StudyMed医師国家試験

冷やしてはいけない検体―髄液だけが冷蔵庫に入らない理由

第105回医師国家試験 F問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第105回 F問題 第1問

細菌検査の検体で原則として室温保存するのはどれか。

  1. a.尿
  2. b.便
  3. c.喀痰
  4. d.髄液
  5. e.胸水

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は細菌検査の検体をどう保存するか、という問題だ。一見すると暗記問題に見えるけれど、「なぜ冷やすのか」「なぜ冷やしてはいけないのか」を理屈で押さえれば迷わなくなる。まず、検体を保存するときに守りたいことは何だと思う?
医学生医学生
狙っている菌が死なないようにすること、でしょうか。
ドクタードクター
それが1つ目。もう1つは、混入した常在菌や雑菌が増えすぎないようにすること。この2つのバランスで保存温度が決まるんだ。
医学生医学生
なるほど。でも細菌は37℃でよく増えるので、基本的には冷やしておけば安全なのかなと思っていました。
ドクタードクター
多くの検体はその考えで正しい。尿、便、喀痰は、採取の途中で常在菌が混じりやすい、あるいはもともと大量の菌を含む検体だ。室温に置くと混入菌がどんどん増えて、原因菌が埋もれてしまう。だから原則として冷蔵、約4℃で保存する。
医学生医学生
尿は菌数で判定するから、放置すると偽陽性になりますよね。微生物学の実習で、中間尿で10の5乗CFU/mL以上が目安と習いました。
ドクタードクター
その通り。だから尿は採取後なるべく早く、遅れるなら冷蔵。喀痰も口腔・咽頭の常在菌が必ず混じるので同じ扱いだ。便も腸内常在菌が多いから冷蔵が原則だけど、赤痢菌のように低温や乾燥に弱い菌を狙うときは輸送培地を使って早く出すなど配慮が要る。
医学生医学生
胸水は穿刺で清潔に採るので、本来無菌ですよね。髄液と同じ扱いかと思って少し迷いました。
ドクタードクター
いい迷い方だね。胸水も無菌検体だけど、皮膚常在菌などが混入する機会はあるし、低温に特に弱い菌が主な標的というわけではない。だから細菌検査では冷蔵が一般的だ。腹水や関節液、膿も同様に扱う。嫌気性菌を疑うなら空気に触れない専用容器で速やかに出すことも覚えておこう。
医学生医学生
では髄液だけが特別なのは、狙う菌のほうに理由があるんですね。
ドクタードクター
その通り。細菌性髄膜炎の主な起因菌である髄膜炎菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌は低温に弱い。冷蔵すると死滅して、培養が陰性になってしまうおそれがある。一方で髄液は腰椎穿刺で清潔に採る無菌検体だから、雑菌の増殖を心配して冷やす必要性は低い。だから正解は髄液で、室温保存、そしてすぐ検査室へ提出する。
医学生医学生
臨床実習で小児科を回ったとき、ルンバールの後に研修医の先生が検体を持って検査室へ走っていった理由がわかりました。
ドクタードクター
まさにそれが正しい動きだ。夜間などで提出が遅れる場合は、冷蔵庫ではなく35〜37℃の孵卵器に入れて保温する。同じ理屈で、血液培養ボトルも冷蔵は禁止だよ。
医学生医学生
髄膜炎菌と同じナイセリア属の淋菌も、低温に弱いんでしたっけ。
ドクタードクター
よく結びつけたね。淋菌も低温や乾燥に弱い菌だ。「ナイセリアは寒がり」と覚えておくと整理しやすい。肺炎球菌も自己融解しやすい菌で、時間が経つほど検出しにくくなる。
医学生医学生
ちなみに「室温」って何℃を指すんですか。冬の病棟だとかなり寒いこともありますよね。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。日本薬局方では室温を1〜30℃と定義していて、低温域まで含んでしまう。だから臨床で大事なのは、言葉の定義より「冷蔵庫に入れない、体温に近い温度を保つ、すぐ提出する」という本質のほうなんだ。
医学生医学生
保存はあくまで提出が遅れたときの次善策で、一番は早く出すこと、ですね。
ドクタードクター
その通り。さらに言えば、検体は抗菌薬投与前に採るのが原則。細菌性髄膜炎は一刻を争うから、検体採取で治療が遅れてはいけないけれど、採れるなら抗菌薬の前に血液培養と髄液を確保する。採取、保存、提出のすべてが診断の精度に直結すると意識しておこう。

まとめ

細菌検査の検体保存は、「目的菌を死なせない」ことと「混入菌を増やさない」ことの両立で考えます。尿・便・喀痰・胸水などは常在菌の混入や増殖が問題となるため、すぐに検査できなければ冷蔵(約4℃)保存が原則です。一方、髄液は無菌的に採取される検体であり、細菌性髄膜炎の主な起因菌である髄膜炎菌・インフルエンザ菌・肺炎球菌が低温に弱いため、冷蔵せず室温で保存し、遅れる場合は35〜37℃で保温して速やかに提出します。血液培養ボトルも同様に冷蔵禁止です。保存温度を菌の性質から理解しておくことは、培養の偽陰性・偽陽性を防ぎ、感染症診療の確かな第一歩となります。

解答・解説

正解はdです

細菌検査の検体は、採取してから培養を始めるまでの間に「目的菌が死滅しないこと」と「混入した常在菌や雑菌が増えすぎないこと」の両方を満たすように保存する必要がある。

冷蔵保存(約4℃)が原則となる検体

尿、便、喀痰など、採取の過程で常在菌が混入しやすい、あるいはもともと多数の菌を含む検体である。室温に置くと混入菌が増殖し、原因菌が埋もれたり、尿のように菌数で判定する検査では偽陽性の原因になったりする。冷蔵によって菌の増殖を抑え、採取時点の菌の状態を保つ。

冷蔵してはならない検体

髄液と血液(血液培養ボトル)である。いずれも本来無菌で、清潔操作で採取されるため雑菌増殖の心配は小さい。一方、細菌性髄膜炎の主な起因菌である髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は低温に弱く、冷蔵すると死滅して培養で検出できなくなるおそれがある。そのため髄液は室温で保存し、できるだけ速やかに検査室へ提出する(夜間などで提出が遅れる場合は35〜37℃の孵卵器に入れる)。 したがって、原則として室温保存とするのは髄液である。 なお、「室温」の定義は一定しておらず、日本薬局方では室温を1〜30℃、常温を15〜25℃としている。室温を1〜30℃と広く取ると低温域も含まれてしまうため、臨床の場では「冷蔵庫に入れず、体温に近い温度を保ち、速やかに提出する」ことが本質である。

選択肢考察

  1. ×a.  尿

    誤り。尿は膀胱内では本来無菌だが、排尿時に尿道口や外陰部の常在菌が混入しやすい。尿路感染症の診断は菌数(例: 中間尿で10^5 CFU/mL以上など)で判定するため、室温に放置して混入菌が増殖すると偽陽性となる。採取後2時間以内の検査が望ましく、すぐに提出できない場合は冷蔵(4℃)で保存する。混入を減らすため、中間尿の正しい採り方を患者に説明することも大切である。

  2. ×b.  便

    誤り。便には大量の腸内常在菌が含まれており、室温に置くと常在菌が増えて病原菌の検出が難しくなるため、原則として冷蔵保存する。ただし赤痢菌(Shigella)のように低温や乾燥に弱い菌を目的とする場合は、輸送培地(Cary-Blair培地など)を用い、速やかに提出するなどの配慮が必要となる。

  3. ×c.  喀痰

    誤り。喀痰は喀出の際に口腔・咽頭の常在菌が必ず混入する検体であり、放置すると常在菌が増殖して原因菌の判定を妨げる。すぐに検査できない場合は冷蔵(4℃)保存とする。なお、唾液成分が多い検体は評価に適さないため、うがい後に深い咳で膿性部分を採取させることが重要である(肉眼的品質評価にはMiller & Jones分類が用いられる)。

  4. ○d.  髄液

    正しい。髄液は腰椎穿刺により清潔操作で採取される本来無菌の検体で、雑菌の増殖を抑える目的で冷蔵する必要性は低い。一方、細菌性髄膜炎の主要な起因菌である髄膜炎菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌は低温で死滅しやすく、冷蔵すると培養が陰性化するおそれがある。このため髄液は室温で保存し、ただちに検査室へ提出する。提出までに時間がかかる場合は35〜37℃の孵卵器で保温する。なお、ウイルス検査のみを目的とする場合は冷蔵してよいが、臨床の場では細菌性髄膜炎を否定できないことが多いため、細菌培養用の検体は室温で扱うのが原則である。

  5. ×e.  胸水

    誤り。胸水も穿刺により清潔操作で採取されるが、髄液に比べて皮膚常在菌などが混入する機会があり、また低温に特に弱い菌が主な標的ではないため、細菌検査では冷蔵(4℃)保存が一般的である。腹水・関節液・膿などの穿刺液も同様に扱い、できるだけ多くの量を採取する。嫌気性菌を疑う場合は、空気に触れないよう嫌気ポーターなどの専用容器に入れて速やかに提出する。

細菌検査検体の保存温度の整理

・冷蔵(約4℃):尿、便、喀痰、胸水・腹水などの穿刺液、膿など ・室温(冷蔵禁止):髄液、血液培養ボトル(すぐに提出できない場合は35〜37℃の孵卵器でもよい)

冷蔵してはいけない理由となる主な菌

・髄膜炎菌(Neisseria meningitidis):低温で急速に死滅する。 ・淋菌(Neisseria gonorrhoeae):同じナイセリア属で低温・乾燥に弱い。 ・インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae):低温で生存性が低下し、肺炎球菌は自己融解もしやすい。

検体採取の原則

・抗菌薬投与前に採取する。 ・常在菌の混入をできるだけ避ける(中間尿、膿性痰の選択、皮膚消毒など)。 ・採取後はできるだけ速やかに検査室へ提出する。保存はあくまで提出が遅れる場合の次善策である。

温度の用語

日本薬局方では標準温度20℃、常温15〜25℃、室温1〜30℃、微温30〜40℃と定義されている。

POINT

・雑菌が混入しやすい、あるいは多くの菌を含む検体(尿、便、喀痰など)は冷蔵保存が原則。 ・髄液と血液培養は冷蔵禁止で、室温(または35〜37℃)で保存し速やかに提出する。 ・理由は、髄膜炎菌・インフルエンザ菌・肺炎球菌などの髄膜炎起因菌が低温に弱いためである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。