おへその横で鳴る雑音―若年高血圧に潜む腎動脈狭窄を見抜く
第120回医師国家試験 A問題 第17問
国試問題にチャレンジ
35歳の女性。血圧高値を主訴に来院した。33歳の時に会社の健康診断で血圧高値を指摘されているが,受診していなかった。血圧計を購入して自宅で血圧を測定すると,収縮期血圧が150~160mmHgと高い状態が続くため受診した。発作的な動悸や発汗はなく,血圧の急激な変動もない。体重の増減はない。家族歴に特記すべきことはない。身長160cm,体重54kg。脈拍76/分,整。血圧158/96mmHg。満月様顔貌はなく,甲状腺は触知しない。腹部は平坦,軟で,臍周囲に血管雑音を聴取する。四肢末梢や体幹に皮膚線条は認めない。尿所見:比重1.014,蛋白(-),糖(-)。血液所見:Hb 11.6g/dL,Ht 35%,白血球6,400,血小板20万。血液生化学所見:クレアチニン1.0mg/dL,血糖90mg/dL,HbA1c 5.4%(基準4.9~6.0),Na 143mEq/L,K 3.0mEq/L,Cl 101mEq/L。腹部超音波検査で右腎の萎縮を認める。 最も考えられる診断はどれか。
- a.褐色細胞腫
- b.Cushing症候群
- c.甲状腺機能亢進症
- d.腎血管性高血圧症
- e.原発性アルドステロン症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
若年で肥満や家族歴のない高血圧では、二次性高血圧を積極的に疑います。腹部(臍周囲)の血管雑音と片側腎の萎縮は腎動脈狭窄を直接示唆し、低カリウム血症はRAA系亢進による二次性アルドステロン症で説明できるため、腎血管性高血圧症が最も考えられます。原発性アルドステロン症も高血圧と低カリウム血症をきたしますがレニンは抑制され、腎血管性高血圧症ではレニン・アルドステロンともに高値となる点で区別できます。若年女性の腎動脈狭窄では線維筋性異形成が多く経皮的腎動脈形成術が有効で、両側腎動脈狭窄ではACE阻害薬・ARBが禁忌である点も重要です。腹部の聴診とレニン・アルドステロンによる整理は、治療可能な高血圧を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・35歳女性。33歳の健康診断から血圧高値が続いており、家庭血圧でも収縮期150〜160mmHgと高い:一時的な上昇や白衣高血圧(診察室でのみ高くなる状態)ではなく、持続性の高血圧である。若年で、肥満(BMI=54÷1.6²≒21.1)も家族歴もないことから、本態性高血圧よりも二次性高血圧(原因となる疾患がある高血圧)を疑うべき状況である。 ・発作的な動悸・発汗や血圧の急激な変動がない:褐色細胞腫を示す典型的な症状はない。 ・満月様顔貌・皮膚線条がなく、体重変化もなく、白血球数や血糖・HbA1cも正常:Cushing症候群を示す所見はない。 ・甲状腺を触知せず、脈拍76/分で体重減少もない:甲状腺機能亢進症を示す所見はない。 ・臍周囲の血管雑音:腎動脈の狭窄部を血液が通過する際の乱流を示唆する重要な所見である。 ・K 3.0mEq/L:低カリウム血症。アルドステロン(またはミネラルコルチコイド作用をもつホルモン)の過剰を示唆する。 ・腹部超音波で右腎の萎縮:右腎への血流が慢性的に減少し、腎が萎縮したと考えられる。 ・Cr 1.0mg/dL:35歳女性では推算糸球体濾過量(eGFR)が約52mL/分/1.73m²に相当し、軽度の腎機能低下がある。尿蛋白は陰性で、腎実質性疾患による高血圧を積極的に示す所見はない。
診断へのプロセス
低カリウム血症を伴う二次性高血圧として、原発性アルドステロン症、腎血管性高血圧症、Cushing症候群などが候補になる。Cushing症候群は身体所見・検査所見から否定的である。残る原発性アルドステロン症と腎血管性高血圧症はいずれも低カリウム血症をきたしうるが、腹部血管雑音と片側腎の萎縮は腎動脈狭窄を直接示唆する所見であり、原発性アルドステロン症では説明できない。したがって、右腎動脈狭窄による腎血管性高血圧症が最も考えられる。
病態
腎動脈が狭窄すると、その腎の灌流圧が低下し、傍糸球体装置からレニンが分泌される。レニン→アンジオテンシンII→アルドステロンの経路(RAA系)が亢進し、アンジオテンシンIIによる血管収縮とアルドステロンによるナトリウム貯留で血圧が上がる。アルドステロンは集合管でナトリウムの再吸収と引き換えにカリウムの排泄を促すため、低カリウム血症を生じる(二次性アルドステロン症)。 若年女性の腎動脈狭窄の原因としては、線維筋性異形成(動脈壁の非炎症性・非動脈硬化性の異常な肥厚)が最も多く、高安動脈炎(大動脈炎症候群)も重要である。中高年では動脈硬化が主な原因となる。
選択肢考察
- ×a. 褐色細胞腫
誤り。褐色細胞腫は副腎髄質(または傍神経節)のクロム親和性細胞から生じる腫瘍で、カテコールアミンの過剰分泌により高血圧(発作性または持続性)、頭痛、動悸、発汗、高血糖、代謝亢進による体重減少などをきたす。本例では発作的な動悸・発汗や血圧の急激な変動がなく、血糖・HbA1cも正常で体重変化もない。腹部血管雑音や片側腎萎縮、低カリウム血症も褐色細胞腫の典型像では説明しにくい。
- ×b. Cushing症候群
誤り。Cushing症候群はコルチゾールの慢性的過剰による疾患で、満月様顔貌、中心性肥満、赤色皮膚線条、皮膚の菲薄化、近位筋の筋力低下、耐糖能異常、白血球増多(好中球増加、好酸球・リンパ球減少)などを呈する。コルチゾールが大量になるとミネラルコルチコイド受容体にも作用して低カリウム血症を起こしうるが、本例には満月様顔貌・皮膚線条・体重増加がなく、血糖・HbA1c・白血球数も正常である。また腹部血管雑音や腎萎縮は説明できない。
- ×c. 甲状腺機能亢進症
誤り。甲状腺機能亢進症では心拍出量の増加により主に収縮期血圧が上昇し、脈圧が開大する。頻脈、動悸、発汗、体重減少、手指振戦、甲状腺腫などを伴うのが一般的である。本例は脈拍76/分で、甲状腺を触知せず、体重変化や発汗もない。拡張期血圧も96mmHgと上昇しており、甲状腺機能亢進症による高血圧のパターンとは合わない。
- ○d. 腎血管性高血圧症
正しい。若年発症の持続性高血圧に、臍周囲の血管雑音(腎動脈狭窄部の乱流)、片側(右)腎の萎縮(慢性的な虚血)、低カリウム血症(RAA系亢進による二次性アルドステロン症)がそろっており、右腎動脈狭窄による腎血管性高血圧症に合致する。年齢・性別からは線維筋性異形成が原因として最も考えやすく、高安動脈炎も鑑別に挙がる。確定には腎動脈の超音波ドプラ検査、造影CT血管撮影やMR血管撮影で狭窄を確認し、血漿レニン活性(PRA)高値・血漿アルドステロン濃度(PAC)高値を確認する。線維筋性異形成では経皮的腎動脈形成術(バルーン拡張)がよく奏効する。
- ×e. 原発性アルドステロン症
誤り。原発性アルドステロン症は副腎からアルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患(腺腫や過形成)で、高血圧と低カリウム血症をきたし、若年者の二次性高血圧として頻度も高いため、本例でも鑑別の上位に挙がる。しかし、アルドステロン過剰による体液量増加でレニンは抑制され(PRA低値・PAC高値)、腎動脈狭窄を伴わないため腹部血管雑音や片側腎の萎縮は生じない。これらの所見がある本例では、腎血管性高血圧症のほうがより考えられる。
二次性高血圧を疑う状況
若年発症の高血圧、急に発症・増悪した高血圧、治療抵抗性の高血圧、低カリウム血症などの検査異常、特徴的な身体所見(腹部血管雑音、満月様顔貌など)を伴う場合には、二次性高血圧を積極的に探す。
腎血管性高血圧症
・原因:動脈硬化(中高年男性に多く、腎動脈起始部の狭窄)、線維筋性異形成(若年女性に多く、腎動脈の中〜遠位部に数珠状の狭窄)、高安動脈炎(若年女性、大動脈とその分枝の炎症性狭窄)。 ・手がかり:腹部血管雑音、片側腎の萎縮(腎長径の左右差)、低カリウム血症、ACE阻害薬やARBの投与開始後の急激な腎機能悪化、反復する肺水腫(フラッシュ肺水腫)など。 ・検査:腎動脈超音波ドプラ、造影CT血管撮影・MR血管撮影、血漿レニン活性(高値)、カプトプリル負荷レノグラムなど。確定と治療方針決定には腎動脈造影も用いる。 ・治療:線維筋性異形成では経皮的腎動脈形成術の効果が高い。動脈硬化性では降圧薬などの内科治療が基本で、血行再建は適応を選んで行う。ACE阻害薬・ARBは片側狭窄では有効な降圧薬になりうるが、両側腎動脈狭窄や単腎の狭窄では糸球体濾過量を急激に低下させ腎不全を招くため禁忌である。
低カリウム血症を伴う高血圧の鑑別(レニン・アルドステロンでの整理)
・レニン高値・アルドステロン高値:腎血管性高血圧症、悪性高血圧、レニン産生腫瘍、利尿薬使用。 ・レニン低値・アルドステロン高値:原発性アルドステロン症。 ・レニン低値・アルドステロン低値:Cushing症候群、偽性アルドステロン症(甘草など)、Liddle症候群、11β-水酸化酵素欠損症・17α-水酸化酵素欠損症など。
POINT
・若年者の高血圧では二次性高血圧を疑う。 ・腹部(臍周囲)血管雑音+片側腎萎縮+低カリウム血症 → 腎血管性高血圧症。 ・腎血管性高血圧症ではRAA系が亢進し、レニン・アルドステロンともに高値。原発性アルドステロン症ではレニンが抑制される点が異なる。 ・若年女性の腎動脈狭窄は線維筋性異形成が多く、経皮的腎動脈形成術が有効。高安動脈炎も鑑別する。 ・両側腎動脈狭窄ではACE阻害薬・ARBは禁忌。
