StudyMed医師国家試験

左下腹部痛は大腸だけじゃない―子宮頸部移動痛とソーセージ状の影が示す卵管留膿症

第119回医師国家試験 D問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第119回 D問題 第38問

47歳の女性(2妊2産)。下腹部痛と発熱を主訴に来院した。2日前から38℃台の発熱があり,昨日から下腹部痛も出現したため受診した。最終月経は2週間前。38歳時に右卵巣子宮内膜症性囊胞の診断で,右付属器摘出術を受けた。3年前に離婚し,現在は別のパートナーと同居している。身長155cm,体重52kg。体温38.3℃。脈拍84/分,整。血圧120/80mmHg。腹部は平坦,腸雑音は異常を認めない。触診で下腹部は硬く,左下腹部に圧痛と反跳痛を認める。内診では,子宮頸部の移動痛を認める。妊娠反応陰性。血液所見:赤血球430万,Hb 12.9g/dL,Ht 38%,白血球16,500(桿状核好中球12%,分葉核好中球75%,好酸球1%,単球3%,リンパ球8%),血小板33万。血液生化学所見:AST 25U/L,ALT 10U/L,ALP 110U/L(基準38~113),アミラーゼ49U/L(基準44~132)。CRP 9.5mg/dL。経腟超音波検査で左付属器領域に径6×3cmの2房性腫瘤を認める。受診時の腹部造影CTを下に示す。  診断はどれか。

第119回 D問題 第38問の問題画像
  1. a.便秘
  2. b.大腸癌
  3. c.卵巣癌
  4. d.大腸憩室炎
  5. e.卵管留膿症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、発熱と下腹部痛を訴える女性で、婦人科疾患と消化器疾患をどう見分けるかがテーマだ。注目点は、既往の手術で残っている付属器はどちらか、性的活動の背景、内診所見、そして画像での病変の形。この4つを手がかりに考えていこう。
医学生医学生
左下腹部痛と発熱なので、最初は大腸憩室炎を思い浮かべました。
ドクタードクター
自然な発想だね。S状結腸の憩室炎は左下腹部痛を起こすから、重要な鑑別になる。でも女性の有熱性下腹部痛では、婦人科疾患を必ず並行して考える必要がある。まず最初に除外すべきものは何かな。
医学生医学生
妊娠関連、特に異所性妊娠です。妊娠反応陰性なので否定できますね。貧血もないので出血性の病気も考えにくいです。
ドクタードクター
その通り。次に内診所見の子宮頸部移動痛。これは子宮頸部を動かすと痛む所見で、骨盤内に炎症があることを強く示す。腸の炎症ではふつう説明しにくい所見なんだ。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で内診を見学したとき、先生が「移動痛があればまずPIDを考える」と言っていました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。骨盤内炎症性疾患、つまりPIDは、腟や子宮頸管の病原体が子宮内膜、卵管、骨盤腹膜へと上行して起こる感染症の総称だ。新しいパートナーがいるという社会歴は、性感染症を背景とした上行性感染のリスクを示唆している。好中球優位の白血球増多とCRP高値も、細菌感染として矛盾しない。
医学生医学生
でもPIDって若い人の病気のイメージがありました。40代後半でも起こるんですね。
ドクタードクター
若年は確かに危険因子の一つだけど、新しいパートナーや複数のパートナーがいれば年齢に関係なく起こりうる。年齢だけで除外しないことが大事だよ。では画像だ。造影CTでは、左の付属器領域に内部が液体濃度の病変があり、壁が厚く造影され、隔壁で2つの房に分かれ、細長く屈曲した管状、いわばソーセージ状に見える。
医学生医学生
超音波で2房性と言われると卵巣の多房性嚢胞かと思いましたが、管状というのがポイントなんですね。
ドクタードクター
そう。卵管は曲がりくねって走るから、膿がたまって拡張すると屈曲した管になり、断面では不完全な隔壁を持つ多房性に見える。炎症で卵管采が閉塞し、内腔に膿がたまったものが卵管留膿症だ。右付属器はすでに摘出されているから、残っている左側に病変があることとも合う。
医学生医学生
炎症が卵巣まで及んで一塊になると、卵管・卵巣膿瘍になるんでしたっけ。
ドクタードクター
よく知っているね。では他の選択肢も確認しよう。卵巣癌は年齢的には気になるし、子宮内膜症性嚢胞から明細胞癌や類内膜癌が出ることもある。ただ、悪性を疑う画像の特徴は嚢胞壁から突出する充実部分や壁在結節、腹水や腹膜播種で、今回はそれがない。急な発熱と強い炎症反応も、腫瘍より感染症らしい経過だ。
医学生医学生
大腸憩室炎はCTで区別するんですね。
ドクタードクター
そう。憩室炎なら腸管壁から突出する憩室と、その周りの脂肪組織の炎症、限局した腸管壁の肥厚が見えるはずだが、今回はそれがなく、病変の主座は付属器領域にある。大腸癌も、腸管壁の不整な肥厚や腫瘤、穿孔を示す遊離ガスはなく、貧血もない。便秘は、それだけで高熱や腹膜刺激症状、強い炎症反応を起こすことはないね。
医学生医学生
症状だけだと憩室炎と区別しにくいけれど、子宮頸部移動痛と画像の形と場所で卵管留膿症に絞れる、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点だ。PIDの起炎菌はクラミジアと淋菌が代表で、嫌気性菌などとの混合感染も多いから、これらを広くカバーする抗菌薬を使う。膿瘍形成例では入院して点滴で治療し、効かない場合や膿瘍が大きい場合、破裂が疑われる場合にはドレナージや卵管切除などの外科的治療を考える。
医学生医学生
性感染症が関わっているなら、パートナーの検査や治療も必要ですよね。
ドクタードクター
そう、そこを忘れると再感染を繰り返す。それからPIDの後遺症として卵管性不妊や異所性妊娠のリスク上昇、慢性骨盤痛がある。クラミジアが肝臓表面に及んで右季肋部痛を起こすFitz-Hugh-Curtis症候群も、関連知識として覚えておこう。

まとめ

女性の発熱を伴う下腹部痛では、消化器疾患と並行して婦人科疾患を鑑別し、まず妊娠反応で異所性妊娠を除外します。性的活動の背景があり、子宮頸部移動痛、好中球優位の白血球増多とCRP高値がそろえば骨盤内炎症性疾患を考え、付属器領域に厚い造影壁と隔壁を持つ屈曲した管状(ソーセージ状)の液体貯留があれば卵管留膿症と診断できます。左下腹部痛では大腸憩室炎が重要な鑑別ですが、憩室や腸管壁の変化の有無、病変の局在で区別し、卵巣癌は充実部分や壁在結節の有無で見分けます。治療はクラミジア・淋菌・嫌気性菌をカバーする抗菌薬が基本で、無効例や大きな膿瘍ではドレナージや外科的治療を行い、パートナーの治療も欠かせません。PIDは卵管性不妊や異所性妊娠の原因となるため、早期診断と確実な治療が女性の将来の健康を守ることにつながります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・47歳女性(2妊2産)。2日前から38℃台の発熱、昨日から下腹部痛が出現した急性経過である。 ・最終月経は2週間前、妊娠反応陰性で、異所性妊娠など妊娠関連疾患は除外できる。 ・既往:38歳時に右卵巣子宮内膜症性囊胞で右付属器(卵巣・卵管)を摘出している。したがって残存しているのは左付属器のみである。 ・社会歴:3年前に離婚し、現在は新しいパートナーと同居している。性的活動があり、性感染症(STI)を背景とする上行性感染のリスクを考える情報である。 ・身体所見:体温38.3℃。脈拍84/分、血圧120/80mmHgと循環動態は安定している。下腹部は硬く、左下腹部に圧痛と反跳痛があり、左下腹部を中心とした腹膜刺激症状がある。内診で子宮頸部の移動痛(子宮頸部を動かすと痛む所見)があり、骨盤内の炎症を強く示唆する。 ・検査:白血球16,500で好中球が87%(桿状核12%を含む左方移動)、CRP 9.5mg/dLと細菌感染による強い炎症がある。Hbは正常で出血を示唆しない。肝胆道系酵素・アミラーゼは正常で、肝胆膵疾患は考えにくい。 ・経腟超音波:左付属器領域に6×3cmの2房性腫瘤。

画像の読み取り

腹部造影CTでは、左下腹部から骨盤にかけて、内部が低吸収(液体濃度)の囊胞性病変を認める。壁は厚く造影され、内部に隔壁があって2つの房に分かれ、細長く屈曲した管状(ソーセージ状)の形態を示す。周囲の脂肪組織には炎症による濃度上昇がうかがわれる。壁から内腔に突出する充実成分や結節はなく、腸管壁の限局性肥厚や腸管外の遊離ガスも認めない。

診断へのプロセス

発熱を伴う急性の下腹部痛を女性が訴えた場合、婦人科疾患(骨盤内炎症性疾患、卵巣腫瘍茎捻転、卵巣出血、子宮内膜症性囊胞破裂、異所性妊娠)と消化器疾患(虫垂炎、大腸憩室炎など)を並行して鑑別する。 本例は妊娠反応陰性で異所性妊娠は除外され、貧血もなく出血性疾患も考えにくい。性的活動、子宮頸部の移動痛、左下腹部の腹膜刺激症状、好中球優位の白血球増多とCRP高値は、骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease:PID)、すなわち腟・子宮頸管から子宮内膜、卵管、骨盤腹膜へと上行する感染症に合致する。さらに、残存する左付属器の領域に、厚い造影壁と隔壁を持つ管状・多房性の液体貯留があることから、閉塞した卵管の内腔に膿が貯留した卵管留膿症と診断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  便秘

    便秘は腹部膨満や腹痛の原因になるが、それだけで38℃台の発熱、白血球16,500、CRP 9.5mg/dLといった強い炎症反応や腹膜刺激症状を生じることはない。子宮頸部の移動痛も説明できず、CTでも左付属器領域の病変は腸管内の便塊ではなく、壁が造影される液体貯留である。

  2. ×b.  大腸癌

    大腸癌では血便、便通異常、貧血、体重減少、腸閉塞症状などがみられ、穿孔や膿瘍を合併すれば発熱と腹膜炎を起こすこともある。しかし本例はHb 12.9g/dLと貧血がなく、腸閉塞を示す所見もない。CTでは腸管壁の不整な肥厚や腫瘤、遊離ガスなど大腸癌やその穿孔を示す所見はなく、病変は付属器領域の管状囊胞性病変である。

  3. ×c.  卵巣癌

    卵巣癌は付属器領域の腫瘤として描出され、40〜60歳代に多いため年齢的には鑑別に挙がる。子宮内膜症性囊胞を背景に明細胞癌や類内膜癌が発生することもある。しかし卵巣癌を疑わせる画像の特徴は、囊胞壁から内腔へ突出する充実部分(壁在結節)や不整な充実成分、腹水・腹膜播種であり、本例のCTではいずれも認めない。また、急性の発熱・腹膜刺激症状・高度の炎症反応と子宮頸部の移動痛は、腫瘍よりも感染症を示している。

  4. ×d.  大腸憩室炎

    大腸憩室炎は発熱と腹痛、炎症反応上昇をきたし、S状結腸の憩室炎は左下腹部痛を呈するため、症状だけでは重要な鑑別疾患となる。しかしCTでの憩室炎の所見は、腸管壁から突出する憩室とその周囲の脂肪組織の炎症、限局的な腸管壁肥厚であり、本例のCTでは憩室も腸管壁の変化も認めない。さらに子宮頸部の移動痛は腸管の炎症では説明しにくく、骨盤内婦人科臓器の炎症を示す所見である。

  5. ○e.  卵管留膿症

    性的活動のある女性に、発熱、左下腹部の腹膜刺激症状、子宮頸部の移動痛、好中球優位の白血球増多とCRP高値がみられ、骨盤内炎症性疾患を示している。さらに経腟超音波で左付属器領域に2房性腫瘤があり、CTでは厚く造影される壁と隔壁を持つ屈曲した管状の液体貯留として描出される。これは拡張した卵管内に膿がたまった像として典型的であり、卵管留膿症と診断できる。右付属器は既に摘出されているため、病変が左側にあることとも矛盾しない。

骨盤内炎症性疾患(PID)

・腟や子宮頸管の病原体が上行し、子宮内膜炎、卵管炎、卵管・卵巣膿瘍、骨盤腹膜炎などを起こす感染症の総称である。 ・起炎菌:クラミジア・トラコマティスと淋菌が代表的で、ほかに腸内細菌や嫌気性菌など腟内常在菌が関与する複数菌感染も多い。 ・危険因子:若年、複数または新しい性的パートナー、STIの既往、子宮内避妊具(IUD)挿入直後、子宮内操作(人工妊娠中絶、子宮卵管造影など)。 ・診断の手がかり:下腹部痛に加え、内診での子宮頸部移動痛、子宮圧痛、付属器圧痛が重要である。発熱、膿性の頸管分泌物、白血球増多・CRP上昇があれば支持的である。経腟超音波やCT・MRIで卵管の腫大や膿瘍を評価する。 ・合併症:卵管閉塞・癒着による卵管性不妊、異所性妊娠のリスク上昇、慢性骨盤痛。クラミジアが肝臓表面に及ぶと、右季肋部痛を呈するFitz-Hugh-Curtis症候群(肝周囲炎)を起こすことがある。

卵管留水症・留血症・留膿症

・卵管の遠位端(卵管采)が炎症の結果として癒着・閉塞すると、卵管内に分泌液がたまって拡張する。液体が漿液性のものを卵管留水症、血液のものを卵管留血症、膿のものを卵管留膿症という。 ・卵管留水症は卵管性不妊の原因となるほか、貯留液が子宮腔へ逆流して着床を妨げると考えられている。 ・卵管留膿症は、PIDに伴い卵管内腔に膿が貯留した状態で、炎症が卵巣にも及び一塊となったものは卵管・卵巣膿瘍(tubo-ovarian abscess:TOA)と呼ばれる。 ・画像所見:卵管は屈曲しながら走行するため、拡張するとソーセージ状・数珠状の管状構造となり、断面では内部に不完全な隔壁を持つ多房性に見える。壁は炎症で肥厚し造影される。

治療

・起炎菌としてクラミジア、淋菌、嫌気性菌を広くカバーする抗菌薬を投与する。重症例や膿瘍形成例では入院のうえ点滴静注で治療する。 ・抗菌薬で改善しない場合、膿瘍が大きい場合、破裂が疑われる場合には、経腟・経皮的ドレナージや、腹腔鏡下・開腹による卵管切除・付属器摘出などの外科的治療を行う。 ・STIが関与する場合は、パートナーの検査・治療も行い再感染を防ぐ。

女性の有熱性下腹部痛の主な鑑別

・骨盤内炎症性疾患・卵管留膿症:性的活動、子宮頸部移動痛、付属器の管状・多房性病変。 ・大腸憩室炎:左側はS状結腸に多い。CTで憩室と周囲脂肪の炎症像。 ・虫垂炎:心窩部から右下腹部へ移動する痛み。CTで腫大した虫垂。 ・卵巣腫瘍茎捻転:突然発症の激痛、悪心・嘔吐、腫大した卵巣。発熱は通常軽度。 ・子宮内膜症性囊胞の感染・破裂:内膜症の既往、チョコレート様の内容液。

POINT

・性的活動のある女性の発熱+下腹部痛+子宮頸部移動痛 → 骨盤内炎症性疾患(PID)を考える。 ・付属器領域に、厚い造影壁と隔壁を持つ屈曲した管状(ソーセージ状)・多房性の液体貯留 → 卵管留膿症。 ・PIDの主な起炎菌はクラミジア・淋菌で、嫌気性菌などの混合感染も多い。 ・妊娠反応で異所性妊娠を必ず除外する。 ・左下腹部痛では大腸憩室炎が重要な鑑別だが、子宮頸部移動痛と画像(憩室の有無、病変の局在)で区別する。 ・治療は抗菌薬投与、無効例や大きな膿瘍ではドレナージや外科的切除。PIDは卵管性不妊・異所性妊娠の原因となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。