レニンもアルドステロンも高いのは誰?―「上流か下流か」で解くRAA系の鑑別
第105回医師国家試験 I問題 第13問
国試問題にチャレンジ
血漿レニン活性〈PRA〉と血漿アルドステロン濃度とがいずれも高値なのはどれか。
- a.Liddle症候群
- b.Cushing症候群
- c.腎血管性高血圧症
- d.原発性アルドステロン症
- e.甘草による偽性アルドステロン症
対話形式の解説
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医学生まとめ
血漿レニン活性と血漿アルドステロン濃度がともに高値となるのは、レニン分泌の亢進が起点となる続発性アルドステロン症であり、腎動脈狭窄で腎灌流圧が低下する腎血管性高血圧症がその代表です。原発性アルドステロン症はアルドステロンの自律的分泌によりレニンが抑制されてPRA低値・PAC高値となり、Liddle症候群や甘草による偽性アルドステロン症はアルドステロン以外の機序でミネラルコルチコイド作用が過剰となるためPRA・PACともに低値、Cushing症候群も両者がそろって高くなることはありません。腎血管性高血圧症は急な発症や治療抵抗性の高血圧、腹部血管雑音、ACE阻害薬・ARB投与後の急激な腎機能悪化が手がかりで、両側腎動脈狭窄や単腎例ではこれらの薬が禁忌となります。RAA系の負のフィードバックを軸に「上流か下流か」で考える習慣は、二次性高血圧や電解質異常の鑑別全般に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
問われていること
高血圧・低カリウム血症をきたす代表的な疾患を、血漿レニン活性(PRA: plasma renin activity)と血漿アルドステロン濃度(PAC: plasma aldosterone concentration)の組み合わせで見分けられるかを問う問題である。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)の基本
レニンは腎の傍糸球体細胞から分泌され、腎灌流圧の低下、遠位尿細管(緻密斑)に届くNaClの減少、交感神経(β1)刺激で分泌が増える。レニンはアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠに変え、これがアンジオテンシン変換酵素(ACE)によりアンジオテンシンⅡとなり、副腎皮質球状層からのアルドステロン分泌を促す。アルドステロンは集合管でNa再吸収とK・H排泄を促し、体液量を増やす。体液量が増えると腎灌流圧が上がり、レニン分泌は抑えられる(負のフィードバック)。
考え方
・レニンが「上流」で先に増える病態(二次性=続発性アルドステロン症)では、PRAもPACもともに高値となる。 ・アルドステロンやアルドステロン様作用をもつ物質が「下流」で勝手に過剰となる病態では、体液量増加によりレニンが抑制され、PRAは低値となる。このうちアルドステロン自体が増えるのが原発性アルドステロン症(PRA低値・PAC高値)、アルドステロン以外の機序でミネラルコルチコイド作用が過剰になるのが偽性アルドステロン症やLiddle症候群など(PRA低値・PAC低値)である。 選択肢のうち、上流のレニン分泌亢進が起点となるのは、腎動脈狭窄により腎灌流圧が低下する腎血管性高血圧症である。
選択肢考察
- ×a. Liddle症候群
集合管の上皮型Naチャネル(ENaC: epithelial sodium channel、アミロライド感受性Naチャネル)の機能獲得型変異による常染色体顕性(優性)遺伝疾患である。チャネルの分解が妨げられて細胞膜上に過剰に残り、アルドステロンの刺激がなくてもNa再吸収が亢進する。その結果、高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシスを呈し、体液量増加によりレニンが抑制され、アルドステロン分泌も抑えられる。PRA・PACともに低値となるため誤りである。治療はENaCを直接阻害するアミロライドやトリアムテレンが有効で、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン)は効かない。
- ×b. Cushing症候群
コルチゾール過剰状態である。コルチゾールは大量になると腎の11β-水酸化ステロイド脱水素酵素2型(11β-HSD2)の不活化能力を上回り、ミネラルコルチコイド受容体を刺激するため、Na貯留・高血圧・低カリウム血症をきたしうる。この体液量増加によりPRAは正常〜低値となり、アルドステロンも正常〜低値にとどまる。両者がそろって高値になることはないため誤りである。なおCushing症候群の高血圧には、コルチゾールによるアンジオテンシノーゲン産生増加や血管の昇圧物質への反応性亢進も関与する。
- ○c. 腎血管性高血圧症
腎動脈の狭窄・閉塞により狭窄側の腎灌流圧が低下すると、傍糸球体細胞がこれを腎血流不足と感知してレニン分泌を増やす。増えたレニンによりアンジオテンシンⅡが増加して血管収縮と高血圧を生じ、さらにアルドステロン分泌も亢進する(続発性アルドステロン症)。したがってPRA・PACがともに高値となる。アルドステロン過剰により低カリウム血症を伴うこともある。原因は高齢者では粥状動脈硬化、若年女性では線維筋性異形成が多く、わが国では高安動脈炎(大動脈炎症候群)も重要な原因である。
- ×d. 原発性アルドステロン症
副腎皮質からアルドステロンがレニンと無関係に自律的に過剰分泌される疾患で、主な病型は片側性のアルドステロン産生腺腫と両側性の特発性アルドステロン症(両側副腎過形成)である。PACは高値だが、Na貯留による体液量増加でレニンは抑制され、PRAは低値となる。このためアルドステロン/レニン比(ARR)の上昇がスクリーニングに用いられる。PRAが高値とはならないので誤りである。
- ×e. 甘草による偽性アルドステロン症
甘草(漢方薬や食品に含まれる)の主成分グリチルリチンの代謝物グリチルレチン酸は、腎尿細管の11β-HSD2を阻害する。この酵素は本来コルチゾールを受容体に結合しにくいコルチゾンへ変換し、ミネラルコルチコイド受容体をコルチゾールから守っている。阻害されると大量のコルチゾールが受容体を刺激し、アルドステロン過剰と同じ高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシスが起こる。体液量増加でレニンは抑制され、アルドステロン分泌も低下するため、PRA・PACともに低値となり誤りである。原因薬(甘草)の中止が治療の基本である。
PRAとPACによる高血圧・低カリウム血症の鑑別
・PRA高値・PAC高値(続発性アルドステロン症): 腎血管性高血圧症、レニン産生腫瘍(傍糸球体細胞腫)、悪性高血圧、利尿薬使用、Bartter症候群・Gitelman症候群(これらは高血圧を伴わない) ・PRA低値・PAC高値: 原発性アルドステロン症 ・PRA低値・PAC低値: Liddle症候群、甘草などによる偽性アルドステロン症、見かけのミネラルコルチコイド過剰症候群(AME: 11β-HSD2欠損)、デオキシコルチコステロン(DOC)過剰(11β-水酸化酵素欠損症・17α-水酸化酵素欠損症)、Cushing症候群(PRAは正常〜低値)
腎血管性高血圧症の手がかり
・急に発症した高血圧、若年発症や50歳以降に新たに生じた高血圧、治療抵抗性高血圧 ・腹部の血管雑音 ・ACE阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)投与後の急激な腎機能悪化 ・左右の腎サイズの差 診断には腎動脈超音波(ドプラ)、CT血管造影、MR血管造影などを用いる。線維筋性異形成では経皮的腎動脈形成術(PTRA)の効果が高い。両側腎動脈狭窄や単腎の腎動脈狭窄ではACE阻害薬・ARBは腎機能を急激に悪化させうるので禁忌である。
POINT
・レニンが先に増える(腎灌流低下)病態ではPRA・PACともに高値=続発性アルドステロン症。代表は腎血管性高血圧症。 ・原発性アルドステロン症はPRA低値・PAC高値。 ・Liddle症候群、甘草による偽性アルドステロン症はPRA低値・PAC低値。 ・Cushing症候群ではPRA・PACとも正常〜低値で、両者が高値にはならない。
