StudyMed医師国家試験

被ばくから何年も経って曇る水晶体―「早期障害」と「晩発性障害」を見分ける軸

第106回医師国家試験 A問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第3問

電離放射線による晩発性障害はどれか。

  1. a.脱毛
  2. b.頭痛
  3. c.白内障
  4. d.皮膚炎
  5. e.白血球減少

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、電離放射線による障害を「いつ症状が出るか」で分類できるかを問う問題だ。着眼点は、それぞれの症状が被ばく後どのくらいで現れるのか、そしてその背景にある組織の放射線感受性だよ。
医学生医学生
確定的影響と確率的影響の分類なら放射線医学の講義で習ったんですが、それとは違うんですか。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。放射線の影響には分類の軸がいくつかあって、「早期か晩発か」は発症時期による分類、「確定的か確率的か」は線量と発生の関係による分類だ。両者は別物で、混同すると迷いやすい。
医学生医学生
では早期障害は、だいたいどのくらいの期間で出るものを指すんですか。
ドクタードクター
被ばく後おおむね数週以内に現れるものだ。晩発性障害は、数か月から数年、ときに数十年経ってから現れる。どちらになるかは、障害される組織の細胞の入れ替わりの速さと深く関係しているんだ。
医学生医学生
Bergonié-Tribondeauの法則ですね。分裂が盛んで未分化な細胞ほど放射線感受性が高い、という。
ドクタードクター
よく覚えているね。骨髄の造血細胞や腸管上皮、皮膚の基底細胞、毛母細胞は分裂が盛んだから、細胞の供給が止まるとすぐに障害が表面化する。だから早期障害になる。では、白血球減少はどちらかな。
医学生医学生
造血細胞がやられるので早期障害です。でも白血病は晩発性だと聞いたことがあって、少し混乱します。
ドクタードクター
その区別は大切だ。末梢血のリンパ球は被ばく後24〜48時間以内に減り始めて、その減り方は被ばく線量の推定にも使われる。好中球も数日から数週で減る。これは早期障害だ。一方、白血病はDNA損傷が積み重なって数年後に発生するもので、晩発性障害であり、確率的影響に分類される。同じ「血液」でも全く違う話なんだ。
医学生医学生
脱毛は被ばくしてすぐ抜けるイメージですが、早期障害でいいんですよね。
ドクタードクター
早期障害でいいけれど、実は「すぐ」ではなく、頭皮が約3 Gy以上の被ばくを受けて2〜3週ほどで始まるのが一般的だ。それでも数週以内なので早期障害に入る。多くは一時的で、数か月後には再び生えてくる。
医学生医学生
頭痛はどうでしょう。放射線と頭痛はあまり結びつきませんでした。
ドクタードクター
全身に大量被ばくした急性放射線症候群では、数時間から数日の前駆期に悪心・嘔吐、倦怠感、発熱、頭痛などが出る。被ばく直後の症状だから早期障害だ。皮膚炎も、数時間で一過性の紅斑、2〜3週頃から主紅斑が出て、線量が高ければ落屑やびらんへ進む。急性放射線皮膚炎は早期障害だね。
医学生医学生
臨床実習で放射線治療科を回ったとき、照射中の患者さんの皮膚が赤くなっていたのを見ました。
ドクタードクター
まさにそれが急性期の皮膚炎だ。ただ、数か月から数年後に出る皮膚の萎縮や毛細血管拡張、難治性潰瘍などは慢性放射線皮膚炎として晩発性に分類されるから、そこは区別しておこう。さて、残るのが白内障だ。
医学生医学生
水晶体上皮も感受性が高いと習いましたが、それでも晩発性なのはなぜですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。水晶体上皮が障害されると、異常な線維細胞が後極部の後嚢下に集まって混濁をつくる。ただ水晶体の細胞は入れ替わりがゆっくりなので、混濁が視機能に影響するまでに数年かかる。だから晩発性障害の代表とされているんだ。そして白内障はしきい線量のある確定的影響でもある。
医学生医学生
確定的影響なのに晩発性、というのがまさに「軸が別」ということなんですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識として、ICRPは2011年に白内障のしきい線量を約0.5 Gyへ引き下げ、日本でも2021年から職業被ばくの水晶体の等価線量限度が5年平均で年20 mSv、どの1年も50 mSvを超えない値に引き下げられた。IVRなど透視下の手技に関わる医療者が防護眼鏡をかけるのはこのためだ。
医学生医学生
将来カテーテル室で働くことになったら、自分の目も守らないといけませんね。
ドクタードクター
そう、放射線防護は患者だけでなく医療者自身の問題でもある。晩発性障害には白内障のほか、白血病や甲状腺癌などの悪性腫瘍、肺線維症、慢性皮膚障害などがある。長い時間をおいて現れる影響だからこそ、被ばく歴の記録と長期のフォローが大切なんだ。

まとめ

電離放射線の影響は、発症時期により被ばく後数週以内の早期障害と、数か月〜数十年後の晩発性障害に分けられます。分裂が盛んな造血細胞、毛母細胞、皮膚基底細胞が障害される白血球減少、脱毛、急性皮膚炎、急性放射線症候群の前駆症状としての頭痛は早期障害です。一方、細胞の入れ替わりが遅い水晶体に生じる白内障は晩発性障害の代表で、白血病・甲状腺癌などの悪性腫瘍、肺線維症、慢性放射線皮膚炎も晩発性に含まれます。白内障はしきい線量のある確定的影響でありながら晩発性という点が示すように、「早期/晩発」と「確定的/確率的」は別の分類軸として整理する必要があります。水晶体のしきい線量引き下げに伴い医療者の眼の防護が重視されており、この分類の理解は臨床での放射線防護にも直結します。

解答・解説

正解はcです

電離放射線による人体への影響は、いくつかの切り口で分類される。本問は「症状が現れるまでの時期」による分類、すなわち早期障害(急性障害)と晩発性障害(晩期障害)の区別を問うている。 早期障害は、被ばく後おおむね数週以内に現れる障害である。細胞分裂が盛んな組織(骨髄の造血細胞、腸管上皮、皮膚の基底細胞、毛母細胞、生殖細胞など)は放射線感受性が高く、細胞の供給が止まると比較的短期間で機能障害が表面化する。白血球(特にリンパ球)減少、悪心・嘔吐、脱毛、皮膚の紅斑・びらんなどがこれにあたる。 晩発性障害は、被ばく後数か月から数年、ときに数十年を経て初めて現れる障害である。細胞の入れ替わりが遅い組織の障害や、血管・間質の線維化、DNA損傷の蓄積によるものが含まれ、白内障、悪性腫瘍(白血病、甲状腺癌、固形癌など)、皮膚の萎縮や潰瘍、肺線維症、不妊(永久不妊)、胎児被ばくによる影響の一部などがある。 選択肢のうち、被ばくから長い潜伏期を経て現れる典型的な障害は白内障である。なお白内障は、一定の線量(しきい線量)を超えないと起こらない確定的影響(組織反応)であるが、発症時期としては晩発性に分類される。「確定的影響か確率的影響か」と「早期か晩発か」は別の分類軸である点に注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  脱毛

    毛髪をつくる毛母細胞は分裂が盛んで放射線感受性が高い。頭皮が約3 Gy以上の被ばくを受けると、被ばく後およそ2〜3週で脱毛が始まる。多くは一時的で、数か月後に再び生えてくる。数週以内に現れるため早期障害に分類される。ただし非常に高線量では永久脱毛となることがある。

  2. ×b.  頭痛

    全身に大量の放射線を浴びた急性放射線症候群では、被ばく後数時間〜数日の前駆期に、悪心・嘔吐、食欲不振、倦怠感、発熱、頭痛などが出現する。さらに高線量では中枢神経障害(意識障害、けいれんなど)が短時間で現れる。いずれも被ばく直後から早期に生じる症状であり、晩発性障害ではない。

  3. ○c.  白内障

    水晶体の上皮細胞が放射線で障害されると、異常な線維細胞が水晶体後極部の後嚢下に集まり、混濁(後嚢下白内障)を生じる。水晶体の細胞は入れ替わりがゆっくりであるため、混濁が視機能に影響するまでに数年(低線量ではさらに長期)かかり、晩発性障害の代表である。しきい線量をもつ確定的影響(組織反応)であり、国際放射線防護委員会(ICRP)は2011年にしきい線量を約0.5 Gyへ引き下げ、それを受けて職業被ばくにおける水晶体の等価線量限度も引き下げられた(わが国では2021年施行で5年平均20 mSv/年、いずれの1年も50 mSvを超えない)。IVR(画像下治療)に従事する医療者の眼の防護が重視されるのはこのためである。

  4. ×d.  皮膚炎

    皮膚の基底細胞は分裂が盛んで放射線感受性が高い。被ばく後、数時間で一過性の初期紅斑がみられ、2〜3週頃から主紅斑、さらに線量が高いと乾性落屑、湿性落屑、びらん・潰瘍へと進む。放射線治療でも照射期間中から皮膚炎がみられる。このような急性放射線皮膚炎は早期障害である。なお、数か月〜数年後に生じる皮膚の萎縮、毛細血管拡張、色素沈着、難治性潰瘍、皮膚癌などは晩発性の変化(慢性放射線皮膚炎)として区別される。

  5. ×e.  白血球減少

    造血組織は放射線感受性が最も高い組織の一つである。末梢血のリンパ球は被ばく後24〜48時間以内に減少し始め、その減少の程度は被ばく線量の推定に使われる。好中球はやや遅れて数日〜数週で減少し、感染症の原因となる。いずれも被ばく後早期に現れるため早期障害である。なお、白血病は被ばく後数年を経て発生する晩発性障害(確率的影響)であり、白血球減少とは区別する。

放射線の人体影響の分類

1. 発症時期による分類 早期障害(急性障害): 被ばく後数週以内。例: リンパ球・白血球減少、悪心・嘔吐、脱毛、皮膚紅斑、急性放射線症候群。 晩発性障害: 被ばく後数か月〜数十年。例: 白内障、悪性腫瘍(白血病、甲状腺癌、固形癌)、慢性放射線皮膚炎、肺線維症、寿命短縮など。 2. 線量と発生の関係による分類 確定的影響(組織反応): しきい線量があり、それを超えると発生し、線量が増えるほど重症化する。脱毛、皮膚障害、白内障、不妊、造血障害など。 確率的影響: しきい線量がないと仮定され、線量が増えるほど発生確率が上がるが、重症度は線量に依存しない。発癌、遺伝的影響。 3. 影響が出る対象による分類 身体的影響: 被ばくした本人に現れる影響。 遺伝的影響: 生殖細胞の変異を介して子孫に現れる影響。動物実験では確認されているが、ヒト(原爆被爆者の子どもなど)では明らかな増加は確認されていない。

組織の放射線感受性(Bergonié-Tribondeauの法則)

細胞分裂が盛んなもの、将来分裂する回数が多いもの、形態・機能が未分化なものほど放射線感受性が高い。リンパ球・骨髄、生殖腺、腸管上皮、皮膚基底層、毛母、水晶体上皮などは感受性が高く、神経・筋・骨は低い。

おおよその目安線量(全身・急性被ばく)

約0.25 Gy以上でリンパ球減少がみられうる。約1 Gy以上で悪心・嘔吐などの前駆症状。約3〜5 Gyで骨髄障害による死亡が問題となり、半数致死線量はおおむね4 Gy前後とされる。約10 Gy以上で消化管障害、さらに高線量で中枢神経障害を生じる。

POINT

・早期障害(数週以内): 白血球(リンパ球)減少、悪心・嘔吐、頭痛、脱毛、皮膚紅斑。 ・晩発性障害(数か月〜数十年): 白内障、白血病・癌、慢性皮膚障害、肺線維症。 ・白内障は確定的影響(しきい線量あり、ICRPの現行値は約0.5 Gy)だが、発症時期としては晩発性。 ・発癌と遺伝的影響は確率的影響(しきい線量なしと仮定)。 ・「早期/晩発」と「確定的/確率的」は別の分類軸として整理する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。