出口が狭いのに漏れる?―前立腺肥大症の症状を「3つの時期」で整理する
第105回医師国家試験 D問題 第10問
国試問題にチャレンジ
前立腺肥大症でみられないのはどれか。
- a.残尿感
- b.夜間頻尿
- c.尿線途絶
- d.排尿後尿滴下
- e.腹圧性尿失禁
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
前立腺肥大症の下部尿路症状は、蓄尿症状(夜間頻尿・尿意切迫感など)、排尿症状(尿線途絶・尿勢低下・腹圧排尿など)、排尿後症状(残尿感・排尿後尿滴下)の3群に整理すると理解しやすく、膀胱出口部閉塞とそれに伴う排尿筋の過敏化によりいずれも出現しえます。一方、腹圧性尿失禁は骨盤底筋群の脆弱化や尿道括約筋不全で尿道閉鎖力が低下する病態で、経産婦や閉経後女性に多く、出口が狭くなる前立腺肥大症とは機序が正反対です。前立腺肥大症に伴いうる尿失禁は切迫性尿失禁と溢流性尿失禁であり、特に溢流性では残尿測定が欠かせません。症状を時期と機序で分類する視点は、IPSSによる重症度評価や治療選択、尿失禁の病型鑑別にもそのまま役立ちます。
解答・解説
正解はeです
前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia:BPH)で出現する下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)を問う問題である。 前立腺は膀胱の出口で尿道(前立腺部尿道)を取り囲む臓器であり、主に尿道周囲の移行領域が加齢とともに腫大する。その結果、①尿道が圧迫されて尿が出にくくなる(膀胱出口部閉塞)、②閉塞に抗って排尿を続けるうちに膀胱の排尿筋が過敏になり、尿をためる段階でも症状が出る、という2つの仕組みで症状が生じる。 下部尿路症状は、国際禁制学会(International Continence Society:ICS)の分類に従い、次の3群に整理すると理解しやすい。 ・蓄尿症状(尿をためる時期の症状):昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁 ・排尿症状(尿を出す時期の症状):尿勢低下、尿線分割・散乱、尿線途絶、排尿遅延(出始めるまでに時間がかかる)、腹圧排尿、終末滴下 ・排尿後症状(排尿直後の症状):残尿感、排尿後尿滴下 前立腺肥大症では、これら3群のいずれの症状も出現しうる。一方、「腹圧性尿失禁」は咳・くしゃみ・重い物を持つなどで腹圧が上がった瞬間に尿が漏れる病態で、尿道を閉じる力(尿道括約筋や骨盤底筋群による支持)が弱まることで生じる。前立腺肥大症はむしろ出口が狭くなる病態なので、尿道閉鎖力が低下する腹圧性尿失禁とは方向が正反対である。したがって、前立腺肥大症でみられないものとして腹圧性尿失禁を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 残尿感
排尿を終えても膀胱に尿が残っているように感じる症状で、ICS分類では排尿後症状に入る。前立腺肥大症では膀胱出口部閉塞により膀胱を空にしきれず、実際に残尿が生じることも多い。残尿量は排尿直後の経腹的超音波検査(またはカテーテル導尿)で測定でき、重症度評価や治療方針の判断に用いられる。前立腺肥大症でみられる症状である。
- ×b. 夜間頻尿
夜間に排尿のために1回以上起きなければならない症状で、蓄尿症状に分類される。前立腺肥大症では、閉塞に伴う排尿筋過活動(膀胱が勝手に収縮しやすくなる状態)や残尿による機能的膀胱容量の減少によって生じ、患者が最初に自覚する症状として多い。ただし夜間頻尿は、夜間多尿(心不全、高血圧、飲水過多など)や睡眠障害、腎機能障害など前立腺以外の原因でも起こるため、排尿日誌で尿量を確認して原因を鑑別することが大切である。前立腺肥大症でみられる症状である。
- ×c. 尿線途絶
排尿している途中で尿の流れが1回以上途切れる症状で、排尿症状に分類される。腫大した前立腺によって前立腺部尿道が狭くなり、尿を押し出す抵抗が大きくなるために起こる。尿勢低下や排尿遅延、腹圧排尿と並ぶ典型的な閉塞症状であり、前立腺肥大症でみられる。
- ×d. 排尿後尿滴下
排尿が終わって下着を戻した後などに、尿がポタポタと漏れ出てくる症状で、排尿後症状に分類される。排尿後に尿道(特に球部尿道)に残った尿が遅れて流れ出ることが主な機序と考えられている。前立腺肥大症のある高齢男性でよくみられる症状である。
- ○e. 腹圧性尿失禁
咳、くしゃみ、運動などで腹圧が急に上がった際に、尿意とは無関係に尿が漏れる状態である。原因は骨盤底筋群の脆弱化による尿道の過可動や、尿道括約筋の機能不全であり、出産経験のある女性、閉経後・高齢の女性、肥満者に多い。前立腺肥大症は尿道の抵抗が増す病態であり、腹圧性尿失禁の原因にはならない。なお男性では、前立腺全摘除術などで尿道括約筋が損傷された後に腹圧性尿失禁が起こることがあるが、これは手術の合併症であって前立腺肥大症そのものの症状ではない。よって、これが前立腺肥大症でみられない症状であり、正解となる。
前立腺肥大症の概要
加齢と男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)の作用を背景に、前立腺の移行領域が良性に過形成する疾患である。前立腺癌が主に辺縁領域から発生するのと対照的である。症状は「前立腺の腫大」「膀胱出口部閉塞」「下部尿路症状」の3要素の組み合わせで捉えられ、前立腺の大きさと症状の強さは必ずしも比例しない。
評価法
・国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score:IPSS):残尿感、頻尿、尿線途絶、尿意切迫感、尿勢低下、腹圧排尿、夜間頻尿の7項目を各0〜5点で採点し、合計0〜35点で評価する。0〜7点が軽症、8〜19点が中等症、20〜35点が重症である。これにQOLスコアを組み合わせて用いる。 ・直腸診:弾性硬で表面平滑、左右対称に腫大した前立腺を触れる(石様硬・不整な結節は癌を疑う)。 ・経腹的超音波検査:前立腺体積と残尿量の測定。 ・尿流測定:最大尿流率の低下を確認する。 ・PSA(前立腺特異抗原):前立腺癌との鑑別に用いる。
尿失禁の病型との関係
・腹圧性尿失禁:尿道閉鎖機能の低下。女性に多く、前立腺肥大症とは無関係。 ・切迫性尿失禁:強い尿意切迫感に続いて漏れる。前立腺肥大症に伴う過活動膀胱で起こりうる。 ・溢流性尿失禁:多量の残尿で膀胱が過伸展し、あふれ出るように漏れる。高度の前立腺肥大症で起こりうる。 ・機能性尿失禁:認知機能や運動機能の低下によりトイレでの排尿が間に合わない。
治療の概略
薬物療法ではα1遮断薬、PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬、5α還元酵素阻害薬などを用い、効果不十分例や尿閉を繰り返す例では経尿道的前立腺切除術(TURP)やレーザー核出術などの手術を検討する。
POINT
・前立腺肥大症の下部尿路症状は、蓄尿症状(頻尿・夜間頻尿・尿意切迫感)、排尿症状(尿勢低下・尿線途絶・排尿遅延・腹圧排尿)、排尿後症状(残尿感・排尿後尿滴下)の3群に整理する。 ・前立腺肥大症に伴いうる尿失禁は切迫性尿失禁と溢流性尿失禁であり、腹圧性尿失禁は伴わない。 ・腹圧性尿失禁は骨盤底筋群の脆弱化による女性(経産婦・高齢者)の代表的な尿失禁である。 ・重症度評価にはIPSS(7項目、0〜35点)を用いる。
