音を大きくするだけの道具―補聴器が最も活きる難聴はどれか
第105回医師国家試験 G問題 第25問
国試問題にチャレンジ
補聴器の装用効果が最も大きいのはどれか。
- a.内耳炎
- b.耳硬化症
- c.騒音性難聴
- d.突発性難聴
- e.ウイルス性難聴
対話形式の解説
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ドクターまとめ
補聴器は音を増幅するだけの機器なので、その効果は内耳と聴神経が正常に働くかどうかに左右され、外耳・中耳の障害による伝音難聴で最も大きくなります。耳硬化症はアブミ骨底の固着による両側性・進行性の伝音難聴で、鼓膜正常、カーハートの陥凹、アブミ骨筋反射消失が特徴であり、補聴器の効果が高く、アブミ骨手術も選択肢となります。一方、内耳炎、騒音性難聴、突発性難聴、ウイルス性難聴はいずれも内耳性の感音難聴で、語音明瞭度の低下や補充現象によるダイナミックレンジの狭小化のため補聴器の効果は限られ、両側高度以上では人工内耳が検討されます。オージオグラムの気骨導差、Weber試験、Rinne試験で伝音と感音を見分ける力は、難聴の診断だけでなく、補聴器や手術の適応を判断し患者に見通しを説明するうえでの土台になります。
解答・解説
正解はbです
補聴器の原理
補聴器は、マイクロホンで拾った音を電気的に増幅し、イヤホン(レシーバー)から外耳道へ出力する器具である。つまり「音を大きくする」ことしかできず、その効果は、大きくした音を内耳と聴神経が正しく受け取り、ひずみなく脳へ伝えられるかどうかにかかっている。
難聴の種類と補聴器の効果
・伝音難聴:外耳・中耳(鼓膜、耳小骨)の障害で、音が内耳まで届きにくい状態である。内耳・聴神経は正常なので、音を大きくして送り込めば、ほぼ正常に近い聞こえが得られる。また、補充現象(リクルートメント現象:小さな音は聞こえないのに、少し大きくすると急に過剰に響いて不快になる現象)を伴わないため、増幅しても不快感が少なく、語音明瞭度(言葉の聞き取り)も保たれている。このため補聴器の効果が最も大きい。 ・感音難聴(内耳性・後迷路性):内耳の有毛細胞や聴神経の障害で、音が大きく届いても、それを正確に分析できない。音がひずんで聞こえ、語音明瞭度が低下していることが多い。内耳性難聴では補充現象を伴うため、聞こえる最小の音と不快になる音の差(ダイナミックレンジ)が狭く、増幅量の調整が難しい。高度・重度になると補聴器ではほとんど効果が得られず、人工内耳の適応となる。
設問の考え方
選択肢の疾患を伝音難聴と感音難聴に分けると、耳硬化症だけが伝音難聴を来す疾患であり、他の4つ(内耳炎、騒音性難聴、突発性難聴、ウイルス性難聴)はいずれも内耳性の感音難聴である。したがって補聴器の装用効果が最も大きいのは耳硬化症である。
選択肢考察
- ×a. 内耳炎
内耳炎は、中耳炎の波及(正円窓・卵円窓や真珠腫による骨迷路の破壊を介する)、髄膜炎、ウイルス感染などにより内耳に炎症が及んだ状態である。蝸牛の有毛細胞が障害されて内耳性の感音難聴を来し、めまいを伴うことも多い。特に細菌性(化膿性)内耳炎では高度難聴から聾(全く聞こえない状態)に至ることがあり、補聴器で音を増幅しても効果は乏しい。
- ○b. 耳硬化症
耳硬化症は、内耳を包む骨(骨迷路)に異常な骨の吸収と新生が起こり、主に卵円窓付近でアブミ骨底が固着して動かなくなる疾患である。音の振動が内耳へ伝わりにくくなるため、両側性・進行性の伝音難聴を来す。白人に多く、わが国では比較的まれで、20〜40歳代の女性に多い。鼓膜は正常所見であり、オージオグラムでは骨導の2kHz付近が低下するカーハート(Carhart)の陥凹がみられ、アブミ骨筋反射は消失する。内耳は基本的に保たれているため、補聴器で音を増幅すれば良好な聞き取りが得られ、選択肢中で補聴器の効果が最も大きい。なお、根本的な治療としてはアブミ骨手術(固着したアブミ骨を人工耳小骨に置き換える手術)があり、聴力の改善が期待できるため、補聴器と手術のいずれを選ぶかは患者の希望や状態に応じて決める。病変が蝸牛に及ぶと感音難聴が加わり混合難聴となることがある。
- ×c. 騒音性難聴
騒音性難聴は、工場などの職場で強い騒音(おおむね85dB以上)に長期間さらされることにより、蝸牛の有毛細胞(特に外有毛細胞)が障害されて生じる内耳性の感音難聴である。初期にはオージオグラムで4kHz付近が選択的に低下するC5-dip(c5ディップ)が特徴で、会話音域が保たれているため自覚しにくい。進行すると高音域全体の低下へ広がる。不可逆的であり、補充現象を伴うため、補聴器の効果は伝音難聴ほど大きくない。予防(騒音の低減、耳栓・イヤーマフの装着、定期的な聴力検査)が重要である。
- ×d. 突発性難聴
突発性難聴は、明らかな原因なく突然発症する感音難聴で、多くは一側性であり、耳鳴や耳閉感、めまいを伴うことがある。内耳の循環障害やウイルス感染などが原因として推定されているが確定していない。内耳性の感音難聴であり、補聴器の効果は伝音難聴に比べて劣る。発症早期の副腎皮質ステロイドによる治療が行われ、発症から治療開始までの期間が短いほど回復しやすいとされる。
- ×e. ウイルス性難聴
ムンプス(流行性耳下腺炎)、麻疹、水痘・帯状疱疹(Ramsay Hunt症候群)、先天性サイトメガロウイルス感染、先天性風疹などのウイルス感染により、内耳の有毛細胞やらせん神経節細胞が障害されて生じる感音難聴である。特にムンプス難聴は一側性の高度難聴(聾)となることが多く、回復は期待しにくい。感音難聴であるため補聴器の効果は限られ、両側高度難聴では人工内耳が検討される。
伝音難聴と感音難聴の鑑別
・オージオグラム:伝音難聴では気導閾値のみ上昇し骨導は正常(気骨導差あり)。感音難聴では気導・骨導がともに上昇し、気骨導差はない。両者が混在するものを混合難聴という。 ・Weber試験:伝音難聴では患側に、感音難聴では健側に偏って聞こえる。 ・Rinne試験:正常および感音難聴では陽性(気導>骨導)、伝音難聴では陰性(骨導>気導)。 ・補充現象:内耳性感音難聴に特徴的である。
主な伝音難聴の原因
耳垢栓塞、外耳道閉鎖症、滲出性中耳炎、慢性中耳炎(鼓膜穿孔)、真珠腫性中耳炎、耳硬化症、耳小骨奇形、耳小骨離断など。多くは手術や治療で聴力の改善が期待できる。
主な感音難聴の原因
加齢性難聴、騒音性難聴、突発性難聴、Ménière病、薬剤性難聴(アミノグリコシド系抗菌薬、シスプラチンなど)、ウイルス性難聴、内耳炎、聴神経腫瘍(後迷路性)など。
補聴器と人工内耳
・補聴器:軽度〜高度難聴で、音を増幅すれば聞き取りが改善する場合に用いる。伝音難聴で最も効果が高い。感音難聴では語音明瞭度の低下や補充現象のため効果が限られる。 ・人工内耳:補聴器でも十分な効果が得られない両側高度〜重度の感音難聴が適応となる。蝸牛内に電極を挿入し、聴神経を直接電気刺激する。
POINT
・補聴器は音を増幅するだけなので、内耳・聴神経が正常な伝音難聴で最も効果が大きい。 ・感音難聴では語音明瞭度の低下や補充現象(ダイナミックレンジの狭小化)のため効果が限られる。 ・耳硬化症=アブミ骨固着による進行性伝音難聴。鼓膜正常、カーハートの陥凹、アブミ骨筋反射消失。治療はアブミ骨手術または補聴器。 ・騒音性難聴=C5-dip(4kHz付近の低下)が特徴の内耳性感音難聴。
