若者の繰り返す動悸の正体―δ波が教えてくれる「もう一本の電線」
第105回医師国家試験 I問題 第49問
国試問題にチャレンジ
21歳の男性。動悸発作を主訴に来院した。以前から年に数回,1~2時間持続する動悸を自覚していた。失神発作はない。血圧126/74 mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。非発作時の心電図を別に示す。 動悸発作の原因として最も考えられる不整脈はどれか。

- a.心室性期外収縮
- b.房室ブロック
- c.心室性頻拍
- d.上室性頻拍
- e.心房粗動
対話形式の解説
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ドクターまとめ
PQ短縮、δ波、QRS幅の延長はWPW症候群の典型的な心電図所見で、房室結節とは別の副伝導路(Kent束)による早期興奮を示します。WPW症候群に最も多く合併する頻拍は、房室結節とKent束を回路とする房室回帰性頻拍で、発作性上室性頻拍に分類され、突然始まり突然終わる規則的な動悸として数分から数時間持続します。一方で心房細動を合併すると副伝導路経由で偽性心室頻拍を呈し、心室細動から突然死に至りうるため、房室結節だけを抑えるジギタリスやベラパミルは禁忌とされます。発作の停止には迷走神経刺激やATPを用い、根治療法はカテーテルアブレーションです。非発作時の心電図から背景疾患を見抜き、病歴と結びつけて不整脈を推定する力は、動悸を訴える患者の診療の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・21歳の若年男性。年に数回、1~2時間続く動悸発作を以前から繰り返している。 ・失神はなく、来院時の血圧は保たれ、心音・呼吸音にも異常がない。器質的心疾患を思わせる所見は乏しい。 ・非発作時の心電図では、PQ(PR)時間が短く、QRS波の立ち上がりがなだらかに傾斜して始まるデルタ(δ)波を認め、QRS幅はやや広い。V1誘導でQRSが主に上向き(R波優位)であり、A型(左側副伝導路を示唆するパターン)のWPW(Wolff-Parkinson-White)症候群と判断できる。
診断へのプロセス
WPW症候群では、正常の房室結節とは別に、心房と心室を直接つなぐ副伝導路(Kent束)が存在する。洞調律時には、伝導の遅い房室結節を経由せずにKent束を通って心室の一部が早期に興奮するため、PQ短縮とδ波が生じる。 この副伝導路は頻拍発作の原因となる。代表的なのは、心房→房室結節→心室→Kent束(逆行)→心房という大きな回路を興奮が旋回する房室回帰性頻拍(AVRT: atrioventricular reciprocating tachycardia)であり、これは発作性上室性頻拍(PSVT: paroxysmal supraventricular tachycardia)の一型である。突然始まり突然終わる規則的な頻拍として自覚され、数分~数時間続くことがある。 本例は、若年でWPW心電図をもち、失神を伴わない動悸が年数回、1~2時間持続して自然に治まっている。これはWPW症候群に最も多く合併する発作性上室性頻拍の経過としてよく合致する。
設問への考え方
WPW症候群に合併する頻脈性不整脈としては、発作性上室性頻拍(最も多い)と発作性心房細動(いわゆる偽性心室頻拍を呈しうる)の2つを押さえておく。選択肢に心房細動はないため、上室性頻拍を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 心室性期外収縮
心室性期外収縮は単発の早期収縮であり、「脈が飛ぶ」「ドキッとする」といった一瞬の自覚症状が典型である。1~2時間にわたり持続する動悸発作の説明にはならない。また、WPW症候群の副伝導路と直接結びつく不整脈でもない。
- ×b. 房室ブロック
房室ブロックは心房から心室への伝導が遅延・途絶する徐脈性の病態で、心電図ではPQ延長やP波に続くQRSの脱落がみられる。本例の心電図はむしろPQ短縮を示しており、房室伝導は副伝導路によって「早まって」いる。徐脈ではめまいや失神、易疲労感が主症状となり、発作性の動悸の原因としては考えにくい。
- ×c. 心室性頻拍
心室頻拍(VT: ventricular tachycardia)は心室を起源とする幅広いQRSの頻拍で、多くは心筋梗塞後や心筋症などの器質的心疾患を背景に生じ、血圧低下や失神、突然死につながりうる。本例は器質的心疾患を示す所見がなく、失神もなく、1~2時間の発作を年に数回繰り返しながら自然に治まっている。WPW症候群を背景とした動悸の原因として最も考えるべきものではない。なお、WPW症候群に心房細動が合併すると副伝導路経由で幅広いQRSの不規則な頻拍となり、心室頻拍に似た波形(偽性心室頻拍)を呈するが、これは本来の心室頻拍とは異なる。
- ○d. 上室性頻拍
WPW症候群に伴う頻拍発作の大部分は、房室結節とKent束を含む回路を興奮が旋回する房室回帰性頻拍であり、発作性上室性頻拍に分類される。多くは房室結節を順行し副伝導路を逆行する順方向性(orthodromic)の形をとり、発作中はδ波が消えて幅の狭いQRSの規則的な頻拍となる。突然始まり突然止まる動悸で、数分から数時間続くことがあり、血行動態が破綻することは少ない。若年者で失神を伴わず、1~2時間の動悸を年数回繰り返す本例の病歴に最もよく合う。
- ×e. 心房粗動
心房粗動は、主に三尖弁輪を旋回する大きなリエントリー回路によって心房が約250~350/分で規則的に興奮する不整脈で、高齢者や器質的心疾患・肺疾患のある患者に多い。WPW症候群に合併することもあり、その場合は副伝導路を介して1:1伝導となり極めて速い心室拍数に至る危険があるが、頻度は低い。WPW症候群の若年者の反復する動悸発作として最も考えるべきものは上室性頻拍である。
WPW症候群の心電図
・PQ時間の短縮(0.12秒未満) ・δ波(QRSの初期部分がなだらかに立ち上がる) ・QRS幅の延長(0.12秒以上になることが多い) ・二次性のST-T変化 これらは、房室結節を通る正常伝導とKent束を通る早期興奮が融合してQRSをつくるために生じる。
副伝導路の位置による分類(胸部誘導のQRS形態)
・A型:V1でR波優位(上向き)→左側の副伝導路が多い ・B型:V1でrS型(下向き優位)、V5・V6で上向き→右側の副伝導路が多い ・C型:V1でQS型またはQr型→中隔付近の副伝導路が多い
WPW症候群に合併する頻脈性不整脈
1. 房室回帰性頻拍(AVRT):最多。順方向性では幅の狭いQRSの規則的な頻拍で、δ波は消失する。逆方向性(Kent束を順行し房室結節を逆行)では幅広いQRSとなる。 2. 心房細動:WPW症候群では健常者より起こりやすい。心房からの多数の興奮が不応期の短いKent束を通って心室へ伝わると、幅広く形の揃わないQRSが不規則かつ非常に速い頻度で出現する(偽性心室頻拍)。心室細動へ移行して突然死の原因となりうるため、最も危険な合併症である。
治療の概要
・AVRT発作時:迷走神経刺激(バルサルバ手技など)、ATP(アデノシン三リン酸)急速静注、ベラパミル静注などで房室結節の伝導を抑えて停止させる。血行動態が不安定なら電気的除細動。 ・心房細動合併時:房室結節のみを抑えるジギタリスやベラパミル、ATPは副伝導路経由の伝導を相対的に促進しうるため禁忌とされる。Ⅰ群抗不整脈薬(プロカインアミドなど、副伝導路の伝導を抑える薬)や電気的除細動を用いる。 ・根治療法:カテーテルアブレーションによるKent束の焼灼。成功率が高く、症候性の例では第一選択となる。
POINT
・PQ短縮+δ波+QRS幅の延長 → WPW症候群(副伝導路:Kent束) ・WPW症候群の動悸発作で最も多いのは発作性上室性頻拍(房室回帰性頻拍) ・危険な合併症は心房細動(偽性心室頻拍)で、ジギタリス・ベラパミルは禁忌 ・V1でR波優位ならA型(左側副伝導路) ・根治療法はカテーテルアブレーション
