若い女性に多く、予後は最良―「砂粒」で見抜く甲状腺乳頭癌
第106回医師国家試験 D問題 第16問
国試問題にチャレンジ
甲状腺乳頭癌について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.女性に多い。
- b.高齢者に多い。
- c.甲状腺濾胞癌よりも予後不良である。
- d.血中サイログロブリンが低値となる。
- e.甲状腺超音波検査で砂粒状石灰化がみられる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
甲状腺乳頭癌は日本の甲状腺癌の約9割を占める最多の組織型で、女性、特に20〜50歳代に好発し、甲状腺癌の中で最も予後が良好です。転移は頸部リンパ節へのリンパ行性が主体で、血行性転移が多い濾胞癌とは対照的です。超音波では砂粒小体を反映した微細な点状高エコー(砂粒状石灰化)、細胞診ではすりガラス状核・核溝・核内細胞質封入体が特徴です。血中サイログロブリンは低値にならず、全摘後の再発マーカーとして有用である一方、高齢者に多いのは未分化癌や悪性リンパ腫です。各組織型の疫学・転移様式・検査所見を対比して整理することが、甲状腺腫瘤の診療と試験対策の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はa, eです
甲状腺乳頭癌の疫学・予後・検査所見を問う一般問題である。 甲状腺の悪性腫瘍は、濾胞上皮由来の乳頭癌・濾胞癌・低分化癌・未分化癌、傍濾胞細胞(C細胞)由来の髄様癌、リンパ球由来の悪性リンパ腫に大別される。このうち乳頭癌は日本では甲状腺癌の約90%を占める最多の組織型である。 乳頭癌の特徴は次のように整理できる。 ・疫学:女性に多く、20〜50歳代の比較的若い世代に好発する。 ・進展様式:リンパ行性転移(頸部リンパ節転移)が多く、血行性転移は少ない。 ・予後:甲状腺癌の中で最も良好で、10年生存率は90%を超える。 ・画像:超音波で境界不整、内部低エコー、微細な点状高エコー(砂粒状石灰化)を示す。 ・細胞診:すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体が特徴的である。 これらの知識と照らし合わせれば、各選択肢の正誤を判断できる。
選択肢考察
- ○a. 女性に多い。
甲状腺疾患は全般に女性に多く、乳頭癌も同様である。女性の罹患は男性の数倍(報告によりおよそ5〜8倍)に及ぶ。したがって正しい。
- ×b. 高齢者に多い。
乳頭癌の好発年齢は40〜50歳代を中心とし、20〜30歳代の若年者にも少なくない。小児にも発生し、放射線被曝との関連が知られている。高齢者に好発するのは未分化癌(60歳以上、多くは既存の分化癌から転化)や甲状腺悪性リンパ腫(慢性甲状腺炎を背景とする中高年女性)である。したがって誤りである。
- ×c. 甲状腺濾胞癌よりも予後不良である。
乳頭癌と濾胞癌はいずれも高分化癌で予後は比較的良いが、乳頭癌の方がより良好である。乳頭癌の転移は主に頸部リンパ節への転移で、切除や放射性ヨウ素治療で制御しやすい。一方、濾胞癌は血管侵襲をきたしやすく、肺や骨への血行性遠隔転移が多いため、予後はやや劣る(10年生存率は乳頭癌が90%超、濾胞癌はそれよりやや低い)。したがって記述は逆であり誤りである。
- ×d. 血中サイログロブリンが低値となる。
サイログロブリンは甲状腺濾胞細胞が産生する糖蛋白で、甲状腺ホルモン合成の場となる。乳頭癌を含む分化癌では腫瘍細胞もサイログロブリンを産生するため、血中濃度は正常〜高値を示し、低値となることはない。ただし良性の甲状腺腫やバセドウ病でも上昇するため、術前の良悪性鑑別には有用性が乏しい。甲状腺全摘後(および放射性ヨウ素によるアブレーション後)には本来ほぼ検出されなくなるため、再上昇が再発・転移の指標として有用である。なお抗サイログロブリン抗体が陽性だと測定値が見かけ上低くなることがある。したがって誤りである。
- ○e. 甲状腺超音波検査で砂粒状石灰化がみられる。
乳頭癌では組織学的に砂粒小体(psammoma body:同心円状の層構造をもつ微小石灰化)がみられ、これが超音波検査で腫瘤内部の微細な点状高エコー(砂粒状石灰化)として描出される。乳頭癌を示唆する重要な所見であり、頸部の単純X線(軟線撮影)やCTでも石灰化として確認できることがある。したがって正しい。
甲状腺悪性腫瘍の比較
・乳頭癌:最多(約90%)。女性、20〜50歳代。リンパ行性転移が主体。砂粒状石灰化、細胞診ですりガラス状核・核溝・核内細胞質封入体。予後最良。 ・濾胞癌:約5%。血行性転移(肺・骨)が多い。細胞診では濾胞腺腫との区別が困難で、被膜浸潤・脈管侵襲の有無で組織学的に診断する。 ・未分化癌:1〜2%程度。高齢者。急速増大する硬い腫瘤、周囲浸潤。極めて予後不良(多くは1年以内に死亡)。 ・髄様癌:1〜2%程度。C細胞由来でカルシトニン・CEAが上昇。一部はRET遺伝子変異による多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の部分症。 ・悪性リンパ腫:数%。橋本病(慢性甲状腺炎)を背景に中高年女性で急速な甲状腺腫大を呈する。MALTリンパ腫やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が多い。
乳頭癌の治療
手術(葉切除〜全摘+リンパ節郭清)が基本で、術後はリスクに応じて放射性ヨウ素内用療法やTSH(甲状腺刺激ホルモン)抑制療法を行う。低リスクの微小乳頭癌(1cm以下)では積極的経過観察も選択肢となる。
POINT
・甲状腺乳頭癌:最多の甲状腺癌、女性・若年〜中年に多い、予後は甲状腺癌中で最良 ・リンパ行性転移が多い(濾胞癌は血行性転移) ・超音波で砂粒状石灰化(砂粒小体)、細胞診で核溝・核内細胞質封入体 ・血中サイログロブリンは低値にならない。全摘後の再発マーカーとして有用 ・高齢者に多いのは未分化癌と悪性リンパ腫
