「治らなくても、生きられる」―ICFが描く生活機能と環境の相互作用
第105回医師国家試験 G問題 第1問
国試問題にチャレンジ
国際生活機能分類〈ICF〉で誤っているのはどれか。
- a.バリアフリーは活動・参加を促進する。
- b.環境因子の中に周囲の人の態度が含まれる。
- c.疾病治癒が活動・参加促進の必要条件である。
- d.機能障害がなくても活動・参加が制約され得る。
- e.車椅子は機能障害を活動制限に至らせない有効手段である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
国際生活機能分類(ICF)は2001年にWHOで採択された分類で、一方向の因果モデルだったICIDHを改め、健康状態・生活機能・背景因子が双方向に影響し合う相互作用モデルとしました。生活機能は心身機能・身体構造、活動、参加の3レベルからなり、その問題はそれぞれ機能障害、活動制限、参加制約とよばれ、背景因子には環境因子と個人因子があります。環境因子には福祉用具や住環境だけでなく周囲の人の態度や制度も含まれ、バリアフリーや車椅子は促進因子として活動・参加を後押しし、逆に偏見や差別は機能障害がなくても参加を制約し得ます。したがって、疾病の治癒は活動・参加促進の必要条件ではなく、病気や障害が残っていても環境の調整やリハビリテーションで生活機能を高めることができます。この視点は、リハビリテーションや介護、多職種連携の場で患者の生活全体を支えるための共通言語として欠かせません。
解答・解説
正解はcです
【テーマ】国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)の考え方 ICFは2001年に世界保健機関(WHO)総会で採択された、人の「生活機能」と「障害」を記述するための分類である。それ以前の国際障害分類(ICIDH、1980年)は「疾患→機能障害→能力障害→社会的不利」という一方向の流れで、障害というマイナス面を分類する枠組みであった。ICFはこれを改め、次の点を特徴とする。 ・生活機能というプラス面から人をとらえる(「できないこと」だけでなく「できること」にも着目する)。 ・生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つのレベルに分け、それぞれの問題を「機能障害」「活動制限」「参加制約」とよぶ。 ・これらに影響する「背景因子」として「環境因子」と「個人因子」を位置づける。 ・健康状態、生活機能の各レベル、背景因子はすべて双方向の矢印で結ばれ、互いに影響し合う(相互作用モデル)。
正解を導く考え方
相互作用モデルでは、病気や機能障害があっても、環境因子(福祉用具、住環境、制度、周囲の人の態度など)を整えれば活動・参加を促すことができる。逆に、機能障害がなくても環境因子や個人因子のために活動・参加が制約されることもある。つまり、健康状態(疾病)が治ることは、活動や参加を促す前提条件ではない。この点に反する記述が「誤っているもの」となる。
選択肢考察
- ×a. バリアフリーは活動・参加を促進する。
記述は正しい。バリアフリーとは、障害のある人や高齢者が社会生活を送るうえで妨げとなる障壁を取り除くことであり、段差の解消などの物理的なもののほか、制度的・文化・情報面・意識上の障壁の除去も含む。ICFでは、これらは「促進因子」としてはたらく環境因子にあたり、移動や社会参加の範囲を広げて活動・参加を促進する。
- ×b. 環境因子の中に周囲の人の態度が含まれる。
記述は正しい。ICFの環境因子には、建物・道路・福祉用具などの物的環境だけでなく、家族や友人・専門職などの支援と関係、周囲の人の態度、社会の意識、サービス・制度・政策などの社会的環境も含まれる。周囲の偏見や無理解は阻害因子として、理解ある態度は促進因子として、活動・参加に影響する。
- ○c. 疾病治癒が活動・参加促進の必要条件である。
記述は誤りであり、これが正解となる。ICFでは健康状態と活動・参加は相互に影響し合う関係にあり、疾病が治らなくても、環境因子の調整やリハビリテーション、福祉用具の活用などによって活動・参加を促すことができる。慢性疾患や後遺障害をもつ人が病気と付き合いながら社会の中で生活することを重視するこの考え方は、障害のある人も地域で通常の生活を送れる社会をめざすノーマライゼーションの理念にも通じる。疾病の治癒は活動・参加を促すための必要条件ではない。
- ×d. 機能障害がなくても活動・参加が制約され得る。
記述は正しい。活動・参加は心身機能だけでなく、環境因子と個人因子の影響も受ける。たとえば心身機能に問題がなくても、年齢・性別・人種などによる差別、偏見、制度上の制限、過去の病歴に対する誤解(ハンセン病の元患者に対する差別などが典型)によって、就労や社会参加が妨げられることがある。
- ×e. 車椅子は機能障害を活動制限に至らせない有効手段である。
記述は正しい。車椅子は福祉用具としてICFの環境因子(生産品と用具)に含まれる。下肢の麻痺などで歩行機能に障害があっても、車椅子を用いれば移動という活動を行うことができ、機能障害が活動制限に結びつくのを防ぐ有効な手段となる。
ICFの構成要素
・健康状態:疾病、変調、傷害、妊娠、加齢、ストレスなど ・心身機能・身体構造:身体の生理的・心理的機能と解剖学的部分。問題が生じた状態が「機能障害(構造障害を含む)」 ・活動:個人が課題や行為を遂行すること(歩く、食事をする、身の回りのことをするなど)。問題が生じた状態が「活動制限」 ・参加:生活・人生の場面に関わること(仕事、家庭内の役割、地域活動など)。問題が生じた状態が「参加制約」 ・環境因子:物的環境、人的環境、社会の態度、サービス・制度など。生活機能を後押しするものは促進因子、妨げるものは阻害因子とよばれる ・個人因子:年齢、性別、生活歴、価値観、ライフスタイル、性格など
ICIDHとの比較
ICIDH(1980年)は「疾患・変調→機能障害(impairment)→能力障害(disability)→社会的不利(handicap)」という一方向の因果モデルで、障害を個人の問題としてとらえる医学モデルに偏っていた。ICFでは中立的・肯定的な用語に改め、環境因子を加えて双方向の相互作用モデルとした。障害は個人の心身の状態と環境との相互作用で生じるものであり、医学モデルと社会モデルを統合した考え方とされる。
ICFの利用
ICFは障害のある人だけでなく、すべての人の生活機能を記述するための共通言語として用いられる。リハビリテーション計画、介護保険のケアプラン作成、多職種間の情報共有などに活用されている。
POINT
・ICFは2001年にWHOで採択され、ICIDHの一方向モデルを双方向の相互作用モデルへ改めた。 ・生活機能=心身機能・身体構造、活動、参加。その問題が機能障害、活動制限、参加制約。 ・背景因子=環境因子(物的環境、人の態度、制度など)と個人因子。 ・疾病が治らなくても、環境因子の調整で活動・参加は促進できる。機能障害がなくても活動・参加は制約され得る。 ・バリアフリーや車椅子などの福祉用具は、環境因子の中の促進因子である。
