StudyMed医師国家試験

胸が痛まない心筋梗塞もある―急性冠症候群の症状を「3つの系統」で読み解く

第105回医師国家試験 G問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第105回 G問題 第23問

急性冠症候群に通常みられないのはどれか。

  1. a.嘔気
  2. b.肩痛
  3. c.耳痛
  4. d.失神
  5. e.冷汗

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は急性冠症候群、ACSの症状を問う問題だ。ポイントは、症状を丸暗記するのではなく、なぜその症状が出るのかという機序で整理すること。心筋虚血そのものによる痛み、自律神経反射による症状、心機能低下や不整脈による症状の3系統に分けて考えると、どれが仲間外れかが見えてくるよ。
医学生医学生
ACSというと胸痛のイメージが強いですけど、選択肢には胸痛以外の症状ばかり並んでいますね。
ドクタードクター
そう、だからこそ非典型的な症状への理解が問われている。まずACSの病態を確認しよう。冠動脈のプラークが破綻して表面に血栓ができ、冠動脈が急に狭くなったり詰まったりする。不安定狭心症、非ST上昇型とST上昇型の心筋梗塞、さらに虚血による突然死までを含む概念だ。
医学生医学生
循環器の講義で、トロポニン上昇がなければ不安定狭心症、あればNSTEMI、ST上昇があればSTEMIと習いました。
ドクタードクター
その整理で大丈夫。では1つ目の系統、虚血による痛みから。典型は20分以上続く前胸部の圧迫感や絞扼感だけど、痛みは別の場所に放散する。肩の痛みはどうだろう。
医学生医学生
左肩への放散痛は有名ですよね。でも、なぜ心臓の痛みが肩に出るのか、ちゃんと説明できる自信がないです。
ドクタードクター
関連痛の仕組みだね。心臓からの痛覚を伝える求心性線維は主にT1〜T5付近の脊髄に入る。同じ分節に入る体表、つまり肩や上肢内側、胸壁の痛みとして脳が誤って認識してしまうんだ。左肩から左上肢尺側が典型だけど、右肩や両肩のこともあるし、肩痛だけを訴える人もいる。
医学生医学生
肩こりだと思って整形外科を受診してしまうこともありそうですね。では耳はどうでしょう。顎や歯に放散するなら、耳も近い気がします。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。放散痛の典型部位は左肩・左上肢、頸部、下顎・歯、心窩部、背部で、耳は含まれない。耳周囲の痛みを訴えたまれな報告はあるけれど、その場合もたいてい胸痛や下顎痛などと一緒で、頻度はきわめて低い。だから「通常みられない」ものとしては耳痛が正解になる。
医学生医学生
下顎までは典型で、耳は外れる、と線を引いておけばいいんですね。
ドクタードクター
そう。次に2つ目の系統、自律神経反射。冷汗と嘔気がここに入る。冷汗はなぜ起こると思う?
医学生医学生
強い痛みや心拍出量の低下で交感神経が緊張して、汗が出るのに皮膚の血管は収縮するから、冷たく湿った皮膚になる、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。「冷汗を伴う胸痛」はACSを強く疑うサインだ。心原性ショックに進むと、冷汗・顔面蒼白・末梢冷感がさらに目立つ。嘔気は迷走神経反射によるもので、特に左室下壁には迷走神経の求心性線維が多く分布しているから、下壁梗塞ではBezold-Jarisch反射で嘔気・嘔吐、徐脈、血圧低下を来しやすい。
医学生医学生
心窩部痛と嘔気だけだと、胃腸炎と間違えそうで怖いです。救急外来の実習でも、腹痛の高齢者にまず心電図をとっていました。
ドクタードクター
それはとても大事な習慣だよ。3つ目の系統が失神だ。広範な虚血による心拍出量の急減、心室頻拍や心室細動などの致死性不整脈、下壁梗塞に伴う房室ブロックや洞徐脈、迷走神経反射による低血圧、いずれも脳血流不足から失神につながる。特に高齢者では失神が初発症状のこともある。
医学生医学生
右冠動脈が洞結節や房室結節を栄養していることが多いから、下壁梗塞で徐脈やブロックが起こりやすいんですね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。最後に臨床での注意点。高齢者、女性、糖尿病患者、透析患者では典型的な胸痛を欠き、息切れや倦怠感、消化器症状だけで来ることがある。糖尿病では自律神経障害で痛みを感じにくいからだ。持続する胸部症状や説明のつかない症状があれば、速やかに12誘導心電図とトロポニンを確認しよう。下壁梗塞では右室梗塞を疑って右側胸部誘導も記録し、硝酸薬による血圧低下に注意する。
医学生医学生
症状の場所を覚えるだけでなく、機序とハイリスク患者をセットで考えることが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。STEMIなら一刻も早い再灌流療法が必要だから、非典型的な訴えからACSを拾い上げる力が患者の予後を左右するんだ。

まとめ

急性冠症候群の症状は、心筋虚血による痛み(前胸部の圧迫感と、左肩・左上肢、頸部、下顎・歯、心窩部、背部への放散痛)、自律神経反射による症状(交感神経緊張による冷汗、迷走神経反射による嘔気・嘔吐や徐脈)、心機能低下や不整脈による症状(呼吸困難、ショック、失神)の3系統で整理できます。耳は典型的な放散部位に含まれず、耳痛はACSで通常みられない症状です。下壁梗塞ではBezold-Jarisch反射や房室ブロックが起こりやすく、高齢者・女性・糖尿病・透析患者では胸痛を欠く非典型例が多い点にも注意が必要です。症状を機序から理解しておくことは、非典型的な訴えからACSを疑い、速やかに心電図とトロポニンで評価するという臨床判断の基盤になります。

解答・解説

正解はcです

急性冠症候群とは

急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)は、冠動脈の粥腫(プラーク)が破綻したりびらんを生じたりして、その表面に血栓ができ、冠動脈が急に狭くなったり詰まったりすることで起こる病態をまとめた概念である。不安定狭心症、急性心筋梗塞(ST上昇型:STEMI、非ST上昇型:NSTEMI)、さらに虚血による心臓突然死までを含む。

症状を考える枠組み

ACSの症状は、次の3つの系統に分けて整理すると覚えやすい。 1. 心筋虚血そのものによる痛み:前胸部の圧迫感・絞扼感が典型で、20分以上続くことが多い。痛みは左肩・左上肢、頸部、下顎・歯、背部、心窩部へ放散する(放散痛)。 2. 自律神経反射による症状:強い痛みやストレスによる交感神経の緊張で冷汗・顔面蒼白が、迷走神経反射(とくに下壁梗塞)で嘔気・嘔吐、徐脈、血圧低下がみられる。 3. 心機能障害・不整脈による症状:左室のポンプ機能低下による呼吸困難(肺うっ血)やショック、心室細動・房室ブロックなどの不整脈による失神・意識消失がある。

設問の考え方

選択肢のうち、嘔気・肩痛・失神・冷汗は上記の枠組みのいずれかに当てはまり、ACSでしばしば経験される症状である。一方、耳痛は放散痛の典型的な分布(頸部・下顎・肩・腕・心窩部・背部)には含まれず、ACSの症状として通常挙げられるものではない。まれな非典型例として耳の周囲の痛みを訴える報告はあるが、「通常みられない」ものを選ぶ本問では耳痛が最も適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  嘔気

    ACSでよくみられる。心筋、とくに左室下壁(横隔膜面)には迷走神経の求心性線維が多く分布しており、下壁梗塞ではこれが刺激されて迷走神経反射(Bezold-Jarisch反射)が起こり、嘔気・嘔吐、徐脈、血圧低下を来しやすい。痛みそのものによる反応として嘔気を伴うこともある。さらに心窩部痛として発症する例もあり、消化器疾患と誤認されやすい点に注意が必要である。

  2. ×b.  肩痛

    ACSでよくみられる放散痛である。心臓からの痛覚を伝える求心性線維は主にT1〜T5付近の脊髄に入り、同じ脊髄分節に入る体表(肩・上肢内側・胸壁)の痛みとして脳が誤って認識する(関連痛)。そのため左肩から左上肢尺側への放散が典型だが、右肩や両肩に及ぶこともある。胸痛を伴わず肩痛のみを訴える例もあり、肩こりや整形外科的疾患と誤認されることがある。

  3. ○c.  耳痛

    ACSで通常みられない症状であり、これが正解である。ACSの放散痛は頸部、下顎、歯、肩、上肢、心窩部、背部が典型的な部位で、耳は含まれない。耳周囲の痛みを訴えた報告がないわけではないが、その場合も単独ではなく胸痛・頸部痛・下顎痛などとともに感じられることがほとんどで、頻度はきわめて低い。したがって選択肢中で「通常みられない」ものとして最も適切である。

  4. ×d.  失神

    ACSで起こりうる症状である。機序としては、(1) 広範な心筋虚血による心収縮力の低下で心拍出量が急減し、脳血流が不足する、(2) 心室頻拍・心室細動などの致死性不整脈、(3) 下壁梗塞に伴う房室ブロックや洞徐脈(右冠動脈は洞結節・房室結節を栄養することが多い)、(4) 迷走神経反射による徐脈・低血圧、が挙げられる。STEMIの主訴の大部分は胸痛であるが、一部は呼吸困難や意識消失で発症し、特に高齢者では失神が初発症状となることがある。

  5. ×e.  冷汗

    ACSでよくみられる症状である。強い胸痛や心拍出量低下に対して交感神経が強く緊張し、汗腺からの発汗と皮膚血管の収縮が起こるため、冷たく湿った皮膚(冷汗)となる。血行動態が悪化して心原性ショックに至ると、冷汗・顔面蒼白・末梢冷感が顕著になる。「冷汗を伴う胸痛」はACSを強く疑わせる所見として重要である。

ACSの病態と分類

・不安定狭心症:心筋の壊死を伴わない(心筋トロポニン上昇なし)急性の虚血。新規発症、増悪型、安静時発症などの形をとる。 ・NSTEMI:心電図でST上昇を示さないが、トロポニン上昇から心筋壊死が確認されるもの。 ・STEMI:冠動脈の完全閉塞により貫壁性の虚血が生じ、ST上昇を示すもの。一刻も早い再灌流療法(主に経皮的冠動脈インターベンション:PCI)が必要である。 冠動脈内の血栓の大きさ、閉塞の程度・時間、側副血行路の有無によって、虚血の程度はさまざまである。

非典型的な症状に注意すべき患者

高齢者、女性、糖尿病患者(自律神経障害で痛覚が鈍る)、透析患者では、典型的な胸痛を欠き、息切れ、倦怠感、「何となく調子が悪い」といった漠然とした訴えや、心窩部痛・嘔気などの消化器症状のみで発症することがある。

初期対応で押さえる事項

・持続する胸痛があれば、速やかに12誘導心電図をとり、心筋トロポニンなどの心筋マーカーを測定する。STEMIが疑われれば、PCIが可能な施設(CCUネットワーク)への迅速な搬送が求められる。 ・下壁梗塞(Ⅱ・Ⅲ・aVFでST上昇)では右室梗塞の合併を疑い、右側胸部誘導(V4Rなど)を記録する。右室梗塞では前負荷の維持が重要で、硝酸薬による血圧低下に注意する。 ・幅広いQRS(脚ブロックなどの伝導障害)を示し、血行動態が不安定な場合は左冠動脈主幹部(LMT)病変を疑う。

POINT

・ACSの典型症状:20分以上続く前胸部の圧迫感・絞扼感、冷汗、嘔気・嘔吐、呼吸困難。 ・放散痛の部位:左肩・左上肢、頸部、下顎・歯、心窩部、背部。耳は典型的な放散部位ではない。 ・失神は心拍出量低下、致死性不整脈、房室ブロック、迷走神経反射で生じうる。 ・下壁梗塞では迷走神経反射による嘔気・徐脈・低血圧が起こりやすい。 ・高齢者・女性・糖尿病・透析患者では非典型的な症状で発症しやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。