「ぱぴぷぺぽ」が言えない―音から逆算する構音障害と脳神経
第105回医師国家試験 C問題 第7問
国試問題にチャレンジ
障害を受けると「ぱぴぷぺぽ」が発音しにくくなる脳神経はどれか。
- a.Ⅴ
- b.Ⅶ
- c.Ⅸ
- d.Ⅹ
- e.Ⅻ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
「ぱぴぷぺぽ」の子音は上下の口唇を閉じて呼気をため、一気に開放して作る口唇音であり、口唇を閉じる口輪筋が欠かせません。口輪筋は表情筋の一つで顔面神経(第Ⅶ脳神経)に支配されるため、顔面神経が障害されると口唇音が発音しにくくなります。一方、舌音(ら行・た行など)は舌下神経、開鼻声や嗄声は迷走神経の障害で生じ、三叉神経は咀嚼筋と顔面の感覚を担うため口唇音の障害とは結びつきません。音と構音器官、支配神経を対応づけて理解しておくと、ベッドサイドで「ぱ・た・か」を言わせるだけで病変部位を推定でき、脳神経診察の精度を高めることにつながります。
解答・解説
正解はbです
「ぱぴぷぺぽ」の子音[p]は、上下の口唇をいったん閉じて口腔内に呼気をため、それを一気に開放して出す音であり、音声学では両唇音(口唇音)に分類される。したがって、この音を出すには口唇をしっかり閉じる力が必要であり、その主役は口のまわりを輪状に取り巻く口輪筋である。 口輪筋は表情筋の一つであり、表情筋はすべて第Ⅶ脳神経(顔面神経)の運動枝に支配される。よって顔面神経が障害されると口唇の閉鎖が不十分となり、呼気が漏れて破裂音がうまく作れず、「ぱ行」「ば行」「ま行」などの口唇音が不明瞭になる。 本問は「どの音を作るのにどの器官が働き、その器官をどの脳神経が支配しているか」を対応づけて考えればよい。構音に関わる器官と支配神経は、口唇=顔面神経(Ⅶ)、舌=舌下神経(Ⅻ)、軟口蓋・咽頭・喉頭=主に迷走神経(Ⅹ、一部は舌咽神経Ⅸ)と整理できる。
選択肢考察
- ×a. Ⅴ
第Ⅴ脳神経(三叉神経)は顔面の感覚と、咬筋・側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋などの咀嚼筋の運動を担う。口唇を閉じる口輪筋は支配しないため、口唇音の障害の原因にはならない。片側の三叉神経障害では顔面の感覚低下や咀嚼力低下、開口時の下顎の偏位などがみられるが、明らかな構音障害は通常生じない。
- ○b. Ⅶ
第Ⅶ脳神経(顔面神経)は、運動線維からなる本幹と、味覚・涙腺や唾液腺の分泌(副交感)などを担う中間神経から構成される。運動枝は前頭筋・眼輪筋・口輪筋などの表情筋のすべてに加え、アブミ骨筋、顎二腹筋後腹、茎突舌骨筋を支配する。口輪筋が麻痺すると口唇を閉じて呼気をためることができず、両唇を使って作る「ぱぴぷぺぽ」の発音が困難になる。顔面神経麻痺の患者で、頬を膨らませると麻痺側の口角から空気が漏れるのも同じ理由である。
- ×c. Ⅸ
第Ⅸ脳神経(舌咽神経)の運動線維が支配する筋は茎突咽頭筋のみであり、主な役割は舌の後方1/3の味覚・一般感覚や咽頭の感覚(咽頭反射の求心路)、耳下腺の分泌である。口唇の運動には関与しない。舌咽神経は迷走神経と近接して走行するため両者がまとめて障害されることが多く、単独の麻痺はまれである。
- ×d. Ⅹ
第Ⅹ脳神経(迷走神経)は、茎突咽頭筋を除く咽頭筋、軟口蓋の筋(口蓋帆張筋は三叉神経支配)、喉頭筋、上部食道の筋を支配する。障害されると軟口蓋の挙上不全による鼻への呼気漏れ(開鼻声)、反回神経障害による声帯麻痺と嗄声、嚥下障害などが生じ、「がぎぐげご」のような口腔の奥で作る音も不明瞭になりうる。しかし口唇の運動は保たれるため、口唇音そのものは障害されにくい。
- ×e. Ⅻ
第Ⅻ脳神経(舌下神経)は舌の筋(内舌筋と、口蓋舌筋を除く外舌筋)を支配する純運動神経である。障害されると舌の運動が悪くなり、舌先を歯茎や口蓋に当てて作る「らりるれろ」「たちつてと」などの舌音が不明瞭になる。片側障害では舌を突き出すと麻痺側へ偏位し、核下性障害では舌の萎縮や線維束性収縮を伴う。口唇音は保たれる。
構音障害(dysarthria)とは
言語の内容や文法は保たれているが、発声・発語に関わる筋や、それを制御する神経系の障害によって、言葉を正しく音にできない状態をいう。言葉そのものを理解・表出する能力が障害される失語症とは区別する。
音と構音器官・支配神経の対応
・口唇音(ぱ行、ば行、ま行):口唇(口輪筋)→顔面神経(Ⅶ) ・舌音(ら行、た行、な行など):舌→舌下神経(Ⅻ) ・軟口蓋音(が行、か行):舌の奥(舌根)と軟口蓋→舌下神経(Ⅻ)と迷走神経(Ⅹ)など ・声の質(嗄声)や鼻漏れ(開鼻声):喉頭・軟口蓋→迷走神経(Ⅹ)
ベッドサイドでの診察法
「ぱぱぱ」「たたた」「かかか」などの単音節や、「ぱぴぷぺぽ」「らりるれろ」「がぎぐげご」を繰り返させて、どの器官の運動が特に悪いかを推定する。さらに「るりもはりもてらせばひかる」のような文を言わせ、声の大きさ、話す速さ、抑揚、音の明瞭さ、途切れの有無などを観察する。
構音障害の主な病型
・球麻痺性(下位運動ニューロン障害:延髄の脳神経核や末梢神経の障害) ・仮性球麻痺性(両側の上位運動ニューロン障害:多発性脳梗塞など) ・小脳性(失調性:断綴性言語、爆発性言語) ・錐体外路性(パーキンソン病での小声・単調な話し方、不随意運動によるもの) ・筋疾患・神経筋接合部疾患によるもの(重症筋無力症など)
POINT
・「ぱぴぷぺぽ」は口唇を閉じて作る口唇音であり、口輪筋を支配する顔面神経(Ⅶ)の障害で発音しにくくなる。 ・「らりるれろ」などの舌音は舌下神経(Ⅻ)の障害で障害される。 ・開鼻声・嗄声は迷走神経(Ⅹ)の障害でみられる。 ・三叉神経(Ⅴ)は咀嚼筋と顔面の感覚を担い、口唇音の障害とは結びつかない。
