StudyMed医師国家試験

アクセルの暴走かブレーキの故障か―癌遺伝子と癌抑制遺伝子を見分ける

第105回医師国家試験 G問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第105回 G問題 第32問

機能の不活性化がヒトでの発癌につながる遺伝子はどれか。2つ選べ。

  1. a.c-myc〈MYC〉
  2. b.erbB2〈ERBB2〉
  3. c.K-ras〈KRAS〉
  4. d.p53〈TP53〉
  5. e.Rb〈RB1〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、発癌に関わる遺伝子を2つのグループに分けられるかを問う問題だ。ポイントは問題文の「機能の不活性化」という言葉。機能が失われることで癌になる遺伝子とは何か、を考えてほしい。
医学生医学生
機能がなくなって癌になるなら、もともと増殖を抑える側の遺伝子、つまり癌抑制遺伝子ですね。
ドクタードクター
その通り。細胞増殖を車にたとえると、癌遺伝子はアクセル、癌抑制遺伝子はブレーキだ。アクセルが踏みっぱなしになる、つまり機能が過剰に活性化すると癌になるのが癌遺伝子。ブレーキが壊れる、つまり不活性化すると癌になるのが癌抑制遺伝子だよ。
医学生医学生
癌遺伝子ってもともと悪い遺伝子なのかと思っていました。
ドクタードクター
よくある誤解だね。正常細胞がもつのは癌原遺伝子で、増殖因子や受容体、シグナル伝達分子、転写因子などをコードし、普段は適切に増殖を促している。それが点突然変異、遺伝子増幅、染色体転座で過剰に働くと癌遺伝子になるんだ。では選択肢を見よう。c-mycはどうかな。
医学生医学生
血液内科の講義でBurkittリンパ腫のt(8;14)と一緒に習いました。転座で過剰発現するので癌遺伝子ですね。
ドクタードクター
正解。MYCは増殖に関わる多くの遺伝子の発現を促す転写因子で、転座や増幅で活性化する。神経芽腫ではN-mycの増幅が予後不良因子だ。ちなみにc-mycはiPS細胞を作る山中因子の一つでもあり、腫瘍化のリスクが議論された。
医学生医学生
erbB2はHER2のことですよね。乳癌でトラスツズマブを使う、と腫瘍内科の講義で聞きました。
ドクタードクター
そう。HER2はEGFRファミリーの受容体型チロシンキナーゼで、乳癌の15〜20%程度や胃癌の一部で遺伝子増幅・過剰発現がみられる。増殖シグナルが過剰になるのだから、やはり活性化で発癌する癌遺伝子だ。
医学生医学生
K-rasは迷いました。RASはシグナルを伝えるスイッチなので、壊れたらシグナルが止まるのではと思ってしまって。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。RASはGTPと結合すると活性型になり、自らのGTPase活性でGTPを分解して不活性型に戻る。コドン12や13の点突然変異ではこのGTPase活性が落ちて、オンのまま戻らなくなるんだ。だから機能獲得型の変異で、癌遺伝子に分類される。膵癌の大部分、大腸癌の約4割にみられ、大腸癌ではRAS変異があると抗EGFR抗体薬の効果が期待できないことも臨床で重要だよ。
医学生医学生
スイッチが壊れて切れなくなる、ということですね。残るp53とRbが癌抑制遺伝子です。
ドクタードクター
正解。p53は「ゲノムの守護者」と呼ばれる転写因子で、DNAが損傷するとp21などを誘導して細胞周期をG1期で止め、修復を促す。修復できなければアポトーシスへ導く。ヒトの癌で最も高頻度に異常がみられる遺伝子の一つで、生殖細胞系列の変異はLi-Fraumeni症候群の原因になる。
医学生医学生
Rbは網膜芽細胞腫ですね。Knudsonの2ヒット説もここから来ていたと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。Rb蛋白は低リン酸化の状態で転写因子E2Fを抑え、G1期からS期への移行にブレーキをかけている。両方のアレルが不活性化されるとこの制御が失われる。遺伝性の網膜芽細胞腫では生まれつき片方に変異があり、網膜細胞でもう片方が失われて発症する。だから若年で両眼性になりやすく、骨肉腫などの二次癌も多い。
医学生医学生
癌遺伝子は片方の変化で効く優性、癌抑制遺伝子は両方やられて初めて効く劣性、という整理でいいですか。
ドクタードクター
原則としてはそれでいい。ほかの癌抑制遺伝子として、家族性大腸腺腫症のAPC、Wilms腫瘍のWT1、神経線維腫症1型のNF1、von Hippel-Lindau病のVHL、遺伝性乳癌卵巣癌症候群のBRCA1/2、Lynch症候群のミスマッチ修復遺伝子もまとめて覚えておこう。逆に癌遺伝子側ではBCR-ABL、BCL2、cyclin D1、RETなどが頻出だ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、大腸癌の多段階発癌の話を聞きました。あれも両方が混ざっていましたね。
ドクタードクター
その通り。APCの不活性化で腺腫ができ、KRASの活性化で増大し、TP53の不活性化で癌化する、というモデルだ。癌はアクセルの暴走とブレーキの故障が積み重なって生じるということがよくわかる例だね。最近は遺伝子パネル検査で治療薬を選ぶ場面も増えているから、どの遺伝子がどちら側かを理解しておくことは臨床でもますます大切になっている。

まとめ

発癌に関わる遺伝子は、機能の活性化で癌化を招く癌遺伝子と、機能の不活性化で癌化を招く癌抑制遺伝子に大別されます。MYC、ERBB2(HER2)、KRASは増幅・転座・点突然変異などで活性化する癌遺伝子であり、TP53とRB1は細胞周期の停止やアポトーシス誘導を担う代表的な癌抑制遺伝子です。癌抑制遺伝子は原則として両アレルの不活性化で癌化に寄与し、網膜芽細胞腫から提唱されたKnudsonの2ヒット説やLi-Fraumeni症候群、家族性大腸腺腫症などの遺伝性腫瘍症候群の理解につながります。大腸癌の多段階発癌のように、癌は両群の遺伝子異常の蓄積で生じるため、この区別は分子標的治療や遺伝子パネル検査を理解する土台にもなります。

解答・解説

正解はd, eです

発癌に関わる遺伝子は、大きく「癌遺伝子(oncogene)」と「癌抑制遺伝子(tumor suppressor gene)」の2群に分けられる。本問は、機能が失われること(不活性化)によって癌化につながるもの、つまり癌抑制遺伝子を選ばせる問題である。

癌遺伝子

正常細胞がもつ癌原遺伝子(proto-oncogene)は、増殖因子・受容体・細胞内シグナル伝達分子・転写因子などをコードし、細胞増殖を適切に促進する役割を担う。点突然変異、遺伝子増幅、染色体転座などによって機能が過剰になる(活性化する)と、細胞増殖のアクセルが踏みっぱなしの状態となり癌化を招く。多くの場合、片方の対立遺伝子の変化だけで効果が現れる(優性に働く)。

癌抑制遺伝子

細胞周期の停止、DNA修復、アポトーシス(プログラム細胞死)の誘導などにより、細胞増殖に歯止めをかける遺伝子である。変異や欠失、プロモーターのメチル化などで機能が失われると、ブレーキが効かなくなり癌化が進む。Knudsonの2ヒット説のとおり、原則として両方の対立遺伝子が不活性化されて初めて癌化に寄与する(劣性に働く)。 選択肢のうち、c-myc、erbB2、K-rasは活性化によって発癌に働く癌遺伝子であり、p53とRbは不活性化によって発癌に働く癌抑制遺伝子である。したがって正解はd、eとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  c-myc〈MYC〉

    癌遺伝子である。MYCは細胞増殖に関わる多数の遺伝子の発現を促す転写因子をコードする。遺伝子増幅(神経芽腫におけるN-mycの増幅は予後不良因子として有名)や染色体転座t(8;14)(Burkittリンパ腫で免疫グロブリン重鎖遺伝子の近傍に移動し過剰発現する)などで活性化され、発癌に働く。なお、c-mycはiPS細胞(人工多能性幹細胞)作製に用いられた山中因子の一つであり、導入した細胞の腫瘍化リスクが問題とされたことでも知られる。機能の不活性化ではなく活性化が発癌につながるため誤り。

  2. ×b.  erbB2〈ERBB2〉

    癌遺伝子である。ERBB2はHER2(human epidermal growth factor receptor 2)とも呼ばれ、上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーに属する受容体型チロシンキナーゼをコードする。乳癌の約15〜20%や胃癌の一部で遺伝子増幅・過剰発現がみられ、増殖シグナルが過剰となって癌化に働く。HER2陽性乳癌・胃癌には抗HER2抗体薬トラスツズマブなどの分子標的治療が用いられる。活性化が発癌に関わるため誤り。

  3. ×c.  K-ras〈KRAS〉

    癌遺伝子である。RASはGTP結合蛋白質で、受容体からの増殖シグナルを下流(RAF-MEK-ERK経路など)へ伝える分子スイッチとして働く。コドン12・13などの点突然変異によりGTPase活性が低下すると、GTP結合型(活性型)のまま戻らなくなり、増殖シグナルが持続的にONとなる。KRAS変異は膵癌の大部分、大腸癌の約40%、肺腺癌の一部に認められる。大腸癌ではRAS変異があると抗EGFR抗体薬の効果が期待できないことも臨床的に重要である。機能獲得型の変異で発癌するため誤り。

  4. ○d.  p53〈TP53〉

    代表的な癌抑制遺伝子である。p53蛋白は転写因子として働き、DNA損傷を受けた細胞でp21などを誘導して細胞周期をG1期で停止させ、修復を促す。修復不能な場合はアポトーシスを誘導し、異常な細胞の増殖を防ぐ。この働きから「ゲノムの守護者」と呼ばれる。TP53の変異・欠失はヒトの悪性腫瘍で最も高頻度に認められる遺伝子異常の一つで、大腸癌、乳癌、肺癌、食道癌など多くの癌でみられる。生殖細胞系列の変異はLi-Fraumeni症候群(若年から肉腫、乳癌、脳腫瘍、白血病などを多発する)の原因となる。不活性化が発癌につながるため正しい。

  5. ○e.  Rb〈RB1〉

    代表的な癌抑制遺伝子であり、最初に同定された癌抑制遺伝子である。Rb蛋白は低リン酸化状態で転写因子E2Fと結合してその働きを抑え、細胞周期のG1期からS期への移行にブレーキをかけている。RB1の両アレルが不活性化されるとこの制御が失われ、細胞が無秩序に増殖する。網膜芽細胞腫の原因遺伝子であり、遺伝性の症例では生殖細胞系列に一方の変異をもち、網膜細胞でもう一方が失われることで発症する(Knudsonの2ヒット説の根拠となった)。遺伝性網膜芽細胞腫の患者では骨肉腫などの二次癌の発生率も高い。不活性化が発癌につながるため正しい。

主な癌遺伝子と関連腫瘍

・増殖因子受容体:ERBB2/HER2(乳癌・胃癌で増幅)、EGFR(肺腺癌で変異)、KIT(消化管間質腫瘍〈GIST〉)、RET(多発性内分泌腫瘍症2型、甲状腺髄様癌) ・シグナル伝達分子:KRAS(膵癌・大腸癌・肺癌)、BRAF(悪性黒色腫・甲状腺乳頭癌)、BCR-ABL融合遺伝子(慢性骨髄性白血病、t(9;22)) ・転写因子:MYC(Burkittリンパ腫、t(8;14))、N-MYC(神経芽腫で増幅) ・細胞周期・アポトーシス関連:cyclin D1(マントル細胞リンパ腫、t(11;14))、BCL2(濾胞性リンパ腫、t(14;18)、アポトーシスを抑制)

主な癌抑制遺伝子と関連疾患

・TP53:多くの癌、Li-Fraumeni症候群 ・RB1:網膜芽細胞腫、骨肉腫 ・APC:家族性大腸腺腫症、散発性大腸癌 ・WT1:Wilms腫瘍(腎芽腫) ・NF1:神経線維腫症1型 ・VHL:von Hippel-Lindau病(腎細胞癌、血管芽腫、褐色細胞腫) ・BRCA1/BRCA2:遺伝性乳癌卵巣癌症候群(DNA二本鎖切断の修復に関与) ・MLH1、MSH2などのミスマッチ修復遺伝子:Lynch症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌) ・SMAD4(DPC4):膵癌、若年性ポリポーシス ・PTEN:Cowden症候群

大腸癌の多段階発癌

正常粘膜から腺腫、癌へと進む過程で、APCの不活性化(早期)、KRASの活性化(腺腫の増大)、TP53の不活性化(癌化)などが順に蓄積するモデルが知られる。癌は癌遺伝子の活性化と癌抑制遺伝子の不活性化が積み重なって生じることを示す好例である。

POINT

・癌遺伝子は機能の「活性化(獲得)」で、癌抑制遺伝子は機能の「不活性化(喪失)」で発癌に関わる。 ・癌遺伝子の例:MYC、ERBB2(HER2)、KRAS、EGFR、BCR-ABL、BCL2、cyclin D1。 ・癌抑制遺伝子の例:TP53、RB1、APC、WT1、NF1、VHL、BRCA1/2、ミスマッチ修復遺伝子。 ・癌抑制遺伝子は両アレルの不活性化で癌化に寄与する(Knudsonの2ヒット説、網膜芽細胞腫で提唱)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。