StudyMed医師国家試験

水を飲みすぎるとADHは黙る―浸透圧と循環血液量で読み解くバソプレシンの動き

第105回医師国家試験 I問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第105回 I問題 第6問

血漿ADHが低値を示すのはどれか。

  1. a.脱水症
  2. b.SIADH
  3. c.腎性尿崩症
  4. d.心因性多飲症
  5. e.非代償性肝硬変

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は抗利尿ホルモン、つまりADH(バソプレシン)の分泌調節がテーマだ。病名を丸暗記するより、「ADHを出させる刺激は何か」を押さえて、それぞれの病態でその刺激が強まるのか弱まるのかを考えると解きやすいよ。まず、ADHはどこで作られて、何をするホルモンだったかな。
医学生医学生
視床下部で作られて下垂体後葉から出るホルモンです。腎臓の集合管で水を再吸収させて、尿を濃くします。
ドクタードクター
その通り。集合管のV2受容体に結合すると、水チャネルのアクアポリン2が管腔側の膜に移動して、水が体内に戻される。では、分泌を増やす刺激は何だろう。
医学生医学生
生理学の講義では、血漿浸透圧が上がったときと習いました。
ドクタードクター
正解、それが一つ目だね。浸透圧はわずか1〜2%の変化にも鋭敏に反応して、普段の調節の主役になっている。もう一つが循環血液量や血圧の低下。左房や大血管の圧受容器が感知するもので、感度は低くて10%前後の低下でようやく働くけど、いったん働くとかなり強力で、浸透圧による抑制にも打ち勝つことがあるんだ。
医学生医学生
ということは、ADHが低くなるのは浸透圧が下がっていて、しかも血液量が足りている状態ですね。
ドクタードクター
そう、それが考え方の軸になる。ADHをそもそも作れない中枢性尿崩症も低値になるけど、今回の選択肢にはない。では脱水症から考えてみよう。
医学生医学生
水が抜けて浸透圧が上がりますし、血液量も減るので、両方の刺激でADHは上がると思います。
ドクタードクター
完璧だね。ADHが水を引き留めようと頑張って、尿は濃く少なくなる。次はSIADHだ。
医学生医学生
名前に「不適切分泌」とあるので高値、という覚え方をしていました。
ドクタードクター
結論は合っているけど、本質を一歩深めておこう。SIADHは肺小細胞癌による異所性産生や中枢神経疾患、肺疾患、薬剤などで、ADHが調節を受けずに出続ける病態だ。低ナトリウム血症で浸透圧が低いのだから本来はADHがほぼ出なくなるはずなのに、抑制されずに検出される。その点が「不適切」なんだ。絶対値としては正常範囲のこともあるので、「高い」より「抑制されていない」と捉えるのが正確だよ。
医学生医学生
なるほど、値そのものより状況との比較で判断するんですね。腎性尿崩症は、尿崩症という名前なのでADHが低いのかと一瞬思ってしまいました。
ドクタードクター
そこはよくある引っかけだね。腎性尿崩症はADHは出ているのに集合管が反応しない病態だ。原因は先天性のV2受容体やアクアポリン2の遺伝子異常、後天性のリチウム製剤、高カルシウム血症、低カリウム血症など。尿を濃縮できずに水が失われて浸透圧が上がるから、ADHは代償的にむしろ高くなる。デスモプレシンを投与しても尿が濃くならない点で中枢性と区別するんだ。
医学生医学生
非代償性肝硬変は、腹水や浮腫で水が余っているように見えるので、ADHは抑えられそうな気がします。
ドクタードクター
そこが最大の落とし穴だね。体全体の細胞外液はたしかに増えている。でも内臓の血管が一酸化窒素などで拡張し、低アルブミン血症で水が血管外に漏れるため、動脈系を満たしている血液、つまり有効循環血液量は不足しているんだ。圧受容器はこれを「容量不足」と感知して、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系や交感神経と一緒にADHを増やす。だから肝硬変では希釈性の低ナトリウム血症が起きやすい。
医学生医学生
消化器内科の実習で肝硬変の患者さんのナトリウムが低かったのは、そういう理由だったんですね。残る心因性多飲症は、水を飲みすぎて浸透圧が下がるので、ADHが生理的に抑えられるということでしょうか。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。精神的な要因などで水を過剰にとると体液が薄まり、浸透圧受容器を介してADHが抑制される。尿は薄く大量になるけど、これは余分な水を捨てるための正常な反応なんだよ。
医学生医学生
多尿という点では尿崩症と似ていますが、どう見分けるんですか。
ドクタードクター
水制限試験が鍵になる。心因性多飲症では水を止めると浸透圧が上がってADHが出て、尿が濃縮される。中枢性尿崩症ではADHが上がらずデスモプレシンで初めて濃縮され、腎性尿崩症ではどちらでも濃縮されない。安静時の血清ナトリウムも、多飲症ではやや低め、尿崩症では高めになりやすいのが手がかりだ。ただ、長く多飲が続くと腎髄質の浸透圧勾配が薄まって、一時的に濃縮力が落ちていることがあるので注意しよう。
医学生医学生
精神科の実習で、統合失調症の患者さんの体重を一日に何度も測っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。統合失調症の患者さんなどで大量飲水が続くと、腎臓の水排泄能を超えて水中毒、つまり重い低ナトリウム血症になり、頭痛や嘔吐、痙攣、意識障害を起こすことがある。体重の日内変動で飲水量を把握するのは、その予防のためなんだ。それから、ADHによる水の貯留はSIADHや心不全、肝硬変の低ナトリウム血症の主な原因の一つで、V2受容体拮抗薬のトルバプタンはそこを狙った薬だということも押さえておこう。

まとめ

ADHは血漿浸透圧の上昇(鋭敏な刺激)と循環血液量の低下(感度は低いが強力な刺激)によって分泌が増え、集合管のV2受容体を介して水を再吸収させます。心因性多飲症では過剰な飲水で浸透圧が下がり、ADHが生理的に抑制されて低値となります。一方、脱水症は浸透圧上昇と容量低下で、腎性尿崩症は濃縮障害への代償で、非代償性肝硬変は有効循環血液量の低下でADHが高値となり、SIADHは低浸透圧にもかかわらず分泌が抑制されない「不適切な分泌」です。多尿の鑑別では水制限試験とデスモプレシンへの反応で心因性多飲症と中枢性・腎性尿崩症を見分けます。ADHを動かす「浸透圧」と「容量」という二つの刺激で考える習慣は、低ナトリウム血症や多尿の診療全般に役立ちます。

解答・解説

正解はdです

テーマ

抗利尿ホルモン(ADH、別名アルギニンバソプレシン〈AVP〉)の分泌調節を理解し、各病態で血漿ADHがどう動くかを予測できるかを問う問題である。

ADHの基本

ADHは視床下部(視索上核・室傍核)で産生され、下垂体後葉から分泌される。腎集合管のV2受容体に結合し、水チャネルであるアクアポリン2(AQP2)を管腔側膜へ移動させて水の再吸収を促し、尿を濃縮する。

分泌を調節する二つの刺激

1. 浸透圧刺激:血漿浸透圧が上がるとADH分泌が増え、下がると抑制される。わずか1〜2%程度の浸透圧変化にも鋭敏に反応する、平常時の主な調節系である。 2. 容量(圧)刺激:循環血液量や血圧が低下すると、左房・大血管の圧受容器を介してADH分泌が増える。感度は浸透圧刺激より低く、おおむね10%前後以上の低下で作動するが、いったん働くと強力で、浸透圧による抑制に打ち勝つこともある。

考え方

血漿ADHが低くなるのは、「血漿浸透圧が低下し、かつ循環血液量が保たれている(むしろ過剰な)状態」、あるいはADHを作れない状態(中枢性尿崩症)である。選択肢の中で、水の過剰摂取により血漿浸透圧が下がり、ADH分泌が生理的に抑制されるのは心因性多飲症である。他の選択肢はいずれも、浸透圧刺激・容量刺激・腎の反応低下に対する代償・自律的分泌のいずれかの理由でADHが高値(または不適切に保たれた値)となる。

選択肢考察

  1. ×a.  脱水症

    脱水(とくに水分の喪失が主体の高張性脱水)では血漿浸透圧が上昇し、浸透圧受容器を介してADH分泌が増加する。加えて循環血液量の減少も容量刺激としてADH分泌を促す。ADHは水を再吸収して体液を保持する方向に働き、尿は濃縮され尿量は減少する。血漿ADHは高値となる。

  2. ×b.  SIADH

    SIADH(syndrome of inappropriate secretion of ADH:ADH不適合分泌症候群)は、肺小細胞癌などの腫瘍による異所性産生、中枢神経疾患、肺疾患、薬剤などにより、ADHが生理的な調節を受けずに分泌され続ける病態である。本来なら低ナトリウム血症・低浸透圧でADHは抑制されるはずなのに、血漿ADHが抑制されず測定感度以上に検出される(絶対値としては正常範囲のこともある)点が本質である。その結果、水が貯留して希釈性の低ナトリウム血症となり、尿は不適切に濃縮される。血漿ADHが低値を示す病態ではない。

  3. ×c.  腎性尿崩症

    腎性尿崩症は、ADHは十分に分泌されているのに腎集合管が反応しない病態である。先天性ではV2受容体遺伝子(X連鎖性)やAQP2遺伝子の異常、後天性ではリチウム製剤、高カルシウム血症、低カリウム血症などが原因となる。尿を濃縮できず低張尿の多尿となり、水分が失われて血漿浸透圧が上昇するため、ADH分泌は代償的に亢進し、血漿ADHは高値となる。ADH(デスモプレシン)を投与しても尿浸透圧が上がらない点で中枢性尿崩症と区別される。

  4. ○d.  心因性多飲症

    心因性多飲症(一次性多飲症)は、精神的要因などにより水を過剰に摂取する状態である。取り込んだ水で体液が希釈されて血漿浸透圧が低下(正常下限付近〜低値)し、浸透圧受容器を介したフィードバックでADH分泌が抑制される。そのため血漿ADHは低値となり、尿は希釈され低張の多尿となる。これは余分な水を排泄するための正常な生理反応である。水制限試験を行うと、水分摂取が止まって浸透圧が上がるにつれADHが分泌され、尿が濃縮される点で尿崩症と鑑別できる。

  5. ×e.  非代償性肝硬変

    非代償性肝硬変では、腹水・浮腫によって体全体の細胞外液量はむしろ増えている。しかし、内臓血管の拡張(一酸化窒素などによる)と低アルブミン血症による血管外への水分漏出のため、動脈系を満たしている血液量(有効循環血液量)は不足した状態になる。これを圧受容器が「容量不足」と感知し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系や交感神経とともにADH分泌が亢進する。血漿ADHは高値となり、水の再吸収が増えて希釈性の低ナトリウム血症を生じやすい。

血漿ADHと病態の整理

・ADH低値:中枢性尿崩症(ADHを作れない)、心因性多飲症(浸透圧低下による生理的抑制) ・ADH高値(代償性・生理的):脱水、腎性尿崩症、有効循環血液量が減少する病態(心不全、非代償性肝硬変、ネフローゼ症候群など) ・ADH不適切分泌:SIADH(低浸透圧にもかかわらず分泌が抑制されない)

多尿の鑑別(水制限試験・高張食塩水負荷試験)

・中枢性尿崩症:水制限・高張食塩水負荷でもADHが上がらず、尿は濃縮されない。デスモプレシン投与で尿が濃縮される。 ・腎性尿崩症:ADHは高値だが尿は濃縮されない。デスモプレシンにも反応しない。 ・心因性多飲症:水制限により浸透圧が上がるとADHが分泌され、尿が濃縮される。安静時の血清ナトリウムはやや低めのことが多い(尿崩症では高めになりやすい)。 ※長期の多飲では腎髄質の浸透圧勾配が薄まり(medullary washout)、一時的に濃縮力が落ちていることがある。

心因性多飲症の注意点

統合失調症患者などで大量の飲水が続くと、腎の水排泄能力を超えて水中毒(重度の低ナトリウム血症)となり、頭痛、嘔吐、痙攣、意識障害をきたすことがある。

低ナトリウム血症の病態との関連

ADHの作用による水の貯留は、SIADH、心不全、肝硬変などにおける低ナトリウム血症の主因の一つである。V2受容体拮抗薬(トルバプタン)はこの作用を遮断して水の排泄を促す薬である。

POINT

・ADH分泌の主な刺激は血漿浸透圧の上昇(鋭敏)と循環血液量の低下(約10%前後以上で作動、強力)。 ・ADH低値:心因性多飲症、中枢性尿崩症。 ・ADH高値:脱水、腎性尿崩症(代償性)、心不全・肝硬変(有効循環血液量低下)。 ・SIADHは低浸透圧でもADHが抑制されない「不適切な分泌」。 ・心因性多飲症は水制限で尿が濃縮される点で尿崩症と鑑別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。