被ばく直後に真っ先に消えるのは?―「分裂しないのに放射線に弱い」リンパ球の例外
第105回医師国家試験 G問題 第22問
国試問題にチャレンジ
全身の大量放射線被ばくによって,末梢血で最も早く減少するのはどれか。
- a.赤血球
- b.好中球
- c.好酸球
- d.リンパ球
- e.血小板
対話形式の解説
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ドクターまとめ
全身に大量の放射線を浴びると、末梢血で最も早く減少するのはリンパ球です。リンパ球は分裂しない成熟細胞でありながら放射線感受性が極めて高く、アポトーシス(間期死)を起こすため、骨髄の産生停止を待たずに被ばく後数時間から減少し始めます。他の血球は産生停止後に血中寿命に応じて減少し、おおむね顆粒球(好中球・好酸球)、血小板、赤血球の順となり、好中球減少は感染、血小板減少は出血の原因となります。被ばく早期のリンパ球数の推移や培養リンパ球の二動原体染色体は線量推定にも用いられます。Bergonié-Tribondeauの法則とその例外であるリンパ球を理解しておくことは、急性放射線症候群の病態把握と緊急被ばく医療の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
全身に大量の放射線を浴びると、分裂の盛んな造血幹細胞・前駆細胞が障害されて骨髄での血球産生が止まる(急性放射線症候群の造血器障害)。このとき末梢血の各血球が減っていく順序は、主に次の2つの要因で決まる。 1. 末梢血中の成熟細胞そのものが放射線で直接死ぬかどうか 2. 産生が止まった後、末梢血に残っている細胞がどれだけの期間生存するか(寿命)
正解を導く考え方
成熟した血球の多くは分裂しないため放射線に比較的強いが、リンパ球は例外である。リンパ球は成熟した非分裂の状態でも放射線感受性が極めて高く、被ばくするとアポトーシス(間期死)を起こして速やかに死滅する。そのため、骨髄での産生停止を待たずに被ばく後数時間〜48時間以内に末梢血リンパ球数が減少し始め、末梢血の中で最も早く減少する。 それ以外の血球は、骨髄での産生停止後、末梢血中の寿命に応じて減っていく。好中球などの顆粒球は血中寿命が短いため比較的早く(被ばく後数日〜1週程度から)減少し、血小板(寿命約7〜10日)はそれより遅れ、赤血球(寿命約120日)は最も遅い。おおまかな順序は、リンパ球→顆粒球(好中球・好酸球)→血小板→赤血球である。
選択肢考察
- ×a. 赤血球
赤血球は無核で分裂せず、放射線で直接死ぬことはほとんどない。末梢血中の寿命は約120日と血球の中で最も長いため、骨髄での産生が止まっても減少は最も緩やかである。被ばく後に貧血が目立ってくるのは遅れてからであり、出血を伴うと早まる。
- ×b. 好中球
好中球は被ばく直後に骨髄の貯蔵プールからの動員によって一過性に増加することがあり、その後、骨髄での産生停止を反映して減少する。血中寿命は数時間から1日程度と短いため、血小板や赤血球より早く減るが、成熟細胞そのものが放射線で死滅するリンパ球よりは減少の開始が遅い。好中球減少は感染症の原因となり、造血器障害の重症度を左右する。
- ×c. 好酸球
好酸球も好中球と同じく骨髄で産生される顆粒球であり、産生停止後に血中寿命に応じて減少する。減少の時期は好中球とほぼ同様で、リンパ球よりは遅い。
- ○d. リンパ球
リンパ球は成熟した非分裂細胞でありながら放射線感受性が非常に高く、被ばくすると細胞分裂を経ずにアポトーシス(間期死)に陥る。このため、骨髄での産生停止の影響を待たずに被ばく後数時間から減少し始め、末梢血の中で最も早く減少する。被ばく後48時間程度までのリンパ球数の減少の程度は被ばく線量とよく相関し、初期の線量推定や重症度判定の指標として用いられる。
- ×e. 血小板
血小板は巨核球の細胞質がちぎれてできる無核の細胞断片で、末梢血中の寿命は約7〜10日である。骨髄の巨核球系の産生が止まった後、寿命に応じて徐々に減少し、被ばく後1〜数週間で低値となる。リンパ球や顆粒球より遅く、赤血球より早い。血小板減少は出血傾向の原因となる。
放射線感受性の原則(Bergonié-Tribondeauの法則)
細胞の放射線感受性は、分裂頻度が高いほど、将来行う分裂回数が多いほど、形態・機能が未分化なほど高い。造血幹細胞・前駆細胞、腸管上皮のクリプト細胞、精原細胞などが高感受性の代表である。成熟リンパ球はこの法則の例外で、分裂しないにもかかわらず極めて高感受性である。
急性放射線症候群
全身に短時間で大量の放射線を浴びた場合、線量に応じて次のような障害が現れる。 ・前駆期:被ばく後数時間以内に悪心・嘔吐、倦怠感、発熱など。嘔吐までの時間が短いほど被ばく線量が多い。 ・造血器障害:おおむね1 Gy以上で生じる。リンパ球が最初に減少し、続いて顆粒球、血小板が減少する。感染と出血が問題となる。 ・消化管障害:おおむね10 Gy前後以上で、腸管上皮の脱落により下痢、下血、脱水、敗血症をきたす。 ・中枢神経・心血管障害:数十Gy以上で意識障害、ショックをきたし、短期間で死亡する。 全身被ばくでの半数致死線量(LD50/60)は、治療を行わない場合でおよそ3〜4 Gy程度とされる。
生物学的線量評価
被ばく線量の推定には、末梢血リンパ球数の推移のほか、末梢血リンパ球を培養して染色体異常を調べる方法が用いられる。なかでも二動原体染色体(ダイセントリック)の出現頻度は線量に依存し、低線量域まで線量推定に用いられる標準的な指標である(環状染色体も同じ仕組みで生じる不安定型異常だが、頻度が低い)。
血球の末梢血中寿命(目安)
・赤血球:約120日 ・血小板:約7〜10日 ・好中球:血中滞在は数時間〜1日程度 ・リンパ球:数日から数年と幅が広い(寿命の長さではなく、放射線による直接の細胞死が早期減少の理由である)
POINT
・全身大量被ばく後、末梢血で最も早く減少するのはリンパ球である。 ・理由は、成熟リンパ球が非分裂細胞でも放射線でアポトーシス(間期死)を起こすため。 ・減少の順序:リンパ球→顆粒球(好中球・好酸球)→血小板→赤血球。 ・被ばく早期のリンパ球数、培養リンパ球の二動原体染色体は被ばく線量推定に用いられる。
