蜂巣肺が語る「縮んで硬い肺」―肺線維症の呼吸機能を読み解く
第106回医師国家試験 A問題 第16問
国試問題にチャレンジ
胸部単純CTを別に示す。 この患者の肺機能検査所見として考えられるのはどれか。2つ選べ。

- a.A-aDO2正常
- b.拡散能低下
- c.残気量増加
- d.肺活量低下
- e.1秒率低下
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
両側下葉・胸膜直下優位の蜂巣肺はUIPパターンの典型で、特発性肺線維症などの線維化の進んだ間質性肺炎を示唆します。線維化により肺が硬くなって肺活量・全肺気量・残気量が減少する拘束性換気障害となり、肺胞壁の肥厚とガス交換面積の減少により拡散能(DLCO)が低下し、A-aDO2は開大します。気道狭窄はないため1秒率は正常〜高値に保たれ、残気量増加や1秒率低下は閉塞性換気障害(COPDなど)の所見です。拡散能は間質性肺炎の早期から低下する鋭敏な指標で、努力肺活量の推移は進行の目安となります。画像所見から病態生理を介して検査値を予測する考え方は、呼吸器疾患全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はb, dです
画像所見
胸部単純CT(肺底部レベルの横断像)では、両側肺の胸膜直下、特に背側優位に、壁の厚い数mm〜1cm程度の嚢胞が層状に集まった蜂巣肺(honeycomb lung)を認める。周囲には網状影と、線維化で引っ張られて拡張した気管支(牽引性気管支拡張)がみられる。すりガラス影は目立たない。両側下葉・胸膜直下優位の蜂巣肺は、通常型間質性肺炎(UIP)パターンの典型像であり、特発性肺線維症(IPF)などの線維化の進んだ間質性肺炎(肺線維症)と考えられる。
肺線維症で起こる呼吸機能の変化
肺線維症では、肺胞壁や小葉間隔壁などの間質に炎症と線維化が起こり、次の二つの変化が生じる。 1. 肺が硬くなる(肺コンプライアンスの低下):肺が十分に膨らまなくなるため、肺活量(VC)や全肺気量(TLC)が減少する。%肺活量(予測値に対する実測肺活量の割合)が80%未満となる拘束性換気障害を示す。 2. 肺胞壁が厚くなり、肺胞と毛細血管の接触面積も減る:酸素が肺胞から血液に移りにくくなり、一酸化炭素肺拡散能(DLCO)が低下する。換気血流比の不均等も加わってA-aDO2が開大し、特に労作時に低酸素血症が著明となる。 一方、気道の狭窄はないため1秒率(FEV1/FVC)は低下せず、むしろ線維化による肺の弾性収縮力の増大で気道が外側から引っ張られ、1秒率は正常〜高値となる。残気量も肺容量全体が減るため減少する。 したがって、本症例で考えられる肺機能検査所見は拡散能低下と肺活量低下である。
選択肢考察
- ×a. A-aDO2正常
A-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)は、肺胞内の酸素分圧(PAO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の差であり、室内気吸入下の基準値はおおむね10〜20 Torr未満(加齢とともに増大)である。肺胞低換気だけが原因の低酸素血症では正常だが、拡散障害、換気血流比不均等、シャントがあると開大する。肺線維症では肺胞壁の肥厚による拡散障害と、線維化の不均一な分布による換気血流比不均等が生じるため、A-aDO2は開大する。労作時には血液が肺毛細血管を通過する時間が短くなり、拡散障害の影響が強く現れるため、さらに開大して低酸素血症が顕著になる。したがって「正常」は誤りである。
- ○b. 拡散能低下
肺拡散能は、ガスが肺胞から肺胞壁・間質・毛細血管壁を通って赤血球内のヘモグロビンに達するまでの移動のしやすさを示し、一般に一酸化炭素を用いたDLCO(%DLCOとして予測値比で評価、80%未満を低下とすることが多い)で測定する。肺線維症では肺胞壁と間質が線維化で厚くなって拡散距離が延び、さらに肺胞構造の破壊によってガス交換に関わる面積と毛細血管床も減少するため、DLCOは低下する。DLCOは間質性肺炎の早期から低下しやすく、肺活量より鋭敏な指標であり、重症度評価や経過観察にも用いられる。
- ×c. 残気量増加
残気量(RV)は最大限に息を吐き出した後も肺内に残る空気の量である。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息では、呼気時に末梢気道が早く閉塞して空気が肺内に取り残される(エアトラッピング)ため、残気量や残気率(RV/TLC)が増加する。肺線維症では肺が硬く縮んで全ての肺気量分画が小さくなるため、残気量はむしろ減少する。
- ○d. 肺活量低下
肺線維症では、線維化により肺が硬くなり(コンプライアンス低下)膨らみにくくなるため、最大吸気から最大呼気までに出し入れできる空気量である肺活量が低下する。%肺活量が80%未満となる拘束性換気障害の典型である。全肺気量や機能的残気量も減少する。努力肺活量(FVC)の低下の程度は重症度や予後と関連し、特発性肺線維症では経時的なFVCの低下が病勢進行の指標として重視されている。
- ×e. 1秒率低下
1秒率(FEV1/FVC、FEV1%)は、努力呼気で最初の1秒間に吐き出せる量の努力肺活量に対する割合で、70%未満が閉塞性換気障害の基準である。COPDや気管支喘息など気道が狭くなる疾患で低下する。肺線維症では気道自体の狭窄はなく、線維化による肺の弾性収縮力の増大で気道が外側に引っ張られて開存しやすくなるため、FEV1とFVCがともに減少しても比率である1秒率は保たれ、正常〜高値を示す。
換気障害の分類
・%肺活量80%以上かつ1秒率70%以上:正常 ・%肺活量80%未満かつ1秒率70%以上:拘束性換気障害(間質性肺炎・肺線維症、じん肺、胸郭変形、神経筋疾患、胸膜肥厚など) ・%肺活量80%以上かつ1秒率70%未満:閉塞性換気障害(COPD、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎など) ・両者を満たす:混合性換気障害
肺線維症(間質性肺炎)とCOPDの比較
・肺活量・全肺気量:肺線維症では低下、COPDでは正常〜増加(全肺気量は増加しやすい) ・残気量:肺線維症では低下、COPDでは増加 ・1秒率:肺線維症では正常〜高値、COPDでは低下 ・拡散能:肺線維症では低下、COPD(特に肺気腫優位型)でも肺胞壁破壊により低下 ・肺コンプライアンス:肺線維症では低下、肺気腫では増加 ・A-aDO2:いずれも開大しうる
特発性肺線維症(IPF)の要点
・特発性間質性肺炎の中で最も頻度が高く、高齢男性・喫煙者に多い。 ・症状:乾性咳嗽、労作時呼吸困難。身体所見では両側肺底部の捻髪音(fine crackles、ベルクロ音)、ばち指がみられる。 ・検査:血清KL-6、SP-D、SP-Aの上昇。CTでは両側下葉・胸膜直下優位の網状影と蜂巣肺(UIPパターン)。 ・経過:慢性進行性で予後不良であり、急性増悪を起こすと致死的となりうる。肺癌の合併も多い。 ・治療:抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)により肺活量の低下速度を抑える。低酸素血症には在宅酸素療法を行い、適応があれば肺移植を検討する。
POINT
・蜂巣肺(両側下葉・胸膜直下優位)→ UIPパターン、肺線維症を考える。 ・肺線維症の呼吸機能:拘束性換気障害(肺活量・全肺気量・残気量の低下、%肺活量80%未満)、拡散能(DLCO)低下、A-aDO2開大、1秒率は正常〜高値。 ・残気量増加と1秒率低下は閉塞性換気障害(COPDなど)の所見である。 ・拡散能は間質性肺炎の早期から低下しやすい鋭敏な指標である。
