飲酒が肺癌を招く?―層別化で正体を現す「交絡因子」
第105回医師国家試験 H問題 第1問
国試問題にチャレンジ
ある集団で飲酒と肺癌の関係を調査した際,因果関係があるようにみえた。しかし,この集団では飲酒者の大半は喫煙者であり,非飲酒者の大半は非喫煙者であった。喫煙者の中でも非喫煙者の中でも,飲酒と肺癌に関連は認められなかった。 この調査において「喫煙」はどれにあたるか。
- a.誤差
- b.交絡因子
- c.プラセボ効果
- d.選択バイアス
- e.測定バイアス
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
交絡因子とは、曝露と関連し、曝露とは独立して結果の危険因子であり、因果経路上の中間因子ではない第三の因子で、曝露と結果の間に見かけ上の関連をつくり出したり真の関連を隠したりします。飲酒と肺癌の関係における喫煙はその代表例で、喫煙の有無で層別化すると関連が消えることが交絡を見抜く手がかりになります。誤差はランダムなばらつき、選択バイアスや測定バイアスは研究の設計・実施段階で生じる系統的なかたよりで、解析での補正が難しいため計画段階での予防が重要です。交絡は無作為化・限定・マッチング(計画段階)、層化・多変量解析(解析段階)で制御でき、とくに無作為化は未知の交絡因子まで均等化できます。これらの区別を理解することは、論文を批判的に読み、エビデンスを正しく臨床に活かすための基礎となります。
解答・解説
正解はbです
問われていること
疫学研究で「見かけ上の関連」を生み出す要因の名称を問う問題である。
状況の整理
・集団全体で解析すると、飲酒と肺癌に関連(因果関係らしきもの)が見えた。 ・しかし飲酒者の大半は喫煙者、非飲酒者の大半は非喫煙者であり、飲酒と喫煙が強く結びついている。 ・喫煙は肺癌の確立した危険因子である。 ・喫煙者だけ、非喫煙者だけに分けて(層別化して)解析すると、どちらの層でも飲酒と肺癌の関連は消えた。
考え方
喫煙は「曝露(飲酒)と関連し」、かつ「結果(肺癌)の原因となる」第三の因子である。飲酒者に喫煙者が偏って多いため、喫煙による肺癌の増加が、あたかも飲酒の影響であるかのように見えていたと解釈できる。このように曝露と結果の両方に関係して、両者の見かけの関連をゆがめる因子を交絡因子という。 喫煙の有無で層別化すると関連が消失したことは、飲酒と肺癌の関連が喫煙による交絡で説明できることを示しており、喫煙が交絡因子であることの決め手となる。
選択肢考察
- ×a. 誤差
誤差とは、測定値と真の値とのずれである。大きく偶然誤差(ランダムにばらつくずれ)と系統誤差(一定方向にかたよるずれ)に分けられ、疫学では通常、前者を単に「誤差」、後者を「バイアス」と呼び分ける。偶然誤差は標本数を増やすことで小さくできる。本問の喫煙は測定のばらつきではなく、飲酒とも肺癌とも関連する実在の第三因子であり、誤差には当たらない。
- ○b. 交絡因子
交絡因子(confounding factor)は、①曝露要因と関連があり、②曝露とは独立に結果の危険因子であり、③曝露から結果に至る因果経路の途中にある中間因子ではない、という条件を満たす因子である。喫煙は飲酒と強く関連し(飲酒者の大半が喫煙者)、肺癌の危険因子であり、飲酒によって生じる中間段階でもない。さらに喫煙の有無で層別化すると飲酒と肺癌の関連が消えたことから、観察された関連は喫煙による見かけ上のもの(交絡)だったと判断できる。
- ×c. プラセボ効果
プラセボ効果とは、薬理作用のない偽薬(プラセボ)を投与されても、「治療を受けた」という心理的期待などにより症状の改善などがみられる現象である。無作為化比較試験(RCT)では、この効果を差し引いて実薬の真の効果を評価するため、対照群にプラセボを投与し、二重盲検化を行うことが多い。介入試験に関わる概念であり、観察研究における第三因子である本問の喫煙とは無関係である。
- ×d. 選択バイアス
選択バイアスとは、研究対象者の選び方や研究への参加・脱落の過程が原因で、対象集団が本来調べたい母集団を代表しなくなり、結果がかたよる系統誤差である。例として、病院受診者だけを対象にしたことによるかたより(バークソンバイアス)や、健康な人ほど就労しているための健康労働者効果などがある。本問では対象者の選び方の問題は示されておらず、喫煙は選択の過程ではなく集団内に存在する因子であるため該当しない。
- ×e. 測定バイアス
測定バイアス(情報バイアスの一種)とは、曝露や結果の測定・情報収集の方法に系統的なかたよりがあるために生じるずれである。例として、症例群が対照群より過去の曝露をよく思い出す思い出しバイアス(recall bias)や、曝露の有無を知る調査者の判定がかたよる観察者バイアスがある。本問は飲酒や肺癌の測定の正確さを問題にしておらず、喫煙は測定方法のかたよりではないため該当しない。
疫学研究における結果のゆがみの整理
研究で得られた関連が真の因果関係から外れる要因として、偶然誤差、バイアス(系統誤差)、交絡の3つを区別する。 ・偶然誤差:ランダムなばらつき。標本数を増やすと小さくなる。統計学的検定や信頼区間で評価する。 ・バイアス:研究の設計や実施の段階で生じる一定方向のかたより。代表的なものは選択バイアスと情報バイアス(測定バイアス、思い出しバイアス、観察者バイアスなど)。いったんデータに入り込むと、解析段階で取り除くことは基本的にできないため、研究計画(プロトコール)の段階で入念に防ぐ必要がある。 ・交絡:第三の因子が曝露と結果の両方に関係することで生じる見かけの関連(あるいは真の関連の隠蔽)。交絡因子のデータが収集されていれば、解析段階でも調整できる点がバイアスとの大きな違いである。
交絡の制御方法
・研究計画の段階:無作為化(ランダム化。未知の交絡因子まで群間で均等化できる唯一の方法)、限定(例:非喫煙者のみを対象とする)、マッチング(症例と対照で喫煙状況などをそろえる)。 ・解析の段階:層化(層別解析。本問のように喫煙の有無で分けて解析する)、多変量解析(ロジスティック回帰分析などで複数の因子を同時に調整する)。
交絡因子と中間因子
曝露→第三因子→結果という因果経路の途中にある因子(中間因子)は交絡因子ではない。例えば「肥満→高血圧→脳卒中」における高血圧は中間因子であり、これを調整すると肥満の影響を過小評価してしまう。
POINT
・交絡因子:曝露と関連し、結果の独立した危険因子であり、因果経路上の中間因子ではない第三の因子。 ・交絡因子の有無で層別化すると見かけの関連が消える(または変化する)ことが、交絡を見抜く手がかり。 ・交絡は無作為化・限定・マッチング(計画段階)、層化・多変量解析(解析段階)で制御できる。 ・バイアス(選択バイアス・情報バイアス)は解析で補正しにくく、研究計画段階での予防が重要。 ・飲酒と肺癌の関係における喫煙は、交絡因子の代表例。
