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溶血なのに鉄が足りない?―発作性夜間ヘモグロビン尿症と尿に消える鉄

第105回医師国家試験 D問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第105回 D問題 第9問

発作性夜間ヘモグロビン尿症でみられるのはどれか。

  1. a.血清銅低下
  2. b.環状鉄芽球増加
  3. c.ビタミンB12低下
  4. d.血清フェリチン低下
  5. e.赤血球浸透圧抵抗性減弱

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は発作性夜間ヘモグロビン尿症、PNHで見られる検査所見を問う問題だ。ポイントは「どこで赤血球が壊れるか」。血管の中で壊れるのか、脾臓などで壊れるのかで、検査所見がかなり変わってくるんだ。
医学生医学生
PNHは溶血性貧血ですよね。溶血なら鉄はむしろ余るイメージがあって、どれを選べばいいのか迷います。
ドクタードクター
その直感が、この問題の落とし穴なんだ。まず病態から整理しよう。PNHは造血幹細胞に後天的にPIGA遺伝子の変異が起こる病気だ。PIGAは、蛋白質を細胞膜につなぎとめるGPIアンカーの合成に必要な遺伝子なんだよ。
医学生医学生
GPIアンカーが作れないと、膜にくっついているはずの蛋白がなくなるということですか。
ドクタードクター
そう。なかでも大事なのが補体制御因子のCD55とCD59だ。これらを失った赤血球は自分の補体から身を守れず、膜侵襲複合体によって血管の中で壊されてしまう。これが補体介在性の血管内溶血だね。
医学生医学生
免疫学の講義で習った膜侵襲複合体が、こんなところで出てくるんですね。
ドクタードクター
血管内で赤血球が壊れると、出てきたヘモグロビンはまずハプトグロビンに結合して処理される。でも処理しきれないと腎臓でろ過されて、ヘモグロビン尿になる。さらに尿細管上皮に取り込まれた鉄はヘモジデリンとしてたまり、上皮が剥がれるとヘモジデリン尿として出ていく。
医学生医学生
あ、つまり鉄が尿から捨てられ続けるんですね。だから貯蔵鉄が減って、血清フェリチンが下がる。
ドクタードクター
その通り、正解は血清フェリチン低下だ。溶血性貧血なのに鉄欠乏を合併しうる、というのがPNHの大きな特徴なんだ。逆に遺伝性球状赤血球症のような血管外溶血では、壊れた赤血球の鉄は脾臓などのマクロファージで回収・再利用されるから鉄は失われず、輸血を重ねるとむしろ鉄過剰になりやすい。
医学生医学生
では赤血球浸透圧抵抗性の減弱は、まさにその遺伝性球状赤血球症の所見ですね。小児科の実習で検査結果を見せてもらいました。
ドクタードクター
よく結びつけたね。球状赤血球は体積の割に表面積が小さいから、低張液ですぐ膨らんで壊れる。PNHの赤血球は形が正常で、膜がもろいわけではない。壊れる原因はあくまで補体だから、浸透圧抵抗性は変わらないんだ。
医学生医学生
環状鉄芽球の増加は、骨髄の鉄染色で核の周りを青い顆粒が囲む像でしたよね。PNHも骨髄不全と関係があるので、ちょっと引っかかりました。
ドクタードクター
確かにPNHは再生不良性貧血や骨髄異形成症候群と関連が深いから、迷う気持ちはわかる。でも環状鉄芽球はミトコンドリアに鉄がたまったもので、ヘム合成の障害を反映している。遺伝性鉄芽球性貧血、環状鉄芽球を伴うMDS、アルコール、鉛中毒などで見られる所見で、PNHそのものの特徴ではないよ。
医学生医学生
ビタミンB12低下は巨赤芽球性貧血で、悪性貧血や胃切除後でした。PNHとは関係なさそうです。
ドクタードクター
そうだね。ただ、溶血が続くと赤血球を盛んに作るぶん葉酸の消費が増えるから、葉酸欠乏を合併することはある。B12と葉酸を混同しないようにね。血清銅の低下はWilson病や長期の中心静脈栄養などでの銅欠乏で見られるもので、PNHの所見ではない。
医学生医学生
整理すると、血管内溶血で鉄が尿に失われるからフェリチンが下がる、ということですね。PNHのほかの検査所見も知っておきたいです。
ドクタードクター
溶血の所見としてLDH著増、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下があり、抗体による溶血ではないので直接Coombs試験は陰性だ。NAPもGPIアンカー型の酵素だから、NAPスコアは低下する。確定診断はフローサイトメトリーでCD55・CD59が欠損した血球を検出することだ。
医学生医学生
臨床で特に気をつけることは何でしょうか。
ドクタードクター
まず血栓症。Budd-Chiari症候群のような肝静脈や腹部静脈、脳静脈など、普通は起こりにくい部位の静脈血栓が多く、主要な死因になる。治療の中心は抗C5抗体などの補体阻害薬で、使用中は髄膜炎菌感染症のリスクが高まるからワクチン接種が必要だ。それから鉄欠乏に鉄剤を補うと造血が刺激され、補体に弱い赤血球も一斉に増えて溶血が強まることがあるので慎重に行う。
医学生医学生
鉄が足りないから補えば終わり、ではないんですね。病態を理解していないと危ないと実感しました。

まとめ

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、造血幹細胞のPIGA遺伝子変異でGPIアンカー型の補体制御因子CD55・CD59が欠損し、補体による血管内溶血を起こす疾患です。ヘモグロビン尿・ヘモジデリン尿として鉄が持続的に失われるため、溶血性貧血でありながら血清フェリチンが低下し、鉄欠乏を合併しうるのが特徴です。浸透圧抵抗性減弱は遺伝性球状赤血球症、環状鉄芽球は鉄芽球性貧血やMDS、ビタミンB12低下は巨赤芽球性貧血、血清銅低下は銅欠乏の所見であり、PNHとは病態が異なります。PNHではCoombs試験陰性、NAPスコア低下、フローサイトメトリーでのCD55・CD59欠損血球の検出も重要で、非典型部位の静脈血栓症や骨髄不全の合併に注意が必要です。血管内溶血と血管外溶血の違いを鉄の行方から理解することは、溶血性貧血全般の検査所見を読み解く土台になります。

解答・解説

正解はdです

発作性夜間ヘモグロビン尿症〈paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH〉は、造血幹細胞に後天的に生じたPIGA遺伝子(X染色体上)の変異によって起こる溶血性貧血である。PIGA遺伝子は、細胞膜に蛋白質をつなぎとめる糖脂質「GPI〈glycosylphosphatidylinositol〉アンカー」の合成に必要である。この変異をもつ幹細胞に由来する血球(PNH型血球)では、GPIアンカー型の補体制御因子であるCD55(崩壊促進因子〈DAF〉)とCD59(膜侵襲複合体の形成を阻止する因子)が細胞表面から欠損する。その結果、赤血球は自己の補体から身を守れなくなり、補体の膜侵襲複合体によって血管内で壊される(補体介在性の血管内溶血)。 血管内で赤血球が壊れると、遊離したヘモグロビンはまずハプトグロビンと結合して処理されるが、処理能力を超えると腎糸球体でろ過され、ヘモグロビン尿(コーラ色〜赤褐色の尿)として排泄される。尿細管上皮に再吸収されたヘモグロビンの鉄はヘモジデリンとして蓄積し、その上皮が剥がれ落ちることで尿中にヘモジデリンが出る(ヘモジデリン尿)。このように鉄が尿中に持続的に失われるため、貯蔵鉄が減少し、血清フェリチン(体内の貯蔵鉄量を反映する指標)が低下して鉄欠乏状態となる。 つまりPNHは溶血性貧血でありながら、鉄欠乏を合併しうる点が特徴である。赤血球の中で鉄が過剰になる疾患(鉄芽球性貧血)、ビタミン欠乏症、赤血球膜の形態異常による疾患(遺伝性球状赤血球症)とは病態が異なる。これを押さえておけば正解を導ける。

選択肢考察

  1. ×a.  血清銅低下

    PNHで血清銅が特徴的に変化することはない。血清銅の低下は、Wilson病(血清セルロプラスミン低値に伴う)、Menkes病、長期の中心静脈栄養や胃切除後などによる銅欠乏症でみられる。銅欠乏は貧血や好中球減少、骨髄での環状鉄芽球の出現を起こしうるが、PNHの所見ではない。

  2. ×b.  環状鉄芽球増加

    環状鉄芽球とは、ミトコンドリア内に鉄が過剰に沈着した赤芽球で、鉄染色で核の周囲を環状に取り囲む青色の顆粒として見える。ヘム合成の障害を反映しており、遺伝性鉄芽球性貧血(ALAS2遺伝子異常など)、環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群〈MDS〉、アルコール、イソニアジド、鉛中毒、銅欠乏などでみられる。PNHは膜の補体制御因子の欠損による溶血が本態であり、環状鉄芽球の増加はみられない。

  3. ×c.  ビタミンB12低下

    ビタミンB12の低下はDNA合成障害を介して巨赤芽球性貧血(大球性貧血)を起こし、悪性貧血(内因子に対する自己免疫)や胃切除後などでみられる。PNHではビタミンB12の低下は特徴的ではない。なお、溶血が続くと赤血球産生が亢進して葉酸の消費が増えるため、葉酸欠乏を合併することはある。

  4. ○d.  血清フェリチン低下

    PNHでは慢性的な血管内溶血によりヘモグロビン尿・ヘモジデリン尿が持続し、ヘモグロビンに含まれる鉄が尿中へ失われ続ける。このため貯蔵鉄が枯渇し、血清フェリチンが低下する。血管外溶血が主体の溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症など)では、壊れた赤血球の鉄が脾臓などのマクロファージで回収・再利用されるため鉄は失われず、むしろ輸血などで鉄過剰になりやすい。この違いが、血管内溶血を主体とするPNHの特徴である。

  5. ×e.  赤血球浸透圧抵抗性減弱

    赤血球浸透圧抵抗試験は、濃度の異なる低張食塩水の中で赤血球がどの程度溶血するかを調べる検査である。浸透圧抵抗性の減弱(通常より薄くない低張液でも溶血しやすい)は、表面積に比べて体積の比率が大きい球状赤血球でみられ、遺伝性球状赤血球症に特徴的である。PNHの赤血球は形態が正常で、浸透圧抵抗性は変化しない。PNHの溶血は膜の脆弱性ではなく補体の作用によるものである。なお、鉄欠乏性貧血やサラセミアなどの菲薄赤血球では逆に抵抗性が増大する。

PNHの臨床像

・古典的には、睡眠中の呼吸がやや抑制されて血液が酸性に傾くことで補体が活性化されやすく、早朝尿がコーラ色になる(病名の由来)。ただし実際に夜間のヘモグロビン尿を自覚する患者は一部である。 ・三大徴候:①補体介在性の血管内溶血、②血栓症(Budd-Chiari症候群などの肝静脈、腹部静脈、脳静脈など非典型的な部位の静脈血栓が多く、主要な死因となる)、③骨髄不全(再生不良性貧血や骨髄異形成症候群〈MDS〉と合併・移行しやすい)。 ・溶血発作は感染、手術、輸血、妊娠などを契機に悪化する。 ・遊離ヘモグロビンが一酸化窒素〈NO〉を消費するため、嚥下困難、腹痛、勃起障害、肺高血圧などの平滑筋の攣縮に伴う症状も起こる。

PNHの検査所見

・血液:貧血、網赤血球増加、LDH著増、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下(血管内溶血) ・汎血球減少を伴うことがある(骨髄不全の合併) ・直接Coombs試験は陰性(抗体による溶血ではない) ・尿:ヘモグロビン尿、ヘモジデリン尿 ・鉄代謝:血清鉄低下、血清フェリチン低下 ・好中球アルカリホスファターゼ〈NAP〉スコア低下(NAPもGPIアンカー型の酵素であるため) ・確定診断:フローサイトメトリーで赤血球・顆粒球のCD55・CD59欠損血球(PNH型血球)を検出する。かつてはHam試験(酸性化血清溶血試験)や砂糖水試験が用いられた。

治療

・補体阻害薬:抗C5モノクローナル抗体(エクリズマブ、ラブリズマブ)が溶血と血栓症を抑える標準治療である。近年はC3阻害薬や補体第二経路(B因子・D因子)を阻害する経口薬も用いられる。抗C5抗体使用中は髄膜炎菌感染症のリスクが高まるため、髄膜炎菌ワクチンの接種が必要である。 ・根治療法:同種造血幹細胞移植 ・支持療法:輸血、葉酸補充、鉄欠乏に対する鉄補充。ただし鉄剤投与で造血が刺激されると補体感受性の高いPNH型赤血球も一斉に増え、溶血が強まることがあるため、慎重に行う。

参考:血管内溶血と血管外溶血

・血管内溶血(PNH、不適合輸血、赤血球の機械的破壊、G6PD欠乏症の溶血発作など):ヘモグロビン尿、ヘモジデリン尿、鉄喪失 ・血管外溶血(遺伝性球状赤血球症、温式自己免疫性溶血性貧血など):脾腫、ヘモグロビン尿はみられず、鉄は再利用される

POINT

・PNHはPIGA遺伝子変異によりGPIアンカー型蛋白(CD55、CD59)が欠損し、補体による血管内溶血を起こす ・ヘモグロビン尿・ヘモジデリン尿による鉄喪失で、血清フェリチンが低下する(溶血性貧血なのに鉄欠乏) ・NAPスコア低下、Coombs試験陰性、フローサイトメトリーでCD55・CD59欠損血球を検出する ・血栓症(Budd-Chiari症候群など)と骨髄不全(再生不良性貧血との関連)が重要な合併症 ・浸透圧抵抗性減弱は遺伝性球状赤血球症、環状鉄芽球は鉄芽球性貧血・MDSの所見

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。