「急に、我慢できない」が主役―過活動膀胱を症状から定義する
第106回医師国家試験 D問題 第17問
国試問題にチャレンジ
過活動膀胱の症状はどれか。2つ選べ。
- a.頻尿
- b.血尿
- c.排尿痛
- d.尿意切迫感
- e.腹圧性尿失禁
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
過活動膀胱は、尿意切迫感を必須とし、通常は頻尿・夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うこともある症状症候群です。血尿や排尿痛は過活動膀胱の症状ではなく、尿路上皮癌、結石、尿路感染症などを示唆するため、尿検査でこれらを除外することが診断の前提となります。腹圧性尿失禁は腹圧上昇時に尿意と無関係に漏れるもので、尿意切迫感に続く切迫性尿失禁とは機序が異なります。治療は行動療法に加えて抗コリン薬やβ3作動薬が中心ですが、抗コリン薬は残尿の多い患者で尿閉を招くおそれがあり、残尿測定が欠かせません。症状の定義と尿失禁の病型を正確に区別することは、高齢化で増える排尿障害の診療の基本になります。
解答・解説
正解はa, dです
過活動膀胱(overactive bladder:OAB)の定義と症状を問う一般問題である。 過活動膀胱は、国際禁制学会(ICS)の定義に基づき「尿意切迫感を必須とし、通常は頻尿および夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うこともあれば伴わないこともある症状症候群」とされる。すなわち、特定の原因疾患名ではなく症状によって定義される症候群であり、尿路感染症や膀胱癌、結石など他の明らかな疾患を除外したうえで診断する。 尿意切迫感とは「急に起こる、抑えられないような強い尿意で、我慢することが困難なもの」を指し、通常の「そろそろトイレに行きたい」という尿意とは区別される。膀胱に十分な尿がたまる前に排尿筋が不随意に収縮しようとすること(排尿筋過活動)などが背景にあり、その結果として排尿回数が増え(頻尿・夜間頻尿)、トイレまで間に合わずに漏れる(切迫性尿失禁)ことがある。 したがって、過活動膀胱の症状として挙げられるのは尿意切迫感と頻尿であり、血尿や排尿痛のような症状は別の疾患を考える手がかりとなる。
選択肢考察
- ○a. 頻尿
過活動膀胱では膀胱が十分に充満する前に強い尿意が生じるため、1回排尿量が減り、排尿回数が増える。昼間頻尿(目安として日中8回以上)や夜間頻尿(夜間就寝中に排尿のため1回以上起きる)は過活動膀胱に通常伴う症状である。なお頻尿は前立腺肥大症、膀胱炎、多尿をきたす疾患(糖尿病、尿崩症、多飲)などでもみられるため、頻尿だけで過活動膀胱とは診断できない。
- ×b. 血尿
血尿は過活動膀胱の症状ではない。血尿、特に無症候性肉眼的血尿では膀胱癌や腎盂・尿管癌などの尿路上皮癌をまず考え、疼痛を伴えば尿路結石、膀胱刺激症状を伴えば出血性膀胱炎などを考える。膀胱癌や膀胱結石、膀胱炎は過活動膀胱と似た刺激症状(頻尿・尿意切迫感)を起こしうるため、過活動膀胱の診断に際しては尿検査で血尿や膿尿がないことを確認し、これらを除外する必要がある。
- ×c. 排尿痛
排尿痛は尿路の炎症を示唆する症状で、女性の急性膀胱炎や男性の尿道炎(淋菌・クラミジアなど)、前立腺炎で代表的にみられる。過活動膀胱は炎症性疾患ではなく、排尿痛は症状に含まれない。排尿痛や膿尿があれば、まず尿路感染症を考える。
- ○d. 尿意切迫感
尿意切迫感は過活動膀胱の定義上の必須症状であり、これがなければ過活動膀胱とは診断しない。急に起こる我慢しがたい強い尿意を指す。診断や重症度評価には過活動膀胱症状スコア(OABSS)が用いられ、尿意切迫感の項目が2点以上かつ合計3点以上で過活動膀胱と判定する。
- ×e. 腹圧性尿失禁
腹圧性尿失禁は、咳・くしゃみ・重い物を持ち上げる動作などで腹圧が上昇した際に、尿意とは無関係に尿が漏れるものである。骨盤底筋群の脆弱化や尿道括約筋の機能低下が原因で、出産経験のある中高年女性に多い。過活動膀胱に伴いうる尿失禁は、尿意切迫感に続いて起こる切迫性尿失禁であり、腹圧性尿失禁とは機序が異なる。両者が併存する場合は混合性尿失禁と呼ぶ。
過活動膀胱の分類と原因
・神経因性:脳血管障害、Parkinson病、脊髄損傷、多発性硬化症など、上位の排尿中枢による抑制の障害 ・非神経因性:前立腺肥大症などの下部尿路閉塞、加齢、骨盤底の脆弱化、原因が特定できない特発性など 日本の疫学調査では40歳以上の約12%に過活動膀胱の症状がみられ、加齢とともに増加する。
診断
問診と症状スコア(OABSS)、尿検査(血尿・膿尿の除外)、残尿測定(排出障害の有無)、排尿日誌などで評価する。残尿が多い場合は抗コリン薬で尿閉を悪化させるおそれがあるため注意する。
治療
・行動療法:生活指導(水分摂取の調整)、膀胱訓練(排尿間隔を徐々に延ばす)、骨盤底筋訓練 ・薬物療法:抗コリン薬(ムスカリン受容体拮抗薬。口渇、便秘、尿閉、認知機能への影響に注意し、閉塞隅角緑内障では禁忌)、β3アドレナリン受容体作動薬(ミラベグロン、ビベグロン) ・難治例:膀胱壁内へのボツリヌス毒素注入療法、仙骨神経刺激療法
尿失禁の病型
腹圧性(腹圧上昇時)、切迫性(尿意切迫感に続く)、混合性、溢流性(残尿過多で溢れ出る)、機能性(身体・認知機能低下によりトイレ動作ができない)
POINT
・過活動膀胱は尿意切迫感を必須とする症状症候群 ・通常は頻尿・夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁は伴う場合と伴わない場合がある ・腹圧性尿失禁は過活動膀胱の症状ではない(切迫性尿失禁と区別) ・血尿・排尿痛があれば尿路上皮癌、結石、尿路感染症などを考え除外する ・治療は行動療法、抗コリン薬、β3作動薬
