人間ドックは労災で受けられる?―「起きた災害への補償」から読み解く労災保険のしくみ
第105回医師国家試験 E問題 第4問
国試問題にチャレンジ
労働者災害補償保険〈労災保険〉について誤っているのはどれか。
- a.通勤災害は対象となる。
- b.業務上災害は対象となる。
- c.人間ドックは対象となる。
- d.遺族は給付対象である。
- e.パート職員は給付対象である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
労災保険は、労働基準法上の事業主の災害補償責任を国が保険として肩代わりする制度で、保険料は全額事業主負担、窓口は労働基準監督署です。対象は業務災害と通勤災害(2020年からは複数業務要因災害も)で、正社員・パート・アルバイトなど雇用形態を問わずすべての労働者に適用され、死亡時には遺族にも給付があります。一方、人間ドックのように健康な人が任意に受ける検診は対象外で、予防的な給付は血圧・血中脂質・血糖・腹囲またはBMIのすべてに異常がある場合の二次健康診断等給付に限られます。業務・通勤による傷病には原則として健康保険が使えないため、医師が職業歴や受傷状況を確認し、適切な制度につなぐことが臨床現場でも求められます。
解答・解説
正解はcです
問われていること
労働者災害補償保険(労災保険)の対象となる災害・人・給付の範囲を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、労災保険の対象とならないものを選ぶ。
労災保険の基本的な考え方
労働基準法は、労働者が業務上の理由でけがや病気をした場合に、事業主が補償する責任(災害補償責任)を定めている。しかし事業主の経済力によっては補償が確実に行われないおそれがあるため、この責任を国が運営する保険で肩代わりし、迅速・公正な補償を保証するしくみが労災保険(労働者災害補償保険法)である。このため保険料は全額を事業主が負担し、労働者は負担しない。保険者は国(政府)で、実務は都道府県労働局と労働基準監督署が担う。
判断のポイント
・対象となる災害:仕事が原因の「業務災害」と、通勤途中の「通勤災害」(2020年からは、複数の職場で働く人の業務上の負荷を合わせて評価する「複数業務要因災害」も加わった)。 ・対象となる人:雇用形態にかかわらず、賃金を支払われて働くすべての労働者。死亡した場合はその遺族も給付を受ける。 ・予防目的の検査:労災保険は「すでに起きた災害」への補償が中心であり、健康な人が自主的に受ける人間ドックのような検診は対象外である。例外は、脳・心臓疾患の予防を目的とした「二次健康診断等給付」だけである。 以上から、人間ドックを対象とする選択肢が誤りとなる。
選択肢考察
- ×a. 通勤災害は対象となる。
正しい記述である。通勤災害とは、住居と就業場所の間などを合理的な経路・方法で移動する途中に生じた負傷・疾病・障害・死亡をいい、1973年から労災保険の対象となった。移動経路を途中で外れたり中断したりすると、原則としてその後は通勤とみなされない。ただし、日用品の購入や、子どもを保育所に預けるための立ち寄りなど、日常生活上必要な最小限度の行為であれば、合理的な経路に戻った後は再び通勤として扱われる。単身赴任先の住居と帰省先の住居の間の移動も通勤に含まれる。なお、地下鉄サリン事件で出勤途中に被害を受けた人の多くも通勤災害と認定された。
- ×b. 業務上災害は対象となる。
正しい記述である。業務上の理由による負傷・疾病・障害・死亡は、労災保険の最も基本的な対象である。認定にあたっては、事業主の管理下にあったか(業務遂行性)と、業務と傷病の間に因果関係があるか(業務起因性)が判断される。過重労働による脳・心臓疾患、仕事上の強いストレスによる精神障害、じん肺や石綿(アスベスト)による中皮腫などの職業病も、認定基準を満たせば対象となる。
- ○c. 人間ドックは対象となる。
誤った記述であり、これが正解である。人間ドックは、自覚症状のない人が病気の早期発見を目的として任意に受ける検診であり、業務や通勤による災害に対する補償ではないため、労災保険の対象とはならない(健康保険の療養の給付の対象にもならず、原則として自費である)。例外として、事業主が行う定期健康診断などで、血圧・血中脂質・血糖・腹囲またはBMI(肥満度)の検査すべてに異常所見があった労働者には、過労による脳・心臓疾患の予防のため、二次健康診断と医師などによる特定保健指導が「二次健康診断等給付」として労災保険から給付される。
- ×d. 遺族は給付対象である。
正しい記述である。労働者が業務災害や通勤災害で死亡した場合、その収入で生計を維持していた一定範囲の遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹など)に遺族(補償)年金が支給される。年金を受けられる遺族がいない場合は遺族(補償)一時金が支給される。また、葬祭を行った人には葬祭料(通勤災害では葬祭給付)が支給される。
- ×e. パート職員は給付対象である。
正しい記述である。労災保険は、労働の対価として賃金を受け取るすべての労働者に適用される。正社員・パートタイマー・アルバイト・日雇い・臨時雇いなど、雇用形態や勤務時間の長さによって区別されない。原則として労働者を1人でも雇う事業所はすべて適用事業となる。なお、公務員には国家公務員災害補償法や地方公務員災害補償法が別に適用される。中小企業の事業主や一人親方など労働者でない人も、特別加入制度によって任意に加入できる。
労災保険の主な保険給付
業務災害では「〜補償給付」、通勤災害では「〜給付」と呼ぶ。 ・療養(補償)給付:治療費や薬剤費などを現物で給付する。業務災害では労働者の自己負担はない(通勤災害では初回に一部負担金として原則200円を負担する)。 ・休業(補償)給付:療養のため働けず賃金を受けられない日の4日目から、給付基礎日額の60%を支給する(別に休業特別支給金20%が上乗せされる)。休業の最初の3日間(待期期間)は、業務災害であれば事業主が労働基準法に基づいて休業補償を行う。 ・傷病(補償)年金:療養開始から1年6か月たっても治らず、傷病等級に該当する場合に支給する。 ・障害(補償)給付:治った後に障害が残った場合に、障害等級に応じて年金または一時金を支給する。 ・介護(補償)給付:障害(補償)年金・傷病(補償)年金を受ける人のうち、一定の障害があり介護を受けている場合に支給する。 ・遺族(補償)給付、葬祭料(葬祭給付) ・二次健康診断等給付:定期健康診断などで、血圧・血中脂質・血糖・腹囲またはBMIのすべてに異常所見がある場合に支給する。
健康保険との関係
業務災害・通勤災害による傷病は労災保険の対象であり、原則として健康保険は使えない。労災保険は保険料を事業主のみが負担する点、療養の給付に原則として自己負担がない点で、健康保険と異なる。
POINT
・労災保険の対象は業務災害と通勤災害(2020年から複数業務要因災害も)。 ・雇用形態を問わず全労働者が対象で、パート・アルバイトも含まれる。死亡時は遺族に給付がある。 ・保険料は全額事業主負担で、保険者は国。窓口は労働基準監督署。 ・人間ドックは対象外。予防的な給付は二次健康診断等給付のみ(血圧・脂質・血糖・腹囲/BMIのすべてに異常がある場合)。
