StudyMed医師国家試験

若い女性に多く、予後は最良―「砂粒」で見抜く甲状腺乳頭癌

第106回医師国家試験 D問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第106回 D問題 第16問

甲状腺乳頭癌について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.女性に多い。
  2. b.高齢者に多い。
  3. c.甲状腺濾胞癌よりも予後不良である。
  4. d.血中サイログロブリンが低値となる。
  5. e.甲状腺超音波検査で砂粒状石灰化がみられる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は甲状腺乳頭癌の基本的な特徴を問う問題だ。疫学、予後、腫瘍マーカー、画像所見と、乳頭癌の「プロフィール」を一通り押さえているかが試されている。まず、甲状腺の悪性腫瘍にはどんな種類があったか思い出してみよう。
医学生医学生
病理の講義で、乳頭癌、濾胞癌、未分化癌、髄様癌、それに悪性リンパ腫と習いました。
ドクタードクター
その通り。濾胞上皮由来が乳頭癌・濾胞癌・低分化癌・未分化癌、C細胞由来が髄様癌、リンパ球由来が悪性リンパ腫だね。このうち乳頭癌は日本では甲状腺癌の約9割を占める、圧倒的に多い組織型なんだ。では、どんな人に多いと思う?
医学生医学生
癌なので、やっぱり高齢者に多いのではないでしょうか。
ドクタードクター
そこが典型的なひっかけだね。乳頭癌は女性に多く、20〜50歳代の比較的若い世代に好発する。女性は男性の数倍とされていて、甲状腺疾患全般が女性に多いのと同じ傾向だ。小児にも発生し、放射線被曝との関連もよく知られている。
医学生医学生
では高齢者に多い甲状腺の悪性腫瘍は何でしょう。
ドクタードクター
代表は未分化癌と悪性リンパ腫だ。未分化癌は60歳以上に多く、既存の分化癌から転化することが多い。悪性リンパ腫は橋本病を背景に、中高年女性の甲状腺が急に腫れてくるのが典型だね。
医学生医学生
内分泌内科の実習で、橋本病の患者さんの甲状腺が急に大きくなったらリンパ腫を疑え、と教わりました。予後はどうですか。乳頭癌と濾胞癌はどちらも「高分化癌」で、似たようなものかと思っていました。
ドクタードクター
どちらも予後は比較的よいけれど、乳頭癌のほうがより良好で、10年生存率は9割を超える。違いを生むのは転移の仕方だ。乳頭癌は頸部リンパ節へのリンパ行性転移が主体で、手術や放射性ヨウ素治療で制御しやすい。一方、濾胞癌は血管に浸潤しやすく、肺や骨への血行性転移が多いぶん、予後はやや劣るんだ。
医学生医学生
乳頭癌はリンパ行性、濾胞癌は血行性。CBTでもセットで覚えました。サイログロブリンはどうでしょう。癌なら正常の甲状腺組織が壊れて、低くなるイメージがあります。
ドクタードクター
面白い発想だけど、逆なんだ。サイログロブリンは濾胞細胞が作る糖蛋白で、乳頭癌のような分化癌の細胞も産生能を保っている。だから血中濃度は正常から高値になり、低値になることはない。ただ、良性の甲状腺腫やBasedow病でも上がるから、術前の良悪性の鑑別にはあまり役立たないんだ。
医学生医学生
では、どういう場面で使うんですか。
ドクタードクター
甲状腺を全摘し、必要に応じて放射性ヨウ素でアブレーションした後は、本来ほとんど検出されなくなる。そこから再び上がってきたら再発や転移を疑う、つまり術後の経過観察マーカーとして価値が高いんだ。抗サイログロブリン抗体が陽性だと、測定値が見かけ上低く出ることがある点も覚えておこう。
医学生医学生
残る超音波所見ですが、砂粒状石灰化は病理で習った砂粒小体と関係ありますか。
ドクタードクター
まさにそれ。乳頭癌の組織には、同心円状の層構造をもつ微小な石灰化、psammoma bodyがみられる。これが超音波では腫瘤内部の微細な点状高エコーとして描出される。境界不整、内部低エコーと並んで、乳頭癌を強く示唆する所見だよ。だから正解は「女性に多い」と「超音波で砂粒状石灰化がみられる」の2つになる。
医学生医学生
整理すると、若年〜中年の女性に多く、リンパ行性転移が主体で予後は最良、サイログロブリンは低くならず、超音波では砂粒状石灰化、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、確定診断の穿刺吸引細胞診も押さえておこう。乳頭癌ではすりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体という核所見が特徴で、細胞診で診断しやすい。対照的に濾胞癌は細胞診では濾胞腺腫と区別できず、被膜浸潤や脈管侵襲の有無を組織で確認する必要があるんだ。
医学生医学生
髄様癌はカルシトニンとCEAが上がって、MEN2型と関係するんでしたよね。
ドクタードクター
その通り、RET遺伝子変異が背景にあることがある。治療についても触れておくと、乳頭癌は葉切除から全摘にリンパ節郭清を加える手術が基本で、術後はリスクに応じて放射性ヨウ素内用療法やTSH抑制療法を行う。そして1cm以下の低リスク微小乳頭癌では、すぐに手術せず積極的経過観察を選ぶこともある。予後がよい癌だからこそ、過剰治療を避ける視点も大切なんだ。

まとめ

甲状腺乳頭癌は日本の甲状腺癌の約9割を占める最多の組織型で、女性、特に20〜50歳代に好発し、甲状腺癌の中で最も予後が良好です。転移は頸部リンパ節へのリンパ行性が主体で、血行性転移が多い濾胞癌とは対照的です。超音波では砂粒小体を反映した微細な点状高エコー(砂粒状石灰化)、細胞診ではすりガラス状核・核溝・核内細胞質封入体が特徴です。血中サイログロブリンは低値にならず、全摘後の再発マーカーとして有用である一方、高齢者に多いのは未分化癌や悪性リンパ腫です。各組織型の疫学・転移様式・検査所見を対比して整理することが、甲状腺腫瘤の診療と試験対策の両方に役立ちます。

解答・解説

正解はa, eです

甲状腺乳頭癌の疫学・予後・検査所見を問う一般問題である。 甲状腺の悪性腫瘍は、濾胞上皮由来の乳頭癌・濾胞癌・低分化癌・未分化癌、傍濾胞細胞(C細胞)由来の髄様癌、リンパ球由来の悪性リンパ腫に大別される。このうち乳頭癌は日本では甲状腺癌の約90%を占める最多の組織型である。 乳頭癌の特徴は次のように整理できる。 ・疫学:女性に多く、20〜50歳代の比較的若い世代に好発する。 ・進展様式:リンパ行性転移(頸部リンパ節転移)が多く、血行性転移は少ない。 ・予後:甲状腺癌の中で最も良好で、10年生存率は90%を超える。 ・画像:超音波で境界不整、内部低エコー、微細な点状高エコー(砂粒状石灰化)を示す。 ・細胞診:すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体が特徴的である。 これらの知識と照らし合わせれば、各選択肢の正誤を判断できる。

選択肢考察

  1. ○a.  女性に多い。

    甲状腺疾患は全般に女性に多く、乳頭癌も同様である。女性の罹患は男性の数倍(報告によりおよそ5〜8倍)に及ぶ。したがって正しい。

  2. ×b.  高齢者に多い。

    乳頭癌の好発年齢は40〜50歳代を中心とし、20〜30歳代の若年者にも少なくない。小児にも発生し、放射線被曝との関連が知られている。高齢者に好発するのは未分化癌(60歳以上、多くは既存の分化癌から転化)や甲状腺悪性リンパ腫(慢性甲状腺炎を背景とする中高年女性)である。したがって誤りである。

  3. ×c.  甲状腺濾胞癌よりも予後不良である。

    乳頭癌と濾胞癌はいずれも高分化癌で予後は比較的良いが、乳頭癌の方がより良好である。乳頭癌の転移は主に頸部リンパ節への転移で、切除や放射性ヨウ素治療で制御しやすい。一方、濾胞癌は血管侵襲をきたしやすく、肺や骨への血行性遠隔転移が多いため、予後はやや劣る(10年生存率は乳頭癌が90%超、濾胞癌はそれよりやや低い)。したがって記述は逆であり誤りである。

  4. ×d.  血中サイログロブリンが低値となる。

    サイログロブリンは甲状腺濾胞細胞が産生する糖蛋白で、甲状腺ホルモン合成の場となる。乳頭癌を含む分化癌では腫瘍細胞もサイログロブリンを産生するため、血中濃度は正常〜高値を示し、低値となることはない。ただし良性の甲状腺腫やバセドウ病でも上昇するため、術前の良悪性鑑別には有用性が乏しい。甲状腺全摘後(および放射性ヨウ素によるアブレーション後)には本来ほぼ検出されなくなるため、再上昇が再発・転移の指標として有用である。なお抗サイログロブリン抗体が陽性だと測定値が見かけ上低くなることがある。したがって誤りである。

  5. ○e.  甲状腺超音波検査で砂粒状石灰化がみられる。

    乳頭癌では組織学的に砂粒小体(psammoma body:同心円状の層構造をもつ微小石灰化)がみられ、これが超音波検査で腫瘤内部の微細な点状高エコー(砂粒状石灰化)として描出される。乳頭癌を示唆する重要な所見であり、頸部の単純X線(軟線撮影)やCTでも石灰化として確認できることがある。したがって正しい。

甲状腺悪性腫瘍の比較

・乳頭癌:最多(約90%)。女性、20〜50歳代。リンパ行性転移が主体。砂粒状石灰化、細胞診ですりガラス状核・核溝・核内細胞質封入体。予後最良。 ・濾胞癌:約5%。血行性転移(肺・骨)が多い。細胞診では濾胞腺腫との区別が困難で、被膜浸潤・脈管侵襲の有無で組織学的に診断する。 ・未分化癌:1〜2%程度。高齢者。急速増大する硬い腫瘤、周囲浸潤。極めて予後不良(多くは1年以内に死亡)。 ・髄様癌:1〜2%程度。C細胞由来でカルシトニン・CEAが上昇。一部はRET遺伝子変異による多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の部分症。 ・悪性リンパ腫:数%。橋本病(慢性甲状腺炎)を背景に中高年女性で急速な甲状腺腫大を呈する。MALTリンパ腫やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が多い。

乳頭癌の治療

手術(葉切除〜全摘+リンパ節郭清)が基本で、術後はリスクに応じて放射性ヨウ素内用療法やTSH(甲状腺刺激ホルモン)抑制療法を行う。低リスクの微小乳頭癌(1cm以下)では積極的経過観察も選択肢となる。

POINT

・甲状腺乳頭癌:最多の甲状腺癌、女性・若年〜中年に多い、予後は甲状腺癌中で最良 ・リンパ行性転移が多い(濾胞癌は血行性転移) ・超音波で砂粒状石灰化(砂粒小体)、細胞診で核溝・核内細胞質封入体 ・血中サイログロブリンは低値にならない。全摘後の再発マーカーとして有用 ・高齢者に多いのは未分化癌と悪性リンパ腫

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。