StudyMed医師国家試験

心臓は休むあいだに自分を養う―拡張期に流れる左冠動脈と前下行枝の守備範囲

第105回医師国家試験 G問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第105回 G問題 第35問

冠循環について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.安静時冠血流量は心拍出量の約20%である。
  2. b.心筋は心外膜側が心内膜側に比べて虚血になりやすい。
  3. c.左冠動脈は主に拡張期に流れる。
  4. d.左冠動脈主幹部は主肺動脈の前方を通過する。
  5. e.左冠動脈前下行枝は左室前壁と心室中隔とを栄養する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は冠循環の問題だ。生理と解剖の両面から問われている。生理では「冠血流量はどれくらいか」「いつ流れるか」「心筋のどこが虚血になりやすいか」、解剖では「左冠動脈がどこを通り、どこを養うか」。一つずつ整理していこう。
医学生医学生
まず血流量ですが、心臓は重要な臓器なので心拍出量の20%くらいもらっていても不思議じゃない気がしました。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でも実際の安静時冠血流量は約250mL/分で、心拍出量のおよそ5%にすぎない。20%前後を受けるのは腎臓だ。ここを混同しやすいので注意しよう。
医学生医学生
5%で足りるんですか。心臓はずっと動き続けているのに。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。心筋は安静時でも血液中の酸素を約70%も取り込んでいて、酸素摂取率が全身でもトップクラスに高い。逆に言えば、需要が増えたときに摂取率をそれ以上上げる余地が少ないから、細動脈を拡張して血流量そのものを増やして対応するんだ。運動時には安静時の数倍まで増えうる。この余力を冠血流予備能と呼ぶ。
医学生医学生
生理学の講義で、冠循環は「量で勝負」と教わったのを思い出しました。では、流れるタイミングはどうでしょう。
ドクタードクター
冠動脈の血流は、大動脈の灌流圧と心筋内圧の差で決まる。左室は収縮期に大動脈圧と同じくらいの内圧を生むから、心筋の中を貫く血管が押しつぶされて血流が大きく減る。拡張期になると心筋内圧が下がり、大動脈の拡張期圧との差が開いて血液が流れ込む。だから左冠動脈は主に拡張期に流れる。これが正解のひとつだ。
医学生医学生
右冠動脈は違うんですか。
ドクタードクター
右室は収縮期の内圧が低いから、右冠動脈は収縮期にも一定の血流が保たれる。左右の差は心室の圧の差から来ているんだね。
医学生医学生
同じ理屈で考えると、圧迫が強いのは内腔に近い側なので、虚血になりやすいのは心外膜側ではなく心内膜側ですよね。
ドクタードクター
その通り。冠動脈の太い枝は心外膜の表面を走り、そこから心筋を貫いて内側へ向かう。心内膜側は血管の末梢にあたるうえ、収縮期の圧迫が最も強く、壁張力が大きくて酸素需要も高い。だから虚血は心内膜下から始まる。心外膜側のほうが虚血になりやすいという記述は逆だね。
医学生医学生
循環器内科の実習で、労作性狭心症の発作時にST低下が出るのは心内膜下虚血を反映していると教わりました。
ドクタードクター
よくつながったね。では解剖に移ろう。心基部では大動脈が右後方、肺動脈幹が左前方にある。左冠動脈主幹部は大動脈の左Valsalva洞から出て、どちら側を通るかな。
医学生医学生
肺動脈が前にあるなら、主幹部はその後ろを通ることになりますね。前方を通るという記述は誤りだと思います。
ドクタードクター
正解。主幹部は肺動脈幹の後方を抜けて、その左側で前下行枝と回旋枝に分かれる。前下行枝はそこから心臓の前面に出て前室間溝を下行し、対角枝で左室前壁を、中隔枝で心室中隔の前方約2/3を栄養する。心尖部も多くは前下行枝の領域だ。だから前下行枝が左室前壁と心室中隔を栄養するという記述が、もうひとつの正解になる。
医学生医学生
前下行枝が詰まると前壁中隔梗塞で、V1〜V4のST上昇でしたね。
ドクタードクター
そう。中隔にはHis束や脚が走るから、脚ブロックを合併することもある。ほかの枝も整理しておこう。回旋枝は房室間溝を回って左室の側壁から後壁を、右冠動脈は右室、左室下壁、中隔の後方約1/3を灌流する。右冠動脈は多くの人で洞結節枝や房室結節枝も出すから、下壁梗塞では徐脈や房室ブロックに注意が必要だ。
医学生医学生
冠血流が拡張期に依存するとわかると、臨床の話もつながりそうです。
ドクタードクター
まさにそこが応用だ。頻脈になると拡張期が短くなり、心筋灌流が減る。大動脈弁閉鎖不全症で拡張期血圧が下がると、灌流圧が落ちて冠血流が減る。生理の原理を押さえておけば、こうした病態も自然に説明できるよ。
医学生医学生
頻脈の患者さんにβ遮断薬を使う意味も、酸素需要を下げるだけでなく拡張期を延ばすことにあるんですね。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。数字や走行を丸暗記するのではなく、圧と時間の関係から考えられると強いよ。

まとめ

安静時の冠血流量は約250mL/分で心拍出量の約5%にすぎず、心筋は酸素摂取率が約70%と高いため、需要増加には血流量の増加で対応します。冠血流は大動脈圧と心筋内圧の差で決まり、収縮期に強く圧迫される左冠動脈は主に拡張期に流れ、圧迫が最も強い心内膜側から虚血が始まります。左冠動脈主幹部は肺動脈幹の後方を通り、前下行枝は左室前壁・心室中隔前方約2/3・心尖部を、回旋枝は側壁〜後壁を、右冠動脈は右室・下壁・中隔後方約1/3を灌流します。頻脈や大動脈弁閉鎖不全症で冠灌流が減る理由も同じ原理で説明でき、冠循環の生理と解剖をセットで理解することが虚血性心疾患の病態把握や心電図判読の基盤となります。

解答・解説

正解はc, eです

冠循環の生理(血流量、時相、心筋層による虚血の起こりやすさ)と解剖(冠動脈の走行と灌流域)を問う問題である。

冠循環の生理の要点

心筋は安静時でも血液中の酸素の約70%を取り込んでおり(酸素摂取率が全身の臓器で最も高い部類)、酸素需要が増えても摂取率をそれ以上大きく上げる余地が少ない。そのため、需要の増加には主に冠血流量の増加で対応する。安静時の冠血流量は約250mL/分で、心拍出量の約5%にあたる。 冠動脈の血流は、大動脈圧(灌流圧)と心筋内圧(組織圧)の差によって決まる。左室は収縮期に高い内圧を生じ、心筋内を貫く血管が圧迫されるため、左冠動脈の血流は主に拡張期に流れる。この圧迫は内腔に近い心内膜側ほど強いため、心内膜側心筋は虚血に陥りやすい。

冠動脈の解剖の要点

左右の冠動脈は大動脈基部のValsalva洞から起始する。左冠動脈主幹部は肺動脈幹の後方(大動脈と肺動脈の間から後ろ)を通り、前下行枝と回旋枝に分かれる。前下行枝は前室間溝を下行して左室前壁・心室中隔(前方約2/3)・心尖部を、回旋枝は房室間溝を回って左室側壁〜後壁を、右冠動脈は右室と左室下壁・心室中隔の後方約1/3などを灌流する。 以上から、正しい記述はcとeである。

選択肢考察

  1. ×a.  安静時冠血流量は心拍出量の約20%である。

    安静時の冠血流量は成人で約200〜300mL/分であり、心拍出量(約5L/分)の約5%にすぎない。心拍出量の約20%を受けるのは腎臓(約20〜25%)であり、混同しないよう注意する。なお、冠血流は運動などで酸素需要が増えると、細動脈の拡張によって安静時の数倍(4〜5倍程度)まで増加しうる。この予備能を冠血流予備能と呼び、狭窄があると低下する。記述は誤り。

  2. ×b.  心筋は心外膜側が心内膜側に比べて虚血になりやすい。

    虚血になりやすいのは心内膜側である。冠動脈の主幹は心外膜表面を走り、そこから枝が心筋を貫いて心内膜側へ向かう。心内膜側は冠動脈の末梢にあたるうえ、収縮期には左室内圧を直接受けて心筋内圧が最も高くなり、血管が強く圧迫される。さらに心筋壁の張力が大きく酸素需要も高い。このため、冠血流が低下すると心内膜下から虚血が始まり、心内膜下梗塞(非貫壁性梗塞)や、心電図でのST低下(心内膜下虚血)として現れる。記述は逆であり誤り。

  3. ○c.  左冠動脈は主に拡張期に流れる。

    収縮期には左室心筋内圧が大動脈圧とほぼ同程度まで上昇するため、灌流圧との差がほとんどなくなり、心筋内の血管は押しつぶされて血流が大きく減少する。拡張期には心筋内圧が大きく低下する一方、大動脈には拡張期圧が保たれるため、両者の差が大きくなり血流が流れ込む。この結果、左冠動脈の血流は大部分が拡張期に流れる。これに対し右冠動脈が灌流する右室は収縮期の内圧が低いため、収縮期にも一定の血流が保たれる。頻脈で拡張期が短くなると心筋灌流が減ること、大動脈弁閉鎖不全症で拡張期血圧が低下すると冠灌流が減ることも、この原理から理解できる。記述は正しい。

  4. ×d.  左冠動脈主幹部は主肺動脈の前方を通過する。

    心基部では大動脈が右後方、肺動脈幹が左前方に位置する。左冠動脈主幹部は大動脈の左Valsalva洞から起始し、肺動脈幹の後方(大動脈と肺動脈の間を抜けて左房の前方)を通ったのち、肺動脈の左側で前下行枝と回旋枝に分岐する。前下行枝はそこから心臓の前面へ出て前室間溝を下行する。したがって「前方」は誤りである。なお、冠動脈の起始異常で左冠動脈が大動脈と肺動脈の間を走る型では、運動時に圧迫されて突然死の原因となることがある。

  5. ○e.  左冠動脈前下行枝は左室前壁と心室中隔とを栄養する。

    左前下行枝(LAD:left anterior descending artery)は前室間溝を心尖部に向かって下行し、対角枝を出して左室前壁(〜前側壁)を、中隔枝を出して心室中隔の前方約2/3を灌流する。心尖部も多くの場合LADの灌流域である。LAD近位部の閉塞では広範な前壁中隔梗塞となり、心電図ではV1〜V4を中心にST上昇がみられる。心室中隔には刺激伝導系(His束、脚)が走るため、脚ブロックを合併することもある。記述は正しい。

冠動脈の主な灌流域と心筋梗塞の心電図

・左前下行枝(LAD):左室前壁、心室中隔前方約2/3、心尖部 → 前壁中隔梗塞、V1〜V4でST上昇 ・左回旋枝(LCX):左室側壁〜後壁 → 側壁梗塞、I、aVL、V5、V6でST上昇(後壁梗塞ではV1〜V2のR波増高・ST低下として現れる) ・右冠動脈(RCA):右室、左室下壁、心室中隔後方約1/3、多くの例で洞結節枝・房室結節枝 → 下壁梗塞、II、III、aVFでST上昇。洞徐脈や房室ブロック、右室梗塞を合併しやすい ・後下行枝は約85〜90%の人でRCAから出る(右冠動脈優位型)。

冠血流を規定する因子

・灌流圧(主に大動脈拡張期圧)と心筋内圧の差 ・拡張期時間(頻脈で短縮すると灌流が減る) ・冠血管抵抗(細動脈レベルの自己調節。アデノシン、NO、低酸素、CO2などで拡張)

冠循環のAHA分類(区域番号)

RCAは#1〜#4、左冠動脈主幹部は#5、LADは#6〜#10、LCXは#11〜#15と番号付けされ、冠動脈造影の報告で用いられる。

POINT

・安静時冠血流量:約250mL/分、心拍出量の約5%。心筋の酸素摂取率は約70%と高く、需要増には血流増加で対応する。 ・左冠動脈は主に拡張期に流れる(右冠動脈は収縮期にも流れる)。 ・虚血は心内膜側から起こる。 ・左冠動脈主幹部は肺動脈幹の後方を通る。 ・LAD:左室前壁・心室中隔前方2/3・心尖部。LCX:側壁〜後壁。RCA:右室・下壁・中隔後方1/3。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。