「いつ起こるか」は「何が起こるか」で決まる―分娩経過で読み解く周産期異常
第105回医師国家試験 D問題 第17問
国試問題にチャレンジ
周産期異常と発症時期の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.微弱陣痛 ―― 分娩第1期
- b.肩甲難産 ―― 分娩第2期
- c.弛緩出血 ―― 分娩第2期
- d.臍帯脱出 ―― 分娩第3期
- e.常位胎盤早期剝離 ―― 分娩第3期
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
分娩は、子宮口全開大までの第1期、胎児娩出までの第2期、胎盤娩出までの第3期に分けられ、臨床ではその後約2時間を第4期として観察します。微弱陣痛は児を押し出す過程の第1〜2期、肩甲難産は児頭娩出後の第2期に起こる異常であり、肩甲難産では帝王切開への切り替えが通常困難なためMcRoberts法や恥骨上部圧迫法で対応します。弛緩出血は胎盤娩出後の子宮収縮不良による出血で第3期以降に、臍帯脱出や常位胎盤早期剝離は胎児娩出前に起こるため、第3期の異常とはなりません。産後出血の原因はTone・Trauma・Tissue・Thrombinの4つのTで整理でき、最多は弛緩出血です。「何が起きているか」から発症時期を導く考え方は、分娩経過のどこで何に注意すべきかを判断する産科診療の基本につながります。
解答・解説
正解はa, bです
本問は、代表的な周産期の異常が分娩のどの段階で起こるかを問う問題である。まず分娩期の区分を正確に押さえておく必要がある。
分娩期の区分
・分娩第1期(開口期):陣痛開始(陣痛周期が10分以内、または1時間に6回以上になった時点)から子宮口全開大まで ・分娩第2期(娩出期):子宮口全開大から胎児娩出まで ・分娩第3期(後産期):胎児娩出から胎盤娩出まで ・分娩第4期:胎盤娩出後およそ2時間(産後出血などの異常が起こりやすいため観察を続ける時期として臨床的に用いられる) そのうえで各異常について、「何が起こる異常なのか」を考えると発症時期が決まる。陣痛の強さが問題になるのは児を押し出す過程(第1〜2期)、児の肩が引っかかるのは児頭が出た直後(第2期)、子宮収縮不良による出血は胎盤が出たあと(第3期以降)、臍帯が児より先に下降するのは破水後から児娩出まで(第1〜2期)、胎盤が児より先に剝がれるのは児娩出前(妊娠中〜分娩第1・2期)である。第3期には胎盤の剝離・娩出や臍帯の娩出が「正常に」起こるため、臍帯脱出や常位胎盤早期剝離という異常はこの時期には定義されない、という点も判断の手がかりとなる。
選択肢考察
- ○a. 微弱陣痛 ―― 分娩第1期
微弱陣痛は、陣痛の強さ・持続時間・頻度が不十分なために分娩が順調に進行しない状態であり、分娩第1期から第2期にかけて問題となる。分娩開始当初から陣痛が弱い原発性微弱陣痛と、途中まで正常だった陣痛が疲労などで弱くなる続発性微弱陣痛とに分けられる。原発性のものは分娩第1期にみられる典型的な異常であり、組合せとして正しい。原因として子宮の過伸展(羊水過多、多胎、巨大児)、児頭骨盤不均衡、母体の疲労などがあり、対応として子宮収縮薬(オキシトシンやプロスタグランジンF2α)による陣痛促進が行われる。
- ○b. 肩甲難産 ―― 分娩第2期
肩甲難産は、児頭が娩出されたあと、前在肩甲が母体の恥骨結合に引っかかり、通常の軽い牽引では肩が娩出できない状態である。児頭娩出後〜体幹娩出前という胎児娩出の過程で起こるため、分娩第2期の異常である。組合せとして正しい。危険因子は巨大児、糖尿病合併妊娠(母体の高血糖により児の肩や体幹が大きくなりやすい)、肥満、遷延分娩などである。児の腕神経叢麻痺(エルブ麻痺)、鎖骨骨折、低酸素性障害などを起こしうる。児頭がすでに娩出されているため帝王切開への切り替えは通常困難であり、McRoberts法(母体の両大腿を強く屈曲させて恥骨結合の角度を変える)や恥骨上部圧迫法などの手技で娩出を図る。
- ×c. 弛緩出血 ―― 分娩第2期
弛緩出血は、胎盤娩出後に子宮筋の収縮が不十分なため、胎盤が付着していた部位の血管が圧迫止血されず大量出血が続く状態である。胎盤剝離が始まる分娩第3期以降、とくに胎盤娩出直後から分娩第4期にかけて起こるものであり、児がまだ子宮内にいる分娩第2期の異常ではない。原因として子宮の過伸展(多胎、羊水過多、巨大児)、遷延分娩による子宮筋疲労、子宮筋腫などがある。対応は子宮底の輪状マッサージや双手圧迫、子宮収縮薬(オキシトシン、メチルエルゴメトリン)の投与、輸液・輸血などである。
- ×d. 臍帯脱出 ―― 分娩第3期
臍帯脱出は、破水後に臍帯が胎児の先進部よりも先に子宮口を越えて腟内や腟外に脱出する状態である。先進部と産道の間で臍帯が圧迫されて血流が途絶えるため、急速に胎児機能不全に陥る。破水後から胎児娩出までの間、すなわち分娩第1期〜第2期に起こる異常である(前期破水後など分娩開始前に起こることもある)。分娩第3期は児がすでに娩出され臍帯も胎盤とともに娩出される時期であり、臍帯が出てくるのは正常な経過にすぎない。対応は、先進部を用手的に押し上げて臍帯の圧迫を防ぎつつ、帝王切開などで速やかに児を娩出させることである。
- ×e. 常位胎盤早期剝離 ―― 分娩第3期
常位胎盤早期剝離は、正常な位置(子宮体部)に付着している胎盤が、胎児娩出前に子宮壁から剝離してしまう病態である。妊娠中(妊娠20週以降、多くは妊娠後期)や分娩第1期〜第2期に起こる。分娩第3期は胎児娩出後に胎盤が剝離して娩出される時期であり、この時期の胎盤剝離は正常な生理的現象であるため、早期剝離とはいわない。妊娠高血圧症候群が重要な危険因子で、腹痛、性器出血、板状硬の子宮、胎児機能不全、播種性血管内凝固(DIC)などを呈する。胎児が生存していれば、多くは帝王切開による急速遂娩が行われる。
分娩各期の所要時間の目安
・分娩第1期:初産婦10〜12時間、経産婦4〜6時間 ・分娩第2期:初産婦1〜2時間、経産婦30分〜1時間 ・分娩第3期:初産婦15〜30分、経産婦10〜20分 分娩所要時間(第1〜3期の合計)が初産婦で30時間、経産婦で15時間を超えるものを遷延分娩という。
周産期異常と主な発症時期の整理
・妊娠中〜分娩第1・2期:常位胎盤早期剝離、前置胎盤からの出血 ・分娩第1・2期:微弱陣痛、過強陣痛、回旋異常、児頭骨盤不均衡による分娩停止、臍帯脱出(破水後)、子宮破裂 ・分娩第2期:肩甲難産、会陰裂傷・頸管裂傷(裂傷からの出血は児娩出後に明らかになる) ・分娩第3期以降:弛緩出血、癒着胎盤、子宮内反症、胎盤遺残
産後出血の主な原因(4つのT)
Tone(子宮収縮不良=弛緩出血)、Trauma(産道裂傷、子宮破裂、子宮内反)、Tissue(胎盤・卵膜の遺残、癒着胎盤)、Thrombin(凝固障害、DIC)。このうち最も多いのは弛緩出血である。
POINT
・分娩第1期は子宮口全開大まで、第2期は胎児娩出まで、第3期は胎盤娩出までである。 ・微弱陣痛は第1〜2期、肩甲難産は第2期(児頭娩出後)の異常である。 ・弛緩出血は胎盤娩出後(第3期以降)に起こる。 ・臍帯脱出と常位胎盤早期剝離は胎児娩出前の異常であり、第3期には起こらない。 ・肩甲難産の対応はMcRoberts法や恥骨上部圧迫法であり、帝王切開への切り替えは通常困難である。
