抗精神病薬で一番多い副作用は?―「D2遮断」から副作用地図を描く
第105回医師国家試験 G問題 第69問
国試問題にチャレンジ
統合失調症治療薬の副作用で最も出現頻度が高いのはどれか。
- a.嘔吐
- b.顆粒球減少症
- c.筋弛緩
- d.女性化乳房
- e.錐体外路症状
- f.体重減少
- g.白内障
- h.発熱
- i.貧血
- j.不整脈
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
抗精神病薬はドパミンD2受容体遮断を主作用とし、黒質線条体系での遮断により生じる錐体外路症状が最も頻度の高い副作用です。錐体外路症状には急性ジストニア、パーキンソニズム、アカシジア、遅発性ジスキネジアの4病型があり、アカシジアは精神症状の悪化と誤認されやすい点に注意が必要です。漏斗下垂体系の遮断による高プロラクチン血症、H1遮断による眠気・体重増加、抗コリン作用、α1遮断による起立性低血圧なども受容体ごとに整理でき、制吐作用をもつことや筋弛緩・体重減少が逆である点も押さえておきます。頻度はまれでも悪性症候群、クロザピンによる無顆粒球症、QT延長は致死的になりうるため重要です。受容体遮断から副作用を導く考え方は、薬剤選択や副作用モニタリングといった実臨床の判断に直結します。
解答・解説
正解はeです
問われているテーマ
統合失調症の治療に用いる抗精神病薬の副作用のうち、最も多くみられるものを問う問題である。
考え方
抗精神病薬の主な作用は、脳内のドパミンD2受容体を遮断することである。統合失調症の幻覚・妄想などの陽性症状は、中脳辺縁系のドパミン神経の過剰な活動と関係すると考えられており、この経路のD2受容体を遮断することで症状が改善する。 しかし抗精神病薬は、治療の標的ではない他のドパミン経路の受容体も同時に遮断してしまう。特に、運動の調節にかかわる黒質線条体系(大脳基底核)のドパミン伝達が抑えられると、ドパミンとアセチルコリンの均衡が崩れ、パーキンソン病に似た症状などの錐体外路症状が生じる。錐体外路症状はD2受容体遮断という薬理作用そのものから直接生じる副作用であるため、とくにハロペリドールなどの定型(第一世代)抗精神病薬で高頻度にみられ、抗精神病薬の副作用として最も頻度が高い。 そのほかの副作用も、どの受容体の遮断によるものかを整理しておくと理解しやすい。漏斗下垂体系のD2受容体遮断による高プロラクチン血症、ヒスタミンH1受容体遮断による眠気と体重増加、ムスカリン受容体遮断による口渇・便秘・尿閉、α1受容体遮断による起立性低血圧、などである。
選択肢考察
- ×a. 嘔吐
延髄の化学受容器引き金帯(CTZ)にはドパミンD2受容体があり、ここが刺激されると嘔吐が起こる。抗精神病薬はこのD2受容体を遮断するため、むしろ嘔吐を抑える制吐作用をもつ。実際、プロクロルペラジンなどのフェノチアジン系薬は制吐薬として用いられ、ドパミン拮抗薬であるメトクロプラミドやドンペリドンも制吐薬である。したがって嘔吐は抗精神病薬の代表的な副作用ではない。
- ×b. 顆粒球減少症
抗精神病薬で顆粒球減少症や無顆粒球症が起こることはある。とくに治療抵抗性統合失調症に用いるクロザピンでは無顆粒球症の頻度が高く(約1%とされる)、定期的な血液検査を義務づけた登録制度のもとでしか使用できない。フェノチアジン系薬でもまれに起こる。重篤な副作用として重要であるが、発生頻度としては錐体外路症状に遠く及ばない。
- ×c. 筋弛緩
抗精神病薬による錐体外路症状では、筋肉の緊張がむしろ高まる筋強剛(筋固縮)が起こる。重篤な副作用である悪性症候群でも著しい筋強剛がみられる。筋弛緩は抗精神病薬の作用ではなく、ベンゾジアゼピン系薬(抗不安薬・睡眠薬)の副作用として知られるもので、高齢者の転倒の原因となる。
- ×d. 女性化乳房
ドパミンは下垂体前葉からのプロラクチン分泌を抑制している(プロラクチン抑制因子として働く)。抗精神病薬が漏斗下垂体系のD2受容体を遮断すると、この抑制が外れて高プロラクチン血症となり、女性では無月経や乳汁漏出、男性では女性化乳房や性機能障害を生じる。リスペリドンやスルピリドなどで起こりやすい。実際に生じうる副作用であるが、最も頻度が高いものではない。
- ○e. 錐体外路症状
黒質線条体系のドパミンD2受容体が遮断されることで生じる運動の異常であり、抗精神病薬の副作用の中で最も頻度が高い。主な病型は次のとおりである。 ・急性ジストニア: 投与開始後数日以内に、眼球上転、頸部の捻転、舌の突出などの持続的な筋収縮が起こる。若年男性に多い。 ・パーキンソニズム: 数日〜数週で、振戦、筋強剛、無動、小刻み歩行などが出現する。 ・アカシジア(静座不能): じっと座っていられず、そわそわと歩き回る。焦燥感として現れるため、精神症状の悪化と誤られやすい。 ・遅発性ジスキネジア: 数か月〜数年の長期投与後に、口をもぐもぐさせる、舌を動かすなどの不随意運動が現れる。中止しても改善しにくい。 急性の症状には、抗精神病薬の減量や非定型薬への変更、抗コリン薬(ビペリデンなど)の併用で対応する。非定型抗精神病薬は錐体外路症状が比較的少ないが、なくなるわけではない。
- ×f. 体重減少
抗精神病薬ではヒスタミンH1受容体やセロトニン5-HT2C受容体の遮断によって食欲が増し、体重が増加することが多い。とくにオランザピンやクロザピンなどの非定型抗精神病薬で著しく、脂質異常症や耐糖能異常を伴うこともある。オランザピンとクエチアピンは高血糖(糖尿病性ケトアシドーシスを含む)の危険があるため、糖尿病患者には禁忌である。体重減少は典型的な副作用ではない。
- ×g. 白内障
白内障は抗精神病薬の代表的な副作用ではない。クロルプロマジンの長期大量投与で水晶体や角膜への色素沈着が起こることや、クエチアピンで動物実験上白内障が報告されていることが知られているが、頻度はきわめて低い。眼に関して注意すべきなのは、抗コリン作用をもつ薬剤(フェノチアジン系など)が閉塞隅角緑内障を悪化させうることである。
- ×h. 発熱
抗精神病薬による発熱として重要なのは悪性症候群である。投与開始や増量、急な中止などを契機に、高熱、著しい筋強剛、意識障害、発汗・頻脈などの自律神経症状、血清CK(クレアチンキナーゼ)の上昇を呈し、横紋筋融解から腎不全に至ることもある。治療は原因薬の中止、冷却・輸液などの全身管理、ダントロレンやブロモクリプチンの投与である。致死的となりうる重要な副作用であるが、頻度はまれ(0.1%前後)であり、最も頻度が高いものではない。無顆粒球症に伴う感染でも発熱がみられる。
- ×i. 貧血
抗精神病薬で骨髄抑制による血球減少が起こることはあり、貧血が生じる場合もあるが、まれである。抗精神病薬の血液系副作用として問題となるのは主に顆粒球減少症・無顆粒球症であり、貧血は頻度の高い副作用ではない。
- ×j. 不整脈
抗精神病薬の一部(ハロペリドールの静注、フェノチアジン系薬など)は心電図のQT間隔を延長させ、トルサード・ド・ポアント(多形性心室頻拍)などの致死的不整脈や突然死を起こしうる。また抗コリン作用による頻脈もみられる。心疾患や低カリウム血症がある患者、他のQT延長薬を併用する場合には心電図の確認が必要となるが、錐体外路症状と比べて頻度は低い。
抗精神病薬の分類
・定型(第一世代)抗精神病薬: ドパミンD2受容体の遮断が主作用。ハロペリドール(ブチロフェノン系)、クロルプロマジン(フェノチアジン系)など。錐体外路症状や高プロラクチン血症が起こりやすい。 ・非定型(第二世代)抗精神病薬: D2受容体遮断に加えてセロトニン5-HT2A受容体遮断作用などをもち、錐体外路症状が比較的少ない。リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール(D2受容体部分作動薬)、クロザピンなど。代謝系の副作用(体重増加、高血糖、脂質異常症)に注意が必要である。現在の統合失調症治療では非定型抗精神病薬が第一選択である。
脳内のドパミン経路と抗精神病薬の作用
・中脳辺縁系: 遮断により陽性症状(幻覚・妄想)が改善する(治療効果) ・中脳皮質系: 遮断により陰性症状や認知機能障害が悪化しうる ・黒質線条体系: 遮断により錐体外路症状が生じる ・漏斗下垂体系: 遮断により高プロラクチン血症(無月経、乳汁漏出、女性化乳房)が生じる
受容体別にみた主な副作用
・ドパミンD2受容体遮断: 錐体外路症状、高プロラクチン血症、悪性症候群 ・ヒスタミンH1受容体遮断: 眠気、体重増加 ・ムスカリン受容体遮断(抗コリン作用): 口渇、便秘、尿閉、かすみ目、閉塞隅角緑内障の悪化、せん妄 ・アドレナリンα1受容体遮断: 起立性低血圧、めまい、射精障害 ・その他: QT延長、けいれん閾値の低下、顆粒球減少症(とくにクロザピン)、耐糖能異常(とくにオランザピン、クエチアピン)
POINT
・抗精神病薬の副作用で最も頻度が高いのは錐体外路症状(黒質線条体系のD2受容体遮断による) ・錐体外路症状の4病型: 急性ジストニア、パーキンソニズム、アカシジア、遅発性ジスキネジア ・漏斗下垂体系のD2遮断 → 高プロラクチン血症(無月経、乳汁漏出、女性化乳房) ・抗精神病薬は制吐作用をもち、筋強剛や体重増加を起こす(嘔吐、筋弛緩、体重減少は逆) ・まれだが重篤な副作用: 悪性症候群(高熱、筋強剛、CK上昇)、無顆粒球症(クロザピン)、QT延長による致死的不整脈
