが起こると聞いたので、Caが少し気になりました。
ドクタードクター
鋭いね。アルカローシスではイオン化Caが低下してテタニー様症状が出ることはある。でも血清総Caが下がるわけではないし、偽性アルドステロン症はPTHやビタミンDの系に直接は影響しないので、低Ca血症は典型所見ではない。リンも同様で、低P血症はFanconi症候群やrefeeding症候群などで考える。Mgも中心的な所見ではないけれど、低Mg血症があると腎からのK喪失が増えて低K血症が治りにくくなるから、補正がうまくいかないときは測っておきたい。
医学生医学生
原発性アルドステロン症とはどう見分けるんですか。症状だけだとそっくりに思えます。
ドクタードクター
そこが一番のポイントだ。偽性アルドステロン症では、体液量増加のフィードバックでレニンもアルドステロンもともに低値になる。原発性アルドステロン症はレニン低値でアルドステロン高値。「アルドステロンは高くないのに、アルドステロン過剰と同じことが起きている」から「偽性」と呼ぶんだ。
医学生医学生
レニンもアルドステロンも低い高血圧というと、Liddle症候群も同じグループでしたっけ。
ドクタードクター
そう。ENaCの機能獲得型変異によるLiddle症候群、Cushing症候群、11β-水酸化酵素欠損症などの先天性副腎過形成の一部、そして11β-HSD2の先天的欠損による見かけの鉱質コルチコイド過剰症候群も同じグループに入る。甘草による偽性アルドステロン症は、この最後の病態の薬剤性版と考えると整理しやすいよ。
医学生医学生
総合診療科の実習で、こむら返りに芍薬甘草湯を飲んでいる高齢の患者さんがいました。
ドクタードクター
まさに注意したいケースだ。芍薬甘草湯は1日量あたりの甘草含有量が多いうえ、甘草は小柴胡湯や抑肝散など多くの漢方薬に含まれるので、併用で知らないうちに量が増えることがある。高齢者や利尿薬の併用でもリスクが上がる。低K血症が進めば脱力や四肢麻痺、CK上昇を伴う横紋筋融解症、心電図のT波平低化やU波、不整脈も起こりうる。
医学生医学生
治療はまず甘草を含む薬をやめることでしょうか。
ドクタードクター
基本は原因薬の中止とKの補充で、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬のスピロノラクトンも有効だ。漢方薬は「自然由来だから安全」と思われがちだから、服薬歴を聞くときは漢方薬やサプリメント、甘草を含む食品まで確認する習慣をつけておこう。

まとめ

甘草の主成分グリチルリチンは11β-HSD2を阻害し、本来不活化されるはずのコルチゾールが鉱質コルチコイド受容体を刺激することで偽性アルドステロン症を引き起こします。集合管でNa再吸収が亢進して高血圧となり、引き換えにK+とH+の排泄が増えるため、低カリウム血症と代謝性アルカローシスを来します。レニンとアルドステロンがともに低値である点が原発性アルドステロン症との鑑別点で、Liddle症候群やCushing症候群、見かけの鉱質コルチコイド過剰症候群などと同じグループに整理できます。治療は原因薬の中止とK補充、スピロノラクトンで、芍薬甘草湯など甘草含有量の多い処方や複数漢方の併用、高齢者では特に注意が必要です。仕組みから理解しておくことで、高血圧と低K血症をみたときに服薬歴まで確認する臨床的な姿勢につながります。

解答・解説

正解はbです

甘草(カンゾウ)を含む漢方薬の服用中に高血圧が出現したという設定から、偽性アルドステロン症を想起することが本問の出発点である。 甘草の主成分であるグリチルリチン(体内で代謝されグリチルレチン酸となる)は、腎の集合管などに存在する 11β-水酸化ステロイド脱水素酵素 2 型(11β-HSD2)を阻害する。この酵素は本来、コルチゾールを鉱質コルチコイド受容体に結合しにくいコルチゾンへ変換し、アルドステロンよりはるかに血中濃度の高いコルチゾールが鉱質コルチコイド受容体を刺激しないように守っている。酵素が阻害されると、コルチゾールが鉱質コルチコイド受容体を持続的に刺激し、アルドステロンが過剰であるのと同じ状態になる。 その結果、集合管では上皮型 Na チャネル(ENaC)を介した Na 再吸収が増え、体液量が増加して高血圧となる。同時に、Na の再吸収に伴って管腔側の電位が負に傾き、K+ と H+ の尿中排泄が促進されるため、低カリウム血症と代謝性アルカローシスを来す。一方、体液量増加によるフィードバックで血漿レニン活性と血中アルドステロン濃度はいずれも低下する。これが原発性アルドステロン症(アルドステロン高値・レニン低値)との鑑別点であり、「アルドステロンは高くないのにアルドステロン過剰と同じ症状を呈する」ことから偽性アルドステロン症と呼ばれる。 したがって、本問で低下していると考えられる血清電解質は K である。

選択肢考察

  1. ×a.  Na

    偽性アルドステロン症では集合管での Na 再吸収が亢進するため、血清 Na が低下することはない。Na 再吸収に伴って水も再吸収されるので、血清 Na は正常上限~軽度高値にとどまることが多い(アルドステロン様作用が持続しても、体液量増加による圧利尿などで Na 貯留に歯止めがかかる、いわゆるエスケープ現象のため著しい高 Na 血症にはなりにくい)。低 Na 血症は、尿細管での Na 再吸収障害(利尿薬、塩類喪失性腎症、副腎不全など)や、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)などの水の過剰で生じる。

  2. ○b.  K

    グリチルリチンによる 11β-HSD2 阻害でコルチゾールが鉱質コルチコイド受容体を刺激し続けると、集合管での Na 再吸収の亢進と引き換えに K の尿中排泄が増加し、低カリウム血症となる。低カリウム血症により、脱力感・四肢のしびれ、ひどい場合は四肢麻痺や横紋筋融解症(CK 上昇、ミオグロビン尿)を来しうる。さらに不整脈や心電図異常(T 波平低化、U 波出現)にも注意が必要である。尿中 K 排泄は低 K 血症にもかかわらず保たれる(腎性喪失)点も特徴である。

  3. ×c.  Ca

    偽性アルドステロン症は鉱質コルチコイド作用の過剰による病態であり、Ca 代謝を主に調節する副甲状腺ホルモン(PTH)やビタミン D の系には直接影響しないため、低カルシウム血症は典型的な所見ではない。低カルシウム血症の原因としては、慢性腎臓病、副甲状腺機能低下症(腎機能が保たれているのに低 Ca のときに考える)、ビタミン D 欠乏、急性膵炎などが挙げられる。なお、代謝性アルカローシスでは血清総 Ca が変わらなくてもイオン化 Ca が低下し、テタニー様症状を起こすことがある点は知っておくとよい。

  4. ×d.  P

    偽性アルドステロン症では、リン代謝に関わる PTH・ビタミン D・近位尿細管のリン再吸収に直接の影響はなく、低リン血症は典型的所見ではない。低リン血症は、近位尿細管の再吸収障害である Fanconi 症候群、ビタミン D 欠乏症(くる病・骨軟化症)、原発性副甲状腺機能亢進症、低栄養患者への急な栄養投与による refeeding 症候群、アルコール依存症などで生じる。

  5. ×e.  Mg

    低マグネシウム血症は偽性アルドステロン症の中心的な所見ではない。主な原因は、摂取不足(飢餓・低栄養)、吸収不良や慢性下痢、大量飲酒、利尿薬、そしてアムホテリシン B やシスプラチンなど腎での Mg 喪失を来す薬剤である。プロトンポンプ阻害薬の長期使用も原因となる。なお、低マグネシウム血症は腎からの K 喪失を助長して低カリウム血症を難治化させるため、低 K 血症の補正がうまくいかないときには Mg も確認する。

偽性アルドステロン症の特徴

・原因: 甘草(グリチルリチン)を含む漢方薬(芍薬甘草湯、小柴胡湯、抑肝散など多数)、グリチルリチン製剤、甘草を含む食品など。高齢者や複数の甘草含有製剤の併用、利尿薬併用でリスクが高まる。芍薬甘草湯は1日量あたりの甘草含有量が多く、特に注意が必要である ・機序: 11β-HSD2 の阻害 → コルチゾールが鉱質コルチコイド受容体を刺激 ・所見: 高血圧、浮腫、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、低カリウム性ミオパチー(脱力、CK 上昇) ・内分泌検査: 血漿レニン活性 低値、血中アルドステロン 低値 ・治療: 原因薬の中止、K の補充。鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトンなど)が有効

高血圧+低カリウム血症を呈する病態の鑑別(レニン・アルドステロンによる整理)

・レニン高値・アルドステロン高値: 腎血管性高血圧、レニン産生腫瘍、悪性高血圧 ・レニン低値・アルドステロン高値: 原発性アルドステロン症 ・レニン低値・アルドステロン低値: 偽性アルドステロン症(甘草)、Cushing 症候群、Liddle 症候群(ENaC の機能獲得型変異)、先天性副腎過形成の一部(11β-水酸化酵素欠損症、17α-水酸化酵素欠損症)、見かけの鉱質コルチコイド過剰症候群(11β-HSD2 の先天的欠損) ※高血圧を伴わない低カリウム血症・代謝性アルカローシスでは Bartter 症候群、Gitelman 症候群、利尿薬使用などを考える。

POINT

・甘草(グリチルリチン)→ 11β-HSD2 阻害 → コルチゾールが鉱質コルチコイド受容体を刺激 → 偽性アルドステロン症 ・高血圧、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、低カリウム性ミオパチー(CK 上昇) ・レニン・アルドステロンはともに低値(原発性アルドステロン症との鑑別点) ・治療は原因薬の中止、K 補充、スピロノラクトン

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。