StudyMed医師国家試験

ピンクの泡と起坐呼吸―急性肺水腫の患者は「起こして」診る

第105回医師国家試験 F問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第105回 F問題 第23問

72歳の女性。早朝,呼吸困難のため搬入された。以前から高血圧を指摘されていた。搬入時の血圧220/140mmHg。呼吸困難で会話もままならない。ピンク色の泡沫状喀痰がみられる。  診察時の患者の体位として適切なのはどれか。

  1. a.立位
  2. b.半坐位
  3. c.仰臥位
  4. d.側臥位
  5. e.腹臥位

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、急性の呼吸困難で運ばれてきた患者を、どんな体位で診察するかという問題だ。体位の問題は一見地味だけど、病態をきちんと理解していないと答えられない。まずは何が起きているのかを考えるところから始めよう。カギは「ピンク色の泡沫状喀痰」と「著明な高血圧」だよ。
医学生医学生
ピンク色の泡状の痰は、循環器の講義で急性肺水腫の特徴だと習いました。
ドクタードクター
その通り。肺の毛細血管の圧が上がって、血漿成分と少量の赤血球が肺胞に漏れ出し、空気と混ざって泡立ったものなんだ。では、なぜ肺毛細血管の圧が上がったと思う?
医学生医学生
長年の高血圧があって、さらに血圧が急に上がったので、左心室がついていけなくなったということでしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。急激な血圧上昇で左室の後負荷、つまり血液を送り出すときの抵抗が一気に増える。左室が血液を送り出しきれないと、左房圧、肺静脈圧と上流に圧が伝わって肺水腫になる。高血圧による臓器障害が急速に進んでいるので、高血圧緊急症に伴う急性左心不全と考えるんだ。
医学生医学生
早朝に発症したのにも意味がありますか。
ドクタードクター
あるよ。横になっていると下肢からの静脈還流が増えて肺うっ血が進むし、早朝は交感神経が高まって血圧が上がりやすい。それに高血圧性心疾患では左室肥大で拡張能が落ちていることが多く、収縮能が保たれていても血圧上昇をきっかけに肺水腫を起こしやすいんだ。HFpEFと呼ばれるタイプだね。
医学生医学生
なるほど。では体位ですが、左心不全の人は横になると苦しくなる起坐呼吸があるので、上体を起こす半坐位がよさそうです。
ドクタードクター
正解。上体を起こすと重力で血液が下半身にたまり、心臓へ戻る血液、つまり前負荷が減って肺うっ血が軽くなる。さらに腹部臓器が下がって横隔膜が動きやすくなり、呼吸の仕事量も減る。患者がいちばん楽に呼吸できて、しかも安全に診察や処置ができる体位なんだ。
医学生医学生
でも、静脈還流を減らすなら立位のほうがもっと効果的ではないですか。
ドクタードクター
理屈の方向としては同じだけど、会話もできないほど苦しく、低酸素状態の人を立たせておくのは無理がある。ふらついて転倒や失神の危険があるし、酸素投与や静脈路確保、心電図モニター、陽圧換気といった処置もできない。重症患者の診察体位としては不適切だね。
医学生医学生
仰臥位は逆に静脈還流が増えてしまうので、肺うっ血が悪化しますね。
ドクタードクター
そう。しかも腹部臓器が横隔膜を押し上げて肺が広がりにくくなる。夜間発作性呼吸困難が起こるのもこの機序だよ。側臥位はどうかな。
医学生医学生
BLSの実習で、意識のない人を回復体位として横向きにすると習いました。でも今回は意識障害ではないですよね。
ドクタードクター
その通り。側臥位は嘔吐物の誤嚥や舌根沈下を防ぐための体位で、体幹は水平のままだから静脈還流は減らない。目的が合わないんだ。腹臥位は胸郭や腹部が圧迫されて呼吸運動を妨げるうえ、顔が下を向いて観察も処置もしにくい。
医学生医学生
腹臥位はICUでARDSの患者さんに使っていたのを見たことがあります。
ドクタードクター
よく見ているね。人工呼吸管理中の重症ARDSでは酸素化改善のために腹臥位療法を行うことがあるけど、心原性肺水腫で苦しんでいる人の診察体位ではない。場面を混同しないことが大事だよ。
医学生医学生
上体を起こすことで前負荷を減らし、呼吸も楽にする、という生理学的な理由で半坐位を選ぶわけですね。
ドクタードクター
そういうこと。可能なら下肢を下ろした起坐位にすると、さらに静脈還流を減らせる。体位を整えたら次は初期治療だ。低酸素血症があれば酸素投与を行い、改善が不十分ならNPPV、つまり非侵襲的陽圧換気を早めに導入する。陽圧で肺胞の水分を押し戻し、静脈還流と左室後負荷も減らしてくれる。
医学生医学生
薬は利尿薬を使うイメージがありました。
ドクタードクター
体液量が増えていればループ利尿薬も使うけど、今回のように収縮期血圧が高い急性心不全、いわゆるクリニカルシナリオ1では、急な血圧上昇と体液の肺への再分布が主な機序だから、硝酸薬による血管拡張が治療の中心になる。ニトログリセリンの舌下やスプレーなら救急外来ですぐに使えるよ。
医学生医学生
体位、酸素、血管拡張薬という順で、全部が前負荷と後負荷を減らす方向にそろっているんですね。
ドクタードクター
その理解で完璧。救急で起坐呼吸の患者を見たら、まず無理に寝かせないこと。これだけでも患者の苦しさはだいぶ違うんだ。

まとめ

ピンク色の泡沫状喀痰は急性肺水腫を示す所見で、著明な高血圧を伴う場合は急激な後負荷増大による高血圧緊急症(急性左心不全)を考えます。左心不全では上体を起こすと静脈還流(前負荷)が減って肺うっ血が軽くなり、横隔膜も動きやすくなるため、診察は半坐位(Fowler位)や起坐位で行います。仰臥位は肺うっ血を悪化させ、側臥位は意識障害時の回復体位、腹臥位は人工呼吸管理中のARDSで用いる体位であり、立位は重症患者には危険で処置もできません。初期治療は酸素投与・NPPVに加え、収縮期血圧が高い場合は硝酸薬による血管拡張が中心で、体液過剰があればループ利尿薬を併用します。体位ひとつにも病態生理の理解が反映されることを意識すると、救急の現場での適切な初期対応につながります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・72歳の女性、以前から高血圧を指摘されている ・早朝に発症した呼吸困難で、会話もままならないほど重い ・血圧220/140mmHgと著明に高い ・ピンク色の泡沫状喀痰(淡い血液が混じった泡状の痰)

診断へのプロセス

ピンク色の泡沫状喀痰は、肺の毛細血管から血漿成分と少量の赤血球が肺胞内へ漏れ出し、空気と混ざって泡立ったものであり、急性肺水腫に特徴的な所見である。背景には長年の高血圧があり、搬入時の血圧は220/140mmHgと極めて高い。急激な血圧上昇によって左心室の後負荷(心臓が血液を送り出すときの抵抗)が急に増え、左心室から血液を十分に送り出せなくなると、左心房圧・肺静脈圧が上がり、肺毛細血管圧の上昇から肺水腫に至る。高血圧による臓器障害が急速に進む状態であり、高血圧緊急症(高血圧性急性左心不全)に伴う急性肺水腫と判断できる。 早朝の発症は、臥床中に下肢などからの静脈還流が増えて肺うっ血が進むこと、早朝は交感神経活動が高まり血圧が上昇しやすいことと関連する。高血圧性心疾患では左室肥大により左室の拡張能が低下していることが多く、収縮能が保たれていても血圧上昇をきっかけに肺水腫をきたしやすい(収縮能が保たれた心不全、HFpEF)。

設問の考え方

左心不全による呼吸困難は、横になると悪化し、上体を起こすと軽くなる(起坐呼吸)。上体を起こすと重力によって血液が下半身に集まり、心臓へ戻る血液(静脈還流量、前負荷)が減って肺うっ血が軽くなる。また、腹部臓器が下がって横隔膜が動きやすくなり、呼吸の仕事量が減って肺の換気量も増える。そのため、診察や初期治療は上体を起こした半坐位(Fowler位)や起坐位で行う。

選択肢考察

  1. ×a.  立位

    誤り。上体を起こすことで静脈還流が減る点では立位も同じ方向の効果をもつが、会話もできないほどの呼吸困難と低酸素状態にある患者に立位を保たせるのは無理である。ふらつきや転倒・失神の危険があり、酸素投与、静脈路確保、心電図モニター、非侵襲的陽圧換気などの処置も行いにくい。重症患者の診察時の体位として不適切である。

  2. ○b.  半坐位

    正しい。ベッドの頭側を上げて上体を起こした半坐位(Fowler位)では、重力により血液が下半身に移動して静脈還流量(前負荷)が減り、肺うっ血が軽くなる。横隔膜が下がって動きやすくなるため呼吸の仕事量も減り、換気量が増える。患者が最も楽に呼吸でき、同時に安全に診察・処置を行える体位である。可能であれば下肢を下ろした起坐位にすると、さらに静脈還流を減らせる。

  3. ×c.  仰臥位

    誤り。仰向けに寝かせると下肢や腹部から心臓へ戻る血液が増え、前負荷の増加によって肺うっ血が悪化する。腹部臓器が横隔膜を押し上げるため肺も広がりにくくなり、呼吸困難が増強する。左心不全患者が夜間や早朝に横になっていると息苦しくなるのは、この機序による。

  4. ×d.  側臥位

    誤り。側臥位は体幹が水平であるため仰臥位と同様に静脈還流が減らず、肺うっ血を軽くする効果がない。側臥位は意識障害のある患者の嘔吐物の誤嚥や舌根沈下を防ぐ回復体位として用いられるが、本症例は意識障害ではなく呼吸困難が問題であり、目的に合わない。

  5. ×e.  腹臥位

    誤り。うつ伏せでは胸郭と腹部が圧迫されて呼吸運動が妨げられ、体幹が水平なので静脈還流も減らない。呼吸困難はかえって強まり、顔が下を向くため観察や処置もしにくい。腹臥位は人工呼吸管理中の重症の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)で酸素化改善のために用いられることがあるが、心原性肺水腫で呼吸困難を訴える患者の診察時の体位ではない。

急性心原性肺水腫の病態

左心室の機能低下や急激な後負荷増大により左房圧・肺静脈圧が上がると、肺毛細血管の静水圧が上昇し、液体がまず肺の間質へ、さらに肺胞内へ漏れ出す。症状は、起坐呼吸、夜間発作性呼吸困難、ピンク色の泡沫状喀痰、頻呼吸、冷汗などで、聴診では両側の水泡音(coarse crackles)、III音(奔馬調律)を聴取することがある。胸部エックス線ではバタフライ陰影、Kerley B線、心拡大、胸水などがみられる。

高血圧性急性左心不全の初期対応

・体位:半坐位または起坐位 ・酸素投与:低酸素血症があれば行い、改善が不十分な場合は非侵襲的陽圧換気(NPPV)を早期に導入する。陽圧により肺胞内の水分を押し戻し、静脈還流と左室後負荷を減らす効果がある。 ・血管拡張薬:収縮期血圧が高い急性心不全(クリニカルシナリオ1、収縮期血圧140mmHg超)では、急激な血圧上昇と体液の肺への再分布(volume central shift)が主な機序であり、硝酸薬(ニトログリセリンの舌下・スプレー・静注など)による血管拡張が治療の中心となる。 ・利尿薬:体液量の増加を伴う場合はループ利尿薬(フロセミド)を用いる。 ・高血圧緊急症では、急激・過度な降圧は臓器の血流低下を招くため、段階的に降圧するのが原則である。ただし急性心不全を伴う場合は、比較的速やかな降圧が求められる。

体位の用語

・Fowler(ファウラー)位:仰臥位から上半身を約45°起こした体位(半坐位) ・semi-Fowler(セミファウラー)位:上半身を約15〜30°起こした体位 ・起坐位:上体を起こして座り、テーブルや枕にもたれかかるなどした体位。起坐呼吸を示す患者が自ら好んでとることが多い。

POINT

・ピンク色の泡沫状喀痰は急性肺水腫を示す。 ・著明な高血圧(220/140mmHg)に伴う急性左心不全は高血圧緊急症である。 ・左心不全の患者は半坐位(Fowler位)・起坐位にすると、静脈還流が減って肺うっ血が改善し、呼吸仕事量も減る。 ・仰臥位は肺うっ血を悪化させ、腹臥位は呼吸運動を妨げる。 ・初期治療は酸素投与・NPPV、硝酸薬による血管拡張、必要に応じてループ利尿薬。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。