StudyMed医師国家試験

腰は姿勢に、熱は現場に―作業を思い浮かべて解く職業性疾病の組合せ

第105回医師国家試験 D問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第105回 D問題 第16問

労働形態と健康障害の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.重量物取扱い作業 ―― 職業性頸肩腕障害
  2. b.潜水作業 ―― 低酸素血症
  3. c.中腰作業 ―― 職業性腰痛
  4. d.道路建設作業 ―― 熱中症
  5. e.VDT作業 ―― 白内障

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、働き方の種類とそこで起こりやすい健康障害を結びつける問題だ。産業医の立場から言うと、コツは「その作業で体のどこに負担がかかるか」「どんな環境にさらされるか」を具体的に思い浮かべること。暗記の前に、まずは現場を想像してみよう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で職業性疾病の一覧表を覚えたんですが、正直、丸暗記になっていました。
ドクタードクター
一覧表は大事だけど、原因で整理すると忘れにくいよ。大きく分けると、作業姿勢や動作による負担、つまり腰痛や頸肩腕障害。次に物理的要因で、高温なら熱中症、高気圧なら減圧症、騒音なら騒音性難聴、振動なら振動障害。そして有機溶剤や重金属、粉じんなどの化学的要因だ。この枠組みに選択肢を当てはめていこう。
医学生医学生
中腰作業と職業性腰痛はそのままの組合せに見えます。前かがみだと腰に負担がかかりますよね。
ドクタードクター
その通り。中腰では上半身の重さを腰の筋肉と椎間板で支え続けることになるから、腰への負担はとても大きい。重量物の取扱いと並ぶ職業性腰痛の代表的な原因で、介護や農作業でよく問題になる。厚生労働省の腰痛予防対策指針でも、不自然な姿勢を避けることや作業台の高さを調整することが挙げられている。正しい組合せだ。
医学生医学生
臨床実習で整形外科を回ったとき、介護職の方が腰痛で受診していました。移乗介助で中腰になるのがつらいと話していました。
ドクタードクター
まさに典型例だね。では重量物取扱い作業と頸肩腕障害はどうかな。
医学生医学生
重い物を持つなら腕や肩も使うので、頸肩腕障害もありそうな気がします。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、重い物を持ち上げて運ぶときに一番負担がかかるのは腰なんだ。だから代表的なのは職業性腰痛。頸肩腕障害は、キーボード入力やレジ打ち、流れ作業のように、上肢を何度も繰り返し使い、首や肩を同じ姿勢で長時間保つ作業で起こる。首・肩・腕のこりや痛み、しびれ、だるさが出るんだ。「重さ」ではなく「反復と固定姿勢」がキーワードだね。
医学生医学生
なるほど。じゃあ潜水作業と低酸素血症はどうでしょう。水中だと息ができないので、酸素不足になりそうですが。
ドクタードクター
そこが引っかけだ。潜水作業の本質は「高気圧」なんだよ。圧が高いと血液や組織に溶ける窒素が増え、浮上が速すぎると窒素が気泡になって関節痛や皮膚症状、神経症状を起こす。これが減圧症、いわゆる潜函病・潜水病だ。ほかに中耳や副鼻腔の圧外傷、窒素酔いも知られている。低酸素血症が問題になるのは、気圧が下がる高所や、タンク内・マンホール内のような酸素欠乏危険場所での作業だ。
医学生医学生
生理学で習ったヘンリーの法則を思い出しました。圧が高いほど気体がよく溶ける、ということですね。
ドクタードクター
よくつなげたね。では道路建設作業と熱中症は?
医学生医学生
屋外の炎天下で体を動かす仕事なので、熱中症は起こりやすそうです。
ドクタードクター
正解。しかもアスファルト舗装では路面や材料からの輻射熱も加わる。発汗量が多いので脱水と体温調節の破綻が起こりやすく、職場の熱中症の死傷者は建設業で特に多い。予防には、気温・湿度・輻射熱を考慮した暑さ指数であるWBGTを使った作業管理、こまめな水分と塩分の補給、休憩、それに体を暑さに少しずつ慣らす暑熱順化が大切だ。
医学生医学生
最後のVDT作業と白内障ですが、画面の光で目が悪くなるイメージがあって迷いました。
ドクタードクター
イメージは分かるけれど、VDT作業で問題になるのは、画面を見続けることによる眼精疲労や、瞬きが減ることによるドライアイ。それに同じ姿勢を続けることでの頸肩腕障害や腰痛、精神的なストレスだ。職業性の白内障は、ガラス工や製鉄のように高温物体から出る赤外線、マイクロ波、電離放射線への曝露で起こるとされている。だから正しい組合せは、中腰作業と職業性腰痛、道路建設作業と熱中症の2つになる。
医学生医学生
作業内容と障害の間に、負担のかかる部位や曝露の種類を挟んで考えるとすっきりしますね。
ドクタードクター
その通り。発展として、ほかの組合せも整理しておこう。騒音作業では騒音性難聴が起こり、初期にはオージオグラムで4000Hz付近が落ち込むc5-dipが特徴だ。チェーンソーや削岩機のような振動工具ではレイノー現象などの振動障害、アーク溶接の紫外線では電光性眼炎が起こる。
医学生医学生
VDT作業にもガイドラインがあると聞いたことがあります。
ドクタードクター
2002年にVDT作業のガイドラインが作られ、タブレットやスマートフォンの普及を受けて2019年に「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に改められた。連続作業は1時間を超えないようにして、次の作業までに10〜15分の休止時間をとること、照明や画面の明るさ、作業姿勢の工夫、健康診断などが示されている。臨床でも、患者さんの職業を聞くことが診断の手がかりになるから、問診で仕事内容を具体的に尋ねる習慣をつけておこう。

まとめ

職業性疾病は、作業姿勢・動作による負担、物理的要因、化学的要因に分けて整理すると理解しやすくなります。中腰作業や重量物取扱いは職業性腰痛、屋外の道路建設作業は輻射熱も加わる高温環境で熱中症を起こしやすく、いずれも代表的な組合せです。一方、頸肩腕障害は上肢の反復作業やVDT作業、潜水作業は高気圧による減圧症、低酸素血症は高所や酸素欠乏場所、白内障は赤外線や電離放射線への曝露と対応します。騒音性難聴のc5-dip、振動工具によるレイノー現象、熱中症予防のWBGTや暑熱順化、情報機器作業ガイドラインもあわせて押さえておきたい知識です。作業内容から負担や曝露を具体的に想像する考え方は、試験対策だけでなく、問診で職業歴を聞き取り健康障害を予防する臨床の力にもつながります。

解答・解説

正解はc, dです

本問は、作業の内容や環境(作業姿勢、扱う物の重さ、気圧、気温、画面を見続けることなど)から、どのような健康障害が起こりやすいかを対応づける問題である。 職業に関連する健康障害(職業性疾病)は、原因によって大きく次のように整理すると考えやすい。 ・作業姿勢・動作による負担(作業態様):腰痛、頸肩腕障害 ・物理的要因:高温(熱中症)、高気圧(減圧症)、騒音(騒音性難聴)、振動(振動障害)、電離放射線、赤外線・紫外線など ・化学的要因:有機溶剤、重金属、粉じん(じん肺)など 各選択肢について、「その作業で身体のどこに、どのような負荷がかかるか」「どのような環境に曝露されるか」を具体的に思い浮かべ、その結果として起こる代表的な障害と一致しているかを判断すればよい。中腰作業は腰部への負担、屋外の道路建設作業は高温環境への曝露であり、それぞれ職業性腰痛、熱中症と正しく対応する。一方、重量物取扱い・潜水・VDT作業には、それぞれもっと典型的な障害(腰痛、減圧症、眼精疲労・頸肩腕障害など)があり、提示された組合せは誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  重量物取扱い作業 ―― 職業性頸肩腕障害

    重い物を持ち上げたり運んだりする作業では、腰椎や腰部の筋肉に大きな負荷がかかるため、典型的に起こるのは職業性腰痛である。職業性頸肩腕障害は、キーボード入力などのVDT作業、レジ打ち、流れ作業など、上肢を反復して使い、頸部や肩を同じ姿勢で長時間保つ作業で起こる。首・肩・腕のこり、痛み、しびれ、だるさなどを呈する。したがって組合せとして誤りである。

  2. ×b.  潜水作業 ―― 低酸素血症

    潜水作業は高気圧下での作業である。高圧下では血液や組織に溶け込む窒素の量が増え、浮上(減圧)が速すぎると溶けていた窒素が気泡となって、関節痛・皮膚症状・神経症状などを起こす。これが減圧症(潜函病、潜水病)であり、潜水作業の代表的な健康障害である。そのほか、気圧変化による中耳・副鼻腔などの圧外傷(スクイーズ)や窒素酔いも知られている。低酸素血症は、気圧が低く酸素分圧が下がる高所・高地での作業や、酸素濃度が18%未満となりうる酸素欠乏危険場所(タンク内、マンホール内、井戸など)での作業で問題となるもので、潜水作業の代表的な障害とはいえない。

  3. ○c.  中腰作業 ―― 職業性腰痛

    中腰(前かがみ)の姿勢では、上半身の重さを腰部の筋肉と椎間板で支え続けることになり、腰への負担が非常に大きい。そのため中腰作業は、重量物の取扱いと並んで職業性腰痛の代表的な原因となる。介護作業や農作業などでよく問題となり、厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」でも、不自然な姿勢を避けることや作業台の高さの調整などが対策として挙げられている。組合せとして正しい。

  4. ○d.  道路建設作業 ―― 熱中症

    道路建設作業は屋外の炎天下で行われることが多く、さらにアスファルト舗装では路面や材料からの輻射熱が加わるため、高温環境に曝露される。身体的な負荷も大きく発汗量が多いため、脱水と体温調節の破綻によって熱中症を起こしやすい。職場での熱中症による死傷者は建設業で特に多く、WBGT(暑さ指数:気温・湿度・輻射熱を考慮した指標)を用いた作業管理、こまめな水分・塩分補給、休憩などが予防策として求められている。組合せとして正しい。

  5. ×e.  VDT作業 ―― 白内障

    VDT(visual display terminals:パソコンなどの画面表示装置)作業で問題となるのは、画面を見続けることによる眼精疲労やドライアイ(瞬きの減少による)、同じ姿勢を続けることによる頸肩腕障害や腰痛、さらに精神的な疲労やストレスである。白内障を起こす職業性の要因としては、ガラス工や製鉄など高温物体から出る赤外線への曝露、マイクロ波、電離放射線への曝露などが知られており、VDT作業とは対応しない。

作業と代表的な健康障害の整理

・重量物取扱い、中腰作業、介護作業:職業性腰痛 ・VDT作業、レジ打ちなど上肢の反復作業:頸肩腕障害、眼精疲労、ドライアイ ・高温環境(屋外作業、製鉄など):熱中症 ・高気圧作業(潜水、潜函(ケーソン)工事):減圧症(潜函病)、圧外傷 ・高所・酸素欠乏場所:低酸素血症、酸素欠乏症 ・騒音作業:騒音性難聴(初期にはオージオグラムで4000Hz付近の聴力低下(c5-dip)がみられる) ・振動工具(チェーンソー、削岩機など):振動障害(レイノー現象など) ・赤外線(ガラス工、製鉄):白内障 ・紫外線(アーク溶接):電光性眼炎(角結膜炎)

VDT作業のガイドライン

VDT作業については、厚生労働省が2002年に「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を定めた。事務所でディスプレイやキーボードなどを用いて、データ入力・検索、文章・画像の作成・編集、プログラミング、監視などを行う作業が対象とされた。身体的な負荷(頸肩腕障害や腰痛)に加えて、心理的な負荷の増加も考慮した内容であった。その後、タブレットやスマートフォンの普及を受けて2019年に「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に改められている。作業時間の管理(連続作業は1時間を超えないようにし、次の作業までに10〜15分の作業休止時間を設けるなど)、照明や画面の明るさの調整、作業姿勢の工夫、健康診断などが示されている。

熱中症予防

WBGT値に基づく作業管理、暑熱順化(身体を暑さに徐々に慣らすこと)、水分と塩分の補給、休憩場所の確保などが重要である。

POINT

・腰痛は重量物取扱いや中腰作業、頸肩腕障害はVDT作業や上肢の反復作業で起こる。 ・潜水作業(高気圧)では減圧症が代表的である。低酸素血症は高所や酸素欠乏場所で問題となる。 ・屋外の建設作業では熱中症に注意が必要である。 ・VDT作業では眼精疲労・ドライアイ・頸肩腕障害が起こる。白内障は赤外線などの曝露で起こる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。