StudyMed医師国家試験

「通り道」と「時間」が感染を呼ぶ―院内感染リスクを見抜く2つの物差し

第106回医師国家試験 C問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第106回 C問題 第13問

院内感染のリスクとなりにくいのはどれか。

  1. a.褥瘡処置
  2. b.持続導尿
  3. c.腰椎穿刺
  4. d.人工呼吸
  5. e.中心静脈栄養

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、どの医療行為が院内感染のリスクになりやすいかを考える問題だ。個別に暗記するより、「体の中と外界をつなぐ通り道ができるか」と「その状態がどれだけ長く続くか」という2つの物差しで眺めると、答えが自然に見えてくるよ。
医学生医学生
どれも体に何かを入れる処置なので、全部リスクがありそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だね。もちろんゼロリスクの手技はない。ただ、問われているのは「相対的にリスクが低いもの」だ。まず院内感染の定義を確認しよう。入院後48時間以降に発症した感染症など、医療機関の中で新たに獲得した感染症のことを指す。
医学生医学生
感染症の講義で、カテーテル関連の感染が院内感染の代表だと習いました。
ドクタードクター
その通り。カテーテルや気管チューブのようなデバイスは、本来無菌か外界から守られている場所と外の世界との間に通り道を作る。しかも留置が長引くほど、表面に細菌がバイオフィルムという粘液状の膜を作り、抗菌薬や免疫から守られて住みついてしまう。だからリスクは日数とともに上がるんだ。では持続導尿から考えてみよう。
医学生医学生
尿道から膀胱までカテーテルが入りっぱなしなので、そこを伝って菌が上がってきそうです。
ドクタードクター
まさにそう。カテーテルの外側を伝う経路と、採尿バッグとの接続部から内腔を通る経路がある。カテーテル関連尿路感染症は院内感染のなかで最も多いものの一つで、不要なカテーテルの早期抜去と閉鎖式採尿システムの維持が予防の基本だ。
医学生医学生
人工呼吸はどうでしょう。ICU実習で、ベッドの頭側を上げておくように看護師さんに言われていました。
ドクタードクター
いいところを見ているね。気管チューブは咳や線毛運動、声門の閉鎖といった気道の防御を素通りさせてしまう。口腔や咽頭の分泌物がカフの周りから少しずつ下気道へ垂れ込んで、挿管後48時間以降に人工呼吸器関連肺炎が起こる。頭部挙上30〜45度、口腔ケア、鎮静の適正化と早期抜管が予防策で、あの指示はまさにその一環なんだ。
医学生医学生
中心静脈栄養は、皮膚から大静脈まで直接つながっているので、血流感染に直結しそうです。
ドクタードクター
その通り。刺入部の皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌がカテーテル外側を伝ったり、ラインの接続部から内腔に入ったりする。さらに高濃度のブドウ糖を含む輸液は微生物が増えやすく、カンジダ血症の原因としても重要だ。挿入時は滅菌ガウン・手袋・マスク・帽子・大きな滅菌覆布を使うマキシマルバリアプリコーションで臨む。
医学生医学生
褥瘡処置はデバイスを入れるわけではないので、リスクは低いのかと思いました。
ドクタードクター
そこが引っかけになりやすいところだね。褥瘡は皮膚のバリアが失われた開放創で、治るまでに長い時間がかかる。処置を繰り返すたびに医療者の手指や器具を介してMRSAや緑膿菌が創に定着しやすいし、定着した耐性菌が接触感染で他の患者さんへ広がる感染源にもなる。「通り道が長期間開いている」という意味では、デバイスと同じ構図なんだ。
医学生医学生
なるほど。そうすると腰椎穿刺は、無菌操作で短時間に終わって、終わったら何も残さない処置ですね。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。皮膚消毒と滅菌手袋のもとで数分から十数分で終わり、体内に何も留置しない。通り道が持続しないから、病原体が入り込む機会はごく限られる。穿刺後の髄膜炎は起こりうるけれど頻度はまれで、選択肢のなかでは最もリスクが低い。
医学生医学生
OSCEの練習で腰椎穿刺の手順を見たとき、消毒や清潔野の確保がとても丁寧だったのを思い出しました。
ドクタードクター
そう、リスクが低いのは無菌操作をきちんと守ってこそだということも忘れないでほしい。最後に臨床での注意点をまとめよう。院内感染の主な起炎菌はMRSA、多剤耐性緑膿菌、ESBL産生菌、バンコマイシン耐性腸球菌、カンジダ、そして抗菌薬関連腸炎を起こすクロストリディオイデス・ディフィシルなどだ。
医学生医学生
対策としては、やっぱり手指衛生が一番大事なんでしょうか。
ドクタードクター
そうだね。すべての患者さんの血液・体液・排泄物・損傷した皮膚や粘膜を感染性ありとして扱う標準予防策が土台で、その中心が手指衛生だ。そこに接触・飛沫・空気という感染経路別予防策を上乗せする。そしてデバイスについては、毎日その必要性を見直し、不要になったらすぐ抜く。この習慣が何より患者さんを守るんだ。

まとめ

院内感染のリスクは、体内と外界をつなぐ通り道ができるかどうかと、その状態が続く期間の長さで大きく左右されます。持続導尿によるカテーテル関連尿路感染症、人工呼吸による人工呼吸器関連肺炎、中心静脈カテーテルによる血流感染症は代表的なデバイス関連感染であり、留置期間が長いほどバイオフィルム形成などによりリスクが高まります。褥瘡のような長期の開放創も、処置のたびに耐性菌が定着・伝播しやすく重要なリスクとなります。一方、腰椎穿刺は無菌操作下で短時間に終わり留置物を残さないため、リスクは相対的に低いと考えられます。標準予防策と手指衛生を土台に、デバイスの必要性を毎日見直して早期抜去する姿勢は、臨床現場で患者を守るうえで欠かせない考え方です。

解答・解説

正解はcです

問われているテーマ

医療行為と院内感染(医療関連感染: healthcare-associated infection)のリスクとの関係を問う問題である。院内感染とは、入院後48時間以降に発症した感染症など、医療機関内で新たに獲得した感染症を指す。

考え方

院内感染のリスクを高める医療行為の共通点は、次の2点に整理できる。 1. 本来は無菌であるか、外界から守られている部位と外界との間に「通り道」を作ること(カテーテル、気管チューブなどのデバイス)。 2. その状態が長時間・長期間続くこと。デバイスの留置期間が長いほど、表面にバイオフィルム(細菌が産生する粘液状の膜で、抗菌薬や免疫から菌を守る)が形成され、感染リスクは日数とともに上昇する。 さらに、開放創のように皮膚バリアが破綻した状態が持続し、処置のたびに手指や器具を介して病原体が運ばれる場合もリスクが高い。 この観点から、デバイスを長期間留置する行為(持続導尿・人工呼吸・中心静脈栄養)や、長期間にわたって開放創の処置を繰り返す行為(褥瘡処置)は院内感染のリスクが高い。一方、無菌操作で行い、終了後に何も留置しない短時間の手技はリスクが低い。

選択肢考察

  1. ×a.  褥瘡処置

    院内感染のリスクとなる。褥瘡は皮膚・皮下組織が壊死・欠損した開放創であり、細菌の侵入を防ぐ皮膚のバリアが失われている。治癒に長期間を要し、処置を繰り返す間に医療者の手指や器具を介してMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や緑膿菌などが創部に定着・感染しやすい。また創部に定着した耐性菌が、接触感染によって他の患者へ広がる感染源にもなる。重症化すると骨髄炎や敗血症の原因にもなる。

  2. ×b.  持続導尿

    院内感染のリスクとなる。尿路感染は院内感染のなかで最も多いものの一つであり、その多くは尿道留置カテーテルに関連する(カテーテル関連尿路感染症: CAUTI)。カテーテルの外側表面を伝って、あるいは採尿バッグとの接続部から内腔を通って細菌が膀胱内へ侵入する。留置日数に比例してリスクが高まるため、不要なカテーテルの早期抜去や閉鎖式採尿システムの維持が予防の基本である。

  3. ○c.  腰椎穿刺

    院内感染のリスクとなりにくい。腰椎穿刺は皮膚消毒・滅菌手袋などの無菌操作のもとで行われ、数分〜十数分程度で終了し、終了後に体内へ何も留置しない。そのため外界と体内の通り道が持続することがなく、病原体が侵入する機会はごく限られる。穿刺後の髄膜炎などの感染合併症は起こりうるが頻度はまれであり、選択肢のなかでは最もリスクが低い。

  4. ×d.  人工呼吸

    院内感染のリスクとなる。気管挿管下の人工呼吸では、気管チューブにより上気道の防御機構(咳・線毛運動・声門の閉鎖)が迂回され、口腔・咽頭の分泌物がカフの周囲から下気道へ垂れ込む(不顕性誤嚥)。これにより、挿管後48時間以降に人工呼吸器関連肺炎(VAP: ventilator-associated pneumonia)が生じる。起炎菌としては緑膿菌やMRSAなどの耐性菌が問題となり、人工呼吸の期間が長いほどリスクは増す。頭部挙上(30〜45度)、口腔ケア、鎮静の適正化と早期抜管などが予防策である。

  5. ×e.  中心静脈栄養

    院内感染のリスクとなる。中心静脈カテーテルは皮膚から大静脈まで直接つながる通り道であり、院内の血流感染の多くはこうした血管内留置カテーテルに関連する(カテーテル関連血流感染症: CRBSI)。刺入部の皮膚常在菌(表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌など)がカテーテル外側を伝って侵入したり、輸液ラインの接続部の汚染から内腔に入ったりする。さらに高濃度のブドウ糖を含む栄養輸液は微生物が増殖しやすく、カンジダ血症の原因としても重要である。挿入時のマキシマルバリアプリコーション(滅菌ガウン・手袋・マスク・帽子・大きな滅菌覆布を用いた挿入)や不要時の早期抜去が予防策となる。

デバイス関連感染症の代表

・カテーテル関連尿路感染症(CAUTI): 尿道留置カテーテル。院内感染で最も多いものの一つ。 ・人工呼吸器関連肺炎(VAP): 気管挿管・人工呼吸。死亡率の高い院内感染。 ・カテーテル関連血流感染症(CRBSI): 中心静脈カテーテル。敗血症の原因となる。 このほか、手術部位感染(SSI)も主要な院内感染である。

院内感染の主な起炎菌

MRSA、緑膿菌(多剤耐性緑膿菌を含む)、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、カンジダ、クロストリディオイデス・ディフィシル(抗菌薬関連腸炎の原因)など。

院内感染対策の基本

・標準予防策(スタンダードプリコーション): すべての患者の血液・体液・分泌物・排泄物・損傷した皮膚・粘膜を感染性があるものとして扱う。手指衛生が最も基本的かつ重要である。 ・感染経路別予防策: 接触予防策(MRSAなど)、飛沫予防策(インフルエンザなど)、空気予防策(結核・麻疹・水痘)。 ・デバイス管理: 必要性を毎日評価し、不要になればすみやかに抜去する。

POINT

・院内感染のリスクは「体内と外界をつなぐデバイスの留置」と「その期間の長さ」で高まる。 ・持続導尿→尿路感染、人工呼吸→人工呼吸器関連肺炎、中心静脈カテーテル→血流感染は三大デバイス関連感染である。 ・褥瘡のような長期の開放創もリスクとなる。 ・腰椎穿刺は無菌操作下の短時間手技で留置物を残さないため、リスクは低い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。