胸郭を広げるか、縮めるか―呼吸筋を「容積」で仕分ければ呼気筋は一目瞭然
第105回医師国家試験 E問題 第5問
国試問題にチャレンジ
収縮が呼気に関与する筋はどれか。
- a.横隔膜
- b.前斜角筋
- c.内肋間筋
- d.肋骨挙筋
- e.胸鎖乳突筋
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
呼吸筋は、収縮によって胸腔容積を増やすか減らすかで吸気筋と呼気筋に分けられます。横隔膜(横隔神経C3〜C5支配)、外肋間筋、さらに肋骨や胸骨を挙上する胸鎖乳突筋・斜角筋・肋骨挙筋は吸気筋であり、収縮で呼気に働くのは肋骨を引き下げる内肋間筋と、腹圧を高める腹筋群です。外肋間筋と内肋間筋は線維方向がほぼ直交するため作用が逆になり、また安静呼気は肺と胸郭の弾性収縮力による受動的過程で、呼気筋は主に努力呼気で動員されます。呼吸補助筋の使用はCOPDや喘息発作などで呼吸負荷が高まっている徴候であり、頸髄損傷では損傷レベルによって換気障害や咳嗽力低下が生じるなど、呼吸筋の理解は身体診察や病態評価に直結します。
解答・解説
正解はcです
問われていること
呼吸運動に関わる筋を、収縮したときに胸郭を広げる(吸気)か、狭める(呼気)かで分類できるかを問う基本問題である。
考え方
呼吸は胸郭の容積変化によって起こる。胸腔の容積が増えると胸腔内圧(肺を取り囲む圧)がさらに陰圧になり、肺が膨らんで空気が流入する(吸気)。逆に容積が減ると空気が出ていく(呼気)。 胸腔の容積を増やす方法は、(1) 横隔膜を下げて上下径を増やす、(2) 肋骨を持ち上げて前後径・左右径を増やす、の2つである。したがって「横隔膜」と「肋骨や胸骨を上へ引き上げる筋」は吸気筋、「肋骨を引き下げる筋」「腹圧を高めて横隔膜を押し上げる筋」は呼気筋と整理できる。 安静呼吸では、吸気は主に横隔膜(と外肋間筋)の収縮で行われ、呼気は筋収縮を必要とせず、膨らんだ肺と胸郭が元に戻ろうとする弾性収縮力によって受動的に起こる。運動時や気道閉塞時などの努力呼気では、内肋間筋や腹筋群(腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋)が収縮して能動的に呼出する。 選択肢のうち、肋骨を引き下げて肋間隙を狭め、胸郭を縮小させる作用をもつのは内肋間筋のみであり、これが正解である。ほかの4つはいずれも収縮により胸腔容積を増やす吸気筋である。
選択肢考察
- ×a. 横隔膜
横隔膜は胸腔と腹腔を隔てるドーム状の筋で、横隔神経(C3〜C5)に支配される。収縮するとドームの頂部が下降して胸腔の上下径が増し、吸気を生じる。安静時の換気量の大部分(約2/3以上)を担う最も重要な吸気筋である。弛緩すると元の位置に戻り呼気となるが、これは筋の「収縮」によるものではないため、本問の「収縮が呼気に関与する筋」には当たらない。
- ×b. 前斜角筋
前斜角筋は第3〜6頸椎横突起の前結節から起こり、第1肋骨に停止する。収縮すると第1肋骨を上方へ引き上げ、胸郭の上部を広げるため吸気に働く。努力吸気時に動員される呼吸補助筋として扱われることが多いが、安静吸気時にも活動していることが知られている。呼気には関与しない。
- ○c. 内肋間筋
内肋間筋は外肋間筋の内側(深層)にあり、線維が外肋間筋とほぼ直交する向き(上位肋骨から下位肋骨へ後下方に向かう斜走。外肋間筋は前下方に向かう)をとる。この走行のため、収縮すると上位の肋骨を下位の肋骨側へ引き下げ、肋間隙を狭めて胸郭を縮小させる。その結果、胸腔容積が減少して呼気が促進される。安静呼気は受動的に起こるため内肋間筋の関与は小さく、主に努力呼気時に腹筋群とともに働く。なお、胸骨近傍の肋軟骨間部分(傍胸骨部)は例外的に吸気に働くとされるが、内肋間筋全体としては呼気筋として理解してよい。
- ×d. 肋骨挙筋
肋骨挙筋は第7頸椎〜第11胸椎の横突起から起こり、すぐ下(一部は2つ下)の肋骨の肋骨角付近に付着する小さな筋である。名前の通り肋骨を挙上して胸郭を広げるため、吸気に働く。脊柱の側屈・回旋にも関わる。
- ×e. 胸鎖乳突筋
胸鎖乳突筋は胸骨柄(胸骨頭)と鎖骨内側部(鎖骨頭)の二頭から起こり、側頭骨乳様突起と後頭骨上項線の外側部に停止する。副神経に支配される。頭頸部が固定された状態で収縮すると胸骨と鎖骨を引き上げ、胸郭の前後径を増やすため吸気に働く。代表的な努力吸気の補助筋であり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息発作などで収縮・肥大が目立つことは身体診察上の重要な所見である。
呼吸筋の整理
1. 吸気筋 ・主吸気筋: 横隔膜(横隔神経 C3〜C5)、外肋間筋(肋間神経) ・呼吸補助筋(努力吸気で動員): 胸鎖乳突筋、斜角筋群(前・中・後斜角筋)、僧帽筋、大胸筋・小胸筋、前鋸筋、肋骨挙筋、上後鋸筋など 2. 呼気筋(努力呼気で動員) ・内肋間筋、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、下後鋸筋など ・腹筋群は腹圧を高めて横隔膜を胸腔側へ押し上げるとともに、下位肋骨を引き下げる
安静呼吸と努力呼吸
・安静吸気: 横隔膜が主役で、外肋間筋が補助する(能動的過程) ・安静呼気: 肺と胸郭の弾性収縮力による受動的過程で、呼気筋の収縮はほとんど要しない ・努力吸気: 呼吸補助筋が加わる ・努力呼気: 内肋間筋と腹筋群が収縮する能動的過程となる
臨床との関連
・呼吸補助筋(胸鎖乳突筋・斜角筋)の使用や、口すぼめ呼吸・腹筋を使った呼出は、COPDや喘息発作などの呼吸不全を示唆する所見である。 ・頸髄損傷では、C3〜C5より上位の損傷で横隔膜が麻痺し人工呼吸が必要となる。より下位の頸髄損傷では横隔膜は保たれるが、肋間筋・腹筋が麻痺するため咳嗽力(努力呼気)が低下し、排痰障害を来しやすい。 ・片側横隔神経麻痺では、胸部X線写真で患側横隔膜の挙上がみられる。
POINT
・胸腔容積を増やす筋(横隔膜、肋骨・胸骨を挙上する筋)は吸気筋である。 ・収縮により呼気に働くのは内肋間筋と腹筋群(腹直筋、外・内腹斜筋、腹横筋)である。 ・外肋間筋は吸気、内肋間筋は呼気と、線維方向が直交し作用も逆になる。 ・安静呼気は弾性収縮力による受動的過程であり、呼気筋は主に努力呼気で働く。 ・胸鎖乳突筋・斜角筋は努力吸気の補助筋であり、その使用は呼吸困難の徴候である。
