浣腸で出ても続かない便―新生児のHirschsprung病を「形」と「反射」で捉える
第106回医師国家試験 D問題 第55問
国試問題にチャレンジ
生後4日の新生児。在胎40週,2,960 gで出生した。生後24時間は胎便排泄がなかったため,グリセリン浣腸を行ったところ,暗緑色の胎便が排出された。その後,移行便の排泄がなく,次第に腹部が膨隆してきた。昨日から胆汁性の嘔吐を認めるようになった。腹部エックス線写真を別に示す。 診断に有用なのはどれか。2つ選べ。

- a.注腸造影
- b.直腸鏡検査
- c.腹部超音波検査
- d.上部消化管造影
- e.直腸肛門内圧検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
生後24時間以内に胎便が出ず、浣腸には反応するものの自然排便が続かず、腹部膨満や胆汁性嘔吐が進み、腹部エックス線で直腸ガスを欠く新生児では、Hirschsprung病を第一に考えます。本症は腸管壁内神経叢の神経節細胞が肛門側から連続的に欠如する疾患で、無神経節腸管が蠕動・弛緩できず機能的閉塞を起こします。診断には、caliber changeを示す注腸造影、直腸肛門反射の欠如を示す直腸肛門内圧検査が有用で、確定診断はAChE陽性神経線維の増生や神経節細胞の欠如を示す直腸粘膜生検で行います。直腸鏡、腹部超音波、上部消化管造影は本症の診断には役立ちません。病態を「形・機能・組織」に分けて検査を選ぶ考え方は、関連腸炎という重篤な合併症を防ぐための早期診断にも直結します。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
・在胎40週、出生体重2,960 gの正期産児で、出生時の体格に問題はない。 ・生後24時間を過ぎても胎便が自然に出ていない(胎便排泄遅延)。健常な正期産児の大部分は生後24時間以内に初回の胎便を出すため、これは明らかな異常である。 ・グリセリン浣腸で暗緑色の胎便が出た。暗緑色は正常な胎便の色であり、胎便そのものの性状に異常はない。また、浣腸で胎便が出るということは、肛門から口側へ腸管の内腔がつながっていることを示し、腸閉鎖のような完全な機械的閉塞は考えにくい。 ・その後は移行便(胎便から普通便に移る途中の便)が自然に出ず、腹部が徐々に膨らみ、昨日からは胆汁性嘔吐が出てきた。胆汁性嘔吐は十二指腸乳頭(Vater乳頭)より肛門側での通過障害を示し、腸閉塞が進行していることを意味する。 ・腹部エックス線写真では、小腸から大腸まで拡張した腸管ガスが腹部に広がる一方で、骨盤内(仙骨の前の直腸にあたる部分)にはガスが見られない。これは下部の直腸付近に機能的な通過障害があることを示唆する。
診断へのプロセス
新生児期に「胎便排泄遅延+浣腸には反応するが自然排便が続かない+進行する腹部膨満・胆汁性嘔吐+直腸内ガス欠如」がそろえば、まずHirschsprung病(ヒルシュスプルング病)を考える。 鑑別としては次のものがある。 ・消化管閉鎖(小腸閉鎖・結腸閉鎖): 閉塞が完全なので、浣腸をしても正常な胎便はほとんど出てこない。本例では暗緑色の胎便が出ており、合わない。 ・胎便栓症候群: 粘稠な胎便の塊が結腸をふさぐ病態で、浣腸で胎便栓が出れば、その後は自然排便が続くのが普通である。本例は排出後も症状が進んでおり、合わない。 ・胎便性イレウス: 嚢胞性線維症に伴うことが多く、日本ではまれである。浣腸で正常な胎便がすんなり出る経過には合わない。 以上から、Hirschsprung病が最も疑わしい。
設問の考え方
Hirschsprung病は、腸管壁内の神経節細胞(Auerbach神経叢・Meissner神経叢の神経細胞)が肛門側から一続きに欠けている病気である。神経節細胞がない部分(無神経節腸管)は蠕動が起こらず、弛緩もできないため、細いまま機能的な閉塞を起こす。したがって診断に役立つのは、(1) 細い無神経節腸管と口側の拡張腸管との境界を形で示す検査(注腸造影)、(2) 神経の反射が欠けていることを機能面で示す検査(直腸肛門内圧検査)、(3) 神経節細胞の欠如を組織で証明する検査(直腸粘膜生検)である。選択肢の中では注腸造影と直腸肛門内圧検査がこれにあたる。
選択肢考察
- ○a. 注腸造影
肛門から造影剤を注入して大腸を描き出す検査である。Hirschsprung病では、無神経節の直腸〜S状結腸が細く写り(狭小部)、その口側の正常な腸管が拡張しているため、両者の境目で腸管の太さが急に変わる像(caliber change)が見られる。この移行帯の位置から無神経節腸管の範囲もおおよそ推定でき、手術の計画にも役立つ。さらに、造影後24時間たっても造影剤が腸管内に残ること(排泄遅延)も参考所見となる。本症を疑ったときにまず行う画像検査であり、診断に有用である。なお新生児期は口側の拡張がまだ目立たず、caliber changeがはっきりしない場合もあるため、他の検査と組み合わせて判断する。
- ×b. 直腸鏡検査
直腸鏡は直腸の粘膜面を目で観察する検査である。Hirschsprung病の本態は腸管壁の内部にある神経叢の神経節細胞が欠けていることであり、粘膜の表面には特徴的な変化が現れない。そのため、直腸鏡で見ても診断の決め手は得られない。確定診断に必要なのは、観察ではなく、直腸粘膜を採取して組織を調べる生検である。
- ×c. 腹部超音波検査
腹部超音波検査は、肥厚性幽門狭窄症(幽門筋の厚さの測定)や腸重積症(target sign)、腸回転異常症(上腸間膜動静脈の位置関係の異常やwhirlpool sign)などの診断では非常に有用である。しかし本例のように腸管ガスが著しく多い状態では、ガスが超音波をはね返して奥が見えにくい。また、神経節細胞の有無や腸管の太さが変わる部位を評価することはできず、Hirschsprung病の診断に役立つ情報は得られない。
- ×d. 上部消化管造影
口から造影剤を飲ませて食道・胃・十二指腸を調べる検査で、腸回転異常症や十二指腸の閉鎖・狭窄などの診断に使われる。Hirschsprung病の病変は肛門から口側へ連続して広がり、多くは直腸からS状結腸までにとどまるため、上部消化管を調べても診断には結びつかない。さらに、下部で閉塞している患児に造影剤を飲ませると、造影剤が腸管内にたまって状態を悪化させるおそれもある。
- ○e. 直腸肛門内圧検査
直腸内でバルーンをふくらませて直腸壁を伸展させ、そのときの肛門管内の圧の変化を測定する検査である。健常児では、直腸が伸びると壁内神経を介して内肛門括約筋がゆるみ、肛門管の圧が一時的に下がる(直腸肛門反射)。Hirschsprung病では壁内の神経節細胞が欠けているため、この反射が起こらない(直腸肛門反射の欠如)。体への負担が小さく、機能面から本症を示せるため、診断に有用である。なお、生まれて間もない新生児や早産児では反射が十分に成熟しておらず判定が難しいことがあるため、結果は他の検査と合わせて解釈する。
Hirschsprung病の概要
・腸管壁内神経叢の神経節細胞が、肛門側から口側へ連続的に欠如する先天性疾患である。胎生期に神経堤細胞が消化管を口側から肛門側へ移動していく過程が途中で止まることが原因と考えられている。関連遺伝子としてRET遺伝子などが知られる。 ・出生約5,000人に1人の頻度で、男児に多い(無神経節腸管が短い型では男女比がおよそ3〜4:1)。Down症候群に合併しやすい。 ・無神経節の範囲がS状結腸までにとどまる短域型(通常型)が約8割を占め、それより長いもの、全結腸型、小腸にまで及ぶものもある。範囲が長いほど重症である。
症状
・新生児期: 胎便排泄遅延、腹部膨満、胆汁性嘔吐。浣腸や肛門からの刺激で一時的に大量のガス・便が勢いよく出ることがある。 ・乳児期以降: 頑固な便秘、腹部膨満、成長障害。 ・重要な合併症として腸炎(Hirschsprung病関連腸炎)がある。発熱、腹部膨満、悪臭のある下痢で発症し、敗血症に進むと命にかかわるため、早い診断が大切である。
検査のまとめ
・腹部単純エックス線写真: 拡張した腸管ガス像が多数見られ、骨盤内の直腸ガスが欠如する。 ・注腸造影: 狭小部とその口側の拡張部の間でcaliber changeが見られる。造影剤の排泄遅延も参考になる。 ・直腸肛門内圧検査: 直腸肛門反射(直腸の伸展に伴う内肛門括約筋の弛緩)が欠如する。 ・直腸粘膜生検(確定診断): 吸引生検で採取した組織をアセチルコリンエステラーゼ(AChE)染色すると、粘膜固有層〜粘膜筋板に太いAChE陽性の神経線維が増えているのが見える。全層生検では神経節細胞の欠如を直接確認できる。
治療
・診断がつくまでや根治手術までは、浣腸や肛門からチューブを入れてガス・便を抜き(減圧)、腸炎を防ぐ。状態によっては人工肛門を造設する。 ・根治手術として、無神経節腸管を切除し、正常な神経節細胞をもつ腸管を肛門近くまで引き下ろしてつなぐ手術(pull-through法。Soave法、Duhamel法など)を行う。最近は経肛門的な手技や腹腔鏡を併用する手術が広く行われている。
新生児の排便に関する基本
・胎便は暗緑色で粘りがあり、においのない便で、正期産児のほとんどは生後24時間以内に排泄する。 ・生後数日で胎便と乳便が混ざった移行便になり、その後は黄色の乳便になる。
POINT
・生後24時間以内に胎便が出ない新生児では、まずHirschsprung病を疑う。 ・浣腸には反応するのに自然排便が続かず、腹部膨満が進むのが特徴的な経過である。浣腸で正常な胎便が出る点は、腸閉鎖との鑑別に役立つ。 ・腹部エックス線写真では、拡張した腸管ガス像と骨盤内の直腸ガスの欠如がみられる。 ・診断に有用な検査は、注腸造影(caliber change)、直腸肛門内圧検査(直腸肛門反射の欠如)、直腸粘膜生検(AChE陽性神経線維の増加、神経節細胞の欠如)の3つで、確定診断は生検で行う。 ・直腸鏡、腹部超音波、上部消化管造影は本症の診断には役立たない。
