吐いてもすぐ飲みたがる赤ちゃん―噴水状・無胆汁性嘔吐が示す「胃の出口」の病気
第105回医師国家試験 I問題 第48問
国試問題にチャレンジ
1か月の乳児。嘔吐を心配した母親に伴われて来院した。哺乳後しばらくして,噴水状の無胆汁性嘔吐を認めることが頻回にある。嘔吐後は通常どおり哺乳している。発熱はない。 最も考えられる疾患はどれか。
- a.肥厚性幽門狭窄症
- b.Hirschsprung病
- c.腸回転異常症
- d.胃食道逆流症
- e.細菌性腸炎
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
乳児の嘔吐では、まず吐物に胆汁が混じるかでVater乳頭より口側か肛門側かの閉塞部位を推定します。生後2〜8週(特に3〜6週)の乳児が哺乳後に噴水状の無胆汁性嘔吐を繰り返し、吐いた後も哺乳意欲が保たれていれば肥厚性幽門狭窄症を考え、右上腹部のオリーブ様腫瘤や腹部超音波での幽門筋肥厚で確認します。胆汁性嘔吐なら腸回転異常症(中腸軸捻転)など緊急性の高い疾患、だらだらとした溢乳なら胃食道逆流、発熱や下痢を伴えば感染性腸炎と鑑別を進めます。本症では胃液喪失による低クロール性代謝性アルカローシスと低カリウム血症をきたすため、輸液で補正してからRamstedt手術を行うのが原則です。嘔吐の性状から閉塞部位と緊急度を読み解く考え方は、小児の消化器疾患全般の診療に役立ちます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・生後1か月の乳児。 ・哺乳してしばらくたってから嘔吐する。嘔吐は勢いよく飛び出す噴水状(projectile vomiting)で、何度も繰り返している。 ・吐物は胆汁を含まない(無胆汁性)。 ・吐いた後も普段どおり哺乳する(空腹のため哺乳意欲は保たれている)。 ・発熱はない。
診断へのプロセス
乳児の嘔吐を考えるときは、まず「吐物に胆汁が混じるか」で閉塞部位を推定する。胆汁は十二指腸のVater乳頭から出るため、胆汁を含まない嘔吐は乳頭より口側(食道・胃・幽門)の通過障害を、緑色の胆汁性嘔吐は乳頭より肛門側(十二指腸下部・小腸など)の閉塞を示唆する。 本症例は無胆汁性で、しかも胃内容が強い勢いで噴出する噴水状嘔吐である。これは胃の出口(幽門)が狭くなり、胃が強く収縮して内容物を押し出そうとするために生じる。発症時期が生後1か月前後(典型的には生後2〜8週、特に3〜6週)であること、発熱がなく感染症を思わせないこと、吐いた後も哺乳意欲が旺盛であることも合わせると、肥厚性幽門狭窄症が最も考えられる。 本症では幽門の輪状筋が肥厚して幽門管が狭窄する。診察では右上腹部に肥厚した幽門を「オリーブ様腫瘤」として触れることがあり、腹部超音波検査で幽門筋の肥厚を確認して確定する。嘔吐が続くと、胃酸(HCl)の喪失によって低クロール性代謝性アルカローシスと低カリウム血症、脱水、体重増加不良をきたす。
選択肢考察
- ○a. 肥厚性幽門狭窄症
生後1か月、哺乳後の噴水状嘔吐、無胆汁性、嘔吐後も哺乳意欲が保たれる、発熱がない、という特徴はいずれも肥厚性幽門狭窄症に典型的である。幽門輪状筋の肥厚により胃の出口が狭くなるため、胃内容のみが勢いよく逆流し、胆汁は混じらない。通過障害であり消化管の炎症ではないため、児は空腹を感じて吐いた直後でも哺乳しようとする。
- ×b. Hirschsprung病
Hirschsprung病は、腸管壁内の神経節細胞が肛門側から連続して欠如するため、その部分の腸管が蠕動せず機能的な腸閉塞をきたす疾患である。主症状は胎便排泄遅延(生後24〜48時間以内に胎便が出ない)、頑固な便秘、腹部膨満といった排便の異常である。嘔吐を伴う場合も下部腸管の閉塞による胆汁性嘔吐となることが多く、本症例のような排便異常のない無胆汁性の噴水状嘔吐とは合わない。
- ×c. 腸回転異常症
腸回転異常症は、胎生期の腸管の回転・固定が正常に行われないために、Ladd靱帯による十二指腸の圧迫や中腸軸捻転を起こす疾患で、多くは新生児期に発症する。閉塞部位が十二指腸のVater乳頭より肛門側にあることが多いため、胆汁性嘔吐が特徴である。中腸軸捻転では腸管の血流障害から短時間で壊死に至るため、胆汁性嘔吐をみたら緊急で精査すべき疾患である。本症例は無胆汁性であり合わない。
- ×d. 胃食道逆流症
乳児では下部食道括約筋の機能が未熟であるため、哺乳後に胃内容が口から少量あふれ出る溢乳(いつにゅう)が生理的にもよくみられる。胃食道逆流症では吐物は胆汁を含まないことが多い点は本症例と共通するが、嘔吐は口からだらだらと流れ出る程度で、噴水状に勢いよく吐くことはまれである。また、嘔吐が頻回で次第に増悪する経過は、機能的な逆流よりも器質的な通過障害を疑わせる。
- ×e. 細菌性腸炎
細菌性腸炎は発熱、下痢(血便を伴うこともある)、腹痛を伴うことが多く、嘔吐も起こりうる。しかし本症例には発熱も下痢の記載もない。また、感染による全身状態の悪化や消化管の炎症があれば哺乳意欲は低下するはずであり、吐いた直後に普段どおり哺乳するという経過とは合わない。
肥厚性幽門狭窄症の概要
・幽門輪状筋の肥厚により幽門管が狭窄し、胃の通過障害をきたす疾患である。原因は完全には解明されていない。 ・男児に多く(男女比は約4〜5:1)、第1子に多いとされる。生後2〜3週ごろから症状が出始め、生後3〜6週ごろに受診することが多い。乳児期早期のマクロライド系抗菌薬(エリスロマイシンなど)の投与が発症リスクを高めることが知られている。
症状・所見
・哺乳後の噴水状・無胆汁性嘔吐(次第に頻回・増悪)。 ・嘔吐後も哺乳意欲は旺盛。 ・体重増加不良、脱水。 ・右上腹部のオリーブ様腫瘤(肥厚した幽門)、哺乳時に上腹部で胃の蠕動波がみえることがある。 ・嘔吐物に血液が混じる(コーヒー残渣様)ことや、脱水・飢餓による間接ビリルビン優位の黄疸を伴うことがある。
検査
・腹部超音波検査:第一選択。幽門筋の肥厚(厚さ3〜4 mm以上)と幽門管の延長(長さ15〜17 mm程度以上)が診断基準の目安となる。短軸断面では肥厚した筋層が低エコーの輪として見え、標的状(target sign、doughnut sign)を呈する。 ・上部消化管造影:幽門管が細長く伸びた線状の像(string sign)、肥厚した幽門筋が胃前庭部に突出する像(shoulder sign、umbrella sign)、十二指腸球部側への圧排像(mushroom sign)などがみられる。現在は被曝のない超音波が優先される。 ・血液ガス・電解質:胃液(HCl)を失うため、低クロール性代謝性アルカローシス(pH上昇、HCO3⁻上昇、BE上昇、Cl低下)と低カリウム血症を呈する。代償として呼吸が抑制され、PaCO2はむしろやや上昇する。 ・脱水が進むと、腎はNaを再吸収する代わりにKやH⁺を排泄するため、アルカローシスなのに尿が酸性になる奇異性酸性尿(paradoxical aciduria)がみられることがある。
治療
・緊急手術の対象ではなく、まず輸液で脱水と電解質異常(低Cl・低K・代謝性アルカローシス)を補正してから治療する。補正前に全身麻酔をかけると、アルカローシスによる術後の呼吸抑制(無呼吸)の危険がある。 ・根治術は粘膜を切らずに肥厚した幽門筋層だけを縦に切開する幽門筋切開術(Ramstedt手術)で、開腹または腹腔鏡下に行う。 ・日本では、アトロピン静注療法(幽門の攣縮を和らげる内科的治療)が選択されることもある。
乳児の嘔吐の鑑別のポイント
・無胆汁性嘔吐:肥厚性幽門狭窄症、胃食道逆流症、胃軸捻転症、食道閉鎖(哺乳直後の嘔吐・泡沫状唾液)。 ・胆汁性嘔吐:腸回転異常症(中腸軸捻転)、十二指腸閉鎖・狭窄(Vater乳頭より肛門側)、小腸閉鎖、Hirschsprung病、腸重積の進行例など。 ・発熱・下痢を伴う嘔吐:感染性胃腸炎、敗血症・髄膜炎・尿路感染症などの全身感染症。
POINT
・生後2〜8週(特に3〜6週)の男児、哺乳後の噴水状・無胆汁性嘔吐、吐いた後も哺乳意欲あり → 肥厚性幽門狭窄症。 ・右上腹部のオリーブ様腫瘤、腹部超音波で幽門筋の肥厚(約3〜4 mm以上)と幽門管延長(target/doughnut sign)。 ・造影ではstring sign、shoulder sign、umbrella sign。 ・電解質:低クロール性代謝性アルカローシス+低カリウム血症(pH・HCO3⁻・BE上昇、Cl・K低下、代償でPaCO2上昇)。奇異性酸性尿に注意。 ・治療は電解質・脱水の補正が先、その後に幽門筋切開術(Ramstedt手術)。 ・胆汁性嘔吐は十二指腸乳頭より肛門側の閉塞を示し、腸回転異常症(中腸軸捻転)は緊急対応が必要。
