そのけいれん、薬は要る?―West症候群のACTHとLennox-Gastaut症候群のクロナゼパム
第106回医師国家試験 A問題 第18問
国試問題にチャレンジ
疾患と治療薬の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.West症候群 ―― ACTH
- b.憤怒けいれん ―― バルプロ酸ナトリウム
- c.複雑部分発作 ―― ビタミンB6
- d.単純型熱性けいれん ―― フェニトイン
- e.Lennox-Gastaut症候群 ―― クロナゼパム
対話形式の解説
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ドクターまとめ
小児のけいれん性疾患は、まずてんかん性か非てんかん性かを分けて考えると整理しやすくなります。West症候群はてんかん性スパズム・ヒプスアリスミア・発達退行を三主徴とし、ACTH療法が治療の中心で、Lennox-Gastaut症候群は多彩な発作型と遅棘徐波複合を示し、バルプロ酸やクロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬が用いられます。複雑部分発作(焦点意識減損発作)にはカルバマゼピンなどを使い、ビタミンB6はWest症候群などに用いる薬です。憤怒けいれんや単純型熱性けいれんは良性の非てんかん性発作で、抗てんかん薬の継続投与は不要であり、保護者への説明が大切です。疾患ごとの特異的治療と「必要のない薬を使わない」原則をセットで理解することが、小児神経の診療判断の基礎になります。
解答・解説
正解はa, eです
小児期のけいれん性疾患は、大きく「てんかん性」と「非てんかん性」に分けて考えると整理しやすい。
てんかん性
脳の神経細胞の過剰な同期性放電によって発作が繰り返し起こるもので、脳波にてんかん性放電がみられ、抗てんかん薬などの治療対象となる。本問ではWest症候群、複雑部分発作、Lennox-Gastaut症候群が該当する。特にWest症候群とLennox-Gastaut症候群は、発作そのものに加えて発達の停滞・退行を来す「発達性てんかん性脳症」の代表であり、それぞれに特徴的な治療がある。
非てんかん性
憤怒けいれん(泣き入りひきつけ)や単純型熱性けいれんは、見た目はけいれん発作でも、てんかんとは異なり予後良好で、原則として抗てんかん薬の継続投与は必要ない。 本問は、各疾患に対して標準的に用いられる治療を知っているかを問うている。「非てんかん性の良性疾患に抗てんかん薬を長期投与しない」という原則と、「てんかん症候群ごとの第一選択薬・特異的治療」の知識を組み合わせて判断する。
選択肢考察
- ○a. West症候群 ―― ACTH
West症候群(点頭てんかん)は、主に乳児期(生後3〜11か月頃に多い)に発症し、①てんかん性スパズム(頭部前屈・四肢の屈曲や伸展を一瞬起こし、それを数秒〜数十秒おきに繰り返すシリーズ形成)、②脳波上のヒプスアリスミア(高振幅の徐波と棘波が無秩序に混在する所見)、③精神運動発達の停止・退行、を三主徴とする。治療の中心はACTH(副腎皮質刺激ホルモン)療法で、スパズムの消失とヒプスアリスミアの改善が期待できる。ACTH療法では高血圧、感染症、電解質異常、脳の萎縮様変化(可逆性)、心筋肥大などの副作用に注意が必要である。その他、ビタミンB6大量療法、バルプロ酸、ゾニサミド、ビガバトリン(特に結節性硬化症に伴う場合に有効)が用いられる。
- ×b. 憤怒けいれん ―― バルプロ酸ナトリウム
憤怒けいれん(泣き入りひきつけ、息止め発作)は、乳幼児が痛みや怒りなどをきっかけに激しく泣き、呼気の状態で呼吸が止まってチアノーゼや顔面蒼白、意識消失、ときに全身の硬直・けいれんを起こすものである。生後6か月〜2歳頃に多く、5〜6歳頃までに自然に消失する。発作は低酸素や迷走神経反射による脳血流の一時的な低下によるもので、てんかんではない。脳波にてんかん性放電はなく、抗てんかん薬は不要である。治療の基本は、良性の病態であることを保護者に説明し、安心してもらうことである。鉄欠乏性貧血を伴う例では鉄剤で発作が減ることがある。
- ×c. 複雑部分発作 ―― ビタミンB6
複雑部分発作は、脳の一部から始まる部分発作(焦点発作)のうち意識障害を伴うもので、現在の国際抗てんかん連盟(ILAE)分類では「焦点意識減損発作」と呼ばれる。動作停止や一点凝視、口をもぐもぐさせる・手をまさぐるといった自動症を伴うことが多く、側頭葉てんかんで典型的にみられる。部分発作の治療薬としてはカルバマゼピンが古くから第一選択とされ、ラモトリギン、レベチラセタム、ゾニサミドなども用いられる。ビタミンB6はWest症候群の治療やビタミンB6依存性てんかんに用いられるもので、複雑部分発作の標準治療ではない。
- ×d. 単純型熱性けいれん ―― フェニトイン
熱性けいれんは、主に生後6か月〜5歳の乳幼児に38℃以上の発熱に伴って起こるけいれんで、髄膜炎・脳炎などの中枢神経感染症や代謝異常など明らかな原因がないものをいう。日本では小児の7〜8%程度が経験するとされ、小児のけいれん性疾患で最も多い。単純型(全身性・左右対称の発作で、15分未満で終わり、24時間以内に反復しない)は予後良好で、特別な治療は通常不要である。再発リスクが高い例などに限って、発熱時のジアゼパム坐剤による予防投与が検討される程度である。フェニトインには熱性けいれんの再発予防効果はなく、用いない。
- ○e. Lennox-Gastaut症候群 ―― クロナゼパム
Lennox-Gastaut症候群は、主に1〜8歳頃(多くは3〜5歳)に発症する難治性の発達性てんかん性脳症である。強直発作(特に睡眠中)、非定型欠神発作、脱力発作など複数の発作型をもち、脳波では覚醒時の全般性遅棘徐波複合(2.5Hz未満)、睡眠時の速律動がみられ、知的障害を伴う。West症候群から移行する例も少なくない。治療にはバルプロ酸、クロナゼパムやクロバザムなどのベンゾジアゼピン系薬、ラモトリギン、ルフィナミド、トピラマートなどが用いられ、薬物抵抗性の場合はケトン食療法や脳梁離断術も検討される。クロナゼパムは本症候群に用いられる薬剤として正しい組合せである。
小児の主なてんかん症候群と治療の整理
・West症候群:乳児期発症、てんかん性スパズム、ヒプスアリスミア、発達退行。ACTH、ビタミンB6、ビガバトリン、バルプロ酸、ゾニサミド。 ・Lennox-Gastaut症候群:幼児期発症、強直発作・非定型欠神・脱力発作、遅棘徐波複合。バルプロ酸、ベンゾジアゼピン系(クロナゼパム、クロバザム)、ラモトリギン、ルフィナミド、ケトン食、脳梁離断術。 ・小児欠神てんかん:学童期の女児に多い、数秒〜十数秒の意識消失、過呼吸で誘発、3Hz棘徐波複合。エトスクシミド、バルプロ酸。 ・中心・側頭部に棘波をもつ自然終息性てんかん(旧称:中心側頭部棘波を示す良性小児てんかん):睡眠中の顔面・口周囲の焦点発作。思春期までに自然に治まる。 ・若年ミオクロニーてんかん:思春期発症、起床後のミオクロニー発作。バルプロ酸、レベチラセタム。
発作型別の第一選択薬(原則)
・焦点発作(部分発作):カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタムなど。 ・全般発作:バルプロ酸が代表。 ・欠神発作ではカルバマゼピンやフェニトインは発作を悪化させることがあるので避ける。
非てんかん性発作の見分け方
憤怒けいれん:必ず啼泣などの誘因が先行し、脳波は正常。 熱性けいれん:発熱時のみに起こり、発熱のない時期には発作がない。ただし、複雑型(焦点性発作、15分以上持続、24時間以内の反復)やてんかんの家族歴、発達遅滞がある場合は、将来のてんかん発症リスクが高くなる。
POINT
・West症候群(点頭てんかん)=てんかん性スパズム+ヒプスアリスミア+発達退行→ACTH療法が代表的治療。 ・Lennox-Gastaut症候群=多彩な発作型+遅棘徐波複合+知的障害→バルプロ酸、クロナゼパムなど。 ・複雑部分発作(焦点意識減損発作)の第一選択はカルバマゼピンなど。 ・憤怒けいれん、単純型熱性けいれんは非てんかん性で良性→抗てんかん薬の継続投与は不要。
