熱は下がったのに腎臓が悲鳴―バンコマイシンの血中濃度はどう動く?
第105回医師国家試験 E問題 第25問
国試問題にチャレンジ
MRSA敗血症に対してバンコマイシンで治療を開始した。治療5日目に解熱したが腎機能障害が出現した。 バンコマイシンの血中薬物モニタリングで予想されるのはどれか。
- a.濃度時間曲線下面積減少
- b.蛋白結合率低下
- c.トラフ値上昇
- d.ピーク値低下
- e.半減期短縮
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
バンコマイシンは大部分が未変化体のまま腎臓から排泄されるため、腎機能障害ではクリアランスが低下し、半減期が延長して薬物が蓄積します。その結果、トラフ値・ピーク値はともに上昇し、AUCも増加します。蛋白結合率は主に薬物固有の性質で決まり、総濃度を測る通常のTDMで評価する指標ではありません。バンコマイシンの主な副作用は腎障害で、濃度上昇がさらに腎障害を悪化させる悪循環を招きうるため、TDMに基づき減量や投与間隔の延長を行い、近年はAUCを指標とした投与設計も推奨されています。「腎排泄型薬物×腎機能低下=濃度上昇・半減期延長」という原則は、多くの薬の安全な投与設計に通じる基本です。
解答・解説
正解はcです
問題の整理
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による敗血症にバンコマイシンを投与し、解熱は得られたものの腎機能障害が生じた場面である。問われているのは、この時点で血中薬物モニタリング(TDM:therapeutic drug monitoring、血中濃度を測定して投与量・投与間隔を調節すること)を行うと、どのような結果が予想されるかである。
考え方
バンコマイシンは経静脈投与後ほとんど代謝されず、大部分(約90%)が未変化体のまま腎臓の糸球体濾過によって尿中へ排泄される腎排泄型薬物である。したがって、腎機能が低下すると薬物のクリアランス(単位時間あたりに薬物が除去される血漿量)が低下する。 クリアランスが低下した状態で同じ量・同じ間隔の投与を続けると、次のような変化が一斉に起こる。 ・消失が遅くなるため、消失半減期(血中濃度が半分になるまでの時間)が延長する。 ・前回投与分が十分に消えないうちに次の投与が重なるため、薬物が蓄積する。 ・その結果、次回投与直前の最低濃度(トラフ値)が上昇し、投与後の最高濃度(ピーク値)も底上げされて上昇する。 ・濃度時間曲線下面積(AUC)は「投与量÷クリアランス」で表されるため、クリアランス低下により増加する。 つまり、腎排泄型薬物で腎機能が低下したときは「濃度はすべて上がり、半減期は延びる」と覚えればよい。選択肢のうちこの方向に合致するのはトラフ値上昇のみである。 なお、バンコマイシンの腎障害はそれ自体が高いトラフ値・AUCと関連しており、腎障害→濃度上昇→さらなる腎障害という悪循環を招きうる。そのため本症例では速やかにTDMを行い、投与量の減量や投与間隔の延長を検討する必要がある。
選択肢考察
- ×a. 濃度時間曲線下面積減少
濃度時間曲線下面積(AUC:area under the curve)は血中濃度を時間で積分した値で、体がどれだけの量の薬物に曝露されたかを表す指標である。AUC=生体に入った薬物量÷クリアランスの関係があり、腎機能障害でバンコマイシンのクリアランスが低下すると、同じ投与量でもAUCは増加する。減少とする本選択肢は誤りである。
- ×b. 蛋白結合率低下
蛋白結合率は、血中の薬物のうちアルブミンなどの血漿蛋白と結合している割合であり、主に薬物ごとの性質で決まる(バンコマイシンはおおむね30〜50%程度)。低アルブミン血症や尿毒症物質の蓄積で変動する薬物(フェニトインなど)もあるが、通常のTDMは結合型と遊離型を合わせた総濃度を測定するものであり、蛋白結合率の変化を直接評価するものではない。本症例の腎機能障害でTDM上予想される変化として挙げるのは適切でない。
- ○c. トラフ値上昇
トラフ値は反復投与時に次回投与の直前に得られる最低血中濃度である。腎機能障害によりバンコマイシンの排泄が遅れると、前回投与分が体内に残ったまま次の投与が行われるため薬物が蓄積し、トラフ値は上昇する。トラフ値の上昇はバンコマイシンによる腎障害のリスクとも関連するため、TDMで上昇を確認した場合には減量や投与間隔の延長を行う。したがって本選択肢が正しい。
- ×d. ピーク値低下
ピーク値は投与(点滴終了)後に到達する最高血中濃度である。腎機能が低下すると、蓄積によってトラフ値が上がった状態から次の投与が上乗せされるため、ピーク値も上昇する。低下とする本選択肢は誤りである。
- ×e. 半減期短縮
消失半減期は分布容積とクリアランスで決まり、おおよそ「0.693×分布容積÷クリアランス」で表される。腎機能障害でクリアランスが低下すれば半減期は延長する。バンコマイシンの半減期は腎機能正常の成人で約4〜6時間だが、腎不全では数日に及ぶこともある。短縮とする本選択肢は誤りである。
TDMの対象となる薬物
TDMは、有効域と中毒域が接近している(治療域が狭い)薬物や、個人差が大きく血中濃度と効果・副作用がよく相関する薬物で行われる。代表例は、グリコペプチド系(バンコマイシン、テイコプラニン)やアミノグリコシド系(ゲンタマイシン、アミカシンなど)の抗菌薬、ジゴキシン、テオフィリン、抗てんかん薬(フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸など)、炭酸リチウム、免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス)などである。
主な薬物動態パラメータ
・ピーク値:投与後の最高血中濃度。効果(アミノグリコシド系など濃度依存性の薬物)や中毒の指標となる。 ・トラフ値:次回投与直前の最低血中濃度。反復投与時に定常状態で採血して評価することが多い。 ・AUC:濃度時間曲線下面積。薬物への総曝露量を示す。 ・半減期:血中濃度が半分になるまでの時間。反復投与では、半減期の約4〜5倍の時間でほぼ定常状態に達する。 ・クリアランス:薬物を除去する能力。腎排泄型薬物では腎機能(クレアチニンクリアランスなど)とよく相関する。
バンコマイシンのTDM
主な副作用は腎障害(急性腎障害)で、ほかに聴器毒性、急速静注によるヒスタミン遊離を介した皮膚紅潮・血圧低下(レッドネック症候群、近年はvancomycin infusion reactionとも呼ばれる)がある。従来はトラフ値(一般に10〜20μg/mL程度)を指標に投与設計が行われてきたが、近年のガイドラインではAUC(24時間あたり400〜600μg・h/mL程度)を指標とした投与設計が推奨されるようになっている。いずれの指標でも、腎機能低下時には血中濃度が上昇しやすく、減量・投与間隔延長が必要になる。
腎機能障害時の薬物動態の変化(腎排泄型薬物)
クリアランス低下 → 半減期延長 → 蓄積 → トラフ値上昇・ピーク値上昇・AUC増加。対応は、1回量の減量、投与間隔の延長、またはその両方である。
POINT
・バンコマイシンは腎排泄型薬物であり、腎機能障害でクリアランスが低下する。 ・腎機能低下時は、トラフ値上昇・ピーク値上昇・AUC増加・半減期延長が起こる。 ・バンコマイシンの主な副作用は腎障害で、濃度上昇がさらに腎障害を悪化させうるため、TDMに基づいて減量・投与間隔延長を行う。 ・蛋白結合率は薬物ごとの性質でおおむね決まり、通常のTDMで評価する項目ではない。
