靱帯の中を走るのは誰か―子宮動脈と卵巣動脈で読み解く女性骨盤の地図
第105回医師国家試験 G問題 第34問
国試問題にチャレンジ
成人女性の骨盤内解剖所見で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.子宮動脈は仙骨子宮靱帯の中を走る。
- b.子宮動脈は内腸骨動脈から分岐する。
- c.卵管間質部の長さは4~5 cmである。
- d.卵管壁は内膜と外膜との2層からなる。
- e.卵巣動・静脈は骨盤漏斗靱帯の中を走る。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
子宮動脈は内腸骨動脈から分岐して基靱帯(Mackenrodt靱帯)の中を走り、卵巣動脈は腹部大動脈から直接分岐して骨盤漏斗靱帯(卵巣提靱帯)の中を卵巣静脈とともに走ります。仙骨子宮靱帯は子宮を後方に支える靱帯で主要血管は含まず、卵管は全長約10cm、間質部は1〜2cm程度で、壁は粘膜・筋層・漿膜の3層構造です。子宮頸部の外側で尿管が子宮動脈の下をくぐる位置関係は子宮全摘出術での尿管損傷の好発部位であり、左卵巣静脈が左腎静脈へ注ぐ左右差も臨床的に重要です。靱帯と血管・尿管の関係を立体的に理解しておくことは、婦人科手術の安全性や異所性妊娠の理解の土台となります。
解答・解説
正解はb, eです
女性骨盤内の血管走行、子宮を支える靱帯、卵管の構造に関する基本的な解剖知識を問う問題である。婦人科手術(単純子宮全摘出術、広汎子宮全摘出術、付属器摘出術など)では、どの靱帯の中をどの血管が通るかを理解していることが、安全な止血と尿管損傷の回避に直結する。
子宮・付属器への血流
子宮と付属器は主に2系統の動脈で栄養される。一つは内腸骨動脈から分岐する子宮動脈で、基靱帯(子宮頸部の側方から骨盤壁へ張る結合組織)の中を内側へ走り、子宮頸部の側方に達する。もう一つは腹部大動脈から直接分岐する卵巣動脈で、骨盤漏斗靱帯(卵巣提靱帯、卵巣堤索とも呼ばれる)の中を下行して卵巣に至る。両者は子宮の側縁から卵巣の近くで吻合する。
卵管の構造
卵管は全長約10cm前後(7〜12cm程度)の管で、子宮側から間質部(子宮筋層内を貫く部分、1〜2cm程度)、峡部、膨大部、漏斗部(采を含む)に区分される。壁は粘膜・筋層・漿膜の3層からなる。 これらを踏まえ、各選択肢の記述を照合すると、正しいのは子宮動脈の起始を述べたbと、卵巣動静脈の走行部位を述べたeである。
選択肢考察
- ×a. 子宮動脈は仙骨子宮靱帯の中を走る。
子宮動脈が走るのは基靱帯(子宮頸横靱帯、Mackenrodt靱帯)の中である。仙骨子宮靱帯は子宮頸部の後面から直腸の両側を回って仙骨前面へ向かう靱帯で、子宮を後方へ引き留める役割をもつが、主要な血管は含まれない(骨盤神経叢につながる自律神経線維は近傍を走る)。したがって誤り。
- ○b. 子宮動脈は内腸骨動脈から分岐する。
子宮動脈は内腸骨動脈の前枝(臓側枝)から分岐し、基靱帯内を内側へ進んで、子宮頸部の側方・内子宮口付近の高さで上行枝(子宮体部側縁を上行し、卵巣動脈と吻合する)と下行枝(頸部・腟上部を栄養する)に分かれる。その途中、子宮頸部の約2cm外側で尿管の前上方を横切る。つまり尿管は子宮動脈の下をくぐって膀胱側へ向かうため、子宮全摘出術で子宮動脈を処理する際に尿管を損傷しないよう注意が必要である。記述は正しい。
- ×c. 卵管間質部の長さは4~5 cmである。
卵管間質部は子宮筋層の中を貫く部分で、長さは1〜2cm程度にすぎない。卵管全体でも約10cm前後であり、間質部が4〜5cmもあることはない。なお、卵管のうち最も長いのは膨大部で、受精が起こる部位であり、異所性妊娠(卵管妊娠)も膨大部に最も多い。間質部妊娠は頻度は低いが、周囲の筋層と血流が豊富なため破裂すると大出血をきたしやすい。記述は誤り。
- ×d. 卵管壁は内膜と外膜との2層からなる。
卵管壁は内側から粘膜、筋層、漿膜の3層構造である。粘膜は単層円柱上皮で覆われ、線毛細胞と分泌細胞からなり、線毛運動によって卵子・受精卵を子宮側へ運ぶ。筋層は平滑筋(内輪走筋・外縦走筋)で蠕動運動を担い、最外層は腹膜に由来する漿膜である。筋層を欠く2層構造とする記述は誤り。
- ○e. 卵巣動・静脈は骨盤漏斗靱帯の中を走る。
骨盤漏斗靱帯(卵巣提靱帯)は卵巣の上端(卵管端)から骨盤側壁へ伸びる腹膜のひだで、その中を卵巣動静脈、リンパ管、神経が通る。付属器摘出術ではこの靱帯を結紮・切断することで卵巣への血流を遮断する。卵巣動脈は左右とも腎動脈より下の高さで腹部大動脈から直接分岐する。一方、卵巣静脈は左右で還流先が異なり、右は下大静脈へ直接、左は左腎静脈へ注ぐ。記述は正しい。
子宮を支持する主な靱帯
・基靱帯(子宮頸横靱帯):子宮頸部側方から骨盤側壁へ。子宮動静脈が走る。子宮を支える最も重要な支持組織で、広汎子宮全摘出術ではこれを骨盤壁近くで切除する。 ・仙骨子宮靱帯:子宮頸部後面から仙骨前面へ。子宮頸部を後方に引き留める。 ・膀胱子宮靱帯:子宮頸部前面から膀胱へ。尿管が貫く(尿管トンネル)。 ・子宮円索(円靱帯):子宮角から鼠径管を通って大陰唇へ。子宮を前傾に保つ。 ・固有卵巣索(卵巣固有靱帯):卵巣と子宮角を結ぶ。卵巣動脈と子宮動脈の吻合枝が走る。 ・骨盤漏斗靱帯(卵巣提靱帯):卵巣と骨盤側壁を結ぶ。卵巣動静脈が走る。 ・子宮広間膜:子宮の両側を覆う腹膜のひだで、上縁に卵管を含む。
尿管と子宮動脈の位置関係
尿管は総腸骨動脈の分岐部付近で骨盤内に入り、子宮広間膜後葉に沿って下行したのち、子宮頸部の外側で子宮動脈の下をくぐり("water under the bridge"と表現される)、膀胱子宮靱帯を貫いて膀胱に入る。婦人科手術の尿管損傷はこの交差部で起こりやすい。
性腺静脈の左右差
左卵巣静脈(精巣静脈も同様)は左腎静脈に直角に流入するため、うっ滞をきたしやすい。男性で精索静脈瘤が左側に多い理由と同じ解剖学的背景である。
卵管の区分(子宮側から)
間質部(筋層内、1〜2cm)→峡部(細く筋層が厚い)→膨大部(最も長く太い、受精の場)→漏斗部(采で卵子を取り込む)。
POINT
・子宮動脈:内腸骨動脈から分岐し、基靱帯の中を走る。子宮頸部外側で尿管の上を横切る。 ・卵巣動脈:腹部大動脈から直接分岐し、骨盤漏斗靱帯(卵巣提靱帯)の中を走る。 ・卵巣静脈:右は下大静脈、左は左腎静脈へ注ぐ。 ・卵管:全長約10cm、間質部は1〜2cm。壁は粘膜・筋層・漿膜の3層。受精・卵管妊娠は膨大部に多い。
