痛む水疱、崩れて潰瘍に―外陰病変を「かたち」で見分ける性器ヘルペス
第105回医師国家試験 I問題 第5問
国試問題にチャレンジ
外陰の潰瘍をきたすのはどれか。
- a.Bowen病
- b.カンジダ症
- c.性器ヘルペス
- d.トリコモナス症
- e.尖圭コンジローマ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
外陰の病変は、上皮を越えて欠損する潰瘍、表皮内にとどまるびらん、組織が盛り上がる増殖性病変、帯下が主体の炎症に分けて整理すると鑑別しやすくなります。性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルスによる性感染症で、集簇した小水疱が破れて有痛性の浅い潰瘍が多発し、仙骨神経節への潜伏から再発を繰り返すのが特徴です。カンジダ症やトリコモナス症は帯下とかゆみが主体、尖圭コンジローマは乳頭状のいぼ、Bowen病は上皮内癌として局面をつくり、いずれも典型的には潰瘍を形成しません。外陰潰瘍の鑑別には梅毒の硬性下疳(無痛性)、軟性下疳、Behçet病、Lipschütz潰瘍、外陰癌も含まれ、治療では抗ヘルペスウイルス薬の内服や再発抑制療法、分娩時の病変に対する帝王切開の考慮が重要です。病変の「かたち」と痛みの有無から疾患を絞る考え方は、産婦人科・皮膚科・感染症診療に共通する基本となります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
外陰部の病変を「どのような見た目(皮疹の形態)を呈するか」で整理できているかを問う問題である。
皮疹の用語の確認
・びらん:表皮(上皮)の範囲にとどまる欠損。瘢痕を残さず治る。 ・潰瘍:上皮を越えて真皮(上皮下組織)に達する欠損。深い組織欠損で、治癒後に瘢痕を残しうる。 ・腫瘤・乳頭状病変:組織が増殖して盛り上がった病変。
考え方
選択肢を病変の形態で分類すると、 ・水疱が破れて浅い潰瘍を多発させるもの:性器ヘルペス ・発赤・腫脹・びらんや帯下が主体のもの:カンジダ症、トリコモナス症 ・盛り上がった増殖性病変(局面・腫瘤)を作るもの:Bowen病、尖圭コンジローマ となる。性感染症(STI)のうち外陰に潰瘍をつくる代表は性器ヘルペスであり、ほかに梅毒の硬性下疳、軟性下疳が知られる。日本の日常診療で最も頻度が高く、試験でも最重要なのは性器ヘルペスである。
選択肢考察
- ×a. Bowen病
Bowen病は表皮内にとどまる扁平上皮癌(上皮内癌)で、外陰では境界明瞭で鱗屑を伴う紅色〜褐色の局面や、わずかに隆起した病変として現れる。外陰の病変はヒトパピローマウイルス(HPV)感染との関連が強く、現在は外陰上皮内腫瘍(VIN)、さらに近年の分類では外陰の高度扁平上皮内病変(HSIL)に含めて扱われる。上皮内にとどまる病変であり、典型的には潰瘍を形成しない。浸潤癌(外陰癌)に進行すると潰瘍を伴うことがある。
- ×b. カンジダ症
外陰腟カンジダ症は主にCandida albicansによる真菌感染で、抗菌薬投与・妊娠・糖尿病・ステロイド使用などが誘因となる。強い瘙痒感と、酒粕状・カッテージチーズ状の白色帯下が特徴である。外陰には発赤・腫脹・湿潤、掻破によるびらんがみられ、慢性化すると皮膚の肥厚や色素沈着、亀裂(ひびわれ)を生じることがあるが、典型的な潰瘍性病変は形成しない。
- ○c. 性器ヘルペス
性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(HSV)1型または2型の感染による性感染症である。外陰部に小水疱が集簇して生じ、それが破れて浅い有痛性の潰瘍(びらん〜潰瘍)が多発する。初感染(初発)では強い疼痛、発熱、鼠径リンパ節腫脹を伴い、排尿痛のため尿閉を起こすこともある。ウイルスは仙骨神経節に潜伏し、疲労・月経・免疫低下などを契機に再活性化して再発を繰り返すが、再発時の症状は初発より軽いことが多い。外陰に潰瘍をきたす疾患として最も代表的である。
- ×d. トリコモナス症
腟トリコモナス症は原虫Trichomonas vaginalisによる性感染症である。女性では黄緑色の泡沫状帯下と悪臭、強い瘙痒感が主症状で、腟壁や子宮腟部に点状出血(いちご状子宮頸部)を認めることがある。男性の尿道などへの感染は無症状のことが多く、パートナーの治療をしないと再感染(ピンポン感染)を繰り返すため、パートナーの同時治療が必要である。治療はメトロニダゾールなどのニトロイミダゾール系薬。外陰に潰瘍はつくらない。
- ×e. 尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは主に低リスク型HPV(6型・11型)の性感染による良性の増殖性病変で、外陰・腟・肛門周囲などに乳頭状〜鶏冠状(カリフラワー状)のいぼを形成する。色調は淡紅色〜褐色調が多い。盛り上がった腫瘤が主体であり、潰瘍は形成しない。治療はイミキモドクリームの外用、凍結療法、レーザー蒸散、外科的切除などで、HPVワクチン(4価・9価)で予防できる。
外陰に潰瘍をきたす主な疾患
・感染症:性器ヘルペス(有痛性、多発)、梅毒の硬性下疳(通常は無痛性、単発で硬結を伴う)、軟性下疳(有痛性、日本ではまれ) ・非感染性:Behçet病(有痛性の外陰部潰瘍は主症状の一つ)、急性外陰潰瘍(Lipschütz潰瘍:若年女性に急性発症する有痛性潰瘍) ・腫瘍:外陰癌(扁平上皮癌が大部分)の進行例 ※外陰Paget病は湿疹に似た紅斑・びらん・白色局面を呈し、びらんが目立つため潰瘍性病変と並べて鑑別に挙げられることがある。
性器ヘルペスの診断
典型的な臨床像(有痛性の集簇した水疱・浅い潰瘍)に加え、病変部の擦過検体からのウイルス抗原検出(イムノクロマト法、蛍光抗体法)、PCR法によるウイルス遺伝子の検出、ウイルス分離が行われる。Tzanck試験では多核巨細胞がみられる。
性器ヘルペスの治療
抗ヘルペスウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルなど)の内服が基本で、重症例では入院のうえアシクロビルの点滴静注を行う。外用薬は補助的である。再発を頻回に繰り返す例には再発抑制療法(バラシクロビルの継続内服)がある。妊娠末期(分娩時)に外陰に病変がある場合は、新生児ヘルペス予防のため帝王切開が考慮される。
帯下による鑑別
・カンジダ:酒粕状・カッテージチーズ状の白色帯下、強い瘙痒 ・トリコモナス:黄緑色泡沫状帯下、悪臭、瘙痒 ・細菌性腟症:灰白色で均質、魚臭(アミン臭)
POINT
・外陰潰瘍の代表は性器ヘルペス(HSV-1/2):集簇する水疱→有痛性の浅い潰瘍、再発を繰り返す。 ・他の外陰潰瘍:梅毒の硬性下疳(無痛性)、軟性下疳、Behçet病、Lipschütz潰瘍、外陰癌。 ・カンジダ症・トリコモナス症は帯下と瘙痒が主体で潰瘍はつくらない。 ・尖圭コンジローマ(HPV 6・11型)は乳頭状〜鶏冠状の増殖性病変。 ・Bowen病は上皮内癌で局面を形成し、典型的には潰瘍をつくらない。
