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「権利」と「わがまま」の境界線―リスボン宣言から読み解く患者の権利

第105回医師国家試験 C問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第105回 C問題 第6問

「患者の権利」の行使として妥当なのはどれか。

  1. a.入院中に無断で外泊する。
  2. b.詳しい病状説明を求める。
  3. c.診療録を無断でコピーする。
  4. d.採血に失敗した医師を怒鳴る。
  5. e.診察の順番を無視して診察室に入る。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は「患者の権利」とは何か、そしてその正当な行使とはどういうものかを問う問題だ。一見常識で解けそうだけれど、背景にある国際的な原則と、権利には正当な手続きや他者への配慮という枠があることを押さえておくと、医療倫理の問題全般に強くなれる。まず、患者の権利の国際的な基準として有名な宣言は何だったかな。
医学生医学生
医療倫理の講義で習ったリスボン宣言です。ヘルシンキ宣言は臨床研究の倫理でしたよね。
ドクタードクター
正解。リスボン宣言は1981年に世界医師会が採択した「患者の権利に関する宣言」で、その後改訂されている。良質の医療を受ける権利、医師や医療機関を自由に選ぶ権利、自己決定の権利、情報に対する権利、秘密が守られる権利、尊厳に対する権利などが挙げられている。ヘルシンキ宣言は人を対象とする医学研究の倫理原則だから、区別して覚えておこう。
医学生医学生
それを踏まえると、詳しい病状説明を求めるのは「情報に対する権利」にあたりますね。
ドクタードクター
その通り。患者には自分の病状や検査結果、治療の選択肢とその利益や危険性を十分に知る権利がある。そしてこれはインフォームド・コンセント、つまり十分な説明を受けて理解したうえで自由意思で同意することの前提でもある。医療法でも、医療の担い手は適切な説明を行い理解を得るよう努めることとされているんだ。
医学生医学生
OSCEの医療面接で「何かご質問はありますか」と最後に確認するのも、患者さんの知る権利を保障するためなんですね。
ドクタードクター
いいつながりだね。では、ほかの選択肢を見ていこう。自分のカルテを見たいと思うこと自体は正当だと思う?
医学生医学生
はい、カルテ開示は請求できると聞いたことがあります。だから無断でコピーしても、中身を知る権利の範囲内かなと一瞬迷いました。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。個人情報保護法に基づき、患者は自分の診療録の開示を請求でき、医療機関は本人や第三者の生命・身体などを害するおそれがあるといった例外を除いて原則として開示に応じる。けれども、それは所定の手続きを経た請求によるものなんだ。診療録は医療機関が管理・保存義務を負う記録で、第三者の情報が含まれることもあるから、無断の閲覧や複写は認められない。
医学生医学生
求める内容が正当でも、やり方が正当でなければ権利の行使とはいえないということですね。無断外泊も同じ考え方でしょうか。
ドクタードクター
そう。外泊したい、退院したいという希望を主治医に伝えて話し合うのは正当だ。でも外泊は病状や治療計画を踏まえて主治医が許可するもので、無断で出てしまうと急変に対応できず、投薬や検査の予定も崩れる。患者自身の安全を損なう行動なんだ。
医学生医学生
採血に失敗した医師を怒鳴るのは、気持ちはわかりますけど……。病棟実習で自分が採血を失敗したときのことを思い出して、ちょっと胸が痛いです。
ドクタードクター
患者さんにとっては余計な痛みだから、不満を伝えたり別の医療者への交代を求めたりするのは理解できる。でも怒鳴るのは医療者を威圧する行為で、正当な権利の行使とはいえない。冷静に伝えるか、医療機関の相談窓口を利用するのが適切だ。逆に医療者側も、失敗したら誠実に謝って交代を申し出る姿勢が大切だね。
医学生医学生
順番を無視して診察室に入るのは、ほかの患者さんの権利を侵害していますね。でも救急では重症の人が先に診られますよね。
ドクタードクター
よく気づいたね。トリアージは医療者が医学的判断に基づいて優先順位を決めるもので、患者が自己判断で割り込むのとはまったく別物だ。待っている間に症状が悪化したら、受付や看護師に申し出てもらうのが正しい対応になる。
医学生医学生
権利は、ルールを守り、他の患者さんや医療者の権利を尊重することと両立して初めて成り立つ、ということですね。
ドクタードクター
まさにその通り。発展として、リスボン宣言には「知らされない権利」も含まれていることを覚えておこう。たとえば悪い知らせを詳しく聞きたくない患者さんもいるから、何をどこまで知りたいかを確かめながら説明する配慮が必要だ。また、医師や医療機関を選ぶ権利にはセカンドオピニオンを求める権利も含まれ、そのための診療情報提供を求めることもできる。
医学生医学生
セカンドオピニオンを希望された主治医が嫌な顔をするのは、権利を妨げることになりますね。
ドクタードクター
その通り。患者さんが納得して治療を選べるよう支えるのが医療者の役割だ。権利を尊重することは、結局は信頼関係を築き、よりよい医療につながるんだよ。

まとめ

患者の権利の代表的な国際基準は、1981年に世界医師会が採択したリスボン宣言であり、良質の医療を受ける権利、選択の自由、自己決定の権利、情報に対する権利、守秘や尊厳に対する権利などが含まれます。詳しい病状説明を求めることは「情報に対する権利」の正当な行使であり、インフォームド・コンセントの前提となります。一方、診療録の開示は所定の手続きによる請求が必要で無断の複写は認められず、無断外泊、順番の割り込み、医療者への威圧なども権利の行使とは区別されます。権利は病院のルールや他の患者・医療者の権利を尊重する枠の中で行使されるものであり、知らされない権利やセカンドオピニオンへの配慮も含めて理解しておくことが大切です。患者の権利を正しく理解することは、信頼関係に基づく医療を実践するための土台になります。

解答・解説

正解はbです

「患者の権利」とは、医療を受ける人が一人の人間として尊重されるために保障されるべき権利である。国際的な基準としては、世界医師会(WMA)が1981年に採択した「患者の権利に関するリスボン宣言」がよく知られている。そこには、良質の医療を受ける権利、医師や医療機関を自由に選ぶ権利、自己決定の権利、自分の情報を知る権利、秘密が守られる権利、尊厳を守られる権利などが挙げられている。 一方、医療は患者と医療者の信頼関係に基づく共同作業であり、病院には他の患者の安全や公平を守るためのルールがある。権利の行使とは、こうした正当な手続きや社会的な規範の範囲内で自分の利益を主張することであり、ルールを無視した身勝手な行動や、医療者への威圧は権利の行使にはあたらない。 この観点で選択肢をみると、自分の病状について詳しく説明してほしいと求めることは、「情報に対する権利(知る権利)」の正当な行使であり、インフォームド・コンセント(十分な説明を受けたうえで治療に同意すること)の前提でもある。それ以外の選択肢は、正規の手続きを経ない行為や他者の権利を侵害する行為である。

選択肢考察

  1. ×a.  入院中に無断で外泊する。

    入院中の外泊は、病状や治療計画をふまえて主治医が許可したうえで行うものである。無断での外泊は、容体の急変に対応できない、投薬や検査の予定が崩れるなど患者本人の安全を損ない、病院の管理体制にも反する。退院や外泊を希望すること自体は正当だが、それは主治医に申し出て話し合うべきことであり、無断の行動は権利の行使とはいえない。

  2. ○b.  詳しい病状説明を求める。

    患者には、自分の病状、検査結果、治療の選択肢とその利益・危険性などについて十分な情報を得る権利がある(リスボン宣言の「情報に対する権利」)。説明を受けることは、患者が自分の治療について自己決定を行うための前提であり、医師には分かりやすく説明する義務がある(医療法でも、医療の担い手は適切な説明を行い理解を得るよう努めることとされている)。したがって、詳しい病状説明を求めることは患者の権利の正当な行使である。

  3. ×c.  診療録を無断でコピーする。

    患者は、個人情報保護法などに基づき、自分の診療録(カルテ)の開示を医療機関に請求することができる。医療機関は、本人の心身に重大な悪影響を及ぼすおそれがある場合などの例外を除き、原則として開示に応じる。しかし、それはあくまで所定の手続きを経た請求によるものであり、診療録を無断で閲覧・複写することは認められない。診療録は医療機関が管理・保存義務を負う記録であり、第三者の情報が含まれることもある。

  4. ×d.  採血に失敗した医師を怒鳴る。

    採血の失敗は患者に余計な苦痛を与えるため、不満を伝えたり、別の医療者に交代を求めたりすることは理解できる。しかし、怒鳴る行為は医療者を威圧するもので、正当な権利の行使とはいえない。苦情や要望がある場合は、冷静に伝えるか、医療機関の相談窓口などを利用するのが適切である。

  5. ×e.  診察の順番を無視して診察室に入る。

    順番を無視して割り込むことは、順番を待っている他の患者の、公平に医療を受ける権利を侵害する行為であり、患者の権利の行使ではない。なお、緊急性の高い患者が優先されること(トリアージ)は医療者が医学的判断に基づいて行うものであり、患者が自己判断で順番を無視することとは異なる。症状が急に悪化した場合などは、受付や看護師に申し出るのが適切な対応である。

リスボン宣言(患者の権利に関するWMAリスボン宣言)

1981年に世界医師会で採択され、その後改訂されている。主な原則は以下の通りである。 ・良質の医療を受ける権利 ・選択の自由の権利(医師や医療機関を選び、変更する権利、セカンドオピニオンを求める権利を含む) ・自己決定の権利(検査や治療に同意する、または拒否する権利) ・意識のない患者、法的無能力の患者に関する規定(代理人による同意など) ・患者の意思に反する処置は、法律で認められる場合や医の倫理に合致する例外的な場合に限られること ・情報に対する権利(自分の医療記録や病状について知る権利。一方で、知らされない権利も尊重される) ・守秘義務に対する権利(個人の健康情報の秘密保持) ・健康教育を受ける権利 ・尊厳に対する権利(苦痛を和らげられ、尊厳を保って終末期を迎える権利を含む) ・宗教的支援に対する権利

関連する概念

インフォームド・コンセント:十分な説明を受け、理解したうえで、患者が自由意思で治療等に同意すること。 セカンドオピニオン:主治医以外の医師に意見を求めること。そのための診療情報の提供を求めることも患者の権利に含まれる。 診療情報の開示:個人情報保護法では、本人は自己の個人データの開示を請求でき、医療機関は本人や第三者の生命・身体・財産その他の権利利益を害するおそれがある場合などを除き、開示しなければならない。

権利と責任

患者の権利は、医療の場の規則を守り、他の患者や医療者の権利を尊重することと両立する。医療者への暴言・暴力、ルール違反の要求は権利の行使とは区別される。

POINT

・患者の権利の代表的な国際基準は「リスボン宣言」(世界医師会、1981年)。 ・病状について十分な説明を求めることは「情報に対する権利」の正当な行使であり、インフォームド・コンセントの前提となる。 ・診療録の開示は請求できるが、所定の手続きが必要で、無断の閲覧・複写は認められない。 ・無断外泊、割り込み、医療者への威圧などは権利の行使ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。