StudyMed医師国家試験

体温・血圧・睡眠・尿、そして血液―神経に頼らない「造血」のしくみを見抜く

第105回医師国家試験 H問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第105回 H問題 第2問

神経系による調節の関与が小さいのはどれか。

  1. a.体温
  2. b.血圧
  3. c.睡眠
  4. d.造血
  5. e.尿浸透圧

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、体のさまざまな恒常性が「何によって」調節されているかを問う問題だ。生体の調節には大きく分けて、神経による調節と、ホルモンやサイトカインといった液性因子による調節がある。各機能について「どこで感知し、どこが司令塔で、何が効果を出すのか」を考えると整理しやすいよ。
医学生医学生
生理学の講義で、神経性調節は速くて局所的、液性調節はゆっくりで全身的、と習いました。
ドクタードクター
その理解が土台になる。では体温から考えてみよう。体温調節の司令塔はどこにある?
医学生医学生
視床下部です。寒いとふるえが起きて、暑いと汗をかくので、神経が主役だと思います。
ドクタードクター
その通り。視索前野を中心とする視床下部が設定温度と比べて、寒いときは交感神経による皮膚血管収縮や褐色脂肪での熱産生、体性運動神経によるふるえで熱を保つ。暑いときは皮膚血管を広げ、交感神経のコリン作動性線維で発汗させる。甲状腺ホルモンも関わるけれど、主役は神経だね。
医学生医学生
血圧はレニン・アンギオテンシン系があるので、液性調節の要素も大きい気がして少し迷いました。
ドクタードクター
いい迷い方だ。長期的にはRAA系も重要だけれど、短期的には圧受容器反射が秒単位で効いている。頸動脈洞と大動脈弓の圧受容器が舌咽神経・迷走神経を介して延髄に情報を送り、交感神経で心拍や血管の緊張を変える。しかも腎臓からのレニン分泌自体が交感神経の刺激を受けるから、神経の関与は大きいんだ。
医学生医学生
睡眠は脳そのものの状態なので、神経の関与が大きいのは当然ですね。
ドクタードクター
そう。脳幹網様体から視床・大脳皮質へ向かう上行性網様体賦活系が覚醒を保ち、視床下部の視索前野が睡眠を誘導し、外側野のオレキシン神経が覚醒を安定させる。視交叉上核が体内時計を担い、メラトニン分泌もこの神経回路の支配下にある。
医学生医学生
精神科の実習で、ナルコレプシーはオレキシン神経の障害と教わりました。つながりました。
ドクタードクター
いい結びつけだね。次は尿浸透圧。これは抗利尿ホルモンで決まるから、液性調節に思えるかな?
医学生医学生
はい、ADHはホルモンなので、こちらが答えかと一瞬思いました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだ。ADHは視床下部の視索上核・室傍核の神経細胞で作られ、軸索を通って下垂体後葉から放出される。血漿浸透圧を感知するのも視床下部の浸透圧受容器。つまり感知・産生・分泌がすべて神経細胞で行われる「神経内分泌」なんだ。集合管のV2受容体に作用してアクアポリン2を管腔側に組み込み、水を再吸収して尿を濃くする。
医学生医学生
なるほど、ホルモンでも中身は神経系の仕事なんですね。すると残る造血が答えでしょうか。
ドクタードクター
正解。赤血球は、腎臓の尿細管周囲の間質細胞が低酸素を感知して出すエリスロポエチンで増える。好中球はG-CSFなどのコロニー刺激因子、血小板は主に肝臓で作られるトロンボポエチンが調節する。骨髄の造血は、神経からの指令ではなく、ホルモンやサイトカインによるフィードバックで動いているんだ。
医学生医学生
腎不全で貧血になるのも、エリスロポエチンが出なくなるからでしたね。腎臓内科の実習でESAを使っている患者さんを見ました。
ドクタードクター
まさにその臨床像が液性調節の証拠だね。ほかにも化学療法後の好中球減少にG-CSF製剤を使うし、慢性呼吸不全や高地での生活で赤血球が増えるのもエリスロポエチンの作用だ。なお近年、造血幹細胞の動員や日内変動に交感神経が関わることも知られてきたけれど、造血量を決める主体はあくまで液性因子と考えておけばよい。
医学生医学生
視床下部は体温、水分、睡眠、内分泌と、ほとんどの恒常性に顔を出しますね。
ドクタードクター
だから「自律神経系と内分泌系の最高中枢」と呼ばれる。視床下部の障害で尿崩症や体温異常、睡眠障害が同時に出ることもある。各機能の「感知・統合・効果器」をたどる習慣をつけると、こうした病態も自然に理解できるよ。

まとめ

生体の恒常性は神経性調節と液性調節によって維持され、体温・血圧・睡眠は視床下部や脳幹の中枢が自律神経系などを介して調節する、神経系が主役の機能です。尿浸透圧を決める抗利尿ホルモンはホルモンですが、視床下部の神経細胞で産生され下垂体後葉から放出される神経内分泌であり、神経系の関与は大きいといえます。一方、造血は腎臓のエリスロポエチン、G-CSF、肝臓のトロンボポエチンなどの液性因子によるフィードバックで主に制御され、神経系の関与は小さいと考えられます。腎性貧血へのESA投与や化学療法後のG-CSF投与は、この液性調節を臨床に応用したものです。各機能を「感知・統合・効果器」の流れで整理することは、生理学の理解だけでなく視床下部障害などの病態理解にも役立ちます。

解答・解説

正解はdです

問われていること

生体の恒常性(ホメオスタシス)を保つしくみには、主に神経系による調節と、ホルモンやサイトカインなどの液性因子による調節がある。本問は、選択肢の生理機能のうち、神経系(中枢神経・自律神経・神経内分泌)の関与が小さいものを選ばせる問題である。

考え方

各機能について「どこで情報を感知し、どこが司令塔となり、何が効果を出すか」を考えるとよい。 ・体温、血圧、睡眠は、視床下部や脳幹にある中枢が統合し、自律神経系などを介して調節される、神経系が主役の機能である。 ・尿浸透圧は抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)というホルモンが直接の効果を担うが、ADHは視床下部の神経細胞で産生され、神経線維を通って下垂体後葉から放出される神経内分泌であり、神経系の関与は大きい。 ・造血は、腎臓で産生されるエリスロポエチン(EPO)や、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、トロンボポエチンなどの液性因子が骨髄に作用して調節されており、神経系の関与は相対的に小さい。 したがって、神経系による調節の関与が最も小さいのは造血である。

選択肢考察

  1. ×a.  体温

    体温調節の中枢は視床下部にある。皮膚の温度受容器や視床下部自体の温度感受性ニューロンからの情報が視索前野を中心とする視床下部で統合され、設定温度(セットポイント)と比較される。寒いときは交感神経による皮膚血管収縮や褐色脂肪組織での熱産生、体性運動神経によるふるえで熱産生・熱保持を図り、暑いときは皮膚血管拡張と交感神経コリン作動性線維による発汗で熱を放散する。甲状腺ホルモンなどの内分泌系も関わるが、中心となるのは神経系による調節である。

  2. ×b.  血圧

    血圧は短期的には自律神経によって秒単位で調節される。頸動脈洞と大動脈弓にある圧受容器が血圧の変化を感知し、舌咽神経・迷走神経を介して延髄の心臓血管中枢(孤束核など)に伝える。血圧が低下すると交感神経活動が高まり、心拍数・心収縮力の増加と血管収縮によって血圧が回復する(圧受容器反射)。長期的にはレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系などの液性因子も重要だが、腎臓からのレニン分泌自体も交感神経の刺激を受けるなど、神経系の関与は大きい。

  3. ×c.  睡眠

    睡眠と覚醒は脳自体が生み出す状態であり、神経系そのものによる調節を受ける。脳幹網様体から視床・大脳皮質へ向かう上行性網様体賦活系が覚醒を維持し、視床下部の視索前野は睡眠の誘導に、視床下部外側野のオレキシン(ヒポクレチン)神経は覚醒の安定化に関わる。また視床下部の視交叉上核が概日リズム(体内時計)を担い、松果体からのメラトニン分泌もこの神経回路の支配を受ける。

  4. ○d.  造血

    造血は主に液性因子によって調節される。赤血球産生は、腎臓の尿細管周囲の間質細胞が組織の酸素不足(貧血や低酸素血症)を感知して分泌するエリスロポエチンにより促進される。アンドロゲンも赤血球産生を促す。白血球(好中球)の産生はG-CSFなどのコロニー刺激因子やインターロイキン類、血小板の産生は主に肝臓で産生されるトロンボポエチンが調節する。このように骨髄の造血は、神経を介した指令ではなく、ホルモン・サイトカインによるフィードバックで制御されており、選択肢の中で神経系の関与が最も小さい。

  5. ×e.  尿浸透圧

    尿浸透圧は抗利尿ホルモン(ADH)によって決まる。血漿浸透圧が上昇すると、視床下部の浸透圧受容器がこれを感知し、視索上核・室傍核の神経細胞で産生されたADHが軸索を通って運ばれ、下垂体後葉から血中に放出される。ADHは腎集合管のV2受容体に作用してアクアポリン2を管腔側膜に組み込ませ、水の再吸収を増やして濃縮尿をつくる。ADHはホルモンだが、感知・産生・分泌がすべて神経細胞で行われる神経内分泌であり、神経系の関与は大きい。

生体の調節系:神経性調節と液性調節

・神経性調節:神経インパルスで情報を伝えるため、速く、局所的・短時間の調節に適する。例:圧受容器反射による血圧調節、ふるえや発汗による体温調節。 ・液性調節:ホルモンやサイトカインが血流で運ばれて作用するため、比較的ゆっくりで、全身的・持続的な調節に適する。例:造血、血糖(インスリン・グルカゴン)、カルシウム代謝(副甲状腺ホルモン・活性型ビタミンD)。 ・神経内分泌:神経細胞がホルモンを分泌するしくみで、両者の橋渡しをする。視床下部から下垂体後葉へのADH・オキシトシン分泌や、視床下部ホルモンによる下垂体前葉の制御、交感神経による副腎髄質からのアドレナリン分泌がその代表である。

視床下部が関わる主な恒常性機能

体温調節、摂食・飲水、水・電解質バランス(ADH、口渇)、概日リズム、睡眠・覚醒、下垂体ホルモン分泌の制御、自律神経の統合など。視床下部は「自律神経系と内分泌系の最高中枢」と位置づけられる。

造血を調節する主な因子

・赤血球系:エリスロポエチン(主に腎臓で産生。低酸素で分泌増加) ・顆粒球・単球系:G-CSF、GM-CSF、M-CSF、各種インターロイキン ・血小板系:トロンボポエチン(主に肝臓で産生) なお、骨髄の造血幹細胞の動員や日内変動に交感神経が関与することも近年知られているが、造血量の調節の主体は上記の液性因子である。

POINT

・造血はエリスロポエチン、G-CSF、トロンボポエチンなどの液性因子が主に調節し、神経系の関与は小さい。 ・体温:視床下部の体温調節中枢と自律神経。 ・血圧:圧受容器反射と延髄の心臓血管中枢。 ・睡眠・覚醒:脳幹網様体、視床下部(視索前野、オレキシン神経、視交叉上核)。 ・尿浸透圧:視床下部の浸透圧受容器とADH(下垂体後葉から分泌される神経内分泌)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。