StudyMed医師国家試験

痛い肩から袖を通す―「着患脱健」とTシャツを着る正しい順番

第105回医師国家試験 D問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第105回 D問題 第11問

肩関節周囲炎のため右肩に疼痛と運動制限とがある患者にTシャツの着衣指導を行う場合,シャツに通す順番で適切なのはどれか。

  1. a.左上肢 → 右上肢 →  頭
  2. b.左上肢 →  頭  → 右上肢
  3. c.右上肢 → 左上肢 →  頭
  4. d.右上肢 →  頭  → 左上肢
  5. e.頭  → 右上肢 → 左上肢

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肩関節周囲炎で右肩が痛くて動かしにくい患者さんに、Tシャツの着方を指導する問題だ。考えるべきは「どの順番なら右肩を一番動かさずに済むか」。更衣動作の大原則を知っていれば、あとはシャツがどう動くかを具体的にイメージするだけだよ。
医学生医学生
直感的には、痛い右腕はあとに回して、動く左腕から先に通したくなります。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるんだ。でも原則は逆で、「着患脱健(ちゃっかんだっけん)」という。着るときは患側から、脱ぐときは健側から。脳卒中後の片麻痺でも骨折後でも共通する考え方だ。
医学生医学生
リハビリテーション医学の講義で聞いた気がします。でも、なぜ患側からなんでしょう。
ドクタードクター
最初に通す袖のことを考えてみよう。まだシャツ全体がゆるく自由に動くから、腕は下げたままで、袖のほうを腕に沿わせて肩まで引き上げられる。逆に、すでに体の一部がシャツに入っていると、シャツの位置が決まってしまい、残りの袖に腕を入れるには腕を挙げたり後ろへ回したりする大きな動きが必要になるんだ。
医学生医学生
なるほど、腕を袖に入れるんじゃなくて、袖を腕にかぶせるイメージですね。だから動かしにくい右腕が最初なんだ。
ドクタードクター
その通り。では2番目は頭と左腕のどちらがいいと思う?
医学生医学生
右袖を通したら、次に左袖も通してしまって、最後に頭をかぶるのが自然な気がします。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。両袖が入った状態で頭を通そうとすると、裾側を両手で頭の上まで持ち上げなければならない。つまり両肩を同時に挙上することになって、痛い右肩も挙げざるを得ないんだ。
医学生医学生
確かに、自分でやってみると両腕をバンザイしますね。では頭が2番目ということですか。
ドクタードクター
そう。右腕を通したら、頭を前にかがめ、健側の左手で襟ぐりを広げて頭にかぶせる。これなら右肩を挙げる必要はない。最後に可動域に問題のない左腕を通せばいい。左肩は大きく動かしても支障がないからね。だから正解は右上肢、頭、左上肢の順だ。
医学生医学生
左腕から始める手順はどれも原則に反するとして、左腕、頭、右腕の順はどうでしょう。
ドクタードクター
これは最も不利な手順の一つだ。左腕と頭が先に入るとシャツはほぼ体に固定されるから、最後に右腕を袖に入れるには、右腕を挙げたり外に開いたり後ろに回したりして袖口を探ることになる。痛い肩を一番大きく動かしてしまうんだ。左腕、右腕、頭の順も、右袖に入れるときに腕を後方へ回すうえ、最後の頭で両肩の挙上が必要になる。
医学生医学生
頭から先にかぶる方法も、シャツを頭上に持ち上げる時点で両肩を挙げますよね。
ドクタードクター
そうだね。しかも頭が入った後に袖へ腕を差し込むには、腕を上や横に持ち上げる必要がある。脱ぐときは逆で、健側の手で襟の後ろをつかんで頭を抜き、次に左腕、最後に右腕を抜くのが一般的だ。
医学生医学生
肩関節周囲炎そのものについても確認させてください。いわゆる五十肩ですよね。整形外科の実習では、結髪や結帯の動作ができないと訴える患者さんが多かったです。
ドクタードクター
よく観察していたね。中高年に多く、明らかな外傷なく肩の痛みと可動域制限が出る病態の総称で、関節包や腱板、滑液包などの炎症や癒着が主体だ。挙上・外転・外旋・内旋が制限されやすく、夜間痛もよくみられる。経過は痛みの強い炎症期、拘縮が目立つ拘縮期、可動域が戻ってくる回復期と進み、多くは1〜2年ほどで軽快する。
医学生医学生
治療は時期によって変わるんですね。
ドクタードクター
急性期は安静や鎮痛薬、ステロイドの関節内注射で痛みを抑え、拘縮期以降は振り子運動などの運動療法が中心になる。生活指導も大事で、伸縮性があって襟ぐりや袖ぐりの大きい服、前開きや面ファスナーの服を勧めると更衣がぐっと楽になる。前開きの服でも、患側の袖を先に通して肩まで上げ、背中側を回して健側の袖を通すという点は同じだ。
医学生医学生
OSCEの医療面接で「生活で困っていること」を聞くのは、こういう具体的な指導につなげるためでもあるんですね。
ドクタードクター
まさにそう。診断や治療だけでなく、日常生活動作を一緒に考える視点は、どの診療科に進んでも役に立つよ。

まとめ

片側上肢に疼痛や運動制限がある患者の更衣動作は「着患脱健」、すなわち着るときは患側から、脱ぐときは健側からが原則です。かぶり型のTシャツでは、シャツが自由に動く最初の段階で患側の袖を通し、次に健側の手で襟ぐりを広げて頭を通し、最後に健側上肢を通すことで患側の肩をほとんど動かさずに済みます。両袖を先に通して最後に頭をかぶる方法は両肩の挙上が必要となり、健側から先に通すと患側を大きく動かして袖口を探ることになるため不適切です。肩関節周囲炎は挙上・外転・回旋制限と夜間痛を特徴とし、炎症期・拘縮期・回復期の経過に応じた治療とともに、こうした具体的なADL指導が患者の生活の質を支えます。

解答・解説

正解はdです

問われていること

右肩に疼痛と可動域制限(特に挙上・外転・外旋の制限)がある患者が、かぶり型の上衣であるTシャツを着るとき、右肩の動きを最小限にできる手順を選ぶ問題である。

考え方

着脱衣動作の指導には「着患脱健(ちゃっかんだっけん)」という大原則がある。着るときは患側(障害のある側)から、脱ぐときは健側(障害のない側)から行う、というものである。 着衣の際、最初に通す袖は、まだシャツ全体がゆるく自由に動かせるため、腕をほとんど持ち上げずに袖の方を腕に沿わせて引き上げることができる。一方、後から通す袖や頭は、すでに身体の一部がシャツに入っている状態で、残りの部分を所定の位置へ持っていかなければならないため、腕を挙げたり後方へ回したりする大きな動きが必要になる。したがって、動かしにくい右上肢を最初に袖へ通すのが合理的である。 次に頭を通す。右腕が袖に入った状態でも、頭をかがめ、健側の左手でシャツの襟ぐりを広げて頭にかぶせれば、右肩を挙上せずに済む。最後に可動域に問題のない左上肢を通せば、左肩を大きく動かしても支障はない。 よって「右上肢 → 頭 → 左上肢」の順が最も右肩への負担が少ない。

ポイントとなる落とし穴

頭を2番目に入れるか3番目に入れるかでも患側の負担は変わる。両袖を先に通してから頭をかぶる方法(両上肢 → 頭)は、頭を通す際にシャツの裾側を両手で持ち上げることになり、両肩を同時に挙上する必要があるため、患側に不利である。

選択肢考察

  1. ×a.  左上肢 → 右上肢 →  頭

    健側の左上肢から通しているため「着患脱健」の原則に反する。左袖が先に入るとシャツの位置が固定され、右袖に腕を入れるには右上肢を後方・側方へ回す動きが必要になる。さらに両袖が入った状態で最後に頭を通すと、襟ぐりを頭上まで持ち上げるために両肩を挙上しなければならず、右肩に大きな負担がかかる。

  2. ×b.  左上肢 →  頭  → 右上肢

    健側から通しているため原則に反する。左上肢と頭が先にシャツに入ると、シャツはほぼ身体に固定された状態になる。その状態で最後に右袖へ腕を入れるには、右上肢を挙上したり外転・後方へ回したりして袖口を探る必要があり、疼痛のある右肩を最も大きく動かすことになる。

  3. ×c.  右上肢 → 左上肢 →  頭

    患側の右上肢から通している点は正しい。しかし次に左上肢を通して両袖が入った状態になると、最後に頭をくぐらせる際に両手でシャツを頭上まで持ち上げる必要があり、右肩の挙上を避けられない。頭を2番目に入れる手順の方が患側の負担は少ない。

  4. ○d.  右上肢 →  頭  → 左上肢

    最も適切な手順である。シャツが自由に動かせる最初の段階で、右上肢を下垂したままシャツの袖を腕にかぶせて肩付近まで引き上げれば、右肩をほとんど動かさずに袖を通せる。次に、頭部を前屈させ、健側の左手で襟ぐりを広げて頭にかぶせれば、右肩の挙上は不要である。最後に可動域制限のない左上肢を通すので、左肩の大きな動きは問題にならない。「着患脱健」の原則に合致する。

  5. ×e.  頭  → 右上肢 → 左上肢

    最初に頭を通すと、シャツを頭上に持ち上げるために両肩の挙上が必要になる。さらに頭が入った状態で袖に腕を通すには、腕を上方・側方へ持ち上げて袖口に差し込む動作が求められるため、右肩に負担がかかる。患側から着るという原則にも合わない。

肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)

中高年に多く、明らかな外傷や原因なく肩の痛みと可動域制限が生じる病態の総称である。関節包や腱板・滑液包など肩関節周囲の軟部組織の炎症や癒着(拘縮)が主体で、進行すると関節包が硬くなる「凍結肩」の状態を呈する。経過は、痛みの強い炎症期(疼痛期)、痛みが和らぐ一方で拘縮が目立つ拘縮期(凍結期)、可動域が徐々に戻る回復期(解凍期)に分けられ、多くは1〜2年程度で自然軽快する。挙上・外転・外旋・内旋(結髪動作、結帯動作)が制限されやすく、夜間痛もよくみられる。治療は、急性期の安静・鎮痛薬・ステロイド関節内注射、拘縮期以降の運動療法(振り子運動〔Codman体操〕など)が中心となる。

ADL(日常生活動作)指導としての更衣動作

・着患脱健:着るときは患側から、脱ぐときは健側から。脳卒中後の片麻痺、骨折後、肩関節疾患など、片側上肢の運動が制限される病態に共通する原則である。 ・かぶり型の上衣(Tシャツ等)の着衣:患側上肢 → 頭 → 健側上肢。 ・かぶり型の上衣の脱衣:頭(または健側上肢)を先に抜き、最後に患側上肢を抜く。一般には、健側の手で襟の後ろをつかんで頭を抜き、次に健側上肢、最後に患側上肢を抜く方法がとられる。 ・前開き型の上衣(シャツ等)の着衣:患側の袖を先に通して肩まで引き上げ、背中側を回して健側の袖を通す。脱衣は健側から袖を抜き、最後に患側を抜く。 ・ズボン:座位で患側下肢から通すのが原則である。 ・衣服の工夫:伸縮性があり、袖ぐり・襟ぐりの大きいゆったりした服、前開き・面ファスナーなどを選ぶと動作が楽になる。

POINT

・更衣動作の原則は「着患脱健」(着るときは患側から、脱ぐときは健側から)。 ・かぶり型上衣の着衣は「患側上肢 → 頭 → 健側上肢」の順。 ・最初に通す部分はシャツが自由に動くため、患側の関節をほとんど動かさずに済む。 ・両袖を先に通してから頭をかぶる方法は、頭を通す際に両肩の挙上が必要となり患側に不利である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。