輪をつくる血管、輪から出る血管―Willis動脈輪を「流れ」で描き直す
第105回医師国家試験 G問題 第36問
国試問題にチャレンジ
Willis動脈輪を構成するのはどれか。3つ選べ。
- a.内頸動脈
- b.前大脳動脈
- c.中大脳動脈
- d.後大脳動脈
- e.椎骨動脈
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Willis動脈輪は脳底部で前方循環(内頸動脈系)と後方循環(椎骨脳底動脈系)、さらに左右の循環をつなぐ輪状の吻合で、前交通動脈、左右の前大脳動脈近位部、内頸動脈終末部、後交通動脈、後大脳動脈近位部から構成されます。中大脳動脈は輪から外側へ出ていく枝、椎骨動脈は輪へ流入する上流の血管であり、通常は構成血管に含めません。動脈輪は内頸動脈閉塞時の側副血行路として働きますが、完全な形を持つ人は半数以下とされ、変異が多いことも知っておく必要があります。また嚢状脳動脈瘤は前交通動脈や内頸動脈-後交通動脈分岐部などの分岐部に好発し、後者では瞳孔散大を伴う動眼神経麻痺が手がかりとなります。血流の順に輪を描いて理解することは、脳梗塞・くも膜下出血の病態や画像診断を読み解く基盤になります。
解答・解説
正解はa, b, dです
Willis動脈輪(大脳動脈輪)は、脳底部(視交叉・下垂体茎・乳頭体を取り囲む位置)にある輪状の動脈吻合である。脳へ血液を送る2系統、すなわち前方循環(内頸動脈系)と後方循環(椎骨脳底動脈系)、および左右の循環を互いにつなぐ役割をもつ。
構成血管(前から順に)
・前交通動脈(1本) ・左右の前大脳動脈(前交通動脈より近位の部分、A1部) ・左右の内頸動脈(終末部) ・左右の後交通動脈 ・左右の後大脳動脈(後交通動脈との合流部より近位の部分、P1部) 血液の流れで整理すると、内頸動脈は頭蓋内で前大脳動脈と中大脳動脈に分かれ、左右の前大脳動脈が前交通動脈で連結されて輪の前半部をつくる。一方、左右の椎骨動脈が合流して脳底動脈となり、その先端で左右の後大脳動脈に分かれる。後大脳動脈は後交通動脈を介して内頸動脈とつながり、輪の後半部をつくる。 したがって、輪そのものを形づくる血管は内頸動脈、前大脳動脈、後大脳動脈であり、中大脳動脈は輪から外側へ出ていく枝、椎骨動脈は輪へ流入する上流の血管という位置づけになる。
選択肢考察
- ○a. 内頸動脈
内頸動脈は総頸動脈から分岐し、頸動脈管・海綿静脈洞を経て頭蓋内に入る。その終末部(後交通動脈を分岐してから前大脳動脈と中大脳動脈に分かれるまでの部分)がWillis動脈輪の外側の一辺を構成する。前方循環の本幹であり、後交通動脈を介して後方循環と連絡する。Willis動脈輪を構成するため正しい。
- ○b. 前大脳動脈
前大脳動脈は内頸動脈から分岐して正中へ向かい、左右が前交通動脈で結ばれる。内頸動脈分岐部から前交通動脈までの近位部(A1部)がWillis動脈輪の前部を構成する。前交通動脈より遠位では大脳縦裂内を上行し、前頭葉・頭頂葉の内側面(下肢の運動野・感覚野を含む)を灌流する。Willis動脈輪を構成するため正しい。
- ×c. 中大脳動脈
中大脳動脈は内頸動脈から前大脳動脈を分けた後の、内頸動脈の直接の延長にあたる太い枝で、外側溝(Sylvius裂)へ向かって外側に走り、大脳半球外側面の広い範囲(顔面・上肢の運動野・感覚野、優位半球の言語野など)を灌流する。輪から外側へ離れていく血管であり、ほかの血管と輪状に吻合しないため、通常はWillis動脈輪の構成に含めない。誤り。なお、穿通枝であるレンズ核線条体動脈は高血圧性脳出血(被殻出血)の好発血管である。
- ○d. 後大脳動脈
後大脳動脈は脳底動脈の先端から左右に分岐し、後交通動脈を介して内頸動脈と連絡する。脳底動脈分岐部から後交通動脈との合流部までの近位部(P1部)がWillis動脈輪の後部を構成する。遠位では後頭葉(視覚野)、側頭葉内側下面、視床などを灌流する。なお、後大脳動脈が主に内頸動脈から後交通動脈を経て血流を受ける変異(胎児型後大脳動脈)もみられる。Willis動脈輪を構成するため正しい。
- ×e. 椎骨動脈
椎骨動脈は鎖骨下動脈の第1枝で、第6頸椎から上位頸椎の横突孔を上行し、大後頭孔から頭蓋内に入る。延髄の前面を上行して橋の下縁付近で左右が合流し、脳底動脈となる。途中で後下小脳動脈(PICA)や前脊髄動脈を出し、延髄外側や小脳下面を灌流する(PICA領域の梗塞はWallenberg症候群〈延髄外側症候群〉の原因となる)。Willis動脈輪へ血液を送り込む上流の血管ではあるが、輪そのものは構成しないため誤り。
Willis動脈輪の臨床的意義
・側副血行路:一側の内頸動脈が徐々に狭窄・閉塞しても、前交通動脈を介した対側からの血流や、後交通動脈を介した椎骨脳底動脈系からの血流により、脳梗塞を免れることがある。ただし動脈輪が完全な形で揃っている人は半数以下とされ、一部が低形成・欠損している変異が多い。 ・脳動脈瘤の好発部位:嚢状脳動脈瘤の大部分は動脈輪とその近傍の血管分岐部に生じる。代表的な部位は前交通動脈、内頸動脈-後交通動脈分岐部、中大脳動脈分岐部であり、破裂するとくも膜下出血をきたす。 ・内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤は、すぐ近くを走る動眼神経を圧迫し、瞳孔散大を伴う動眼神経麻痺を起こすことがある。 ・もやもや病:両側の内頸動脈終末部から前・中大脳動脈近位部が進行性に狭窄・閉塞し、脳底部に異常血管網(もやもや血管)が発達する疾患である。
脳の主な動脈と灌流域
・前大脳動脈:大脳半球内側面(前頭葉・頭頂葉)。閉塞で対側下肢優位の運動・感覚障害。 ・中大脳動脈:大脳半球外側面。閉塞で対側の顔面・上肢優位の片麻痺、感覚障害、優位半球なら失語。 ・後大脳動脈:後頭葉、側頭葉内側下面、視床。閉塞で対側の同名半盲(黄斑回避を伴うことが多い)。 ・椎骨脳底動脈系:脳幹、小脳、後大脳動脈領域。
POINT
・Willis動脈輪の構成:前交通動脈、左右の前大脳動脈(A1)、左右の内頸動脈、左右の後交通動脈、左右の後大脳動脈(P1)。 ・中大脳動脈と椎骨動脈・脳底動脈は通常含めない(中大脳動脈は輪から出る枝、椎骨動脈は輪へ流入する血管)。 ・脳動脈瘤は動脈輪の分岐部(前交通動脈、内頸動脈-後交通動脈分岐部、中大脳動脈分岐部)に好発する。
