StudyMed医師国家試験

食べたものがそのまま病態になる―腎臓病で食事療法が「治療の柱」になる理由

第106回医師国家試験 C問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第106回 C問題 第14問

食事療法の重要性が特に高いのはどれか。

  1. a.うつ病
  2. b.慢性腎不全
  3. c.更年期障害
  4. d.甲状腺機能亢進症
  5. e.慢性炎症に伴う貧血

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、いくつかの疾患のなかで食事療法が特に重要なものを選ぶ問題だ。考えるときの物差しは「口から入る物質が、その病態を直接悪くしたり良くしたりするか」。この視点で各疾患を眺めてみよう。
医学生医学生
健康のためには、どの病気でもバランスのよい食事が大事だと思うのですが……。
ドクタードクター
その通りで、食事はどんな病気でも無関係ではない。ただ、ここで問われているのは「食事療法が治療の主軸になるかどうか」だ。食事を整えることが支持的な意味にとどまる疾患と、食事内容の調整そのものが病態管理になる疾患を区別しよう。
医学生医学生
腎臓は老廃物や電解質を尿に出す臓器なので、慢性腎不全では入ってくる量を減らす必要がありそうです。
ドクタードクター
まさにそこが核心だ。腎臓は蛋白質の代謝産物である尿素窒素、ナトリウム、カリウム、リン、そして水分を排泄している。腎機能が落ちるとこれらを処理しきれずに体にたまるから、摂取量の調整がそのまま病態の管理になる。だから慢性腎不全が正解だ。
医学生医学生
具体的にはどんな制限をするんですか。腎臓内科を回ったとき、患者さんが栄養指導を受けていたのは覚えているんですが。
ドクタードクター
日本腎臓学会の食事療法基準では、病期ごとに目安が示されている。食塩は高血圧や浮腫、体液過剰を防ぐため1日3g以上6g未満が目安だ。蛋白質は、腎機能が中等度以上に低下した段階では標準体重あたり0.6〜0.8g程度に制限することが目安とされる。尿毒症症状を和らげたり、糸球体の過剰ろ過を抑えて腎機能低下の進行を遅らせたりする効果が期待されているんだ。
医学生医学生
蛋白質を減らすと、低栄養になってしまいませんか。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。だからこそエネルギーは十分に確保する。エネルギーが足りないと、体は筋肉などの体蛋白を分解してエネルギーにしてしまい、かえって尿素窒素が増えてしまう。高齢でサルコペニアやフレイルのおそれがある人では、過度な蛋白制限を避けて個別に判断することも大切だ。
医学生医学生
カリウムとリンも制限するんですよね。
ドクタードクター
そう。高カリウム血症は致死的な不整脈の原因になるし、高リン血症は骨ミネラル代謝異常や血管石灰化につながる。加工食品に多い食品添加物の無機リンは吸収率が高いので、特に注意が必要だ。では、ほかの疾患がなぜ違うのかも見ていこう。うつ病はどうかな。
医学生医学生
精神科実習では、休養と抗うつ薬、それに認知行動療法が中心だと教わりました。
ドクタードクター
その通り。重症例では修正型電気けいれん療法も使われる。規則正しい食事や生活リズムは支持的に勧められるけれど、特定の食事療法が柱になるわけではない。更年期障害はどうだろう。
医学生医学生
エストロゲンの急激な低下が原因なので、ホルモン補充療法や漢方薬が中心ですね。
ドクタードクター
そうだね。閉経後は骨粗鬆症や脂質異常症のリスクが上がるので、カルシウムやバランスのよい食事の指導はするけれど、それは更年期障害そのものの治療の中心ではない。甲状腺機能亢進症は、代謝が上がって痩せるから食事が大事、と考えた人もいるかもしれないね。
医学生医学生
正直そう思いかけました。でも治療の柱は抗甲状腺薬、放射性ヨウ素内用療法、手術の3つでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。体重減少があれば十分なエネルギー摂取を勧めるし、放射性ヨウ素内用療法の前には一時的なヨウ素制限も行うけれど、どれも補助的・一時的なものだ。最後に、慢性炎症に伴う貧血。貧血なら鉄を食べればいい、と思うかな。
医学生医学生
鉄欠乏性貧血と違って、フェリチンは正常から高値なんですよね。基礎医学の講義でヘプシジンが出てきた気がします。
ドクタードクター
その通り。関節リウマチや慢性感染症、悪性腫瘍などでIL-6などの炎症性サイトカインが肝臓のヘプシジンを増やし、腸管からの鉄吸収とマクロファージからの鉄放出が抑えられる。鉄は体内にあるのに造血に使えない状態だから、食事や鉄剤で鉄を足しても改善は乏しく、原疾患のコントロールが基本になる。
医学生医学生
「足りないから補う」が通用しない貧血ということですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展として、食事療法が治療の柱になる疾患をまとめておこう。糖尿病、脂質異常症、高血圧、痛風・高尿酸血症、肝性脳症を伴う肝硬変、それにフェニルケトン尿症やガラクトース血症のような先天代謝異常症、セリアック病などだ。どれも「摂取する物質が病態に直結する」という共通点がある。臨床では、管理栄養士と連携して、患者さんが続けられる形で指導することが何より大切だよ。

まとめ

食事療法の重要性は、摂取した物質が病態を直接悪化・改善させるかどうかで判断できます。慢性腎不全では、蛋白質代謝産物・ナトリウム・カリウム・リン・水分の排泄が障害されるため、食塩3g以上6g未満、病期に応じた蛋白質・カリウム・リンの制限、そして体蛋白の分解を防ぐ十分なエネルギー確保が、薬物療法と並ぶ治療の柱となります。一方、うつ病・更年期障害・甲状腺機能亢進症はそれぞれ薬物療法・ホルモン補充・抗甲状腺薬などが中心であり、慢性炎症に伴う貧血はヘプシジン増加による鉄利用障害のため、食事や鉄剤では改善しにくく原疾患の治療が基本です。糖尿病や痛風、先天代謝異常症なども含め、「食事が病態に直結する疾患」を整理しておくことは、栄養指導を含めた包括的な診療の基礎となります。

解答・解説

正解はbです

問われているテーマ

疾患ごとの治療のなかで、食事療法がどの程度の位置を占めるかを問う問題である。食事療法が治療の柱となる代表的な疾患は、慢性腎臓病(CKD: chronic kidney disease、慢性腎不全を含む概念)、糖尿病、脂質異常症、高血圧、肥満症、痛風・高尿酸血症、肝硬変(肝性脳症時)、フェニルケトン尿症などの先天代謝異常症などである。

考え方

ある疾患で食事療法の重要性が高いかどうかは、「食事として摂取する物質が、病態そのものを悪化させたり改善させたりするか」で考えるとよい。腎臓は、蛋白質の代謝産物(尿素窒素など)、ナトリウム、カリウム、リンなど、食事から入ってくる物質を排泄する臓器である。腎機能が低下するとこれらを処理しきれなくなるため、摂取量の調整がそのまま病態の管理につながる。したがって、選択肢のなかでは慢性腎不全が、食事療法の重要性が特に高い疾患である。 一方、うつ病・更年期障害・甲状腺機能亢進症・慢性炎症に伴う貧血は、それぞれ薬物療法・ホルモン補充・抗甲状腺薬・原疾患の治療などが中心であり、食事内容の調整が治療の主軸となる疾患ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  うつ病

    誤り。うつ病の治療の中心は、十分な休養、抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬など)による薬物療法、精神療法(認知行動療法など)であり、重症例では修正型電気けいれん療法も用いられる。規則正しい食事や生活リズムを整えることは支持的に勧められるが、特定の食事療法が治療の柱となるわけではない。

  2. ○b.  慢性腎不全

    正しい。慢性腎不全では、腎臓の排泄能の低下により、蛋白質の代謝産物、ナトリウム、カリウム、リン、水分などが体内に貯留しやすい。そのため、日本腎臓学会の食事療法基準では、病期(GFRで分けたG1〜G5の区分)に応じてエネルギー、蛋白質、食塩、カリウムなどの摂取量の目安が示されている。 ・食塩: 高血圧・浮腫・体液過剰を防ぐため、3 g/日以上6 g/日未満が目安とされる。 ・蛋白質: 腎機能が中等度以上低下した段階(G3b以降)では、標準体重あたり0.6〜0.8 g/日程度に制限することが目安とされる。尿毒症症状(食欲不振、悪心など)の軽減や、糸球体の過剰ろ過を抑えて腎機能低下の進行を遅らせる効果が期待される。 ・エネルギー: 蛋白質を制限しても筋肉などの体蛋白が分解されないよう、十分なエネルギー(標準体重あたり25〜35 kcal/日程度)を確保する。 ・カリウム・リン: 高カリウム血症(不整脈の原因)や高リン血症(骨ミネラル代謝異常・血管石灰化の原因)を防ぐため、病期に応じて制限する。 このように、食事療法は薬物療法と並ぶ治療の柱である。

  3. ×c.  更年期障害

    誤り。更年期障害は、閉経前後に卵巣機能が低下してエストロゲンが急激に減少することにより、ほてり・発汗(ホットフラッシュ)、動悸、不眠、抑うつなどが生じる状態である。治療はホルモン補充療法(HRT)、漢方薬、向精神薬、カウンセリングなどが中心であり、食事療法が主な治療となるわけではない。なお、閉経後は骨粗鬆症や脂質異常症のリスクが上がるため、カルシウム摂取やバランスのよい食事の指導は行われるが、これは更年期障害そのものの治療の中心ではない。

  4. ×d.  甲状腺機能亢進症

    誤り。甲状腺機能亢進症(代表はバセドウ病)の治療は、抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)、放射性ヨウ素内用療法、手術(甲状腺切除)の3つが柱である。代謝が亢進して消費エネルギーが増えるため、体重減少がある場合には十分なエネルギー摂取が勧められ、放射性ヨウ素内用療法の前には一時的なヨウ素制限を行う。しかし、これらは補助的・一時的なものであり、食事療法そのものが治療の中心となるわけではない。

  5. ×e.  慢性炎症に伴う貧血

    誤り。慢性炎症に伴う貧血(ACD: anemia of chronic disease)は、関節リウマチや慢性感染症、悪性腫瘍などで、炎症性サイトカイン(IL-6など)により肝臓からヘプシジンが増加し、腸管からの鉄吸収やマクロファージからの鉄の放出が抑えられることで生じる。体内の貯蔵鉄は十分にある(血清フェリチンは正常〜高値)が、造血に鉄を利用できない状態である。したがって、鉄を多く含む食事や鉄剤で鉄を補っても改善は乏しく、治療の基本は原疾患のコントロールである。この点で、鉄欠乏性貧血とは異なり、食事療法の意義は小さい。

慢性腎臓病(CKD)の概要

CKDは、尿異常(蛋白尿など)・画像や病理での腎障害、またはGFR(糸球体ろ過量)60 mL/分/1.73 m²未満のいずれかが3か月以上持続する状態と定義される。重症度は原疾患(Cause)、GFR区分(G1〜G5、G3はG3aとG3bに細分)、蛋白尿区分(A1〜A3)の組み合わせ(CGA分類)で評価する。G5で透析や腎移植などの腎代替療法が必要になれば末期腎不全である。

CKDの食事療法の考え方(成人の目安)

・エネルギー: 25〜35 kcal/kg標準体重/日(性別・年齢・身体活動度に応じて調整) ・蛋白質: G3aで0.8〜1.0 g/kg標準体重/日、G3b以降で0.6〜0.8 g/kg標準体重/日が目安。ただし高齢者でサルコペニア・フレイルのおそれがある場合は、過度な制限を避けて個別に判断する。 ・食塩: 3 g/日以上6 g/日未満 ・カリウム: G3bで2,000 mg/日以下、G4〜G5で1,500 mg/日以下が目安 ・リン: 蛋白質制限により摂取量が抑えられる。加工食品に多い無機リン(食品添加物)は吸収率が高く、注意が必要である。

食事療法が治療の柱となる主な疾患

糖尿病(エネルギー管理)、脂質異常症(飽和脂肪酸・コレステロールの調整)、高血圧(減塩)、痛風・高尿酸血症(プリン体・アルコール制限、飲水)、肝硬変(肝性脳症時の蛋白質調整、分岐鎖アミノ酸製剤)、フェニルケトン尿症(フェニルアラニン制限)、ガラクトース血症(乳糖除去)、セリアック病(グルテン除去)など。

POINT

・慢性腎不全(CKD)では、食塩・蛋白質・カリウム・リンの制限と十分なエネルギー確保が治療の柱である。 ・CKDの食塩制限の目安は3 g/日以上6 g/日未満。 ・蛋白質制限時はエネルギー不足にならないよう注意する(体蛋白の分解を防ぐ)。 ・慢性炎症に伴う貧血はヘプシジン増加による鉄利用障害であり、鉄補充や食事では改善しにくい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。