咳やくしゃみで漏れる、でもトイレには間に合う―症状の「きっかけ」で見抜く尿失禁の病型
第105回医師国家試験 C問題 第24問
国試問題にチャレンジ
52歳の女性。尿失禁を主訴に来院した。笑ったときや咳・くしゃみをしたときに尿が漏れるが,尿意を感じてからトイレに向かっても間に合うという。排尿困難や夜間頻尿を認めない。 この患者の尿失禁について可能性が高いのはどれか。
- a.溢流性
- b.機能性
- c.混合性
- d.切迫性
- e.腹圧性
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
咳・くしゃみ・笑いなど腹圧が上昇したときに尿意と無関係に漏れ、尿意切迫感・排尿困難・夜間頻尿を伴わなければ腹圧性尿失禁を考えます。経腟分娩、加齢、閉経、肥満などによる骨盤底筋や尿道括約筋の脆弱化が原因で、中年以降の女性に多くみられます。強い尿意の後に間に合わず漏れれば切迫性(過活動膀胱)、両者を併せもてば混合性、残尿があふれる場合は溢流性、認知・運動機能の障害でトイレでの排尿ができない場合は機能性と、漏れる「きっかけ」と随伴症状で病型を整理できます。腹圧性の第一選択は骨盤底筋訓練であり、溢流性に抗コリン薬を用いると尿閉を悪化させうるため、正確な病型診断が適切な治療選択の前提となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・52歳の女性(閉経前後の年代) ・笑う、咳をする、くしゃみをするといった、腹腔内圧(腹圧)が急に上がる動作のときに尿が漏れる ・尿意を感じてからトイレへ向かっても間に合う(尿意切迫感や切迫性の漏れがない) ・排尿困難がない(尿の出にくさ、すなわち排出障害を示す所見がない) ・夜間頻尿がない(膀胱の過活動や多量の残尿を示唆する所見に乏しい)
考え方
尿失禁は、漏れる「きっかけ」と「随伴症状」で病型を見分ける。 1. 腹圧上昇に伴って尿意と無関係に漏れる → 腹圧性 2. 急に強い尿意(尿意切迫感)が起こり、トイレまで我慢できずに漏れる → 切迫性 3. 1と2の両方がある → 混合性 4. 排出障害で膀胱に尿が大量にたまり、あふれるように少しずつ漏れる → 溢流性 5. 下部尿路の機能自体は保たれているが、認知機能障害や運動機能障害のためにトイレで適切に排尿できない → 機能性 本症例は、腹圧が上がる動作が漏れの引き金になっており、尿意切迫感がなく(トイレに間に合う)、排尿困難もない。したがって、尿道を閉じておく力(尿道括約筋や骨盤底筋による尿道の支持)が腹圧の急な上昇に負けて漏れる腹圧性尿失禁が最も考えられる。中年以降の女性、特に経腟分娩の経験がある女性に多い典型像である。
選択肢考察
- ×a. 溢流性
溢流性尿失禁(奇異性尿失禁ともいう)は、尿がうまく出せない状態(排出障害)が続いて膀胱に大量の残尿がたまり、膀胱内圧が尿道の抵抗を上回ったときに尿があふれ出るように漏れるものである。原因は前立腺肥大症などの下部尿路閉塞や、糖尿病・骨盤内手術後などによる神経因性膀胱(膀胱の収縮力低下)で、男性に多いが女性にも起こりうる。本症例には排尿困難がなく、腹圧上昇時に限って漏れるので該当しない。
- ×b. 機能性
機能性尿失禁は、膀胱や尿道の働きには大きな異常がないにもかかわらず、認知症で尿意やトイレの場所がわからない、身体機能の低下でトイレまで移動できない・衣服を下ろせない、といった理由で適切に排尿できずに起こる尿失禁である。高齢者や要介護者に多い。本症例は52歳で、自分でトイレに行き間に合っており、該当しない。
- ×c. 混合性
混合性尿失禁は、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の両方の症状をあわせもつ状態で、中高年女性に多い。本症例では尿意を感じてからトイレに行っても間に合っており、尿意切迫感による漏れ(切迫性の要素)がないため、混合性とはいえない。
- ×d. 切迫性
切迫性尿失禁は、急に起こる我慢しがたい強い尿意(尿意切迫感)のためにトイレまで間に合わずに漏れるものである。過活動膀胱(尿意切迫感を必須とし、通常は頻尿・夜間頻尿を伴う症候群)の代表的症状であり、原因には脳血管障害などの神経疾患、前立腺肥大症による閉塞、加齢などがある。本症例はトイレに間に合い、夜間頻尿もないので該当しない。
- ○e. 腹圧性
腹圧性尿失禁は、咳・くしゃみ・笑う・重い物を持ち上げる・運動するなど、腹圧が急に上昇したときに、尿意とは無関係に少量の尿が漏れるものである。出産(特に経腟分娩)、加齢、閉経によるエストロゲン低下、肥満などで骨盤底筋や尿道括約筋が弱り、尿道の支持や閉鎖が不十分になることで生じる。本症例は腹圧上昇時に限って漏れ、尿意切迫感・排尿困難・夜間頻尿を伴わない点が典型的であり、最も可能性が高い。
尿失禁の病型のまとめ
・腹圧性:腹圧上昇時に漏れる。女性に圧倒的に多い(尿道が短く、出産で骨盤底が傷みやすいため)。男性では前立腺全摘除術後などにみられる。治療は骨盤底筋訓練(第一選択)、減量、薬物(β2刺激薬など)、改善しなければ尿道スリング手術(TVT手術、TOT手術)。 ・切迫性:尿意切迫感に続いて漏れる。過活動膀胱の症状。治療は行動療法(膀胱訓練など)、抗コリン薬、β3アドレナリン受容体作動薬(ミラベグロン、ビベグロン)など。 ・混合性:腹圧性と切迫性の合併。より困る方の症状から治療することが多い。 ・溢流性:残尿が多く、あふれ出るように漏れる。前立腺肥大症や神経因性膀胱(低活動膀胱)が原因。原因の解除や導尿が必要で、抗コリン薬は尿閉を悪化させうるので注意する。 ・機能性:下部尿路機能は保たれるが、認知機能・運動機能の障害でトイレでの排尿ができない。排泄環境の整備や時間を決めた誘導などで対応する。
鑑別に役立つ診察・検査
・ストレステスト:膀胱に尿がたまった状態で咳をしてもらい、同時に漏れるかを観察する(腹圧性で陽性)。 ・パッドテスト:一定時間の動作でパッドの重さがどれだけ増えるかにより漏れの量を評価する。 ・排尿日誌:排尿の時刻・量、漏れの状況を記録し、頻尿や多尿の有無を把握する。 ・残尿測定(超音波):残尿が多ければ溢流性を疑う。 ・質問票:過活動膀胱症状スコア(OABSS)、国際尿失禁会議の質問票(ICIQ-SF)など。
POINT
・咳・くしゃみ・笑い・重い物を持つなど腹圧上昇時に漏れ、尿意切迫感がない → 腹圧性尿失禁(中年以降の経産婦に多い) ・強い尿意の後に間に合わず漏れる → 切迫性尿失禁(過活動膀胱) ・腹圧性+切迫性 → 混合性 ・残尿が多く少しずつあふれる → 溢流性(前立腺肥大症、神経因性膀胱) ・認知症やADL低下でトイレでの排尿ができない → 機能性 ・腹圧性の第一選択は骨盤底筋訓練
