StudyMed医師国家試験

静かに上る感染―クラミジアが卵管を閉ざすまで

第106回医師国家試験 A問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第17問

クラミジア感染症が原因となるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.不妊症
  2. b.子宮頸癌
  3. c.骨盤腹膜炎
  4. d.子宮内膜症
  5. e.尖圭コンジローマ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、性器クラミジア感染症がどんな病態を引き起こすかを問う問題だ。カギは「上行性感染」と「病原体と疾患の対応」の2つ。似た名前や、同じ性感染症の仲間に惑わされないことが大切だよ。
医学生医学生
クラミジアは日本で一番多い性感染症だと、微生物学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。しかも女性では半数以上が無症状とされる。気付かれないまま、病原体が腟・子宮頸管から奥へ奥へと広がっていくのが最大の問題なんだ。どういう順に広がるかわかるかな。
医学生医学生
子宮頸管炎から子宮内膜炎、卵管炎……その先は腹腔でしょうか。
ドクタードクター
いいね。卵管炎から卵管采を通って腹腔に波及すると骨盤腹膜炎になる。さらに上へ広がって肝臓の被膜に炎症が及ぶと肝周囲炎、Fitz-Hugh-Curtis症候群だ。これらをまとめて骨盤内炎症性疾患、PIDと呼ぶ。だから骨盤腹膜炎は正解のひとつだね。
医学生医学生
Fitz-Hugh-Curtis症候群は、若い女性の右上腹部痛で胆嚢炎と紛らわしい、と救急の実習で教わりました。
ドクタードクター
臨床ではまさにそこが落とし穴になる。では、炎症が治まったあとに何が残るだろう。
医学生医学生
卵管が癒着して詰まる……だから不妊症ですね。
ドクタードクター
正解。卵管の内腔が狭くなったり閉塞したり、周囲と癒着したりすると、卵子と精子が出会えなくなる。卵管性不妊症の代表的な原因がクラミジアなんだ。部分的な狭窄なら受精卵が卵管にとどまって、異所性妊娠のリスクも高まる。
医学生医学生
産婦人科の実習で、不妊外来の患者さんが子宮卵管造影で卵管閉塞を指摘されていました。症状がなかったのに、と驚いていたのを覚えています。
ドクタードクター
そういうケースは多いよ。不妊の検査で初めて過去の感染がわかることも珍しくない。では残りの選択肢を見ていこう。子宮頸癌はどうかな。
医学生医学生
性感染症つながりで、クラミジアも関係しそうな気がしてしまいました。
ドクタードクター
迷うのはわかるけど、子宮頸癌の主な原因は高リスク型ヒトパピローマウイルス、HPVの持続感染で、特に16型と18型が重要だ。クラミジアが直接の原因とはされていない。尖圭コンジローマも同じHPVでも低リスク型、主に6型と11型によるいぼだね。
医学生医学生
子宮内膜症は、クラミジアが起こす子宮内膜炎と名前が似ていますね。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけポイントだ。子宮内膜症は子宮内膜に似た組織が卵巣や腹膜など子宮の外にでき、エストロゲン依存性に増える病気で、感染症ではない。「炎」と「症」の1文字違いで全く別の疾患だよ。
医学生医学生
上行性感染の途中で起こる骨盤腹膜炎と、その後遺症の不妊症。HPV関連と非感染性の疾患は外す、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展知識も押さえておこう。クラミジアは細胞内でしか増えない偏性細胞内寄生菌で、細胞壁にペプチドグリカンをほとんど持たないから、β-ラクタム系は効かない。マクロライド系のアジスロマイシンやテトラサイクリン系のドキシサイクリンなどを使う。
医学生医学生
診断は抗体検査ですか。
ドクタードクター
急性期の確定診断には、子宮頸管擦過検体や初尿を用いた核酸増幅検査が主流だ。血清抗体は過去の感染も反映するので、不妊の原因検索の参考にはなるけれど、今の感染の証明には向かない。そしてパートナーの同時検査・治療が再感染防止にとても重要だよ。男性では非淋菌性尿道炎や精巣上体炎、新生児では産道感染による結膜炎や肺炎を起こすので、妊婦健診でもスクリーニングが行われている。

まとめ

性器クラミジア感染症は日本で最も多い性感染症で、女性では無症状が多く、子宮頸管炎から子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎、さらに肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)へと上行性に進展します。炎症後に残る卵管の狭窄・閉塞や癒着は、卵管性不妊症や異所性妊娠の原因となります。一方、子宮頸癌は高リスク型HPV(16・18型)、尖圭コンジローマは低リスク型HPV(6・11型)によるもので、子宮内膜症は感染症ではなく、クラミジアによる「子宮内膜炎」と混同しないことが重要です。治療はマクロライド系やテトラサイクリン系で、β-ラクタム系は無効であり、パートナーの同時治療が欠かせません。病原体と疾患の対応、そして無症状の感染が将来の妊孕性を損なうという視点は、性感染症の診療と予防啓発の基本になります。

解答・解説

正解はa, cです

性器クラミジア感染症は、Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマチス)による性感染症(STI)で、日本で最も患者数の多いSTIである。女性では感染しても自覚症状に乏しい例が多く(無症状が半数以上とされる)、気付かないまま病変が上行性に広がりやすいことが最大の問題点である。

上行性感染の経路

子宮頸管炎 → 子宮内膜炎 → 卵管炎(子宮付属器炎)→ 骨盤腹膜炎 → 肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)と、腟・子宮頸管から腹腔内へ向かって進展する。これらをまとめて骨盤内炎症性疾患(PID:pelvic inflammatory disease)と呼ぶ。

後遺症

卵管の炎症が治まった後にも、卵管内腔の狭窄・閉塞や卵管周囲の癒着が残る。その結果、卵管性不妊症や異所性妊娠(子宮外妊娠)の原因となる。 本問では、上行性感染の結果として直接生じる病態(骨盤腹膜炎)と、その後遺症(不妊症)を選べばよい。子宮頸癌と尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルス(HPV)による疾患であり、子宮内膜症は感染症ではない。病原体と疾患の対応を正しく整理しておくことが解答の鍵となる。

選択肢考察

  1. ○a.  不妊症

    クラミジアによる卵管炎が起こると、卵管の内腔が狭くなったり詰まったりし、また卵管と周囲臓器との癒着が生じる。卵子と精子が出会えず、受精卵も子宮へ運ばれなくなるため、卵管性不妊症の代表的な原因となる。卵管が部分的に狭窄した場合は受精卵が卵管にとどまり、異所性妊娠のリスクも高まる。症状が乏しいまま経過し、不妊の検査(子宮卵管造影やクラミジア抗体検査)で初めて過去の感染が判明することも多い。

  2. ×b.  子宮頸癌

    子宮頸癌の主な原因は、高リスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染である。特に16型と18型が重要で、扁平上皮癌だけでなく腺癌の発生にも関わる。クラミジア感染が子宮頸癌の直接の原因とはされていない。

  3. ○c.  骨盤腹膜炎

    クラミジアは子宮頸管から子宮内膜、卵管へと上行し、卵管采から腹腔内に波及すると骨盤腹膜炎を起こす。さらに腹腔内を上方へ広がると肝臓の被膜に炎症が及び、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)となって右上腹部痛を呈することがある。淋菌も同様の経路で骨盤腹膜炎を起こしうる。

  4. ×d.  子宮内膜症

    子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が子宮の外(卵巣、ダグラス窩、腹膜など)に存在し、エストロゲン依存性に増殖する疾患である。月経血の逆流説などが成因として考えられており、感染症ではない。クラミジアが起こすのは「子宮内膜炎」であり、名称の似た「子宮内膜症」と混同しないよう注意する。

  5. ×e.  尖圭コンジローマ

    尖圭コンジローマは、外陰部・肛門周囲などに乳頭状・鶏冠状のいぼを形成する性感染症で、原因は低リスク型HPV(主に6型と11型)である。クラミジアは原因とならない。

Chlamydia trachomatisの特徴

・細胞内でしか増殖できない偏性細胞内寄生菌である。 ・細胞壁にペプチドグリカンをほとんど持たないため、β-ラクタム系抗菌薬は有効でない。治療はマクロライド系(アジスロマイシン、クラリスロマイシン)、テトラサイクリン系(ドキシサイクリン、ミノサイクリン)、ニューキノロン系を用いる。 ・パートナーの同時検査・治療が再感染防止に重要である。

診断

子宮頸管擦過検体や初尿を用いた核酸増幅検査(NAAT)が主流である。血清抗体は過去の感染を反映するため、急性期の確定診断には向かないが、不妊症の原因検索の参考になる。

女性以外への影響

・男性:尿道炎(非淋菌性尿道炎の主な原因)、精巣上体炎。 ・新生児:産道感染による新生児結膜炎、新生児肺炎。このため妊婦健診でクラミジアのスクリーニングが行われる。

HPVの型と疾患

・高リスク型(16型、18型など):子宮頸癌、腟癌、外陰癌、肛門癌、中咽頭癌など。 ・低リスク型(6型、11型):尖圭コンジローマ、再発性呼吸器乳頭腫症。 HPVワクチンは子宮頸癌予防を主目的とし、4価・9価ワクチンは6型・11型も含むため尖圭コンジローマも予防できる。

POINT

・クラミジアは子宮頸管炎→子宮内膜炎→卵管炎→骨盤腹膜炎→肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)と上行性に進展する。 ・卵管の狭窄・閉塞・癒着により卵管性不妊症と異所性妊娠の原因となる。 ・女性の感染は無症状が多い。 ・子宮頸癌はHPV16・18型、尖圭コンジローマはHPV6・11型。 ・子宮内膜「炎」と子宮内膜「症」を混同しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。